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第250話 ブレル子爵軍侵攻

マジェラ王国の偵察部隊を発見し、捕らえた男たちをスクタリに護送した。その翌朝、今度は隣接する大勢力、ブレル子爵の軍が侵攻してきた。

 館の広間に飛び込むと、既に城壁の守備に向かっている者をのぞいて、他の隊長クラスの者たちも集まってきているところだった。

 フリストが入ってきたのを見て、騎士長のザグーが口火を切る。


「みな、時間が無いから手短に説明する。ドウラスからこちらに、ブレル子爵の旗を掲げた一団が進軍中だと斥候から一報が入った。静まれ!」

 ざわめきだした隊長たちを一括して続ける。


「数は400から800の間で、騎馬は100以下。鎧兜着用の行軍武装だ。攻城兵器の有無は不明。歩兵の行軍速度で、スクタリ到着はあと半刻前後と見られる」

 本当に第一報だな。でも、状況はちゃんとわかる。斥候もザグーも優秀だ。


「宣戦布告は?間違いなくスクタリ攻めなのか?」

 声をあげたのはフリストの副官のゴレスコというLV16騎士だった。


 ザグーはひとつ頷いて答えた。

「現時点では宣戦布告は無い。スクタリ攻めである確証は無い。ただし、この街道はスクタリまでは一本道だ。仮に東部の前線に向かうにしても行軍武装のこの規模の兵を他領に入れるには、国法上も了解を取る必要がある。つまり、こちらの領内に入った時点で宣戦布告と解釈されるし、そう取られても構わぬということになる」


 座が静まりかえった。

 その時、セシリーに支えられ、身重のカレーナが奥の入口から入ってきた。全員が騎士の礼を取る。


「非常時です、みな、気にせず続けて下さい」

 カレーナの言葉に、フリストが応じた。

「カレーナ、あなたの身を危険には決してさらさせない。安心してくれたまえ」

「ありがとう、フリスト。わたしは大丈夫ですから、極力民の被害を出さぬよう、みなもお願いしますね」

 カレーナは息を切らせてそう言うと席に着いた。


 それを待ってザグーが切り出す。

「フリスト卿、既にグレオン指揮下の亜人隊は偵察に出ており、ムハレム指揮下の弓兵とベリシャ指揮下の弩・投石隊が城門・城壁への配置についておるところです。あとは城壁の線まで引きつけて迎え撃つか、迎撃に出るかの大方針はすぐに決めねばなりません」

 隊長たちがそろって頷いた。


 だが、フリストは判断を求められ、迷ったようだ。

 一応総大将なんだからしっかりしてくれないと困るが、こいつは俺より年下だし、本当の戦争なんておそらく初めてだろうからな。


 となりからゴレスコが助け船を出す。

「今は東方に出ている訓練兵と、巡回警備に出ている第6小隊以外は街にいるのだったな。ならば兵力としては200以上いるから、籠城ならこちらの練度でも互角には戦えましょう」


 城攻めには守る側の3倍の兵力が必要、とかって言うからな。こちらの練度でも、ってのがちょっとイヤミっぽい言い方で、元々スクタリ所属のイグリたちが不快そうにしてるけど。


「なら、籠城にするか?」

「ただし、400から800というと、向こうは総力ではありません。ドウラスからは補給も簡単ですし、兵の入れ替えをしつつ持久戦で、ずっとスクタリを囲み続けることも可能でしょう。そうなればジリ貧です」


 ゴレスコはバカじゃ無いようだ、けどこの場ではどうなのかな。単純に籠城すればいい、ってもんじゃなく一長一短だと言いたかったようだが、案の定フリストはかえって迷ってしまった。

「・・・どうすればいいのだ?」


「遊撃しましょう。あそこは一本道で行軍は縦に伸びざるを得ないから、途中の森に兵を伏せて、指揮官クラスが通る時に急襲すればいい」

 迷宮戦でも一緒に戦ったことがある兵士長のバタが提案した。何人かが同意の様子を見せる。


「そんな都合のいい場所があるのか?」

 フリストたちはまだ領内の地理に明るくないから、確信が持てないようだ。


「あそこの丘の上から見下ろす位置だな。だが、バタの隊は歩兵だろう?今から先回りは間に合わないんじゃないか」

 カレーナについてきたセシリーが声をあげる。

 それに応じて、イグリが手を挙げた。

「おれたちが行く。第2小隊は全員トリウマ騎乗だ。間道を抜ければ先回りできる」

「仕方ないな、手柄はゆずるか」

バタも歩兵では間に合わない、というので納得したようだ。


「よろしいですかな?フリスト卿。他の隊は城壁に展開し防戦準備で」

「よ、よかろう。ただし、ゴレスコ、第1小隊はいつでも打って出られるようにしておけ」

「承知しました」


 イグリの騎馬小隊が待ち伏せて襲撃。それがうまくいっても行かなくても、他の隊は城壁で迎撃態勢をととのえるってことになった。


 慌ただしく各隊の隊長が準備に散る中、ザグーとイグリから声をかけられた。ベスも呼ばれている。

「シロー、ヴァロン、おぬしらもイグリに同行してくれ」

 これは予想されたことだ。先回りして奇襲、ってことなら俺も、というかリナは大きな戦力だからな。


「そしてベスはグレオンと連絡を取って、最新の情報をイグリとシローに入れてくれ。それと、亜人隊も偵察に散っている者以外は遊撃に協力するようにと」

「わかりました」


 ベスの遠話はこういうときの司令部として使えるから便利だよな。LV14だから転移はまだ出来ないのが惜しいけど・・・なんとかレベル上げさせられないかな。


 バーデバーデから乗ってきた馬は白鷹隊の野営地に置いて来ちゃったから、俺は久しぶりにトリウマを借りて、イグリたちについていった。

 この第2小隊は、フリスト麾下の第1小隊と並ぶオルバニア家の精鋭部隊ってことになってて、元からいた領兵が多い。副長は俺もよく知ってる冒険者ジョブのホッジャだった。


 トリウマに乗って俺も初めて通る森の中の狭い間道を抜け、ドウラスからの街道を見下ろす小高い丘に上がったのは、30分後ぐらいだった。


「見えてきたぞ」

 木の間からのぞいていた兵が、さっそく声をあげた。視界が狭くて位置的に俺にはよく見えないが、もうブレル軍の先頭が近づいているらしい。


「・・・ん、ベスか?ああ、そうか、攻城櫓?それが最優先だな。わかった」

 イグリの所にベスから通話が入ったらしい。


「聞いてくれ、みんな。ブレル軍の数は600、うち騎馬隊が80、他に各歩兵隊の指揮官が騎乗。攻城櫓が4台あって、これの破壊と指揮官を最優先で狙ってくれとのことだ。うちの街壁の低さじゃ攻城櫓をかけられたら一瞬だからな。で、グレオンが10人連れて合流するそうだから、指揮官の位置は亜人隊に聞けとさ」


 言い終えてまもなく、味方の気配が近づいてきた。

ガサガサっと木立が揺れて、気づくと2人、いや3人がイグリのそばにいた。

 みんなあまり驚いていないのは、慣れてるのか。


「第9小隊副長ナガロです、グレオン隊長の命で先に一報に参りました」

「第9小隊ライマです」「アジマです」

「うむ、ご苦労」

 第9小隊ってのがグレオンが率いる通称“亜人隊”のことか。


 ナガロって男は猫人族だった。<猫人(LV9)>だ。

 でも、女のブッチはもちろん、以前護衛クエストの商船で乗り合わせたミッケとかに比べても一回り体が大きく、しかも隙が無い。忍びみたいな物腰だ。


 同行してきた2人は、やっぱりケモミミだけど顔立ちが違って、犬人族の女子らしい。わりとがっしりした体型で、簡単な革鎧に短刀だけ身につけた身軽な格好だ。


「まず、敵軍に忍び寄って傍聴したところ、行軍中にスクタリ攻撃の段取りを命令していましたので、攻撃意図があるのは明白です」

 そこまで近づいて盗み聞きできたのか。

 猫人や犬人が持つ聴覚系のスキルのおかげかな。


 ナガロの報告にイグリたちが眉をひそめた。宣戦布告なしで攻撃開始か、って思ったんだろう。でもこれで、こっちからも問答無用で奇襲できるとも言える。


「指揮官はデミトロフという名の男のようです。隊列の後方に80騎の騎馬部隊があり、その中の後ろ寄りに金属鎧を着込んで二本角の兜をかぶっておりました」

 すごいな、優秀だ。


「攻城櫓があると聞いたが?」

「はっ、それは最後尾に近い所を馬で引かれていました。まわりは後詰めの歩兵が40名ほどです」

 イグリが標的の情報を兵らに伝えている間に、俺はもう一つ大事なことを聞いてみた。


「敵に魔法使いとか僧侶とかの魔法系ジョブはどれぐらいいそうだった?」

「はっ、すみませんが、ジョブの判別は我々はできないので・・・グレオン隊長と一緒に、判別持ちが間もなく追いつきますので、そちらに聞いて下さい」

 そうだった、彼らは判別スキルは持ってないもんな。

 とりあえず速報だけ入れに来てくれたんだ。


「ご苦労だった。引き続き任にあたってくれ」

「はっ。では、遊撃の支援に入る者はグレオン隊長が連れてきますので、これにて」

 ナガロ以下の3名は、またあっという間に姿を消した。


「なんかすごい精鋭じゃない?数が増えた分、もっと練度が低いんだと思ってたけど」

 兵たちに配置の指示を出し終えたイグリにそう感想を言うと、副長のホッジャと苦笑いしながら答えた。


「まあな、亜人隊はひょっとしたら、今うちで最優秀かもしれん。グレオンの鍛え方がいいのもあるんだが、ブレルをはじめ最近は亜人蔑視の領主が増えたせいで、能力はあってもいい職に就けなかった連中が、スクタリでは差別されないって聞いて集まってきてるらしい」

「正直フリスト卿たちはあまり亜人を好まれていない雰囲気もあるが、カレーナさまは神殿にいたせいか分け隔てしないからな。それに、うちは腕の立つヤツなら文字通り猫の手だって借りたい状況だしよ」


 そんな会話をしていると、トリウマが近づいて来る気配がした。

「待たせたな」

 グレオンたちだ。さっきのナガロたちは徒歩だったけど、こっちは騎乗だ。


「おれを含めて十騎、イグリ隊長の指揮下に入ります」

「頼むぞ。副長から兵力と指揮官・攻城櫓の位置を聞いたが、他にわかったことはあるか?」

「魔法ジョブの数とかもわかってたら頼む」

 イグリの質問に重ねて訊ねる。


「おう、シロー、久しぶりだな・・・各ジョブと武装だが、80人の騎馬隊の中に、魔法使い系が2人、僧侶系が4人、スカウトが5ないし6人だ。騎士は騎馬隊に5名、あとは各歩兵隊の隊長は基本的に騎乗した騎士だった」

「ご苦労・・・うーむ、魔法使いも2人か」

 イグリが険しい表情になった。

 ドウラスは人口5万人の都市だからな、魔法使いジョブを持つ兵もそれなりにいるってことか。


「レベルは・・・ターブ、わかったか?」

 問いかけられたのは、ちょっと猫耳っぽい男だった。判別すると、冒険者LV4と出たが、種族名が出る場所に<人間>では無く<->と表示されたから、獣人とのハーフなのかも知れない。


「は、ひとりは魔法使いLV12、もう1人は魔導師LV14でした」

「魔導師?そんなのがいたのか。上級職、だったか」

 俺もちょっと驚いた。こんな地方都市に魔導師ジョブ持ちがいたのか。


 魔法使いの呪文はだいたい覚えてるけど、魔導師は何レベルで何を覚えるとか、あまり詳しく把握してないぞ。アトネスクにでも聞いておけばよかった。

「そいつを奇襲で真っ先にやった方がよさそうだな・・・」


「隊長、先頭が間もなく通過しますっ」

 兵のひとりが声をかけてきた。もう眼下に隊列が通り始めるようだ。


「どうする?計画を少し変えないと、返り討ちにされかねんぞ」

 イグリが聞いてきた。

「ちょっと待ってくれ・・・リナ、まず結界を張ってくれ。探知されにくくなるように味方全体に」


(わかった)

 等身大魔法戦士になったリナが、隊全体を包むよう魔法結界を張る。

 これで、しばらくは時間が稼げるだろう。


「・・・グレオンたちは予定通り、本陣突入のために近づけるとこまで忍び寄っといてくれ。で、イグリたち転移するチームは一人減らして、代わりにヴァロンを連れていきたい。あとヴァロンにはもう一仕事してもらうよ・・・」


 俺は手早く修正案を説明した。


 ブレル軍の隊列は街道を2列縦隊で進んでいく。

 片手に槍、片手に盾を持つ歩兵隊が先頭、続いて弓兵だ。その後ろをまた槍兵、その後に騎馬隊か。

 中核となる騎馬隊が眼下に入ってくるが、結界が効果を発揮しているらしく、まだこっちに気づいてはいないようだ。


<ドン・デミトロフ 騎士(LV18)>

<バクーシ 魔導師(LV14)>

<サンデール 魔法使い(LV12)>

 あのへんだな。


「やるぞっ」

 木陰に潜む兵たちにギリギリ見えるように、イグリが10カウントのサインとして手を振った。


 リナが詠唱を始める。


・・・4,3,2と脳内で数えたタイミングで、ヴァロンに破魔を唱えさせる。

 リナが張っていた結界が消えた。


 その直後にリナの範囲攻撃魔法“流星雨”が発動し、街道の上空に光がまたたく。


 味方の結界をわざわざ破魔で破らせたのは、リナが結界を解除してから流星雨の詠唱を始めると、発動するまでに相手のスカウトあたりに感づかれて対応されてしまうからだ。

 流星雨は火力が圧倒的な分、MPも準備時間も食うんだ。


 上空の異変に気づき、敵が動揺するのがわかったが、もう遅いはずだ。


 俺は街道の前後に粘土壁を出現させて、幹部たちのいるところだけ、騎馬隊の半分ぐらいを孤立させた。


 数十の光球が尾をひいて、そこに降り注ぐ。


 どうやら、LV14の魔導師も発動済みの他人の呪文を妨害する魔法とかは持ってなかったらしい。それが一番の不安材料だった。僧侶の“静謐”では、もう間に合わない。


 ズズンッ!地鳴りが響き、人馬が吹き飛ぶ。


 魔導師は?転移して逃げた可能性はゼロでは無いが、おそらく仕留めたと思う。

 孤立させた範囲で残ってるのは、周辺にいたやつらだけに見えるから。


 俺は、転移したいパーティーに編成を組み替えた。


 壁を回り込んで助けに向かおうとする前後の隊の連中に、ホッジャが指揮する兵らの矢が降り注ぐ。


 孤立した幹部らの生き残りがいるところには、グレオン率いる亜人隊のメンバーが突入する。

 亜人隊の斥候たちは大半が、忍び寄りなどのスキルを持っているから、近くまで迫っていたんだ。


 そして俺はイグリやヴァロンたちと共に、リナの転移でグレオンたちとは反対側に飛んだ。


 生き残っていた敵のスカウトがこっちに気づき、挟撃されていることに絶望的な表情になる。魔法使い系が生き残っていたらヴァロンに“静謐”を唱えてもらおうと思ってたが、やはりいないようだ。

 イグリと3人の兵が槍を構え、突進した。


 リナの火魔法と俺が錬金術で放った火素が、それを援護する。


 反対側から突入しているグレオンたちにあてないよう狙いを絞ってるから、威力はそう高くない。


 けど、リナが二発目を放とうとした途端、敵方から“静謐”が唱えられた。

 僧侶の生き残りがいたのか。そいつには、静謐で妨害されない錬金術の火素をぶつけた。


 粘土壁を回り込んで来る敵兵には、タロとワン、キャンを出して防がせる。

 キャンは小柄だけど、口から火を吹くことが出来るから、敵の接近を阻むには役に立つ。


 視線を転じると、イグリと戦ってるヤツがかなり強そうだ。

 馬を失い、兜も脱げててわからなかったが、指揮官のデミトロフだ。仕留め損なってたのか。


 だが、他の連中が次々討ち取られ孤立無援になったところを、とうとうイグリの槍が貫き、とどめを刺した。


「イグリ隊長っ、そろそろ支えきれんぞっ」

 タロとは反対側の粘土壁のところで、回り込んで来る奴らを防いでいたグレオンが叫び声をあげた。

 

「撤収しようっ」

 イグリがそれに答え、転移して来たメンバーが俺とリナのところに集まってくる。

「撤収だっ」

 グレオンもそれに応じて、亜人隊のメンバーに呼びかける。


 俺は残りのMPをひねり出して火素を飛ばし、亜人隊が山林の中に駆け込むのを援護すると、リナに合図した。


 転移して再び丘の上に戻った時には、俺もリナも、MP枯渇でぐったりだ。


 だが、もう一仕事しなきゃならない。

 錬金術師の“思索”と僧侶の“瞑想”で、互いに少しだけMPを回復すると、リナと手をつないで俺のなけなしのMPをリナに補充する。


 うぅー、MPがすっからかんで頭痛がひどい。

「後は頼む」

 ぐたっとして草の上に倒れ込んだ俺を残し、リナは木陰から街道に残された敵の隊列に視線を向けた。


 短時間のうちに幹部層を丸ごと失ったブレル軍は大混乱だ。


 各歩兵小隊の隊長は無傷で残っているものの、スクタリへ進軍するのか、奇襲してきた敵を探して攻撃するのか、それとも撤退するのか、判断が付きかねている様子で、うろうろ周辺を警戒したり負傷者の手当てに追われたりしている。


 最後尾に近い所にある攻城櫓は、止まったままだ。

 リナが練り上げた炎の渦が、そこを薙ぎ払い焼いていく。


 先に指揮系統と魔法使いを消せば、重くて遅い攻城櫓を壊すのは難しくないから、後回しにしていたんだ。


 丘の上に俺たちがいることにその頃には敵も気づいたようだが、間道を知らない連中がすぐにこっちに攻め上がることはできない。


 さらに、ブレル軍にとっては最悪の事態が起きた。


 スクタリから兵が出撃してきたんだ。

 ベスがイグリに遠話を結び、奇襲の成功を知ってフリストが出撃を命令したらしい。


 ゴレスコ率いる騎馬隊を先頭に、バタの歩兵隊やパスキン家から移籍してきた歩兵たちが、功を争うように進軍してきた。


 まだ兵力的にはブレル軍の方が圧倒的優勢だったはずだけど、既に戦意を喪失し、上級指揮官がいなくなっていたブレル軍は、ろくに戦おうともせず退却に転じた。


 だが、一本道の街道で急に方向転換して退却するのは、熟練兵にとっても難しい。

 おまけに退路は炎上した攻城櫓が邪魔をしている。


 後ろから追い立てられる形の上、側面の森の中からも、再び戦列に加わったイグリの小隊とグレオン率いる亜人隊に攻撃を受けて、みるみる兵力を削られていく。

 オルバニア領との境を超えて追撃が止まるまでに、侵攻軍の大半が失われていた。


 スクタリ側は、俺たち奇襲隊は死者ゼロ、追撃した者たちの中で深追いしすぎて数名の犠牲者が出たのが惜しまれたけれど、完勝だった。

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