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第283話 資源調査だよ、温泉旅行じゃないよ?

村の近くにオークの群れが現れるようになった原因らしい魔物、マインリザードを退治した後、俺たちは周辺の調査のため野営することにした。

「こ、こんな外で脱ぐんですか?」

「うむ、これが由緒正しい露天風呂というものだ」

 恥ずかしそうにしてるノルテに、俺は全然平気だよと、まず範を示す。


「結局こうなるんじゃないかと思ってたわ・・・」

 ルシエンはエヴァたちの豊かな双丘をちらっと見てから、残念そうに背中を向け、鎧下を脱いでる。俺たちだけなんだからいいのに。


 せっかく見つけた温泉だ。

 源泉から流れ出した先に粘土で岩風呂みたいな浴槽を作って、楽しむことにしたのだ。


 ここまで案内してくれたオレサンドルたち村人3人は、暗くなる前に村に帰らせ、村長たちに状況を知らせておいてもらうことにした。

 でも、俺たちはせっかく西の方まで来たんで、ついでに一泊して領地の端まで視察して回ることにしたんだ。

 一応アイテムボックスにテントとか野営装備も入れて持ってきてるし。


 他に危険な魔物がいないか?そして、領地内に有用な資源などが見つからないかも調べたい、というのが大きな理由だ。

 決して、温泉旅行をしたかったから、ではない。領主として領内をしっかり把握しておかねばならないのだ、うむ。


 実際、この夕暮れまでの間にも色々成果があった。


 温泉が湧き出している周辺には、他にはほとんど魔物の気配はなかった。

 マインリザードなんて大物が現れたから、オーク程度の魔物は逃げ出したんだろう。そういう意味で、やはりキヌーク村のそばにオークの群れがやってきたのは、コイツのせいだったということで間違い無いだろう。


 そして、この山地の西の方には山火事の痕跡があった。


 確かなことは言えないけど、おそらく例のファイアドラゴンがこのあたりにも現れて、それでマインリザードが元々いたところから、こっちの方に押し出されてきたと考えると辻褄が合う。

 ドラゴンも討伐したから、そういう意味では今後の脅威はひとまず排除できたと言えるかもしれない。


 そして、カーミラが匂いをたどって調べたところ、マインリザードが住み着いていたのは、この山の中にいくつもある天然の洞窟のひとつで、転がっていた岩石を“鑑定”スキルで調べると、硫黄だけで無く鉄や銅を含んだ鉱石があった。


 マインリザードは肉食だけど同時に鉱石も食べる。それによって金属の鱗が出来る魔物だから、生息地は鉱山地帯が多く、やはりこのあたりは人材さえいれば鉱山の開発も可能そうだ。

 

 とりあえずそれだけ調べたら日が傾いてきたから、アイテムボックスから出した食材で夕食を済ませ、お風呂タイムを楽しんでいるわけだ・・・。


「は、ハクシュンっ!」

「ちょっと冷えてきましたか?」

「もう冬だし、やっぱりここは北の方だしね」

 夜になって気温が下がってきた分、湯も冷めやすいみたいだ。

 エヴァとルシエンの言葉に、まわりの警戒のために出していたキャンに声をかけた。


「キャン、ちょっとお湯を温めてくれるか?」

「キャウキャウっ」

 粘土犬のキャンが尻尾をふってOKの返事をすると、口から火をふいて追い炊きしてくれる。


 すると、エヴァにくっついて湯にぷかぷか浮かんでいたルーヒトが、それをじっと見て、すーはー呼吸をし始めた。

「ふーふー、ぶぅおーっ」

「きゃっ」

「「「え?」」」

 ルーヒトが、小さな火を吐いた。


「・・・ルーちゃん、やっぱりファイアドラゴンの赤ちゃんだから?」


<ルーヒト 人竜?

  スキル 変化   ブレス(火)>


 ステータスを見ると、たしかにファイアブレスが加わってる。


 今は人型をとってはいても血は争えないというか、ファイアドラゴンの卵から生まれたんだもんな。

 まだ肺活量とかが小さいからか、キャンの炎よりも小さく、ガスライターに毛が生えたぐらい、って感じだけど、末恐ろしや・・・


***********************


 翌朝、テントを片付けると、俺たちはまた周辺の調査に回った。


 温泉の周辺は地熱で温度が高いせいか、このあたりでは本来見ないはずの薬草も生えていた。

「あれ?これって、あのMP回復薬に使うやつか・・・」


 鑑定スキルのおかげで、それがベスが言ってたクロヤマハッカの亜種らしいとわかった。“比較的あたたかくて、でも寒暖差の大きい斜面にしか生えない”と言われていた、黒に近い紺色の小さな花だ。

 それほど大規模な群生地では無いし、この時期に花が咲いているものは少ないけど、スクタリの山の中よりは多く生えているようだった。


「MP回復薬が村で作れたら、すごい特産物になるわね・・・」

 ルシエンも興味しんしんだった。

 ドワーフたちを支援してプラトの大軍と戦っていた時は、ルシエンのMP切れがみんなの命に直結していただけに、その重要さを実感しているようだ。


 とりあえず、花が咲いている数株だけ採取しておく。

 ここはキヌーク村の中心部からは遠いけど、薬師とか薬草採りをなりわいにしている者がいたら産業にしていきたいな。薬は農産物よりずっと単価が高いから。


 そこからさらに西へ進むと、温泉地帯を離れた途端、獣や魔物が増えてきた。

 これはやっぱり、マインリザードの徘徊する範囲を避けていたんだろうな。


 オークとか魔猪とかそれほどのレベルじゃないので、道中出くわしたら排除するって方針で、今日のところは調査を優先することにした。


 昼頃になり、帰り道も長いしそろそろ引き返そうか、と思った頃、ルシエンの耳がぴくりと動いた。

 カーミラも立ち止まる。


「どうした?」

「しっ、誰かが遠くから見てるわ」

 ルシエンの言葉に俺も察知スキルを全開する。言われてみればなにかの気配を感じる気もするけど、俺にはまだよくわからない。


 鼻をひくひくさせてたカーミラが、視線を南の方に向けてささやくように言ったた。

「人狼じゃないけど亜人・・・あっ」


「・・・立ち去ったわね。私たちに気付かれたことに気付いたんだわ。これ、なかなかのレベルね」


 ルシエンやカーミラに匹敵する察知能力を持つやつが、近くにいたらしい。

 俺の領地内か、そのギリギリ外かはわからないけど、放置しておくのはまずそうだ。

「追ってみよう」


「それがいいわね・・・見つけて、敵対的な相手でないとわかれば安心だし」


 カーミラが匂いをたどり、デーベル河の上流へ向かう。

 1時間ほど歩いて、もう大森林地帯に入りかけるうっそうとした木立の中に、俺たちはうまく隠されていた小さな集落を見つけた。


 いくつか見える粗末な小屋も小さそうだし、いかにも隠れ里って感じだ。


 地図スキルに映る光点は、とりあえず赤くは無い。

 あきらかに敵対的ってわけじゃないんだな。ならまあ、正面から行ってみようか。


「おーい、こんにちはー。誰かいる?俺たち、あやしいもんじゃないよ~」


(“あやしい者じゃありません”て言う人って、それ自体あやしいと思わない?)


 揚げ足とるなよ、リナ。俺もそう思うけど、他にどう言ったらいいか、思いつかなかったんだよ。


 それに、きっとこれで正解だよ?

 だってほら、人が出てきた・・・人、だよね?


 手作りっぽい短槍を手にした、十人ぐらいか・・・小柄な・・・いや、小柄すぎるぞ?成人男子っぽいのに、明らかにノルテより小さい。


<ワーラット LV3><ワーラット LV5>・・・


 ステータスを見ると、初めて見る亜人族だった。


 ワーラットって、人狼とかワーベアみたいに変化する種族か。ラットだからネズミ?どっかのRPGで見たことがあったな。

 こうして見る限り、ただの小男たちだけど。いや、小女もいるか。


「シローっ」

 そんなことに気を取られてたせいか、背後に突きつけられた槍に気付くのが一瞬遅れた。


 前からだけじゃ無かった。いつのまにか、俺たちは大勢のワーラットに取り囲まれていたんだ。


 ステータスをよく見ると全員が隠身スキルを持ってるから、そういう種族なんだな。

 すぐに攻撃してくる様子はないから、カーミラやルシエンも接近を許したのかもしれない。


「動クナ、敵ナイカ?」

 カタコトの言葉で尋ねてきた。ああ、むしろ、彼らの方が怯えているんだ。そう感じた。


 だから俺も、何も持たない両手を見せて安心させて、ゆっくり口を開いた。

「敵じゃない、俺は大森林の精霊王やハイエルフとも仲良しだよ。ここにも仲良くしに来た。だから、あんたらの長に会わせてくれないか?」


 どれぐらいこっちの言うことが伝わったのかわからない。

 ワーラットたちは互いに顔を見合わせ、俺にはわからない言葉を甲高い声でかわして話し合っていた。


 それから、こくりと頷くと、再び、最初に話しかけてきたやつが口を開いた。

「敵ナイ、村ハイル。コイ」


 あの森陰の集落にどこか似ているな・・・


 こうして俺たちは、領地と大森林の間に位置する、隠れ里を見つけた。

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