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第282話 マインリザード

村の開発計画が一段落したことで、俺たちは少し遠出をすることにした。

「斧も弓矢も効かない大きな魔物に出くわした。そいつに追われるようにオークや他の魔物が村の方に縄張りを移して来たに違いない」


 そんな話は、まずキヌーク村の狩人の間で広まったという。

 うわさの出所を辿っていくと、はっきりした証言者が2人見つかった。


 アキペンコという老狩人は、西の山間部で鹿を追っていたところ、熊よりずっと大きな魔物が、突然姿を現し鹿をひと呑みにしてしまったという。

 矢を射たがまるで効かず、こっちを振り向いたので慌てて逃げたそうだが、魔物は西日でシルエットになっていて、はっきりその姿が見えなかったとか。


 イウチェクという木こりは、高級調度品の材料として少量でも高く売れるシロツゲの木を伐りにやはり西の山に入った。

 そこで、突然まわりの木々が揺れたかと思うと、気味の悪い叫び声と共に目の前を大蛇のような鱗に覆われた長いものが横切っていき、とっさに斧を叩きこんだが岩を叩いたかのように弾かれてしまったそうだ。

 恐ろしくなって逃げ出した時、そばに巨大な顎で噛みちぎられたかのようなオークの首だけが転がっていたという・・・。


 二人ともかなり怯えていて、最初はもうあっちには行きたくないと言っていたけれど、そこは領主の命令ということでか、村長が村の安全のために必要だと説得したからなのか、村長の甥のオレサンドルも一緒に付き合うということで、なんとか道案内を承諾した。


 二人は馬に乗ったことが無いと言うし、通るのが難しいところもある、と言われ、久々に徒歩で頑張った。

 アイテムボックスのおかげで身軽ではあったけど、キヌーク村のメインの集落より西には街道なんてものは全く無いので、夜明けと共に館を出て、獣道的な狩人たちの使う道を辿って目的地に着いたのは、もう昼過ぎだった。

 2、30kmは歩いたと思う。


 途中、魔猪とか低レベルの魔物の気配は時々あったけど、相手をしていると夜までに帰れないのでスルーして先を急いだ。

 一応、テントや野営道具もアイテムボックスには入っているけど、まだあまり土地勘も無いところだし、目的の魔物を見つけられなかったり倒せなかった場合などは、現地で野営はなるべく避けたいところだ。


「ルシエン、正体はなんだと思う?」

「そうね、二人が目撃したのが同一の個体とも限らないけど、仮に同じ魔物だとしたら、地竜族とかオオトカゲとかの類かしらねぇ・・・カーミラはどう?あなたの地元の方が近いでしょう」

 たしかに、このあたりはもう大森林の北端に近いから、西の方に2~300km行けばカーミラの弟、カムルたちが暮らしている方だけど。


「オオトカゲ、もっと暖かいところ好き。地竜は強い・・・二人帰って来たの不思議」

 カーミラが首をかしげながら答えた。


 ようするに、オオトカゲは爬虫類なので普通はもっと気温が高いところに棲息してるはずってことと、地竜に攻撃したら普通の村人ぐらいじゃ瞬殺されてるんじゃないか?ってことだな・・・


 ビクビクしながらそっと歩いてる二人を若いオレサンドルが勇気づけながら、やっぱり彼もちょっと腰が引けている。

 そこで、とりあえず魔物に出会った方角を教えてもらい、カーミラと粘土犬のワンを先頭に立て、しんがりはエヴァとノルテに守ってもらい進むことにした。

 

 そういえば不思議なぐらい、鳥や獣の声が聞こえないな。

 でも、それが魔物のせいだとしたら、そろそろカーミラの嗅覚にかかってもいい頃だ。


 そんなことを思ってたら、カーミラが立ち止まった。

「くさいよ」

 あたりか?

 と思ったら、そうじゃないらしかった。


「よくない匂い、硫黄って言った?その匂いきつくてよくわからない・・・」

 カーミラが嗅ぎつけたのは山の中から強い硫黄臭がするってことらしい。それでマスキングされて、魔物とかがいるのかわからないと。


 でも、それはそれで別の期待もあるよな?


(シロー、温泉探しに来たんじゃないよね?)


 わかってるって、リナ。けど、ついでに見つかったらラッキーじゃん?

 バーデバーデに行ってからずっと、温泉地の領主になるのが夢なんだからさ。


 そして、さらに数分、坂を上り山林の中に進んでいくと、ルシエンがみんなに止まるよう合図をした。小声でささやく。


「いるわ、ここから300歩ぐらい・・・なんていうか、岩場と同化してるみたいな感じね、だから精霊にも見つかりにくいんだわ。でも、もう見失わない」


 ルシエンがそう言ったとたん、パーティーにはスキル地図上にぼんやり浮かんだ大きな赤い点が見えた。

 パーティーに入っていない村人3人には口頭で伝える。


 どんな魔物かわからないと、ちょっかいを出したときに向かって来るか逃げるかが読めないな。

 ともあれ、コモリンとワン、キャンを索敵に放った。


 そして、カーミラとルシエンに、隠身をかけて相手の反対側に回ってもらうことにした。


まもなく、配置についたルシエンから報告があった。坂の上側に回ったことで、樹木の間から魔物がちらっと見えたらしい。

 リナの遠話で結んでもらった。


《驚いたわ、こんな北の方では見たことが無い。マインリザードだったわ。レベル25だから、かなり強い。普通は南方の鉱山なんかにいる魔物のはずだけどね》


 ルシエンには「判別(初級)」スキルがあるから、種族とレベルはわかるけど相手のスキルや魔法まではわからない。


「リナ、マインリザードってどんなやつ?」

 リナの百科事典的知識に頼る。


(夜行性の魔物で、金属製の鱗で覆われてるから武器でダメージを与えるのは大変。魔法への抵抗性も高いけど金属だから雷属性の魔法は効果的。攻撃は硬いしっぽを振り回したり、人間ぐらいなら簡単に鎧ごとかみ砕いたり飲み込んだりするよ。ブレスとかの特殊攻撃は無いのが救いかな)


 サンキュー。それだけわかれば十分だ。


「じゃあ、合図をしたら射てくれ、相手がこっちに向かって来たら俺たちが引き受けるからすぐ逃げて」

 アキペンコら村人3人にそう指示すると、俺とノルテ、リナは村人たちより先行してそっとマインリザードに近寄っていく。


 村人たちが、樹木越しにその巨体が見えるところまで近寄った時には、俺たちはさらに近く、オオトカゲから30歩ぐらいのところに迫っていた。


 金属っぽい光沢を放つ鱗に覆われた姿は、尻尾の先までは10メートルぐらいありそうだ。

 でかい。

 形はたしかに銀色のトカゲっぽいんだけど、迫力的にはワニとか恐竜みたいだ。


 そいつが、突然、閉じていた目を開けた。ドキッとした。

 縦に走る黄色い虹彩が不気味ですごい威圧感だ。


 ゆっくり首をまわし、あたりの気配を探っている。

 気付かれても不思議の無い距離だ。


 俺が後ろの村人たちに手を振ると、アキペンコとオレサンドルの2本の矢が飛んだ。木こりのイウチェクは斧を構え二人の護衛だ、一応。


 さすがに的が大きいし、あたったようだが、キンッと金属音を立てて弾かれた。

 うん、ほんとに刃が立たないって感じだな。


 ダメージは皆無だったけど、オオトカゲが不快げにシャアァッ!と威嚇音みたいなのを立てる。

 さあ、これでこっちに向かって来るか逃げるか、どっちだろう?


 ! こっちだった!!


 肉食恐竜みたいに後足で立つわけじゃなく、コモドオオトカゲみたいな4本足だけど、巨体を持ち上げ思いがけない素早い動きで突進してきた。

 目の前にタロと、あと2体のゴーレムを3人並べて出現させる。


 グワンっ!と大きな鐘か銅鑼を鳴らしたような激突音が響き、巨体のタロたちが左右に弾かれた。

 まじかよ。


 でも、時間は稼いだ。


 いったん速度が落ち、そこからまた咆吼をあげてこっちに突進してきた時には、 その開いた口の中に、俺とノルテが練り上げた“雷素”がダブルで打ち込まれていた。一瞬、巨体が感電したみたいに痙攣した。


 そして苦しげに首をねじり、なおも向かって来る巨体に、リナが放った貫通力特化の魔法攻撃、“魔槍”が突き立ち、ズブッと鱗を貫いた。


 体の動きが止まり地に落ちてきたその頭部に、いつの間にか追いついていたカーミラが飛びかかる。

 魔槍が穴を開けたところを短刀でさらにえぐる。


 落ちてくる頭につぶされないよう、カーミラが飛び退いたのをみて、今度はノルテのハンマーがこめかみのあたりに叩き込まれた。

 刃を貫通させるのは難しくても、打突系武器のダメージは脳に直接響く。


 それがとどめになったのか、地図スキルの赤い光点が消えた。


「す、すごい」

「こんなデカい魔物をあっさりと・・・やっぱり領主様たちは大したもんだ」

 いや、俺ほとんどなにもしてないけど、うちの女子たちが強すぎるよね。


「シロー、あっちにいいものがあったわよ?」

 村人3人に鱗とか素材で取れるものがあったら取っていいよ、って伝え、タロたちに手伝わせて任せていると、周囲を調べてきたらしいルシエンが戻ってきた。


「・・・それ、まじ?」

「嬉しそうですね、シローさん」

 嬉しいっすよ、うん。


 ルシエンは、少し奥で硫黄分が噴出していて、そのそばから熱い湯が流れ出しているところを見つけたという。


 源泉のすぐ近くは硫化ガスの濃度が高そうでちょっと危ないらしいけど、少し下流にお湯の川みたいなのが流れて行っているそうだ。


 しかも、硫黄だけで無く、金属の成分が沈着したらしい石が付近にかなり転がっていたそうで、今後鉱山を開発できる可能性もあるらしい。

 そっちはドワーフ自治領のオーリンさんたちに相談かな。


「南方の鉱山深部にいることが多いマインリザードがいたのは、おそらく温泉の地熱で、あたりの地盤がかなり熱いせいね・・・」


 村人の斧はほとんどマインリザードの鱗に通らなかったけど、タロたちゴーレムの力で何枚かは鱗を採ることができ、その下の肉も運べるだけは削ぎ取って袋に詰め、持ち帰るそうだ。


 村人たちもこんなレアな魔物の肉は食べたことは無いけど、リナ知恵袋によれば一応、薬効があるとして高値で取引されるレア食材らしいんで、“熱量制御”で凍らせて、俺たちも少し持ち帰ることにした。


 その場でカーミラがかじってたのにはもう驚かないけど、気がついたら、エヴァに抱かれてたはずのルーヒトまで、カーミラの足下でマインリザードにかじりついてた。

 ・・・まだよちよち歩きだってのに、やっぱり中身はドラゴンなんだな。

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