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第27話 迷宮一階層②

スキルを駆使して激戦を制したものの、味方の被害も軽くなかった。

 カレーナたちも、ベリシャとイグリの応急処置を終えて合流したが、ザグーの傷はさらに深そうで、牙は肩の骨まで達していたようだ。

 毒や菌が入っていた場合に治す状態回復の呪文と、傷をふさぐ癒やしの呪文をかけたものの、片腕は当面使えそうにない。


「ところで、その者は?」

 うん、そろそろ聞かれるよね。 


 切り出したのは、一緒に戦ったバタだった。

 俺はカレーナとセシリーの顔色をうかがってから、正直に最小限の話をした。


 つまり、俺はこことは遠く離れた世界から、数日前この世界にやってきた。神様から、粘土と動く人形を操る妙なスキルを与えられて、この女はその人形だ、というような話だ。


 最低のコミュ力でよく説明できた、と自分を褒めてやりたいが、どう伝わったかは、この場の雰囲気でわかるな・・・


 頭のいかれたやつを一歩引いて遠巻きに見るような生ぬるい視線の中、沈黙を破るように言葉をつないだのは、やはりカレーナとセシリーだった。


「なかなか信じがたい話ではありますが、神が私たちを救うためにこの者を使わした、私はそう信じています」

「神の下僕と言うには不純の塊のような男だが、ともかくこの迷宮討伐を成し遂げるまで、この者は私たちに従うと契約しています」

 誰が不純の塊だよ、セシリーさん?


「でも、私は信じられます。実際、シローさんが粘土を自在に操るのを何度も見てますから」

「そうだな、俺も見ました。こいつの話をどこまで信じるかは別にして、戦力になる男なのは確かです・・・」

 ベスとグレオンがフォローしてくれた。


 残るメンバーはまだ半信半疑、というか「一信九疑」ぐらいの表情だが、まだ迷宮戦が続いている中で、それ以上追求している場合ではない、とわきまえたようだ。



 ラルークの索敵によると、あとは「一階層の主」まで、横穴がひとつ、5匹ほどのコボルドがいるだけだ、というが、主力パーティーの半数が傷ついた状態では、無理をするのは得策じゃないだろう、と思う。

 


「きょうはここまでにしますか?」

 セシリーがカレーナに尋ねる。それにバタが異を唱えた。

「できればもう一戦、階層の主は拝めないにしても、それ以外の掃討を終えた方が明日以降が楽になるのではないでしょうか」


 カレーナは最年長のザグーに意見を求めた。

「ふがいない所を見せたそれがしが言うのはなんですが、バタが申したように主以外を平らげておいたほうがよいでしょう。初めて迷宮に入った皆に、階層主の巣までは目にしておいてもらいたい」

「・・・あなたがそう言うなら」


 そして、カレーナが一同を見回した。

「編成を変えます。次の一戦で前に出るパーティーは、バタ、グレオン、セシリー、シロー、ラルーク、そしてベスの6名にお願いします。他の皆は、私と共に後ろから支援を」


「カレーナさま、自分は大丈夫です!」

 足を引きずりながら、ベリシャが声をあげた。


「いえ、ここで無理をしてはいけません。先は長いのですから」

「うむ、それがしもその編成に賛成です。無傷で、かつ遠距離攻撃が出来る者を増やす方が、先ほどのような相手には有効でしょうな」

 ザグーが同意する。

「そういうことです。パーティー編成はシロー、お願いします」


 そこで俺は、ベリシャにやり方を教わって、先ほどまでの支援パーティーをいったん「解散」と唱え、あらためて新たなパーティーを編成した。


 ついつい、セシリーのステータスが気になる。


<セシリー・イストレフィ 人間 女 21歳 戦士(LV6)

 スキル HP増加(中)

     近接攻撃力増加(小)

     物理防御力増加(小)

     筋力増加(小)

     近接命中率増加(小)

     剣技(LV3)

     槍技(LV2)

     騎乗(LV2) >


 あ、3つ年上なんだ。体育会系女子大生、ってところだな。

 目が合ったら、無言で槍の柄でポカリと殴られた。


「さっさと行くぞ」

 俺、なにも口に出してないよね? なんかひどくないか、この扱い。


 ラルークが相変わらずニヤニヤ見てる。なんだよ。

「お前さんも、緊張感のないやつだねー」

 あんたに言われたくないぞ。


<ラルーク 人間 女 25歳 スカウト(LV5)

 スキル 判別(初)

     察知

     隠身

     索敵

     発見

     弓技(LV2)

     剣技(LV1)

     騎乗(LV1) >


 さっきは見てなかったけど、結構年上なんだ。

 あ、目つきが怖くなった。俺は慌てて目をそらし、セシリーに続く。


 パーティー編成すると、お互いの考えてることが筒抜けになるのか?でも、俺にはわからないぞ。ナゾだ。


(あんたバカなの?バカなんだね)

 なぜだか、“内緒話”でリナにまで罵られた・・・


 結果的に、もう一本の横穴にいたコボルドの群れはあっさり掃討できた。


 さっきと同じ大盾を構えて近づいた所で、支援するベスに魔法を打ち込んでもらい、あぶり出された奴らを粘土の壁で防いでおいて遠隔攻撃。

 最初から俺やリナも全員、弓を構えておいて、出てきたコボルドリーダーたちに矢の雨を降らせる簡単なお仕事でした。

 俺の矢も初めて当たった。



 そして、地図上では入口から1km近く入った所に、それはあった。


 少し前から、発見スキルで何か異質なものがあるのを感じていたが、直接目にすると、なんだろう?壁や天井からの淡い光を受けて浮かび上がったあれは。


 壁のように見えるが、もやもやと光るそれは実体感が無い。ただ、とてつもなく濃い魔力を、多分察知とかのスキルがなにも無い者でも感じると思う。


 俺の隣で珍しくグレオンも緊張している様子だ。それはカレーナやセシリー、俺のような初めて見る者の緊張とは異なる、知っているからこその緊張なんだろう。


 ザグーが肩をさすり、口を開く。

「一階層の主が、あの中にいる」


 ザグーの話に俺たちは息をのんで聞き入った。


 迷宮は、巨大な迷宮ワームが土の中の魔力の元を喰らいながら掘り進み生み出されるもの。その多くは緩やかにらせんを描きながら、地中深く下っていくように形成される。

 迷宮の言わばメイン通路とも言うべき洞窟はワームの分泌物の魔力で壁面がかすかに発光しているが、そこに幾つかあいている横穴は、棲み着いた魔物が掘った巣穴であることが多いそうだ。


 そのワームは、成長に伴い年に一度ほど脱皮をする、という。

 そして、脱皮した抜け殻が、目の前に見えるあれだ、と。


 抜け殻だって?

 迷宮を塞ぐそれは直径4~5mあるだろう。それがワームの抜け殻の直径、ということだ。長さはわからないが、芋虫みたいな形態なら数十mはあるはずだ。


「そして、ワームの魔力がこもったことで、あの抜け殻は強力な結界を作っているのだ」

 ワームの抜け殻は強力な結界に守られているため、魔物にとっては最高の巣になる。そのため、通常その階層でもっとも強い魔物が、自らの巣として棲み着くらしい。


 この結界内には、経験上、他の魔物は1匹、あるいは魔法的には一人と見なされる1編成のパーティーしか入れないことが知られている。

 なぜ結界なのに、他に1匹ないし一人だけは入れるのか不思議だが、そうでないと「エサ」になる生き物も入れないからではないか、と考えられているそうだ。


「そうすると、あの中にいる魔物を倒したら、迷宮の討伐は完了ってことなの?」

 俺はつい素朴な疑問を口に出してしまってから、あ、余計なことを言ったか?とまわりを見た。

 だが、幸い誰もそれをとがめることはなかった。


「残念ながら、そうではありません」

 カレーナが話を引き継いだ。


「昔、お父様に伺った話では・・・」

 ワームの抜け殻を見据えながら続ける。


「ワームが年に一度、脱皮しながら迷宮を掘り進むことで、その抜け殻から抜け殻までが、迷宮の一つの階層と呼ばれるようになる。そして、その階層をいくつも経て、最後に最下層にいる迷宮ワーム、それ自体を倒すことができてはじめて、迷宮が魔物を生み出すのを止めることが出来るそうです」


 皆、言葉がなかった。

 この迷宮を埋めるサイズの化け物を退治するとか、可能なのか?


 しかも、そこに至るまでに、いくつの階層を突破すればいいんだ?


「そうすると、迷宮ができてからの年数で、何階層あるのかが、わかるということでしょうか?」

 ベスが思いついたように質問する。なるほど、そうか。


「その通りだ」

 再びザグーが答える。

「ただ、迷宮ワームの卵は、自然の洞窟の奥にいつのまにか産み付けられているらしい。そこから孵化したワームが成長しながら掘り進むわけだが、いつ迷宮が出来たかを正確に知るのは難しいのだ」


 つまり、入口から入ってしばらく、岩だらけだった間は元々の洞窟で、あたりの様子が変わってからが、ワームの掘り進んだ迷宮というわけか。

「たしか、この迷宮の存在が知られるようになったのは、3年ほど前だったかと?」

 バタが確かめるように言う。


「うむ。魔物が急に増え、ここの洞窟から湧き出しているとわかったのだ。だが、それ以前にいつ迷宮ワームが生まれていたかははっきりわからぬ。だから、最低でも3階層以上、わかっているのはそれだけだ」

 ザグーの言葉に、俺たちは険しい道のりを思い、立ち尽くしていた。

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