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第262話 奪還

犬人の子供ペリルとペロンの父親が捕らえられているのを見つけ、鍵を外した直後、マジェラ軍の忍びに見つかってしまった。

 飛んできた手裏剣は、俺たちにはあたらなかった。


 どうやら、エレウラスの結界はまだ効果を保っていて、忍びは俺たちの気配は見つけたものの、正確な所在は見えていないらしい。

 手裏剣を放ったのは、俺たちを動揺させあぶり出すのが狙いだったようだ。


 だが、その大声で眠っていた司令部周辺の者たちが目を覚まし始めた。


「まずいな・・・」

「やむをえん、撤退するか?」

 グレオンは剣を抜き、エレウラスは弓を肩から降ろし構える。


「待った・・・むこうの結界が解けたんじゃないか?」

「! たしかに、ケガの功名だな、目を覚まして出てきたらしい・・・」


 不審者侵入の一報に、それまで個別の結界に包まれ休んでいた幹部たちが、起きてきたらしい。


 察知スキルと地図スキルを駆使して、新たに存在が判った奴らに目を向ける。

 俺たちはエレウラスの結界の中からだから、あまり感度はよくないけど、何人かは判別できた。


(あっちに特にレベルの高いのが集まってるよ)

「まちがいない、あそこが司令部の中核だろう」


 リナとエレウラスの指す方に、LV27のロードとか、LV22の魔法戦士とかがいるようだ。

 そして・・・


<バサドーズ 人間 男 召喚士(LV24)>


 いた!あいつだ。


「リナ、“流星雨”を水平射撃できるか?」

(わかった)


 こっちの位置は大体把握されちゃってるから、魔法職のやつらが近づいてきたらすぐに結界を破られるだろう。

 チャンスは一度きりだ。魔法戦士に変わったリナが長い詠唱を始めた。


「あのあたりだっ」「僧侶の破魔をっ」

「逃がさぬように包囲を!兵を呼べ!」

 司令部がざわめくと共に、続々と兵の気配が回りに増える。


 流星雨の詠唱にはまだ時間がかかるし、間に合わないかって焦ったその時、ウォーンっと雄叫びが上がった。

「捕虜が逃げたぞっ」

「追え、追えーッ!」


 カギを外しておいたプールドが、わざと大声をあげて、反対方向に逃げ出した。おとりになってくれてるのか?

 それを追って、こっちに向かってきてた兵らが足を止め、指揮官に判断を仰ごうとした。今だ!


 エレウラスが自分の張った結界を解除したと同時に、リナの流星雨が発動した。


 本来だったら上空から降り注ぐはずの“流星雨”が、リナが差し上げた片手の上にまばゆい光球が浮かんで、そこからほとんど水平に飛んでいく・・・高位の魔導師だかが何かを唱えたようだが、その詠唱が完成する前に、尾を引いて束になったレーザー砲みたいな光の半数以上は、司令部を貫いていた。


 その光に紛れるように、隠身をかけた体が一瞬の後から突入していった。

 ワーベアのボゾンだ。


 人型だった時には想像も出来ない素早さで飛び込んでいった巨大な熊が、司令部だった樹木の残骸の中で暴れ回る。

 少し遅れてグレオンと俺、そして粘土ゴーレムのタロが続く。エレウラスの矢も飛んでくる。

 流星雨の半分ぐらいは魔法盾で防がれたから、幹部層の中には無傷のやつもいる。ワーベアのパワーとスピードにまだついて行けてないものの、すぐに立て直すだろう。その前に・・・いた!


 片腕を失って倒れ、僧侶が治療しようとしてる召喚士バサドーズに、火素をぶつける。本来なら魔法戦だって俺なんかよりずっと強いはずだが、今は半ば失神している。

 僧侶が静謐を唱えるが無視してもう一撃。バサドーズが痛みをこらえながら攻撃魔法を放とうとする所を、タロの大剣が僧侶とまとめてなぎ払った。


 グレオンがもう一人の魔法職っぽい奴を切り倒したところで、護衛の兵たちが殺到してくる。エレウラスが連続して矢を放ち牽制してくれるが数が多い。

 ここまでか。


(飛ぶよっ!)


 バラバラになってたパーティーを、リナの魔法がまとめて転移させた。


 最後の瞬間、タロを回収したと同時に背中を切りつけられていた。

 痛みに転移先の地べたを転がりながら、自分で“生素”をかけて応急手当だけする。HP回復スキルでいずれ治るはずだって信じたい。

 エレウラスは即座に結界を張り直し、俺たちの気配を隠している。


 転移した先は、精霊御子がとらわれている、すぐ近くの木陰だ。

 精霊御子の結界は依然維持されてるから外へは飛べないけど、その内部でなら短距離の転移は可能だった。


 身を起こして見ると、いた。

 依然として蛇のサークルに囲まれた神輿の上に、幼い体が縛り付けられている。


 けど、さっきまで激痛に叫び声をあげ続けていた御子の姿には、少し変化があった。

 相変わらず針を刺された全身から緑の体液を流して苦しんでいるが、その瞳には意志が戻っているように見える。


<精霊王の分身/奴隷(隷属:  )>


 精霊王の分身・・・奴隷身分も書き換わってないが、隷属先が消えている。

 そうだ、奴隷身分で持ち主が死ぬと、こういうステータスになるんだ。

 ともかく、今は無理矢理誰かの意志を流し込まれることは無くなって、自意識を取り戻したんだろう。


 その様子に、見張りの兵らが慌てている。召喚士はどこかと遠話を結ぼうとしているのか大声を張り上げている。

 なにが起きたか、バサドーズと連絡を取ろうとしてるんだろうか?

 俺たちの気配に気付いたものもいるみたいだけど、これはチャンスだ。


「今しかないな」

 エレウラスも同じ考えのようだ。

「うん、リナっ」

 リナと手をつなぎ俺のMPを吸収させる。再び短距離の転移。


 ガツッと何かにぶつかる感覚があって、激痛と共に落下する。

 俺の眼下には・・・大蛇の頭だ!大蛇のサークルが結界になってたんだ。


 まともな着地をあきらめ、刀をその頭に突き立てる。


「ッッシャアアァァァッツ!」

 俺の腕前からすると全くの偶然としか思えないけど、ちょうど大蛇の頭を地面に縫い付けるように、貫いた。


 《パリンッ!》と、結界の砕ける音がみんなの脳内に響いた。同時に俺は地面に叩きつけられ、激痛に身動き取れなくなる。


 熊化したままのボゾンが兵らをなぎ倒し、グレオンの剣がガアボルという召喚士にたたき込まれた。


「御子よっ、聞こえますか!?」

 エレウラスが治療呪文をかけながら、幼い精霊御子の体に触れ、慎重に針を抜こうとする。

「うおっ」

 その途端に御子とエレウラスの間に禍々しい電撃のような光が走った。


 動けない俺は、横になったまま御子に“聖素”をかけた。顔色が良くなる。


 エレウラスがハッとする。

「これは、魔の傷か?」

「うん、なんとなくそうじゃないかって・・・」

「その通りだな、これはうかつだった」


 エレウラスがなにやら高度な呪文を唱えると、御子の様子が明らかに変わった。

 今やはっきりと意志を取り戻したように見える。


《森ノ導キ手、えるふノ長カ・・・》

「はっ、御子よ、よくぞ無事で」

 そう口にしながらも、エレウラスは御子の隷属状態を解除し、治癒呪文や浄化を重ねがけしていく。


 ようやく立ち上がることが出来るようになった俺は、タロとワン、キャンを出して、起き出した敵兵らに備えさせる。

 それから、セラミックのナイフを作り出して、御子の頭にはめられた茨の冠みたいなのを切り離そうとする。何らかの魔法がかかっていたようで、細いのに最初はまるで刃が立たない。でも、錬金術の“効果付与”で聖属性を加えたら切れるようになった。

 続けて、手足を縛り付けていた縄も切っていく。


 磔の状態が解かれ、エレウラスの腕の中に倒れ込んだ小さな体をワンがペロペロなめて癒やしている。


「あそこだっ、逃がすな!」

 その頃になって、両側から大勢の兵が殺到してくるのが見えた。

 やはり司令部を壊滅はさせられなかったようで、指揮系統が回復してきたらしい。


「御子よ、結界を解除できますか?」

《チカラ足リナイ、ガ、ヤル・・・》

 ふらふらの体を支えられながら、精霊御子はなにかを唱えはじめる。


 俺は粘土壁を出して矢を防ぎながら、のぞき窓を開けて魔法系ジョブがいないか探る。静謐を唱えられると厄介だ。

 司令部周辺と違いあまり高レベルのやつはいなかったが、目に付いた魔法職を壁の影から錬金術で狙い撃ちする。

 壁に取り付いてきた奴らをタロとグレオン、ボゾンが防いで時間を稼いでくれている。


《ッ!!》

 多勢に無勢で飲み込まれそうになった時、ようやくマジェラの大軍を隠していた結界が消えた。

 夜の森のざわめきが、鳥の声、虫の声、獣の気配が戻ってきた。


 力を使い切ってぐったりした御子をエレウラスが抱きかかえ、リナが即座に離脱のための転移を唱えた。

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