第253話 成長
十一の月・上弦十四日、少年兵たちを連れた迷宮攻略の二日目の朝
「リナちゃんは本当にすごいね、大きさも変わるしどんなジョブにも変われて、おまけにそんな高レベルだなんて・・・」
「でもでも、ジョブが変わる時さ、ハ、ハダカに」
「きゃーっ、ソレ言わないっ」
パスク村の集会所を宿舎代わりにしている俺たちは、村の女性たちが用意してくれた温かい朝食を腹に入れて、身支度をしていた。
ついたて一枚立てた向こう側が女子用スペースってことになってて、昨夜からリナは人形サイズのままそっちに行ってる。人形のくせにJCトークも好きなのだ。
昨日の戦いの結果、訓練兵たちは全員LV4に上がっていた。
互いに覚えたスキルとかを情報交換していたが、リナのレベルを聞いてエリザもミレラも絶句していた。
見た目厨房ぐらいの年齢なのに、魔法戦士LV20とか冗談としか思えない。スカウトもLV11になっているし。
とは言え、狙い通り訓練兵たちがレベルアップしてくれたのはよかった。
スカウトLV4になったヤクピは「索敵」を、冒険者LV4になったエリザも「察知」を習得したことで、パーティー全体の索敵能力が確実に上がる。
これなら、リナをスカウトではなく最初から魔法戦士にさせて、火力重視で戦うこともできそうだ。
ミレラも巫女LV4になり治療系の魔法が増えているから、リスク管理能力もいくらか高まる。
あとは、ヴァロンを早めにLV10に上げて、重傷者を治せる“大いなる癒やし”を覚えさせたい。現状では、もしリナが身動き取れない傷を負わされると詰んでしまうから。
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粘土壁を除去して進んだパスク迷宮の地下三階層は、予想通りアンデッドの巣窟だった。
だが、昨日痛い目にあったベシニクをはじめ、経験を積んだ訓練兵たちが冷静な戦いぶりを見せてくれたこと、そして、やはりリナを最初から魔法戦士や僧侶にして戦わせることが出来たおかげで、攻略は順調だった。
慎重に進んだことで時間はかかったものの、その日の午後には、俺たちは三階層の一番奥に来ていた。
「光ってるよね・・・」
「なんだろう、ぼんやりにじんで見えるけどな」
初めて迷宮の結界を目にした少年たちが、口々にその不思議な光景を言葉にする。
ここから先は、セシリーやグレオンたちも攻略できていないから、階層の主の結界が破れていない。
だから、もやもや光る実体感の無い壁が俺たちの前に立ち塞がっているわけだ。
段取りを確認して、ヴァロンが「破魔」を唱える。
そして踏み込むと、景色が一変し、目の前に一瞬前までは存在しなかった巨大な殻、かすかにオレンジ色に発光するワームの抜け殻がある。
相変わらず不思議現象だ。少年少女たちが目をぱちくりしてる気持ちはわかる。
だけど、そんな場合じゃ無い。
「気配は?」
ヴァロンに小声で尋ねられ、ヤクピとエリザが気配を探る。ここだけはリナもスカウトモードにいったん変えて探らせている。
「アンデッドだと思うけど・・・」
「うん、あたしもそう思う」
「でも、色々いる?」
正解だ。おそらくスクタリ迷宮の三階層と同じで、アンデッドのパーティーだな。
「シロー、やはりパーティー編成スキルを持つヤツもいるってことか」
「そうみたいだ。いいか、相手は6体いると思ってくれ。しかも、見えてないヤツ、スカウトみたいな隠身スキル持ちや、もっと妙な消えて突然出現する幽霊みたいなヤツもいる可能性がある。で、昨日同様、直接触られるのはマズイと思っとけよ。ここが最初の山だ」
訓練兵4人が緊張の面持ちで頷いた。
タロとワン、キャン、コモリンと、オールスターで出現させる。
タロがワームの殻の亀裂に手をかけ、広げると同時に、小さなホムンクルスたちから侵入していく。
ヒュンっと矢音が響き、魔法が練られる気配がした。
ワンたちの視界にあわせて、スキル地図に表示される範囲が広がり、赤い点が4つ、5つ映った。
「見えてないヤツが多分1体、気をつけろ」
俺は地図で表示された手前側、こっちから出てすぐの所に粘土壁を出して安全にする。
裂け目が大きくなった所に、次々みんな入っていく。
俺は巨体のタロをいったん回収して、内部に入ってから再び、壁の向こうに出現させた。
いったん収まってた矢が再び飛んでくる。
見えない相手を探る。ワンとキャンは俺たちのまわりに突然出現するかもしれないヤツの警戒にあたらせる。
その間も、他のみんなは粘土壁越しに弓で射撃戦だ。
聖属性を矢に付与してあるから、あたれば効果はある。
「敵は、<スケルトンナイトLV9>が3体、あとは・・・<アンデッドロードLV11>と<リッチLV14>ですっ!」
冒険者LV4になったエリザが、判別スキルで相手のジョブとレベルを叫んだ。
「アンデッドロードは僧侶系呪文、リッチは魔法使いの攻撃呪文を使うから気をつけろっ」
俺は追加情報を伝える。
その途端に強い冷気が押し寄せてくる。リッチの魔法だ。
「壁に隠れろっ」
ヴァロンが叫ぶと同時に、バリバリと猛吹雪が粘土壁を叩く。
不意に地図に映っていた敵の赤い光点が薄くなった。
まずい、コモリンが撃墜されたらしい・・・即座に粘土スキルの“取っておく”で回収し、生素で治療してやる。なんとか「死」んではいないようだ。
しかし、その一時的な索敵能力の低下をどうやって把握したのかわからないが、隙を突かれた。
「わんわんっ!」
「「「!」」」
ワンの警鐘と同時に、黒く腐りかけたローブ姿の存在が、ヴァロンの背後に出現していた。
<レイス(LV8)>
「副隊長っ!」
ヤクピが叫びヴァロンが振り向くのと、そいつが両手を広げのしかかるのはほぼ同時だった。間に合わない!?
だが、俺が駆け寄るより早く、小さな影が動いていた。
「浄化っ!」
既に詠唱を終えていたような絶妙のタイミングで魔法が放たれ、ヴァロンに伸ばした腕は、鎧をかすめながら痙攣するようにすり抜けた。
俺がそこに聖素で追い打ちをかけ、ヴァロンも自ら浄化を重ねがけして消滅させた。
「ミレラっ、助かった」
「忍び寄るなら、たぶん僧侶を狙ってくると思いました」
ミレラは敵に知性があれば、まずアンデッド戦の要を消しに来る、そう思って構えてたらしい。優秀だな。
「来るぞっ」
こっちが壁の中でレイスに気を取られてる間に、残った敵は矢の打ち合いから接近戦に切り替え、距離を詰めてきていた。
その間もリッチの魔法が散発的に放たれているから、こっちは壁の裏に釘付けにされてる状態だ。
「リナ、静謐をかけられないよう、一発で決めるぞ」
(おーけー、練るよっ)
魔法戦でこちらが優位に立つと、アンデッドロードが静謐をかけてくるのは経験済みだ。
だから威力を高めて一気に敵の戦力を削る必要がある。
彼我の距離が20歩を切ったところで、俺は、粘土遊びスキルLV9の“動かせる”で、粘土壁を飛ばし、アンデッドパーティーにたたきつけた。
2体が下敷きになったが致命傷では無い。でも、隊列はばらけて動きが止まる。
そこにリナが練り上げて細く絞り込んだ炎のビームで薙ぎ払った。
ジュワジュワっと焼け焦げる音と共に、5体のアンデッドの体が胴の高さで切り離される。
リッチが最後の魔法を放とうとした瞬間、その上半身が分離し、狙いがそれた吹雪がワームの殻の天井を叩いた。
なおも蠢くアンデッドたちをヴァロンとミレラが浄化し、決着がついた。
ゴゴゴゴッと、地響きが伝わってくる。結界が破れたのだ。
「陥没するぞっ、退避だっ」
ヴァロンが叫びながら駆け戻ってくる。
だが、今回の戦いは、ほぼワームの殻の中の端の方で行っていたから、崩落に巻き込まれる危険は少ない。
やがて地崩れがおさまり、また眼下に次の階層への洞窟が開いているのが見えた。
いったんリナをスカウトモードに変え、お約束の宝箱を発見して罠解除させる。
中にはいくらかの砂金と、一本のナイフが入っていた。
「これは・・・」
なんとなく想像できたけど、鑑定してみると案の定だった。
「銀のナイフらしいな」
「なるほどな・・・」
アンデッドを倒せる銀の武器ってことだな。
以前スクタリの迷宮で、石化を使うメデューサを倒したら宝箱の中から石化を解く薬が出てきたことがあった。
魔甲蟹を倒した後で「魔甲蟹の盾」が出たこともあったし、その魔物と関係するものが出やすいのかもしれない・・・。
その日は無理をせず、そこで粘土壁で4階層の洞窟入口を塞ぎ、帰投した。
なんと言ってもまだ訓練兵たちはLV4に過ぎないのだ。俺たちが最初にスクタリの迷宮に挑んだ時より低いから、調子に乗ってはいけない。
パスク村に戻ると、ベスと定時連絡を取った。
いい知らせとして、イリアーヌさんが味方につけたルセフ伯爵が、最前線に援軍を送り、マレーバ伯爵らの軍と協力して、マジェラ王国の大軍に打撃を与えたらしい。
詳細は不明だが、いったんマジェラ軍が後退し、立て直しを図っているらしいとの情報もあるそうだ。
(うちがブレル軍を破ったのとあわせて、いい流れになってますね)
ベスの声も明るい。
(頼まれたことも進めてますから安心して下さいね)
そう、ベスには大事な依頼をしていた。
以前、作ってくれた、そして俺もお手伝いをしたMP回復薬を作りためておいてほしい、というものだ。
当時はあの薬の価値がよくわかってなかったけど、その後冒険者として活動するに連れて、MP補充が出来ることがいかに重要かわかってきた。
そして、“転移”とか“流星雨”とか、高レベルの魔法はMP消費がすごく多いから、何回使えるかが本当に生死を分けることになりそうだ。
いずれあるであろう大規模な戦いの前にストックしておいて欲しいと頼んだのだ。
ヴァロンの了解もとって、手が足りなければ帰投した魔法班の少年たちを使ってほしいってことも伝えてあった。
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そして翌日、俺たちはパスク迷宮の地下4階層へと降りた。
だが、そこで自分の予想が外れたのを悟った。
ここがスクタリの迷宮と兄弟のような関係にあるなら、4階層で予想されるのは、「魔物の森」みたいな場所で、吸血蔓とか毒ネズミとか魔熊とか、そういうやつが出てくるだろうと思ってたんだ。
だが、見たところ迷宮は、これまでの階層と変わらないような環境だった。
「なにか近づいて来るっ、ぼくの知らない魔物の気配だ」
スカウトのヤクピが声をあげた。
たしかに魔物もこれまでとは違う・・・だが、俺には記憶のある気配だ。
「たぶんオーガだ。デカくて強いぞ、用心しろ」
これも定番と言えば定番の相手だな。オザック迷宮とかでも戦った。
俺はオーソドックスにタロを前衛に立て、しかし、ベシニクたちにはそこから距離を取らせる。
まだLV4の戦士とかにオーガ相手の接近戦はさせられない。
「来たっ!」
巨体が洞窟の奥から飛び出してくる。
<オーガLV9><オーガLV9>・・・<オーガロードLV13>
オーガが4体にオーガロードもいるのか。僧侶系魔法を持ってるようだ。
「リナ、こいつも静謐があるぞ。魔法はオーガロードを一発で狙おう」
(わかった)
タロの左右に粘土壁を立て、回り込めないようにする。一対一ならタロの方が強いだろう。
「弓で狙うぞ、構えろっ」
訓練兵たちにはヴァロンが弓矢で狙わせる。支援は任せておいていいだろう。
先頭の石斧を持ったオーガをタロが大剣で斬り下ろした。
一合は受け止められたが、次で袈裟懸けにする。
「貫けっ、“魔槍”!」
その直後にリナが貫通力特化の魔法を放ち、敵の2列目にいたオーガロードの腹に命中した。
ズシュッっと鈍い音共に、光の槍が突き抜けた。
オーガロードは詠唱を唱える間もなく倒れた。
動揺する感情がオーガにあるのかわからないが、リーダー格を失い他のオーガたちの動きが一瞬鈍ったところに、訓練兵たちの矢が飛ぶ。
巨体のオーガに致命傷にはならないが、タロに集中しそうだった敵の攻撃を止める役割にはなった。
その間に、タロがさらに一体を倒す。
俺は火素を集めて一体のオーガの頭部に炎を集中させた。熱か酸欠かどちらでかはわからないが、そいつが倒れる。残りは一体。逃げだそうと背を向けた所に、ヴァロンが放った矢とリナの雷撃が命中して倒れ込む。
追いすがったタロがとどめを刺した。
4階層の敵はオーガを中心とした人型と、吸血コウモリなどの飛行系が中心だった。
オーガは一発食らうと、即死亡するぐらいの破壊力を持っているから、慎重に戦う必要があった。
幸い、初回をのぞくとそれほど数の多い群れには出くわさなかったから、各個撃破でなんとか、大きなケガを誰も負うこと無く進むことが出来た。
飛行系の魔物も厄介で、何度か吸血コウモリに食いつかれてしまい、そのたびに治療タイムが必要だった。だが、戦いを重ねるごとに訓練兵たち、特にエリザとヤクピの弓矢の精度が上がってきた。
そして午後、4階層の一番奥まで到達した。
「ヴァロン、どうする?」
「そうだな。みな元気だし、ともかく階層主がどんなやつか確かめてみようと思うが」
「うん、相手次第だよな」
“破魔”をヴァロンが唱え結界を抜けると、異質な気配があった。
これは俺にもわからないな、オーガっぽい気もするけど。
「オーガ系、でももっと強そうな上位の魔物だと思う」
「うん、あたしもそんな感じです」
ヤクピとエリザがそう報告する。やるな、二人とも。
「・・・行ってみるか、まずそうな相手だったら撤退だ。合図するから無理はするな」
ヴァロンの判断で、俺たちは四階層の主に挑むことになった。
「!」
コモリンとキャン、ワンの順に潜入し、俺たちも後に続いた途端、強烈な魔法の気配と共に、雷撃が飛んできた。リナが瞬間的に魔法盾を張って防ぐが、びりびりとみんなの体がしびれた。
一瞬、敵のステータスを見てから、すぐに粘土の防壁を建てる。
<オーガ魔法戦士 LV17
呪文 「火」「水」「地」「風」「雷」
「盾」「結界」「魔槍」「透視」
「転移」
スキル HP増加(中) 筋力増加(中)
魔法付与攻撃 魔法抵抗
物理防御力増加(小)
斧技(LV4) 投擲(LV2)>
「魔法戦士っ!?」
エリザがジョブとレベルを見て叫んだ。俺は重ねて叫ぶ。
「転移魔法も使えるらしい、突然来るかもしれないぞっ!」
「なにっ!?」
ヴァロンが、静謐の詠唱を始めた。
オーガの怪力相手に肉弾戦はたいへんだが、相手の魔法の方が危険だと判断したんだろう。
だが、それより早く、相手の2発目の魔法が放たれていた。
ヤバイ気配だ。
「伏せろっ!」
理屈ではなく本能的に叫んだ途端、粘土壁が貫かれ、ドス黒く光るような“槍”が頭上を飛び越えていった。
魔槍か! 敵に使われるとこんなにおっかないのか・・・かろうじて全員無事だった。向こうは透視も使えるから、壁の裏の俺たちも見えてるんだ。
詠唱を中断されたヴァロンが再び、静謐を唱え始める。
(シロー、転移されるよりする方がいいよっ)
そうか。
「ヴァロン、すまん、肉弾戦だ」
「!」
オーガ魔法戦士の3発目の魔法攻撃が粘土壁を木っ端微塵にする寸前。
俺たちはヤツの背後に転移していた。
ベシニク、エリザ、ヤクピが即座に槍を構え突進する。
オーガの巨体がこっちに振り向いた瞬間、俺はその背後にタロを出現させた。
オーガが巨大な戦斧を振りかぶった時には、3人の槍がその脇腹と首に突き立ち、後ろからタロの大剣が横なぎされていた。
それでも、よろめきながら踏ん張っている。
その頭部に火素を練った炎の塊をぶつける。ようやく動きが止まった。
巨体がゆっくりと傾き、轟音を立てて倒れた。




