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第227話 竜の卵

ファイアドラゴンを倒した後、目覚めたのはもう日が高く昇った後だった。

 夢の中でドラゴンブレスに焼かれ、自分があげた大声のせいで目が覚めた。


 助かったんだ・・・仲間の誰も犠牲にせず。

 今回は本当にヤバかった。上級悪魔と戦った時に、もうこんな無茶はよそうって思ったのに、また結局命がけの状況に足を踏み入れていた。


「あるじ、大丈夫?」

俺の大声で一緒に目が覚めたらしいカーミラに謝って、ひどい夢の話をすると、カーミラがペロペロなめてくれた。

 嬉しいけど、エロい気分になりそうだからストップだ。さすがに外の気配で寝坊したらしいことはわかるから。


 外に出ると、ルシエンは怪我や火傷を負った人たちの治療に回っていて、ノルテとエヴァは、壊れた建物を修理する村の衆を手伝っていた。

 えらいな・・・俺が一番役立たずだ。


「よう、シロー、目が覚めたか。昨日は本当にすげえことをやってくれたな」

 でも、スーミ集落の長であるボイトニに声を掛けられて、ああ、なんとかうまくいったんだな、ってようやく実感がわいてきた。


 犠牲者も出た。


 ファイアドラゴンが射撃小屋に突入してきた時に押しつぶされた者や、武器を持って立ち向かいやられた者、あわせて5人が死んだ。

 囮になってドラゴンの巣からここまで駆け抜けた人狼たちも、ガステンの群れで1人、オドンの群れでは3人が命を落とした。


 けど、これまでに百人以上の命が失われていたことを思うと、それでも犠牲は想像以上に少なく済んだ、そう言ったら死者への冒涜だろうか。


 とにかく、これでもう新たな犠牲者を出すことも、ドラゴンの襲撃におびえて村を捨てる必要もなくなったんだから・・・無くなったんだよな?


 俺は、ボイトニと別れたあと、かすかな不安を抱いてリナに念話で問いかけた。


(うーん、ドラゴンの巣の中まではわたしとカーミラも入ってないから・・・他にいないか?って言われると絶対安心とは言えないかな)


 これは、一度は巣を見に行った方がよさそうだな。村人たちには、不安がらせるのもなんだし、具体的なことは言わなくていいだろう。

 リナから仲間たちに遠話を飛ばして、これからドラゴンの巣に行ってみようと思っていると伝えたら、みんな近くにいたようで集まってきた。


「私はまだ治療が必要な人が少し残ってるから、そっちは任せるわ」

「わたしも、今日中にスーミの集落だけでも一通り修理しようって話なので・・・」

 本当に偉いな。もはや聖女と呼ばれるレベルだ・・・と思ってたら、通りがかった若い男が、

「エルフの聖女さまっ、先ほどはありがとうございました!」

って、本当に拝んでいったよ・・・


「私は一緒に行きますよ。ひょっとしたらドラゴンのお宝とか、あるかもしれないですし」

エヴァが冗談めかして言ってくれたおかげで、気分が切り替えられた。


 そしてふと、エヴァのステータスを見て、レベルがものすごく上がってるのに気づいた。

「レベル16か、一気に上がったな・・・」

「「「えっ」」」

「ふふっ、おかげさまで皆さんに少し近づけました」


 やっぱりレベルが低いほど必要経験値が少ないから、大物を倒すと急激に上がるらしい。

 昨日は最後、廃坑の中からリナの転移で飛ぶためにいったん編成を変えて、その場にいたリナと俺、カムルとエヴァの4人にした。

 

 ルシエンに治療してもらった後、みんなの気配を探って編成に加え直したんだけど、カムルもそのまま入れたままだった。編成上人数カウントされないリナをのぞけば、これでちょうど6人になるから。

 結果的に最後、ファイアドラゴンにとどめを刺したのは、カムルになるのかもしれないけど、だからカムルとリナを入れた7名に経験値が分配されたようだ。


 その結果、必要経験値が多いルシエンも、久々にレベルアップしてエルフLV21になった。

 カーミラとノルテは2レベル上がって、人狼LV20と鍛治師LV20だ。二人もついにレベル20台に乗って、新たなスキルも覚えたようだから、その効果もおいおい検証しよう。


 「成長速度2倍」がある俺とリナはさらにインフレ状態だ。

 俺は錬金術師LV23まで上昇し、リナは最後、“魔槍”を唱える時に魔法戦士にしていたことで、一気に魔法戦士LV19にまで上がっていた。これで魔法戦士のまま“転移”も使えるようになった。


 あのファイアドラゴン1匹だけで、いったいどれだけの経験値を稼いだんだろう?これまでの魔物とかとは桁違いのようだ。

 あらためて、とんでもない相手と戦ったんだと、そしてそれを倒せたことを実感する。


 みんなのレベルアップについて俺がまとめて説明すると、カーミラが首をかしげた。

「じゃあ、カムルもすごくレベルアップした?」

「・・・そうだな、あとで聞いてみよう」

カムルもLV9と低めだったから、これで相当レベルアップしたはずだ。他の群れの長たちになめられてる状態だったのが、今後はやりやすくなるかもな。なにしろファイアドラゴンを仕留めた功労者なんだし・・・


「カムルが強くなるの、いいことだよ。これから群れの長になるから」

 カーミラはご機嫌だ。会えば殴ったりまたがったり暴力姉貴っぽいけど、弟のことを心配してるんだな・・・


 みんなのステータスを情報共有した後、俺はカーミラとエヴァをパーティー編成して、リナの転移でドラゴンの巣のそばに飛んだ。

 

 見上げる岩山の中腹に巨木が何本か生え、その間に倒木や岩石が積み上げられている。最初に巣を見つけた時と、ぱっと見変化はない。


「・・・なんか匂いがある」

 えっ!?マジか、ほんとにまだ別のドラゴンがいたりするのか?


 だが、くんくんしてるカーミラは首をかしげている。

「ドラゴン、いない?でも、なにか似た匂い」


 地図スキルにも、少なくとも赤い光点は映ってない。一応、みんな武装はしている。行ってみるか。


 リナの有視界転移で、“巣”の縁に飛んだ。

 みんなすぐ身を伏せ、魔物がいないか周囲を伺う。


「あるじ、あれ・・・」

「もしかして、卵!?」

 カーミラに続きエヴァが驚きの声をあげた。


 近づいて、“鑑定”スキルで見てみる。

 <ドラゴンの卵>だ!


 まわりを警戒してくんくん嗅ぎ回っているカーミラが、安心したように言う。

「他にドラゴンいない。この卵と死んだドラゴンの匂いだけ」


「あのファイアドラゴン、雌だったのか・・・」

「なんだかちょっと、複雑ですね」

 そう口にしながら、エヴァと2人で卵のそばに寄る。それが、まるできっかけだったみたいに、コツコツっと音がした。


「えっ」

 ピシッと、ひびが入った。

「えっ、ええっ!?」

 パリっ、と卵のてっぺんが割れ、なにか赤っぽい色が見えた。


「まさか、こんなタイミングで」

「生まれるのか!?」

 ガツッと、ひときわ大きな音といっしょに、殻の一部が割れ落ちて、その隙間から、オレンジ色の大きなヒヨコみたいな顔がのぞいた。

 つぶらな2つの瞳が、しゃがみ込んで見つめる俺とエヴァのちょうど正面にあった。


「ピヨ?」

 小首をかしげる。

「ピヨピヨピー?」


「か、かわいいっ!・・・お、おほん。ドラゴンの幼体ですね。特に邪悪な感じはしませんね」


 なんか一瞬、エヴァが乙女になったのに、すぐ取り繕ってるみたいだ。別にいいのに。

「ああ、敵じゃないな。赤ん坊に罪はないだろう」


<ベビードラゴン ? 0歳>


 判別スキルには、なぜか「?」マークがついてるのは、これは性別のことか?それともベビードラゴンってのは種族じゃ無いだろうから、まだなんのドラゴンかはっきりしないってことだろうか?


(うーん、竜族は魔法生物の中でも謎が多いからね・・・まだこれからどう育つかで何になるか、可能性があるってことかな)


 リナ知恵袋にもはっきりわからないらしい。


「どうします?」

「どう、って・・・いや、赤ん坊を連れてくわけにも行かないよな」

 そう言いながら、俺はそろそろ後ずさりする。


「ピヨ?ピーピル」

 ベビードラゴンが殻の中から、よちよち歩きでこっちに来ようとする。鳴き声が悲しそうなのは、気のせいだろうか。


「ごめんなさいね、私たちドラゴンじゃないから・・・」

 エヴァが声をかけながら下がるとすると、今度はそっちに近づこうとして、殻が転がってベビードラゴンが、こけた。


「ピヒャッ!」

 痛そうだ。エヴァが思わず抱き起こすと、ピーピー言いながら体を擦り付ける。


 ぱっと見はヒヨコみたいだけど、小さな前脚もあって、それで必死にしがみつこうとしていてるみたいだ。


 リナが遠話でルシエンとノルテに事情を説明してるようだ。


「シロー、2人もこっちに来たいって」

これは家族会議かな。


 エヴァが大きなヒヨコを抱っこしてあやすと、気持ちよさそうに目を閉じてる。


 そこでいったん編成を変えて、俺とリナだけで集落に転移し、ルシエンとノルテを連れて戻った。


「ピヨー、ピヨーピッ」

 突然消えて、また戻ってきた俺に、ベビードラゴンがなにかを訴えてる。


「いなくなった途端、ずっとシローさんを探してピーピーって・・・」

 エヴァが困り果てたように言う。


「かわいいっ」

 ノルテはいきなり目がハートマークになってる。


 事情を詳しく聞いたルシエンは、リナと頷きかわして口を開いた。

「おそらく、最初に見たシローとエヴァを両親だと思ってるのね」


 まじか・・・19にしてお父さん、しかも最初の子がドラゴンとか、どんな妄想だよコレ。


「そうだったのね・・・鳥の雛ではそういうことがあるって言うものね。どうしましょう」

「おいてくなんてダメですよっ、こんな赤ちゃんだけ残していったらすぐ死んじゃいます、かわいそうですっ」

 困り顔のエヴァに、ノルテが強く主張する。


 でも、ノルテが「よしよし」って頭をなでても身をすくめて小さくなろうとする。“親”以外はまだ怖いんだろうか?


「名前はなんてつけましょうか?」

 でも、ノルテはもうすっかり仲間にするつもりでいる。まあ、それならそれでいいか。


「名前、か・・・そうだな」

「「「「却下!」」」です」

 ・・・おいっ、まだ何も言ってないぞ。


「シローの名付けセンスのなさは、致命的だからね」

「ご主人さまには別に活躍してもらう機会がありますから」

 ひどいよ、そこまで言わなくても。


(エヴァがつけたらいいよ。“お母さん”なんだから)


「え、わたし?・・・うーん・・・それじゃあ、“ルーヒト”でどうでしょう?」

「ルーヒト、ルーちゃんですね。いいですね」

「どういう意味だったかしら?」

「故郷の古い言葉で、“大空”って意味です。いつか大空を自由に飛べるように・・・」

「いい名前ね」


 俺ノータッチで女子たちがサクサク決めてました・・・とーさん居場所ないです。


「じゃあ、あなたの名前はね、ルーヒトよ」

 エヴァが腕の中の竜の雛と目をあわせて、そう話しかけると、みんなの頭の中に念の声が響いた。


《我ガ名ハるーひと、大空ヲ自由ニ舞ウ者》


 小さなドラゴンとエヴァ、そして俺の間にもかすかな光の帯が結ばれ、ドラゴンの体が一瞬まばゆく輝いた。


<ルーヒト ベビードラゴン 0歳>


 そう表示された。

 

 ピーピーとしきりに何か訴えているのを見て、ノルテがお腹が空いてるんじゃないかと、アイテムボックスからパンと干し肉を取り出した。


 ぱくっ、と音がするような食べっぷりで、一瞬でノルテの手の中から干し肉が消えた。

「やっぱり、赤ちゃんでも肉食なのね・・・」

 エヴァが唖然としてる。


 さらにピーピー鳴いて、まだ足りないと訴える。エサをくれたノルテへの警戒心は無くなったらしい・・・現金なやつだな。知らない人にお菓子をもらってついて行っちゃいけませんよ・・・。


 こうして、新たに仲間に加わったベビードラゴンのルーを連れて、集落に転移して戻った。


 かなり修復作業が進んだようで、俺たちもきょう建て直した小屋の一つに泊めてくれるらしい。


 そこにひょこっと、カムルと人狼女子たちが顔を出した。

 もう狼化は解けたらしく、普通に半裸の人型だ。村人たちも共闘したカムルたちを見覚えていて、親しげに声をかけていく。


「カムル、強くなったか?」

「うん、それに、ドラゴン食べた効果もあったみたいだ」

 カーミラの問いかけに答えるカムルのステータスを見ると、レベルは一気に17まで上がっていた。

 これなら、ガステンやオドンより上のレベルってことになるから、十分群れの長として伍していけるだろう。


 それにカムルは、さらに連れの3人の女子たちも、予想通り「HP回復(大)」を得ていた。ドラゴンの血肉を食べた効果だな。


 きょう、ガステンやオドンとも会って話したようで、ドラゴンのせいで山の獲物がいなくなってしまい、当面食べるにも困っていることから、人間との協力関係を築いていきたい、という意思は一致しているそうだ。


 食糧供給は当面の重要課題だよな。

 ドラゴンの肉を配給できればいいのかもしれないが・・・


 そんな話をして、そろそろ日が傾きはじめ、カムルたちが山に戻ろうとした頃、スーミの集落に上ってくる道の下の方からざわめきが聞こえてきた。


「なんだって、冒険者ギルド?」

「・・・まさか、殿下がこんな自由開拓地に!?」

「おい、ボイトニさんを呼んでこいっ」

「他の集落の長はまだいるか!?使いを走らせろっ」


 思いがけない言葉が飛び交う中、小屋の外に出ると、十数頭の馬が整然と列になって坂道を上ってくる。


 まだ遠目だが、判別スキルをかけると、その中に帝都で顔なじみになった、あの皇孫アルフレッド殿下がいるのがわかった。

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