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転生スキルは「お人形遊び」と「粘土遊び」なんですが、これでどうしろと?  作者: 柴野ましろ
第三部 亜人戦争篇

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第251話 夫君の決意

手強い魔導師らを抱えたブレル子爵軍の先遣隊を相手に、完勝と言える結果を出すことができた。


 かつての名門ではあっても、今や名ばかりの子爵家で弱小領主――――そう見られていたオルバニア家が、国王支持を表明し、隣接する十倍近い兵力を持つブレル家の侵攻をほとんど無傷で撃退した。


 その一報は、魔法通信で王都に知らされると、またたく間に国王派・公爵派を問わずエルザーク王国中を駆け巡った。


 いや、エルザーク国内だけではなかった。

 王都に駐在する外交官を経て諸国にも、そして非公式なルートでエルザークとまさに戦争中のプラト、マジェラ両国にも伝わっただろう。


 エルザークの辺境での数百人規模の小競り合いに過ぎないものでありながら、それは内戦の行方を占う重要な一戦であり、エルザーク王国が当初思われていた以上に盤石なのではないか、という諸国の見方にもつながった。


「イリアーヌ様から連絡がありました。ルセフ伯爵が国王派で参戦すると約束してくれたと。さっそく、マジェラ王国軍を食い止めているマレーバ伯爵と共闘し、援軍を出すとも言ってくれたそうです。そのマレーバ伯の所からも、祝意と互いの勇戦を祈るとの魔法通信がありました・・・」


 晩餐の席で、カレーナが嬉しそうに報告した。


 朝方の激戦から午後まで続いた追撃戦、そしてその後始末を終えた隊長格の者たちも列席している。

 小さなケガをした者はいても誰一人欠けていない幹部の顔ぶれは、充実感に輝いていた。


「論功はこの戦争が決着した後になりますが、将兵のみなさんの活躍には厚く報いることをあらためて約します。そして、当家の家臣ではないのに、騎士としてはせ参じてくれたシローとリナ、本当によくやってくれました。奇襲の案も献策してくれたそうですね。スクタリの迷宮戦の時のあなたの知略を思い出しますよ」


 イグリがそこに付け加えて証言する。

「緒戦で指揮官と魔法使いを討ち取ってくれたのも極めて大きかった、と存じます」


 数日前のどん底評価から急にほめられすぎて、かえって居心地が悪いぐらいだ。


 でも、カレーナと並んで上座に座る夫のフリストが、こわばった顔をしているのがちょっと気になる。

 彼が総隊長として追撃に打って出る判断を下したのも、効果的だったと思うけど。


 話題は、明日からのことに移った。

 スクタリでは城壁の補強と物資の備蓄、そして近いうちに必要に迫られるであろう、開拓村からの避難者受け入れ体制の整備を急ぐことが確認された。


 そして、ブレルはすぐには再び手出しをしてこないだろうから、その間に領内を安定させたい、ということになった。


「なるべく広範囲に偵察もしておきたいところですな。昨日ヴァロンとシローが捕らえてきたマジェラの偵察部隊のようなこともありますので」

「捕虜、と言えば、きょう捕らえたブレル配下の隊長格の者が気になることを・・・」

 歩兵隊を率いて捕虜の連行を担当したバタが声をあげ、みなの視線が集まった。


「ブレル子爵は、どうやらマジェラ王国との間になにやら極秘の作戦をあたためているらしいのです。そのタイミングを計っているのだと」

「どういうことだ?」


 フリストの問いにバタは言葉に詰まった。

「残念ながら、その隊長もはっきりとは知らされておらぬようで・・・ただ、“今回の侵攻は、マジェラに全てを持って行かれる前に、オルバニア領ぐらいは単独で手に入れておかねば”と幹部から耳打ちされた、というのです」


 隊長たちは顔を見合わせた。

「オルバニア領ぐらいは、という上から目線が不快極まりないですが、それはさておき、どういうことでしょうね?」

「セシリーの言う通りね。つまりマジェラとの共同作戦では、かなり広い範囲を攻略する計画になっている、ということなのかしら?」

 

 最近は軍務には関わることが少なくなっていた家臣の長老格、セバスチャンが口を開いた。


「ブレルの領地でマジェラと共同作戦をとるとすれば、概ね2つしか方向性はありませんぞ。マレーバ伯からトパロール子爵まで東方の諸侯を平らげてからシキペール地方全域を手中に収めようとしているのか。あるいは、マジェラの西部辺境から北上して、その北側に位置するブレルと歩調をあわせるか、ですな・・・」


 セバスチャンの指摘は予想もしないものだった。

「マジェラ西部から北上、というと、当家の南部からということですか・・・しかし」

「これまでマジェラ軍は1万もの兵力を全て東側に向けております。さすがに考えすぎでは?」

「大体当家の南部やマジェラの西部辺境は、魔物が跋扈する大森林とも近い、あやかしの領域でしょう。開拓村ひとつあると言っても、進軍できるような道さえありませんぞ・・・」

 大森林って言葉で、俺は以前ミッケたち猫人の冒険者が言ってたことを思い出した。


「大森林って、亜人が多く住んでるって聞いたことがあるんだけど。グレオンの隊に、だれかあっちの事情に詳しいやつとか、いないのかな?」

「ああ、明日朝イチで隊の連中に聞いてみよう」


 隊長たちの意見はその後もまとまらなかったが、カレーナが裁断を下した。

「セバスチャンの心配ももっともです。こういう時だからこそ、広い視野を持たねばならない、ということですよね。東部と南部、どちらも偵察隊を出しましょう。東部はヴァロン、白鷹隊がまだ行っていますよね?」


「はっ、奥方様。捕虜の護送にシローとリナの転移でいったん戻ってきましたが、本隊はまだ現地におります」

「では、東部は引き続きヴァロンとシローにお願いしましょう。アンデッドが湧き出している迷宮も気になります。村人たちが不安がっているでしょうから、可能なら奥まで状況を確認してほしいところですが・・・未熟な子どもたちを率いているのですから、無理はしないで、情報収集を終えたらなるべく早めに帰投して下さい」


 そして、南部への偵察については、明日までに人選しておくことになった。

 フリストがなにか考え込んでいるようだった・・・。


***********************


 翌朝、朝食を済ませてから出立の挨拶にカレーナの執務室に向かうと、セシリーとベスが来ていて、なにか相談していた。


「あら、シロー、もう出るの?」

「うん、ヴァロンが訓練兵たちが心配だからって」

「ヴァロンって意外に面倒見がいいって言うか、指導者向きよね。そうそう、昨日はありがとう、おかげでわたしもベスもレベルが上がっていたわ。不思議よねぇ」


 実は昨日の朝、ベスと相談して、カレーナとベスの二人に経験値を稼がせるため俺のパーティーに編成していたんだ。

 転移とかを使う前、リナに“流星雨”を使わせた時までのことだ。


 そんなアイデアを考えたのは、スクタリの今の役割分担だとベスの魔法がものすごく重要なのを実感したからだ。

 広くなった領内の各地、各部隊と遠話を結んで情報を集め、効率的に兵を動かす指示を伝える。スクタリに留まってカレーナの目と耳、そして口の働きをしているんだ。


 訓練兵のフェリドがどうやら魔法使いジョブを得られそうだけど、現在はベス一人がその任を負っている。


 そしてもしベスが、リナと同様に“転移”を使えるようになれば、さらに出来ることが大きく増える。

 俺がいなくなっても、必要な場所に1パーティー送り込めるのは政戦両面で金額に換算できないぐらいの価値がある。


 同様に、僧侶系ジョブも、誰かが早くLV15になるのが望ましい。

 これからまだマジェラ王国軍との大決戦があるかもしれないわけで、まわりの兵士の能力を引き上げられる“祝福”のバフをかけられるものが、リナしかいない状況は心許ない。

 

 ヴァロンもまだ僧侶LV9だからカレーナよりずっと低い。身重のカレーナを戦場に出すなんてあり得ないが、出陣前の兵たちにバフをかけて送り出すことはできる。


 それに、以前から思ってたけど、スクタリの兵たちの多くはカレーナのために戦っている意識が強い。

 貧乏な主家を見限らず厳しい環境の中でも頑張ってるのは、ちょっと天然だけど本気で民のことを思っている若い女領主を支えたいから、という連中が多いのだ。

 俺自身はカレーナとセシリーに騙されて奴隷にされた立場だから、そうは素直に思えない面があるけど、末端の兵士だったからこそ現場の連中の気分はよくわかった。


 だから、大軍に攻められるような状況になっても、カレーナにバフをかけられ言葉をかけられて送り出されたら、実力以上に戦えるんじゃないか、とも思ったんだ。


 それで、カレーナとベスの2人だけパーティーに入れて経験値を分配した。

 以前オザックの迷宮で、そういう方法で現場にいない貴族の子弟に経験値を分配する裏技を知ったからな。距離的な制約とか条件もありそうだったけど、今回は使うことができた。


 そして狙い通り、けさ起きたらカレーナもベスもLV15に上がっていたらしい。

 流星雨1発で、おそらく20人以上の敵兵を葬ったから、相当な経験値が一気に入ったのだろう。カレーナは一気に2レベルアップだ。


「よかった。これでベスは“転移”が使えるようになったよな?MP消費が多いから、最初は1人でちょっとずつ距離を伸ばした方がいいよ。距離と人数も関係するから。それと、レベルが上がると登録できる場所も増えるから」

「ありがとう、シローさん。次の戦さになる前に色々試してみます」


「それでね・・・もうひとつ、シローに相談があるのだけど」

 カレーナがちょっと言いにくそうに話を変えた。


「南部の調査に、フリストが自分で兵を率いて行きたいって譲らないのよ。どう思う?」

「えっ、旦那さんが自ら?でも、どうして?」

 昨日、フリストが何か考え込んでる様子だったのは、このことだったのか。


「あせってるんだと思うの。昨日の戦いもね、誰が見ても一番のお手柄はあなたとリナのコンビだし、イグリやグレオンたち、元々の領兵のみんなも活躍したから」

「でもさ、打って出るのを決断したのはフリスト卿だろ?あれでブレル軍を崩壊させられたんだし、いい判断だったと思うけど・・・」


「それ、あなたから彼に言ってあげてくれないかな・・・わたしがほめても妻だから持ち上げてくれてるとしか思えないみたいで・・・それにあの判断、本当は補佐のゴレスコの献策だし。だから今度こそ自分自身で手柄を立てて、みんなに“飾り物の夫じゃない”って認めさせたいのね・・・」

 

 夫婦の問題とか貴族の立場の問題とか、俺にはとてもガラじゃない話なのに、やっかいな任務を“あなたにしか頼めないの”とお願いされてしまった・・・

うーむ。


「シロー、わたしみたいながさつな女が言うのもなんだが、フリスト卿とお前はちょっと似てる気がするんだ・・・」

 退出した後、ひとりだけ追いかけてきたセシリーが思いがけないことを言った。


「2人ともはたから見れば大したものなんだが自己評価が低すぎるって言うのか?もっと自信を持っていいと思うんだ。いや、お前に関しては私生活は本当にダメだぞ?ただ仕事ぶりって面だけはな」

 ほめてんだかディスってんだか、どっちだよ?


「だから、お前ならフリスト卿の気持ちがわかるんじゃないかと思うんだ。いや、お前にこんなこと頼むのもお門違いだとわかってるが・・・わたしからも頼む」


 なんか責任がどんどん積み増されてる気がする・・・



 でも俺は結局、最上階に上がり、カレーナの隣りの部屋の扉をノックした。

「誰だ」

「え、えーっと、シローだ、です、けど?」

「なに、シロー?」


 少し時間をおいて、扉があいた。

 一人のようだ。既に偵察に出るための支度を終えていたようで、置かれた背嚢もいっぱいになってる。


「どうした?」

 意外に普通の態度だった。

「あ、あの・・・」


 俺は、部屋を訪ねる前は、あんたは良くやってるとか、人と比べなくてもとか、そういうありきたりの言葉しか考えてなかったんだけど、唐突に、この世界に転生してきた時のこととか、偶然出会ったセシリーとカレーナに騙されて戦闘奴隷にされ、迷宮で戦わされたこととか、を話していた・・・


 カレーナからそういう話は聞いていなかったみたいだ。

 そりゃ、異世界からの転生者とかって言われてもフツー信じないだろうし、奴隷にした話は醜聞だしな。


「・・・」

 やっぱり信じてないか。てか、出発間際に突然押しかけてきて、なに話してんだコイツって感じだよな。

 そう俺があきらめかけたところで、フリストは思わぬ反応をした。


「そうだったのか・・・納得がいったぞ」

「え?」

 この話でどう納得すると?


「そなた、カレーナに、私自ら偵察に出ることを止めるよう言われてきたのだろう?」

「うっ、あーその・・・」

「ふっ、もっと腹黒い策士と思っていたのだがな。意外に嘘のつけんヤツだ。・・・そうか、カレーナがそなたを騎士にしたのは、騙して奴隷にした罪滅ぼしのつもりだったのだな」

 あ、そっちの話か。


「・・・私はな、そなたに今回会うずっと前から、カレーナが当家を去る男に騎士身分を与えたと聞いて、そなたとカレーナの関係を勘ぐっておったのだ。だが、そうではなかったのだな」


 最初から態度が敵対的だと感じたのは、そういうことだったのか・・・

 

「そなたも私も、運命に流されてこの地に来たのだな。似たもの同士だったか・・・」

フリストもセシリーみたいに俺と自分が似てる、なんて言うんだな。


「いや、俺はフリスト卿みたいに兵の指揮をとったりもできないし、イケメンじゃないし上品な振る舞いもできないし、失敗ばっかで、いつも連れにはおバカ呼ばわりされてるし、こないだもカレーナさまに超失礼なこと言っちゃったし、あ、ほんとゴメン、なさいです」

 もう、ぐだぐだだ。


「はははっ、本当にそのままなんだな・・・いや、良くはないが、まあすんだことだ。うむ、おかげで吹っ切れた気がするぞ」


 フリスト卿は、初めて俺をまっすぐ見て、いい笑顔になってこう言った。

「カレーナの気持ちはありがたい。それにそなたも、面倒な頼まれごとだっただろうに、ご苦労だった。だが、私は行くよ。意地になっているわけではないぞ?だが、そなたが何度も死線を越えたように、わたしも乗り越えて初めてわかることがあるはずだ・・・帰ってきたら一度ゆっくり酒でも飲もう」


 そう言うと、フリストは踵を返し、もう俺の方を振り返ろうとはしなかった。

 でも背中越しに、最後にもうひと言かけてきた。

「私は私の道を行く。そなたも自らの道を行け」


 ちらっと見えた横顔は、さっきまでとは何か違う種類の決意を秘めているようだった。

 俺には、それ以上彼に声をかけることは、とうとう出来なかった。

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