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転生スキルは「お人形遊び」と「粘土遊び」なんですが、これでどうしろと?  作者: 柴野ましろ
第三部 亜人戦争篇

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第233話 家族

北方山脈の中に、ノルテが生まれたドワーフたちの集落があった。

「ノルテ、ノルテ、ノルテぇぇ、う、うおーおんおんっっ」

 ノルテよりも背が低い、でもがっしりしたドワーフの男たちが、泣きながらノルテを抱きしめ、ノルテも涙を流している。


 正直言って暑苦しい・・・


 いや、違う。

 俺には“愛情で結ばれた家族”ってのが無縁だったせいで、こんなひねくれた感情しか持てないんだろう。こういうとこ、つくづく自分が嫌になる。ノルテが喜んでるんだから、祝福してやらなきゃ。


 ノルテの父と二人の兄だ。


 父親のオーリンは、かつてこの北方山脈一帯を治めていたドワーフ王オデロンの孫にあたるそうで、ドワーフたちの中では群を抜いて大柄で、背はノルテと同じぐらい、横幅は倍以上ある、筋肉質でひげもじゃのおっさんだった。

 

 そして異母兄にあたるオレンとアドリンは、ひげもじゃでは無いけど父親に迫る大柄な若者で、横幅はノルテの5割増しってところか。

 兄たちもがっしりして体重は俺よりあるかもしれない。


 ちなみに、ステータスを見たところ、オーリンは98歳でドワーフLV28、オレンは29歳でLV18、アドリンが25歳でLV15だ。

 ドワーフの寿命は人間よりずっと長いらしく、成人扱いされるのは20歳からだそうだ。こっちの世界では人間の成人は15歳と言われるから、少し晩熟なのかな。


 そして、3人とも鍛冶スキルに加えて斧や鎚などの戦闘系スキルもかなり高い。


 俺たちを拘束したのは、下の兄アドリンが率いる偵察隊だった。


 北方山脈に分け入る間道を見つけられたのは、もちろんルシエンとカーミラの探知能力のおかげだ。

 嗅覚と精霊を駆使して、かすかなドワーフの痕跡を辿ってきたんだ。

 でも、わずか数日で探していたノルテの家族と会えたのは、幸運と言うしかない。


 アドリンはノルテが3歳になるまでしか一緒に暮らしていなかったから、すっかり大人の女になった(※ドワーフ目線)ノルテを見て、最初は妹だと確信が持てなかったようだ。


 でも、ドワーフの集落に連れて行かれ、オーリンの前にノルテが引き出された途端、ひげもじゃのおっさんドワーフが泣きながらノルテを抱きしめた。

「ま、間違いない!アルテの若い頃にうりふたつだっ。あのちっこかったノルテがこんなに大きくなって・・・」


 そして、ノルテが母親の形見だと言って、一房の茶色い髪と、銀色の指輪を取り出して見せると、涙は号泣に変わった。

「アルテっ、アルテ!すまんかったっ、わしがふがいないせいで・・・うおおおおっ」


 その指輪は、オーリンが自らの手で作り、結婚の際に贈ったものだったらしい。


 ひとしきり妻の死を知って嘆き悲しんだ後は、集落の主立った者たちを集めて、娘の帰還を祝うと共に妻の冥福を祈る大宴会になだれ込んだ。


 要するに酒盛りだ。ドワーフだから・・・



 オーリンたちの家は、小さな石造りの家や洞窟を生かした住み処が並ぶドワーフの集落で、一番大きな館だった。


 その前庭は、ドワーフたちの集会場みたいな作りになっていて、石のテーブルと木の切り株の椅子が沢山置かれていた。

 そこに素朴な織物のテーブルクロスが敷かれ、焼き肉やキノコや山菜などが次々運ばれて来た。


 近隣から集まってくれたらしいドワーフの女たちを丁寧な口調ながら仕切っているのは、メッセンというまだ若い女で、長兄のオレンと去年結婚したばかりだそうだ。

 オーリンは二度妻に先立たれて今は独り身なので、メッセンがこの家の主婦ということらしい。


 ノルテはお客扱いされるのが居心地が悪かったみたいで、途中からメッセンの手伝いにまわり、さっそく近隣のドワーフ女子たちと仲良くなっているみたいだ。


 その間も、俺たちはとても名前が覚えられない人数のドワーフの男たち女たちから、次々酒を勧められ、ルシエンと互いにこっそり治癒魔法を掛け合いながら、それでも追いつかないぐらい飲まされた・・・


 オーリンには、最初は「生き別れになった娘をよくぞ連れて帰ってくれた」とひげ面で抱きしめられながら感謝され、でもその後、俺との関係を問い詰められたノルテが「わたしの大事なひとです・・・」と明かした途端、腕がぷるぷる震えだした。


 さらにノルテだけでなく、同行した仲間たちがみな俺のパートナーだと知って、“抱きしめられる”から“首を絞められる”に豹変した。

「こ、こいつ、こいつっ!!わしの娘をもて遊んどるのかあぁっ!」


 まったく抵抗さえ出来ない怪力だった。体の具合が悪いとか聞いてたのに。


 ノルテとまわりのドワーフたちが必死に止めてくれなかったら、マジで二度目の死亡になってたかもしれない。


「やめんかっ、オーリン殿!」

「貴族の男が複数の妻を持つのは、人間だけでなくドワーフにもあることじゃろう。亡きオデロン陛下もオーソン様もそうだったのだし・・・」

「むむ、うむむむむぅっ・・・」


 オデロン陛下ってのがノルテのひいじいさんのドワーフ王、オーソンってのがじいさんでオーリンの父親らしいな。

 朦朧とする頭に、そんなやりとりが聞こえてきた。


「ごしゅじんさまっ、いえ、シローさんっ、大丈夫ですかっ。お父さん、やめて下さいっ!」

「し、しかし」

「わたしはシローさんたちと一緒にいて幸せなんですからっ、奴隷としてひどい目にあってたわたしを助け出してくれたんですよっ」


 ノルテが必死に取りなして、ドウラスの鍛冶工房での事から今に至るまでの経緯を話している。


 二人の兄も俺たちを擁護してくれた。

「父さん、ノルテが幸せなら、それでいいではないですか」

「そうだよ。もう小さな子どもじゃないんだし祝福してやろうよ」

「くうぅ、や、やむをえんか・・・だが、ノルテを娶る以上、必ず幸せにしろっ、そう約束するならとりあえず婚約ぐらいは認めてやるわいっ」


 オーリンもようやく気が収まったようで、それからはまたネバーエンディングの酒盛りになった・・・


***********************


 翌朝早く、俺たちは二日酔いの頭を抱えながら、アドリンが率いる部隊と共にビーク砦に向かっていた。


 プラトの盗賊団の勢力圏との境に建つ、最前線の砦だ。


 ノルテが「ドワーフたちの暮らしをもっとよく知りたい」と同行を望んだこともあるし、俺たちが高レベルの冒険者パーティーだと知ったアドリンからも誘われた結果だ。


 ノルテの父オーリンはもう百歳近く、人間より寿命が長いドワーフでも老齢にさしかかった年だし、これまでの戦いで脚も少し不自由になっていて、普段の指揮は息子たちに任せているそうだ。

 オーリンと年の近いベテランのドワーフたちが、補佐役として同行している。


 ルシエンがオーリンに“大いなる癒やし”をかけたところ、痛みが和らいだ、と感謝されたけど、不自由になった脚が元通りになったりはしなかった。

 やっぱり治療呪文は万能じゃない。

 うすうすわかってたことだけど、既に状態が定着とでも言うのか、ある程度時間が経った怪我などを後から元通りにするのは容易ではないようだ。

 それにおそらく、加齢による体の不調は自然の摂理だから、治せないのかもしれない。



 砦に向かう途中で通ったドワーフの集落は、かなり貧しそうな様子だった。

 山間の限られた土地に畑を拓いて、細々と自給自足している現状だ。


 北方山脈周辺のドワーフたちは、昔は10万人以上いたのが、今や1万人を割り込むぐらいに激減しているという。



 その経緯は、聞けば聞くほど気の毒な話だった。


 衰退のきっかけは、200年前の魔王大戦で、勇者のパーティーの一員として戦ったドワーフ王オデロンが、魔王が封印される前に魔の呪いを受けたことだったそうだ。

 

 大戦で多くの犠牲者を出した上、戦後オデロンが病に伏せるようになったことで、魔軍の残党や統制を失った魔物たち、さらには新興のプラト公国の辺境領主らの侵食に対し、ドワーフたちは押される一方になった。


 今から90年ぐらい前には、もはや王国とは呼べないほどの領土しか持たなくなっていたが、そこで長い闘病生活の末にオデロン王が崩御した。

 これを機に、魔物の大群と歩調を合わせたかのようなプラトの大軍勢の攻撃を受け、ドワーフの都グリンヴィルキは破壊され、焦土と化した。


 その後は北方山脈の南部だけがドワーフたちの住み処になっていたが、さらに、40数年前になって、プラトの軍勢は南部にも押し寄せ、女子どもを含む多数のドワーフが人質にされた。

 オデロンの息子オーソンは、南部に残されたドワーフの最後の城とも言えるシクホルト城塞を人間たちに明け渡すことで、人質の解放を求める苦渋の決断をした。


 それでもあくまでも人とドワーフの領域の境界線はシクホルト、という取り決めだった。


 全ての城塞を失ったドワーフたちは、オーソンの嗣子オーリンの指揮で、シクホルトの西の山中に、新たな防御拠点となるビーク砦を築き、その内側に新たな集落を拓いて命脈を保つことになった。

 その翌年、オーソンは失意のうちに死去した。


 そして今から14年前になり、さらなる悲劇が襲った。


 プラト公国が度重なる魔物の襲撃や国内の勢力争いで統治能力を失い、多数の軍閥や盗賊団が各地に割拠するようになると、この地域は大きな盗賊団の勢力圏に入った。

 盗賊たちはそれまでの取り決めを破り、シクホルトからさらにドワーフ領側、ビーク砦との中間点に新たに砦を築き始めたのだ。


 抗議したドワーフたちに対し、盗賊団は問答無用で攻撃を開始。また多くのドワーフの命が奪われた。

 ノルテと母親が捕らえられ奴隷として売られたのも、オーリンが大けがをしたのも、この時の戦いによるものだった。


 ビーク砦の内側の領域には、かろうじてフィズルトの鉱山群が残されており、そこでは鉄からミスリルまで様々な鉱石が産出するから、冶金と鍛冶の腕を生かして必要な道具や武器などを作ることは出来る。

 しかし、街道との唯一の結節点でもあったシクホルトを失ったことで外部との交易がほぼ絶たれ、金属製品を売ることも出来なくなって経済的にも困窮しているらしい。


 今や行き来できるのは、同じ北方山脈の中にある人間たちの小さな開拓村ぐらいだ。そこはプラトの内乱から逃れてきた人たちが住み着いた隠れ里のような所で、ノルテの母はその開拓村の娘だったそうだ。


 こうしてドワーフたちが細々と暮らしてきた北方山脈に、さらに数年前、恐ろしいドラゴンが飛来した。

 被害はドワーフだけでなく、盗賊団や人間の町村にも出たものの、それに乗じたタイミングで、また盗賊団の動きが活発化してきたのだという。


「えっ・・・」

 あのドラゴンのことか。

「ドラゴン、最近までどこかに行ってたってカムルが言ってた。こっちに?」

「どうやらそのようね」


 俺たちは、開拓村で戦ったファイアドラゴンのことをアドリンたちに話した。

 今度はドワーフたちが驚く番だった。

「あ、あんたたち、じゃあ、あのドラゴンを倒したって言うのか!?」

「なんとっ、しかも、ノルテお嬢さんも自らの手で!」


 一枚だけ記念にもらってきた赤銅色の鱗と、大きなドラゴンの魔石を見せると、半信半疑だった者たちも態度が一変した。

「さすがはノルテお嬢さんの婿どのになるほどのお方たちだ、すごいぞっ」

「砦のやつらもこれを聞いたら、勇気づけられるな!」


 士気が高まるのはいいんだけど、過剰に英雄視されるのも荷が重い。

 なんていうか、ドワーフたちは喜怒哀楽の変化が激しいって言うか、結構直情的で、俺なんかとは対極のタイプだな。



 ビーク砦には夜も200人の兵が詰めていて、毎朝、オレンかアドリンが交替の兵を連れて合流し、日没と共に新たな当直の兵を残して集落に戻る、という形を取っている。


 若い男たちは、数日おきにこのシフトで砦勤めをするそうで、向かい合う位置に作られた盗賊団のヘープン砦とは頻繁に小規模な戦いがあり、昨日も襲撃を撃退したばかりだという。


「本当にずっと争いが続いてるんですね・・・」

 砦に着き、怪我をしたまま警戒に当たっているドワーフも少なくない様子を見て、ノルテが心を痛めている。


 俺はルシエンと手分けして、傷ついた兵たちに治療魔法をかけて回った。

「助かるよ、シロー。ドワーフには魔法が使えないからな。集落で薬草の栽培はしているんだが・・・」


 俺は薬生成スキルで作ったHP回復薬も、アドリンにいくつか渡しておいた。

「いいのか?貴重なものだろ。それにあんたにとっては、向こうは同じ人間なのに」

「人間だからって、いいやつも悪いやつもいるし、全部が味方ってわけじゃないさ」


 そう。ノルテの同胞たちの敵だってだけじゃなく、一応はエルザークの騎士身分である俺にとってプラト公国は敵国と言うことになる。

 別にだからといってプラトの人が自分にとって敵だというわけじゃないけど、どっちの味方かと言えば、人間の盗賊団よりノルテの家族たちだ。


 それでも、人間を相手に殺し合うようなことはしたくないけど。


 けれど、そんなことを思ったのがそれこそフラグだったのかもしれない。


「敵襲ーっ!!!」


 アドリンがノルテと俺たちを砦の男たちに紹介して回った直後、物見台の上から叫び声が聞こえた。


 俺たちは否応なく、プラトの盗賊団とドワーフたちの戦いに巻き込まれていった。

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