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転生スキルは「お人形遊び」と「粘土遊び」なんですが、これでどうしろと?  作者: 柴野ましろ
第四部 お気楽領主篇

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第284話 隠れ里ザーオ

領地のキヌーク村の西、大森林との境界近くに、ワーラットたちが住む隠れ里を見つけた。

「失礼ながらずいぶんお若いようですが、キヌーク村の領主様ですか。それで、あなたは大森林の精霊王様やハイエルフ殿を知っている、と言われたそうですな」


 俺たちが案内されたのは、森の中の小さな小屋が並ぶ中で一軒だけ大きな、というか普通サイズの建物だった。


 そこで出迎えたのは、ワーラットたちとは違い体格のいい壮年の男だった。

 耳がちょっと長いしエルフっぽい顔立ち、しゃべり方も知性的だ。そして、なんていうか隙が無い。


<ヤンカード - 男 41歳 忍び(LV17)>


 種族名が「-」って出ることや、エルフと言うには体格はがっしりして人間っぽい様子からして、おそらくハーフエルフなんだろう。

 ルシエンもそう見て取ったようだ。

 そしてジョブは、「忍び」だ。ひょっとして俺たちの様子を探っていたのはこの男だろうか?


 まわりのワーラットたちが、すごく畏まった様子で、このヤンカードというハーフエルフが、こいつらの王様みたいな雰囲気だ。


 一応、俺がエルザーク王国の男爵でこのあたりを領地として治めることになった、と説明したのに、特に臆する様子も無い。

 それに、キヌーク村の人たちはこんな隠れ里があることは知らないようだったのに、ヤンカードの方はキヌーク村のことを知っているようだ。

 それだけじゃなく、大森林の精霊王のことも。


「・・・あんたはやっぱり精霊王さんたちを知ってるんだ?俺はこの間、大森林地帯に侵入したマジェラ王国の軍隊を撃退するのに、精霊王さんたちと一緒に戦って“大森林の客人”って呼び名をもらったんだ。それに別の所だけど、ここみたいに大森林との境界にある集落も知ってるから、ひょっとして同じような役割を持ってる所かなと思って」


「この間の戦いで、そうでしたか・・・そして、人間族でありながらそこまで知っておられるとは」

 最初はかなり警戒している様子だったけれど、少し話をすると、俺たちが危険な存在では無いことを理解してくれたようだった。


「ならばよいでしょう。ご想像の通りです、男爵様。ここは、大森林への結界の門の守人が住まう里なのです。ようこそ、ザーオの里へ」



 大森林の入口、「門」と呼ばれる集落は、やはり幾つかあるそうだ。


 もっとも、それぞれの門の集落に住む者が別の門のことを全て知っているわけではなく、ヤンカードも森陰の集落のことは知らなかった。


 ザーオの里は人口が200人あまりで、一番多いのがワーラット族だそうだ。

 彼らは体が小さいし大家族で一つの家に住む上、地上の建物よりその地下に掘った穴が主な住み処だそうで、集落の建物が小さく数も少ないのはそのためらしい。

 他に犬人などの亜人もいると言う。


 話をしている間に1人のエルフの女が入ってきて、ヤンカードの隣りに座った。


<ネオレン エルフ 女 87歳 LV18>


 若々しいけどさすがエルフ、実年齢は俺たちよりずっと上だ。ヤンカードが誇らしげに紹介する。

「この集落の長であるネオレン、私の妻です」


 えっ、長?しかもヤンカードの奥さん!?

 ・・・たしかにヤンカードは“ここを任されている”とは言ったけど、自分が村長とは言わなかったな。


「はじめまして、男爵様。ネオレンと申します」

 やわらかい笑みを浮かべて挨拶してきた彼女に、俺もあらためて自分とパートナーたちを紹介する。


 エルフと言ってもルシエンと知り合いというわけでは無いらしい。


「・・・そうですか、ウェリノールの出身なのね。残念だけど私は大森林とこの集落以外、あまり行ったことがないの」


 俺のパートナーたちが様々な種族であることで、ヤンカードたちもさらに打ち解けてくれたようだけど、それでも本題は別のようだった。


「ネオレン、私から話してもいいか?」

「ええ、私は長と言っても単に一番年上だからにすぎないもの。こうしたことはあなたに任せているでしょう?」


 森陰の集落では長老たちの合議制で物事が決められていたけど、この集落では長であるネオレンと、その連れ合いのヤンカードが大抵のことは決めているらしい。

 そのヤンカードが、これまでにない緊張感を漂わせて口を開いた。


「キヌークの新たな領主となったお方がこうして訪ねて来られたのですから、用向きは理解しているつもりです。ただ・・・われわれはあなたの領民になるつもりはありません」


 ネオレンも伏し目がちに、強い決意を秘めた表情をしている。

 ああ、なるほど、“この集落も我が領地にする”って俺が宣告しに来たと思ってたのか。


「あなたがたが、マインリザードを退治してくれたことには感謝します。あれには我々も手を焼いていたし、犠牲も出ておりましたので。だが、キヌーク村と違い、我々はエルザーク王国に保護を求めたことは無いし、ささやかながらこの地で自分たちの力で自立して暮らしております。また、領民として租税を求められても、ワーラットなどは自らの食い物を山野から得て暮らしておるだけで、税というものもよく理解できぬでしょう。無論、力で従えるというのであれば、我々に抗するだけの力はないかもしれませんが・・・」


 俺のパートナーたちにも、ちょっと緊張が走った。

 諍いになるのか、と思ってるんだろうか。


「えーっと、そんなつもりはないから、安心してよ」

 俺は別に腹も立たなかった。そんな心配をするのも無理もないと思うし。


 領地を与えられた時、キヌークより西側も自由に開拓してよい、って権利を与えられてはいるけど、元々この辺りはエルザークの領土じゃ無かったわけだし、開拓しなきゃならないわけでも、我が物にしなきゃならないわけでもない。


 ・・・だからそう答えたんだけど、ヤンカードには意外らしかった。


「よいのですか? いや、もちろん我々にはその方がよいのですが」


「うん、マインリザードがいた辺りまではいずれ開発する予定だけど、ここにあんたたちは前から住んでいたわけだよね?で、今のままを望んでいるなら、別にそれを無理に従わせる気なんてないよ?隣人として仲良くしたいし、交流したり商売をしたりして互いにプラスになることがあれば、とは思うけど」


「うふふっ・・・ヤンカード、わたしたち、この方を見くびっていたみたいね」

 ネオレンが上品な笑い声を上げた。


「失礼しました、男爵様」

 彼女は楽しそうに言った。

「人間にも色々な方がいるわけですものね。そんなあたり前のことを忘れて、あなたをプラトの粗暴な軍人たちと同じように恐れ、不安をいだいていたことが恥ずかしいですわ。けれど、用心深くしなくては生きていけないことも、おわかりいただけるでしょうか」


「ああ、もちろん・・・ひどいやつらは多し、その用心は当然だと思うよ?エルザークだって今回、同じ人間の国から問答無用で攻め込まれたわけだし、キヌーク村が保護を求めてきたのもそういう理由だから」


 この世界じゃ特に、民の命を預かる立場にある者は理不尽な暴力や侵略への心構えが欠かせないんだろう。

 二人は顔を見合わせてうなずき合った。


「そうだな、ネオレンの言うとおりだ。失礼しました、男爵様。我々はあまり存在をまわりの勢力に知られずに暮らしたいと思っています。それだけ配慮していただければ、こちらこそ、あなた方の村とは一定の交流ができるとありがたいと思います」

「もちろん、大森林の結界とかのことは外部に漏れないように気をつけるよ」


 こうして、ヤンカードたちザーオ集落とは友好関係を約束した。


 ザーオ集落の連中は基本的に狩猟採集生活で、森で狩りをしたりデーベル河で魚を捕ったりして暮らしているそうだが、人口が少ないし職人などの技術を持った者はあまりいない。


 ワーラットたちは人型の時でも簡単な毛皮を身にまとっているだけだ。

 ヤンカードとネオレンは大森林のエルフ風の簡素ながら趣味のいい布服を着ているけど、これはネオレンの手作りかもしれない。


 だから集落としては、衣類とか釣り針、斧などの金属製品なども、良い物が手に入れられたら嬉しいという。


 住民の中には少数だが冒険者になって出稼ぎに行っている者もおり、今のところはそうした連中が外で買い付けたものを持ち帰ってくるのが、唯一の人間界との交流だと言う。

 ヤンカードとネオレンも、若い頃はそうした出稼ぎをしていたこともあるそうだ。


 また、最近、西や北の方からマインリザード以外の魔物も増えていて、これはファイアドラゴンに追われたり、戦争の影響もあるかもしれない。

「そう言う意味では、多少は性能のいい武器も手に入れたいと思っています」


 ただ、対価としてザーオから売れる物としては、動物の毛皮や山野草程度だという。

 あの薬草をこの集落の者に定期的に採ってもらうとか、いずれ鉱山開発に雇ったりは出来ないだろうか?なんてことが頭に浮かんだ。


「ところで、ここの集落には人間は全くいないの?」

 森陰の集落では、大森林出身者以外にマジェラ王国からの流民や逃亡者などの人間も暮らしていた。

 だから、気になって聞いてみたんだけど、ヤンカード夫妻は少し顔を見合わせた。そして、しばらくしてヤンカードが口を開いた。


「います。それも数十人、この集落ではワーラット族の次に多いのです・・・どういうことかは、実際に引き合わせた方が理解が早いでしょう」


 そうして、小さなワーラットの小屋が並ぶ獣道みたいな通路を集落の奥の方へ入っていくと、やがて、大木の陰に隠れるように何軒も人間サイズの小屋が並びだした。つくりもワーラットの掘っ立て小屋より、ずっとちゃんとしている。

 そして、その一番奥にあった、ひときわ大きな木造の建物の扉を見た途端、俺たちは「あっ」と思わず声をあげていた。


 翼ある蛇が剣のような形になったデザイン・・・見間違えるはずもない。

 そう、イスネフ教の紋章だった。

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