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第244話 再会

転生者であるゲンツ卿こと秋山源一と、ミハイ侯爵令嬢でもあるイリアーヌは、かつて冒険者パーティーを組んでいた仲だった。

「このケーキもいけるわね。あんた、食のセンスは昔からよかったものね・・・あ、この、コーヒーだっけ、おかわりお願い」

「冒険者時代と違って、今は契約農家に好みの食材から香辛料から作らせてるからな、そこは妥協はしねーよ」


 国を二分する内戦の行く末を左右する重要な交渉、だったはずの話は、旧知の二人の合意で、お茶会での雑談に変わっていた。


 イリアーヌさんは18歳の時に国軍を辞め、侯爵家も飛び出して冒険者になった。


 その時最初に所属したのは、なんと現在の副ギルド長、アトネスクらが属する国内トップクラスのパーティーだったそうだ。


 だが、彼女が参加して一年後、師匠とも慕っていたアトネスクが副ギルド長に登用されて引退し、もう1人のエース格だった高レベルのロードも父の所領を継いで領主となるためパーティーを抜けた。


 そこで新たに欠員を募集したところ、ぜひ入れてくれ、と働きかけてきたのがゲンさんだったらしい。

「冒険者パーティーに加わった、っていうより、金であたしたちパーティーを雇った、みたいな所もあったけどね」


 当時、転生して1年経ったゲンさんは、それなりに金を稼ぐことはできていたが、それより上に行くには明らかに力不足だった。

 魔物を倒して経験値を稼がないと、上位ジョブになることも、より大規模に儲けることも難しいと気づいた彼は、レベリングのために優秀な冒険者パーティーに入ることを思いついた。


 当時、LV10にもならない商人だったゲンさんは、戦力にはほとんどならない。


 だから当然、最初は門前払いされたらしいが、荷物持ちや料理、野営準備やクエスト受注の交渉など、雑用全般を引き受け、かつ、彼が参加すると迷宮で入手した宝物の鑑定や売却などで利益が大きくなることもあって、受け入れられたのだという。


 言わば、ゲンツ卿立身出世物語の足がかりとなったのが、イリアーヌたちと組んだパーティーだったわけだ・・・。


 二人の交渉はすんなりまとまった。


 ミハイ侯爵があらかじめ魔法通信で、それなりの条件を提示していたってこともあるだろうし、やはりイリアーヌさんがゲンさんの性分を熟知してたことが大きいだろう。


 ゲンツ卿の軍は、今回の戦いで国王派側で参戦する。

 ただし、それをすぐに表明はせず、タイミングを見て行う。


 また、具体的な兵の運用は王都の指図ではなく独自に判断するし、兵の損耗が大きくなりそうな、要するに元が取れないような作戦には参加しない。

 

 参戦の見返りとして、ヴェラチエ河の優先水利権を王国から与えられる他、この地方で現在、ブレル子爵が握っている商業上の権益はゲンツ卿のものとする・・・って内容だ。

 爵位とか名誉とかには全く執着がなく、あくまで実利を求めるゲンさんらしい・・・


 そしてゲンツ軍は兵数こそ約2千と特に大勢力では無いものの、ほとんどが専業の傭兵でレベルが高く、装備も最高級、大砲やら魔法具やらも備えている精鋭だ。


 隣接するドウラスのブレル子爵は、動員できる兵数こそもう少し多いが、正面から戦えばゲンツ軍の方が圧倒的に強いだろう。

 潜在的なトクテス公爵派が多い南部で、このゲンツ軍が味方についたことはものすごく大きい。


「だがな、うちの諜報員の調べでも、マジェラの軍は正面兵力だけで約1万いる。マレーバ伯が善戦しているが、早ければ十日以内に前線が突破されてこっちに進軍してくる可能性があるぞ。うちは自衛ぐらいはできるが、オルバニア領は大丈夫なのか?あそこが簡単に突破されるとうちも困るんだがな」

 コーヒーカップを空にしたゲンさんがそう分析する。


「わかってる。だからこれからスクタリに行くわ。父から注文していたものは用意してくれてる?」

「おうよ、相場の5倍払うってなら調達できないわきゃねーよ」


 ゲンさんがロリ秘書に合図し、お茶を終えた俺たちは、後に続く。


 全員分の馬と、御者付きの荷馬車が2台が用意されていた。

 1台には分解した大砲が、そしてもう一台には魔法道具らしいものが積まれている。鑑定スキルを使うと予想通りのもの、転移防止結界の発生装置だった。


 いざ戦争になると、転移魔法による奇襲は最大の脅威だ。特に、スクタリの館を転移ポイントに登録していた魔導師ノイアンが、クーデター派で参戦している可能性もあるからな。なるべく早く、スクタリの守りをかためる必要がある。

 そしてこれは、ミハイ侯爵たちが、スクタリが防衛戦の拠点になるかも、と見ているってわけだな。


「スクタリまではうちの護衛部隊をつけてやるさ、配送までは商人の仕事だからな。だが、その後はスクタリの防衛まではこっちの仕事じゃねえからな」

「わかってるわ。作戦のすりあわせは、あっちの状況を確かめてから、遠話でやりましょう」

「ああ、俺の方はこのレミーを使うことになる。覚えといてくれ」

 ゲンさんは、ロリ秘書団の中に一人だけいた魔法使いの女子を紹介した。


 こうして俺たちは騎乗するとスクタリへと向かった。


 ドウラスとスクタリを結ぶ街道に出る地点には、ブレル子爵の配下の兵たちが20名ほど検問を行っていたが、ゲンツ領の精鋭が300人隊列を組み、単なる警戒行動だ、と言い張ると、戦うことなく道をあけた。


 ゲンさんはまだこの戦での帰属を明らかにしていないし、なにしろ勝手気ままで知られている存在だから、ブレル軍としても、現時点で無用な衝突は避ける判断のようだ。


「よかったわ。最悪の場合、ブレル子爵が既にスクタリを攻めているケースも想定していたから・・・」

 目立たないようにゲンツ軍の鎧兜を着込んだ馬上で、イリアーヌさんがそうもらした。

ブレルは長年、スクタリを奪取しオルバニア家を滅ぼしてシキペール地方全域を支配することを目論んでるってのは、俺も戦闘奴隷時代に聞かされていた。


 だからこそ、ミハイ侯爵もクーデター発覚後、すぐに動いたらしい。

 実際の兵力としては微々たるものであっても、名門オルバニア家がクーデター派に屈したり滅ぼされたりすれば、他の貴族への心理的影響も大きいんだろう。


「でも、ブレル子爵がずっと中立なんてことはありえない。なにかタイミングを待っているようにも思えるわね・・・」


 なんとか夕暮れ前に、俺たちはスクタリの城門にたどり着いた。


「な、なんだ一体!?」

 そのままスクタリを攻め落とせそうな軍勢に、門兵たちがびびっている。


 俺はその中に見知った顔を見つけて声をかけた。


「おーい、ムハレムっ」

「むむ、シローかっ!?お、お前、どうしてここに。いや、それよりその軍は・・・」

 領内の魔物討伐とかで一緒に戦った男が、ちょうど門兵を率いている日だったらしい。ムハレムは相変わらず小太りだが、しばらく会わなかった間にレベルアップして、戦士LV7になっていた。


「えっと、こっちはゲンツ卿の所の部隊で、届け物の輸送と、王都からの使者の護衛をしてくれたんだ」

「お、王都からの使者あ?」


「こちらは、前軍務大臣ミハイ侯爵の名代としてまかり越したご息女だ。オルバニア子爵にお取り次ぎ願いたい」

「は、はっ!?しばらくお待ちを・・・おい、ノドン、至急カレーナ様に、いや、俺が行って来るから、お前らはここで待機だっ」


 ステファンがイリアーヌを紹介すると、ムハレムは前軍務大臣で侯爵の名代、とかってのに驚いたらしく、自分で番所のトリウマに飛び乗って丘の上の館にダッシュしていった。


 そしてわずか数分で帰ってきた。

「侯爵の名代様と随行の皆様を館にご案内、い、致します、でぇあります」

 ムハレムが慣れない敬語で案内をかって出た。


 ゲンさんの所の部隊は、さすがにこの人数で入るのは混乱を招くと判断したようで門前に待機し、十名ほどと荷馬車だけが俺たちについて館に向かった。


 なつかしいな、このちっぽけな街。

 でも、あの頃の寂れた感じに比べて、ずいぶん人が増えて活気が出てきた気がするな。


 見慣れた練兵場の横を通り、坂を上り、ささやかな館へ。変わってない。


 だが、俺たち一行が案内された広間には、これまでとちょっと違いがあった。

 一段高い場所には立派な椅子が二つ据えられ、カレーナの隣りに若い男が座っていたからだ。


 誰だっけこいつ、見慣れない顔だけど。


<フリスト・パスキン 男 18歳 騎士(LV8)>


 ふーん、年下か。騎士LV8って、新たに仕官したのか。


 カレーナがふぅーっと息をついて立ち上がり、イリアーヌに満面の笑顔を向けた。


「ミハイ閣下のご息女と聞いて、もしかしてと思いましたけど本当にお久しぶりです。またお会いできて嬉しいです、イリアーヌお姉さま」


 そうか、カレーナは子どもの頃、王都にいたことがあるって言ってたもんな。イリアーヌとは顔なじみなんだ。

 関係としては、カレーナの母親が侯爵の姪とかだったはずだから、イリアーヌから見てカレーナは従姉の娘になるのか・・・お姉様、って呼ぶぐらいだし仲もよさそうだな。


「シロー、あなたも久しぶりですね。こうして国難に際して、あなたが来てくれて嬉しく思いますよ。元気そうで何より、ちょっとたくましくなったかしらね?」


 そんなことを考えてたからか、突然カレーナが俺の方に笑顔で話しかけてきて、ちょっと慌てた。


「え、あ、そのありがとう、ございます。おかげさまで・・・姫さまもお変わり・・・」

 あらためて見るカレーナは、以前からゆるふわ系巨乳美人だったけど、さらにボリューミーな、いやちょっと見ない間にお腹周りもずいぶん太くなった感じだな。それなのにお変わりなく、じゃ、むしろイヤミかな。


「お変わりな・・・いや、姫さま、ちょっとだけ太った?」

「「「!!!」」」


 ちゅどーん!!


 口に出した瞬間、地雷源に飛び込んだって警報が脳内に鳴り響いたんだけど、もう遅かった。


 ドカッ! ズコッ、バスバスッ、ぐしゃ、ベキッ!!!


 気が付くと俺はボコボコにされ、見たことの無い兵たちに取り押さえられてた。


「そ、そやつを地下牢にぶち込めっ!わが妻カレーナへの無礼千万な暴言、到底許せぬッ!」


 えっ? つま・ツマ・妻ぁっ!?

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