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第226話 ファイアドラゴン討伐完了

ファイアドラゴンを人狼たちの決死の駅伝で誘導し、待ち受けた村人たちが大砲と大弩を命中させた。だが、勢いのついた巨体が砦に突入し、俺はつぶされる直前、リナの転移で逃れた。

 地面に投げ出され、気が付くと、小屋だった残骸が30メートルばかり向こうに見える。

「リナ・・・助かったっ」


 ボイトニが指揮する男たちが、左右の岩棚から踊り出し、槍と剣でドラゴンの目や鼻を狙って攻撃している。

 だが、暴れるドラゴンの爪や尾にかかり、数人が吹っ飛ばされた。


 ルシエンが少し離れた所から、残る片眼を潰そうと矢を放ったようだが、ドラゴンの動きが激しく外れたようだ。

 その間にもドラゴンは、俺の詰め込んだ粘土を吐き出しブレスを放とうとしている。


「飛び込めっ!!」

 誰かの叫びにあわせて、次々岩棚から男たちが身を投げる。

 そのすぐ上を火線が横なぎにしていった。


 そう、ここの下には小さいけど深さのある川が流れているから、やばくなったら飛び込めば助かる。それもここに砦を作った理由だ。

 そして、もう一つ・・・


「ウォーン!」

「あるじっ、カーミラ戻ったよ!」

「よしっ、やるぞっ」

 カムルと人型に戻ったカーミラだ。

 俺は熱量制御でキンキンに冷やした魔法をドラゴンの顔面に放つと同時に、身を翻し逃げ出した。


 うなり声をあげ、追いすがってくるドラゴンはもう飛べない。だが歩幅が大きな体は、悔しいことに俺よりずっと速い。


 距離が詰まってきて、しかも大口を開けてブレスを吐こうとするのを見て、再び狼化したカーミラがとって返し、下から傷ついた喉笛に噛みついた。

「ギャオーッ」

 苦痛と怒りの咆吼をあげたドラゴンが、首を振り回し、カーミラを宙に飛ばした。

 大丈夫だ、やられたわけじゃない。


 俺はその間にカムルの背に飛び乗りながら、リナを回収する。疾駆する人狼が、ようやく目的の場所に迫る。


 見えた!


 あらかじめ“雷素”を転がして、小さな照明を灯しておいた、岩の避け目。


 かつて鉄鉱石を探して掘り進んだものの、落盤が続いて廃坑となり、今は入口だけ高さ十メートル近い大穴になっている洞窟だ。


 奥行きは2、3百メートルしかないけど、それで十分だ。


 だが、背後を振り向いた俺の視野に、またドラゴンが迫ってきた。俺が乗ってる分、カムルの速度が出ないんだ!


 その時、闇の中から現れたエヴァが、開いたドラゴンの口の中に渾身の力で槍を投げ込んだ。

 “闇同化”スキルで潜んでいたんだ。


 口内に赤く輝いていた炎はブレスになる直前に霧散し、巨体がうなり声をあげて苦悶する。

「シローさん、今のうちに!」


 ついに洞窟に駆け込んだ。


 この中は真っ暗だから、カムルの背にしがみついてることしかできない。エヴァはヴァンパイア・ハーフの暗視力と身体能力で、人狼に遅れぬ速さで併走している。


 追ってきた!

 

 ファイアドラゴンの巨体が、俺たちを追って放棄された坑道の中に入ってきた瞬間、初めて俺は勝利を確信した。


 だが、パーティー編成をこの場にいるメンバーに切り替え、等身大魔法使いになったリナが転移を唱えた瞬間、業火のブレスが放たれた。


 熱いなんてもんじゃない!全身が痛覚に変わったような激痛の中、洞窟外に転移した俺は、必死に入口を粘土で封じ、リナに地魔法で落盤を起こさせようとした。

 だが、そこで意識はブラックアウトした・・・


***********************


「シロー、わかる?」


「・・・ルシエン、あ、治療してくれたのか?」

 俺はほっそりしたエルフの膝枕から身を起こす。ルシエンの顔色が悪いのは月明かりのせいじゃない。


「悪いけど、私はMP切れで限界だわ。あとは頼むわよ・・・ドラゴンも・・・まだ死んでない・・・」

 俺は慌てて、力を失ったルシエンの軽い体を支えた。


 どういう状況だ!?


「リナちゃん、大丈夫っ?」

 ノルテがリナを抱き起こしている。見たところ火傷らしい様子は無いな。


 すぐそばには、エヴァと狼化したままのカムルが全身を焼かれて倒れている。エヴァは急速に回復しつつあるようだが、カムルはかなりヤバそうだ。


「リナっ、先にカムルを頼む」

「わかったっ、・・・傷つきし者を聖なる力にて、“大いなる癒やし”を!」


 ルシエンは俺とリナにだけ“大いなる癒やし”をかけてくれたんだ。

 使えるのはルシエンとリナだけだから、治療役を優先的に。


 転移役として危険な所に踏み込まざるを得ないリナがこうなる可能性は十分あったから、ルシエンを安全な場所に控えさせておいて本当によかった。


 リナにエヴァの治療も任せて、俺は瓦礫で埋まった岩の裂け目に視線を向けた。

 地震のような揺れが続いて、瓦礫が崩れ落ちている。


 地図スキル上で、奥にある赤い光点は未だ輝きを失っていない。

 ルシエンがMPのほとんどを投入し、地魔法で崩落を起こしてくれたらしいのに、ドラゴンは生き埋めになったまま、まだ生きてるんだ。


 赤い点は少しずつ近づいて来る・・・どうすればいい?


「リナ、“瞑想”でMP回復を」

 振り向かずにそう言うと、俺も錬金術のMP回復スキル、“思索”を使って少しでも回復を急ぐ。


「ありがとう、リナ。私はもう大丈夫」

 エヴァが立ち上がり、サブ武装の剣を腰から抜く。

「ウウウーッ」

 鼻を鳴らしてうなり声をあげるカムルは、ドラゴンの匂いに気づいているんだろう。


 粘土ゴーレムのタロを出現させて瓦礫の山の正面に立たせる。ノルテとエヴァが、気を失ったルシエンの体を安全な場所に運び、俺たちは左右に展開した。


 崖に切られたこの廃坑までの小径は、ドラゴンが俺たちを追ってきた際に崩れ落ちている。

 ルシエンが暗闇をものともしない視力で、ノルテと共に山の中を抜けてたどり着いてくれたのは幸運だったが、村の連中の加勢は期待できないだろう。

 むしろ、村の連中を危険にさらさないで済む、と言うべきか。


 瓦礫の一部がはじけ飛んで、中からファイアドラゴンの頭部らしいものが突き出した。

 カムルが飛びかかって牙を立てるが、硬い頭の鱗には通らない。


「下だな、あの首の傷を狙おう」

「はいっ、でも、どうやって?」

「カウントするから」

 ノルテにそう答えると共に、反対側にいるリナとエヴァにも念話で伝える。


 リナは再び魔法使いにチェンジする。


「5、4・・・」

 カウントを始める。

「3、2・・・」

 再び瓦礫がはじけ、ドラゴンの頭がはっきり見える。

「1、0!!」

 入口を埋めていた粘土を全吸収した。MPが回収されるのを感じる。


 半分は瓦礫が混じってるから、消えたのは半分程度。

 力一杯外に出ようとしていたドラゴンの頭が、支えを失いつんのめるように振り下ろされてくる。


 そこにタロとエヴァ、ノルテが三方から駆け寄り、手が届く高さになった首に、剣とハンマーを叩き込む。

 傷口からさらに血しぶきが飛ぶ。


 声にならないかすれた悲鳴をあげて、ドラゴンの首がねじくれた。


「みんな離れて!いっけぇーっ!!」

 魔法戦士姿になっているリナが、残りのMPを絞り出して“魔槍”を放った。

 青白い光が、喉笛を貫いた。


 俺は粘土を吸収し回収したMPを使って、再び出現させた粘土の塊をドラゴンの頭上に落とす。

 たたき落とされ、地に落ちたドラゴンの首に、カムルが食らい付いた。


 巨体が痙攣し、ついに止まった。


 地図上の赤い点が消えた。


 倒したんだ・・・俺もリナも、がっくり膝をついた。


 カムルは、そのままドラゴンの喉笛を噛みちぎり、吹きだした血を飲んでいる。ああ、そうだ。パルテアの迷宮でカーミラもそうだったよな。


 そう思った時、よく知った気配と共に、崖下から狼化したままのカーミラが上がってきた。無事だったようだ。

 しかも、カムルの群れの狼女たちも一緒だった。


「ウウッウー」

 一声カムルにうなり声をあげたのは、独り占めするなって意味だったのか?カーミラたち4頭の狼女子も、カムルと並んでドラゴンの首に食いついた。


 すげーな、これ。食べ物になっちゃうのか・・・群れの女子たち、すごく飢えて痩せ細ってるとは思ってたけど。


「え?」

 不穏な気配に振り向くと、なぜかエヴァの瞳が赤く輝き、はあはあ荒い息をついてる。

 そして、うそだろ・・・エヴァまでドラゴンの喉笛に駆け寄っていつもより長く見える歯をむき出しにして、血を吸ってる。


 その途端、エヴァの銀髪が強く輝いた気がした。


***********************


 人狼たちとヴァンパイア・ハーフの娘がたっぷりと飢えを満たした後、俺はあふれ出る血液の一部をセラミックのボトルに詰め、それから回復したリナと力を合わせて、ドラゴンの遺骸を魔法で冷凍した。

 

 そして、その上から再び、残りMPで可能な限りの薄い粘土層で覆いを掛けた。


 解体するのは俺たちの力では無理だし、このまま腐らせるわけにもいかないからな。


 その頃になって、ようやく崩れ落ちた小径の向こうから村の男たちが渡ってきたので、決着がついたことを知らせた。


 リナには最後のMPを振り絞って、レムルスのギルドの魔法使い、グンタークに遠話で報告してもらった。

 夜遅かったにも関わらずすぐに反応して話を聞いてくれたのは、合同調査の時に何度も連絡を取り合って、「精神の波長」みたいなのを互いに知っていたおかげだろう。


 それから俺たちはスーミの集落に転がり込み、緊張の糸が切れたことと蓄積した疲労とで、あっという間に眠りに落ちた。

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