第223話 竜退治への共闘② 三集落会議
ドラゴン退治の共闘を呼びかけるため再び訪れたクラウコフ開拓村は、つい4日ほど前に調査クエストの出発点として立ち寄った時よりも、さらにひどいありさまになっていた。
数十世帯しかない開拓村では、まだ所々で煙が上がっている。
昨夜、カリヨンにはドラゴンの襲来は無かったが、こっちを襲ったらしい。
村人たちが、燃え残った家の残骸の下に生存者がいないか、調べて回っている。水が貴重だからすぐに鎮火もできず、収まるのを待っていたようだ。
俺はリナとルシエンに合図して、水魔法でまだ燻っている焼け跡を消して回った。
「ああ、あんたら、この間の冒険者か?助かるぜ。だが、ギルドは引き上げると言ってたが・・・」
声を掛けてきたのは、作業を仕切っていた20代の男だ。ゲデルという、たしかここの村長の息子だ。
「ドラゴンがまた来たのか?」
「そうさ、許せねえよ、また10人も殺されたんだ・・・こんなんじゃもうやってけねえ」
ネルソンの問いかけに、ゲデルは憎々しげに答えた。
「その件でな、今後どうするかを親父さんと話したいんだが」
「あ、ボイトニさんも来てるのか・・・親父は負傷者のところを回って、たぶんもう家にいるはずだ。おーい、ちょっと客人を親父のところにあんないするから、続けててくれっ」
2つの集落の長が一緒に来たことで、重要な話があるのだと察したようだ。ゲデルは現場指揮を他の男に委ねて、俺たちを案内してくれた。
クラウコフは一応は村と言える規模があるから、中心部に粗末だが僧侶の住んでいる礼拝所があり、その隣りに村長宅が建っている。
不幸中の幸いでそのあたりは焼かれておらず、礼拝所の前にケガ人が並んで僧侶の治療を待っていた。中にはひどいやけどをおった子どもや、乳飲み子を抱えた女の人が頭から血を流しているのも見られた。
僧侶は腰の曲がったおじいさんで、MP枯渇らしくフラフラしてる。
<ケーヒル 人間 67歳 僧侶 LV6(老)>
そこで、ネルソンやボイトニに先に村長の所に行ってもらって、俺たちは治療を手伝うことにした。
「・・・助かりました、冒険者の方々」
こんな惨状を見たら、ほっとけないよな。
「ワン、しばらくこの人のそばにいて、ケガをした人が来たら、なめて治してやるんだ」
「わんっ」
「この犬、ペロペロなめると軽いケガややけどなら治せる魔法犬なんで、村長さんと話してる間、置いときますから・・・」
「な、なんと、それはそれは。重ねて感謝しますぞ」
驚いてる僧侶ケーヒルさんのところに、“生素”のスキルを持った粘土犬ワンを残して、村長のお宅に上がった。
「おお、先日ギルドの衆と一緒に来た、シローどのじゃったな」
ゴダロという村長は、俺たちのことを覚えていた。彼はLV11の商人で、この開拓村のよろず屋みたいな店も営んでいる。
他に、村の男が4、5人加わっている。この村長宅は、よろず屋兼村役場みたいな機能をになっているからか、入口を入ったところが広い集会所みたいな感じになっている。
そこに総勢20人近くが、地べたにむしろを敷いて、車座に座っている。
「では、みんな集まったところで、三集落の寄り合いを始めるかな」
ゴダロの仕切りで、クラウコフ、カリヨン、スーミの3つの開拓集落の代表者によるドラゴンへの対応に関する話し合いが始まった。
それぞれの集落での被害状況と、足りない物資や困りごとを情報共有した後、本題である今後の対策に移った。
ギルドの調査隊が、ドラゴンによる襲撃を確認して引き上げてしまったことで、昨日までは2つの方針のどちらかで意見が割れていたのだという。
2つというのはつまり、
【1】3集落とも放棄してレムルス帝国に開拓民の受け入れを依頼する
【2】レムルス軍が討伐隊を派遣してくれまでなんとか暮らし続ける
・・・ということらしい。
そこに昨日の夕方、スーミからボイトニが送り出した使者が到着して、“自分たちの手でドラゴンを討伐しよう”なんてとんでも無い提案がなされたわけだ。
ゴダロ村長たちはほとんど相手にする気もなかったそうだが、その晩つまり昨夜、再びドラゴンに襲われて犠牲者が出たことで、若い連中を中心に、このまま泣き寝入りなんてゴメンだ、という空気が出てきたらしい。
「だがな、ギルドの合同チームが投げ出したのに、そんなことが本当に可能なのか?」
ゴダロの隣りに座っていた、クラウコフの自警団のリーダーらしいおっさんに、疑わしそうな様子で訊ねられ、俺は考えてることをあらためて説明した。
単純に言えば、ドラゴンの巣から一番近いスーミの山の中にやつをおびき寄せ、ドワーフたちに鍛えてもらう大弩の矢を至近距離からぶち込んで倒せないか、ってものだ。ドルッグはドラゴンを貫ける大矢を作れる自信はある、と受け合った上、試作品の大砲もあることを明かした。
俺としては、それで仕留められなかった場合でも飛べなくすることさえ出来れば、山の中の地形を利用して、粘土や地魔法で押しつぶせないかってことも考えてる。
「・・・うまくおびき出せたとして、本当に仕留められるのかねぇ」
「いや、だがこれなら失敗しても、やられるのはスーミだけで済むんだよな?」
各集落の色んな思惑があるようで、簡単に一枚岩とはいかないか。まあ、それは想定内だ。
「待てよ、そもそもドラゴンをスーミまでおびき寄せるなんてことが出来るわけねえだろ?挑発したら、逃げる間もなく炎を吐かれて消し炭にされるだけだろうが」
そう、これが一番の難題だと思うよな。
「大丈夫だ。人狼たちと共闘しようって言うのは、そのためでもあるんだ」
俺は切り札を見せることにした。
「人狼って・・・その若い連中だよな、見たところただの人間だが?」
この場には俺たちパーティー以外に、判別とかのスキル持ちがいなかった。そこで、実際に見せることにした。
「カムル、ひとっ走りあそこの集落の端まで走ってきてくれ」
みんなを村長の屋敷の外へ連れ出すと、事前の打ち合わせ通り、カムルに身体能力を披露してもらう。
「わかった」
ひとこと答えると、人狼少年はタッと走り出した。
「うえっ!?」
誰かが素っ頓狂な声をあげた。
馬より速い、人間じゃあり得ない速さで集落の端までダッシュすると、帰りは端の家の屋根に飛び上がると、忍者みたいに屋根から屋根に飛び移りながら帰ってきた。
かやぶき屋根を壊さなくて良かった、と思った。
「う、まあ、身軽なのはわかったが、それにしたって・・・」
これだけでは考えを変えさせるには不十分だ、ってのもわかってる。
「じゃあ、カーミラ」
「うん、いいよ、あるじ」
カーミラには、いつもの革鎧じゃなくゆったりしたローブを着せてきた。毎回、着てるものをダメにするのはコスパが悪すぎるからな。
「「「うおっ!!」」」
村人たちの驚きの声が重なった。
すらっとした美少女が、みるみるうちに灰色の毛並みの狼に姿を変えたからだ。
これがカーミラだって証拠は体にまとわりついたままのローブだ。
「ウオォーンっ」
一声吠えると、狼化したカーミラは、さっきのカムルを遙かに上回る速さで集落の端まで駆け抜け、たまたま外に出ていた村人たちが腰をぬかして絶句しているのを尻目に、クラウコフの村をあっという間に一周して戻ってきた。
「これが人狼なのか・・・」
その目で人狼が狼化する様子を見たことがある人間なんて、この世界でもまれにしかいないみたいだからな。
「カーミラはいつでも狼に姿を変えられるけど、他の人狼たちも満月になると狼になって、ドラゴンにも簡単に追いつかれないぐらいの速さで走れるようになるんだ」
「満月・・・あさっての晩か!」
そう、きょうは九の月の上弦十二日だ。「小の月」では、上弦十四日の晩から下弦一日の朝にかけてがほぼ満月になる。
そのタイミングでしかけられれば、人狼たちの全力疾走のリレーで、ドラゴンを狙いの場所まで引っ張ってくることが出来るんじゃないか?それでこの作戦を思いついたんだ。
「・・・どうする?」
「最初は荒唐無稽な話だと思ってたが、これだったらひょっとして・・・」
あとは村人たち次第だ。
俺たちは、カーミラの弟たちを助けてやりたいって気持ちはあるけど、だからと言って、みんなの命を危険にさらしたいわけじゃない。
「シローどの、クラウコフが担当するのは、大弩の本体の製作と運搬ということでよいのじゃったな?」
ゴダロ村長が確認してくる。俺はボイトニの顔を見てから答えた。
「うん、あとは作戦中、スーミの女子どもをこっちで受け入れて欲しいのと、戦える者は決戦の時に参加してもらいたい」
「・・・どうだ?」
「それなら、うちにとっては悪くないと思うが・・・」
「おやじ!俺は参加するぞっ」
クラウコフの年配の連中より先に、宣言したのは村長の息子のゲデルだった。
「もうこのまま息をひそめて焼き殺されるのを待つだけなんて我慢ならねえ、青年団の連中もみんなそう言ってる。今さらおめおめレムルスに戻ったって、貧民窟に転げ込むのがオチだろ、やってやろうぜ!」
「・・・スーミとカリヨンはどうする?」
「スーミはこのままじゃ暮らせないのははっきりしてるからな」
「カリヨンも同じだ。街道の通行が戻らないと、うちは立ちゆかん」
ゴダロ村長が仲間たちの顔色を確認して、重々しく頷いた。
「わかった。わしらも参加する・・・竜退治じゃ」




