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第222話 竜退治への共闘① 開拓村のドワーフ

俺がスーミの集落でボイトニたちに持ちかけたのは、開拓民と人狼たちの協力体制を作って、共通の脅威であるファイアドラゴンを退治しよう、ということだった。

「・・・なにを馬鹿なことを、と思ったが、たしかにその作戦通りに行けば不可能じゃないかもしれないな。ドラゴンと戦うなんて、考えてみたこともなかったが・・・」


 小さなスーミ集落で長のような立場にあるボイトニは、その場に居合わせた住民の顔を見回した。高齢者や女たちなど、坑道には入っていなかった者ばかり7人だ。

「ゼノーさん、どう思った?」


 白髪の老人にボイトニは意見を求めた。この中で一番高齢そうだが、かくしゃくとした物腰で、<冒険者LV13(老)>って表示された。

 若い頃は冒険者としてならしてた、ってわけだな。


「どのみち今のままでは、ここにはもう住めん。全員焼かれるか喰われる前に、ここを捨ててオステラにでも戻るほかないからな。ならば、女子どもは避難させた上で、博打に出てもよかろう・・・ただ、これは他の集落の協力も必要だ。特に、うちには鍛冶屋がいなくなっちまったから、まずはカリヨンのあの連中が協力してくれるかだが」

「・・・そこだよな」

ゼノー老人はスーミ集落のご意見番みたいな存在らしく、村長格のボイトニも一目置いているようだ。


「あれ?クラウコフじゃなく、カリヨン?もう一つの小さな開拓集落だよね?」

 俺が考えた提案には腕のいい鍛冶師が必要だ。かなりの人手も要る。それで、このあたりで一番大きなクラウコフの開拓村に、まず戻る必要があると思ったんだが。


「ああ、クラウコフの連中とももちろん話をしなきゃならん。なんたって一番人手があるからな。けど、その武器を作るには大工と鍛冶師が必要だろ?一番腕のいい鍛冶師はカリヨンにいるのさ、ただ、少々問題のあるやつらだが・・・」


 詳しいことはわからなかったが、とにかくは明日にでも3つの集落の代表者が集まって共闘が可能か話し合う必要がある、ということで、ボイトニはクラウコフに使いを向かわせた。

 そして自分は俺たちと共にカリヨンに行くと言う。


「ゼノーさん、鉱夫連中が戻ってきたら説明を頼めるかい」

「任せておけ。カリヨンとクラウコフの連中によろしくな」


 カリヨンの集落はスーミから北東へ15kmほどだった。

 平地へ降りていく方向で馬が使えたので、2時間もかからず着くことができた。カーミラの馬にカムルが、ルシエンとノルテの馬に人狼の女子2人が相乗りしたが、みんな痩せているから、馬にはそれほどの負担ではなかったようだ。カムルは半分ぐらいは馬を降りて走ってたし。


 集落があるのは旧街道沿いで、立地的にはスーミよりかなり便利だ。街道が使われている時は、簡単ながらクラウコフの次の宿場的な位置づけらしく、30世帯ほどが暮らしていたそうだ。民泊みたいな感じかな。

 過去形なのは、ここもドラゴンの襲撃を受け、少なくない被害を出していたからだ。


「おーい、スーミのボイトニだ。村長のネルソンはいるか?」

 畑に囲まれた集落の入口で、農作業をしている男たちに声をかけた。


「いるぞ!こっちだ、よく来たなボイトニ」

 奥の方の畑から大声が上がった。

 体のでかい、ちょっと肥満気味でもある中年男が仕事の手を休めてこっちに来た。


<ネルソン 人間 男 農民45歳 LV10>


 この人は普通に開拓農民だな。ボイトニとは年も近いし、仲も良さそうだ。

 ボイトニがざっくりした用件を話すと、

「ちょっと声をかけてくるから、先におれの家に行っててくれ」と言われた。


 茅葺屋根みたいな平屋が並んでいる中で、大きめの一軒がネルソンの家らしい。

 収獲した芋を軒下に吊していた奥さんに声をかけると、顔なじみらしく気安い挨拶を交わしてから、家の中に入っていった。


「どうぞ、入ってくんな」

 あらためて声をかけられ、ボイトニと俺たちパーティー5人、カムルら人狼3人の計9人でお邪魔するが十分な広さがある。

 土間に大きめ目のテーブルが置かれ、ベンチ状の長板の椅子が四方を囲っているところに案内されて、なにやらハーブティーみたいなものを振る舞われた。


「すまないな、カノン。こっちの集落も手ひどくやられて大変なところに邪魔しちまって・・・」

「いいさ、お互い様だし、嘆いてても死んじまった連中が帰ってくるわけじゃなし。それに、何か大事な話なんだろ?」

「ああ、もし話がまとまれば、明日朝ネルソンにもクラウコフまで付き合ってもらうつもりだ・・・」


 そんな話をしていると、長のネルソンが数名の男たちを連れて戻ってきた。

 日焼けした年配の農夫、がっしりした中年男、そしてあと2人は気難しそうな表情の極端に小柄でしかし横幅はある・・・ドワーフだった。


<ドルッグ ドワーフ 男 51歳 LV12

  スキル 暗視      HP増加(小)

      採掘      頑健

      鍛冶(LV6) 鎚技(LV4)

      鑑定(初)   力増加(小)

      冶金(LV2) 工芸(LV1)

      騎乗(LV1) 御者(LV1)>


「紹介するぜ、先代の長で相談役のオルコフ、自警団長のビッテン、そして鍛冶屋のドルッグとドレッグの兄弟だ」

「ああ、久しぶりだな。こっちは・・・」

 ボイトニに続いて、俺がうちのパーティーをまず紹介する。


「・・・そして、ノルテ。彼女は父親がドワーフだ」

 じっとノルテを見ていたドルッグたちに向かってそう告げた途端、ひげもじゃの顔が相好を崩し、ウソみたいな笑顔になった。

「やはりそうか。ようこそ、同胞の娘よ、歓迎するぞ」


 ボイトニだけでなく、ネルソンたちこの集落の連中まで一瞬「えっ?」と驚いた顔をした。

 どうも、このドワーフたちは見かけ通り気難しい連中と思われてたわけだな。

 でも、ノルテがいるから、そこは大丈夫じゃないかなぁ、となんとなく思ってた。


 ルシエンに聞いてた話だと、この世界のドワーフは他種族との交流には消極的な者が多い反面、ドワーフ同士の結束は固いということだったから。


 だが、カーミラとカムルたちを紹介すると、今度こそドワーフ兄弟もネルソンたちも、カリヨン集落の連中はみなびっくりしていた。


 人狼族ってのはこの世界の人たちにとってもかなりのレア種族らしく、見かけは着てるものがラフなだけで人間と見分けがつかない。それが自分たちの集落のすぐそばに住んでいて、同じようにドラゴンに苦しめられているってのが、相当に驚きの話だったようだ。


 それから、俺はスーミでボイトニたちに話した作戦をもう一度繰り返した。いや、肝心の武器の話はより熱心にだ。


「うーむ、要はその大弩、とでも言うのか、その矢を作る戦鍛冶が必要だってことだな?」

「うん、あんたたちがこの辺の集落で一番の鍛冶屋さんだって聞いたから。ドラゴンのウロコを貫けるような大矢って言ったら、鋼鉄で鍛えないといけないんじゃないかと思って・・・あんたたちなら出来ないかな?」


「なっ!?出来ないかだとっ、ふざけるなっ!」

 弟のドレッグの方が突然怒りだした。俺また、なんか地雷踏んだのか?

「ドレッグ、よさんか・・・出来るにきまっとるわい。わしらドワーフの鍛冶の腕をなめるなよ、若いの」

 そういう意味か。やっぱりちょっと気難しい連中だったな。


「すみません。そういうつもりじゃなくて・・・」

 コミュ障の俺が言い訳し始めるのを、ノルテがフォローしてくれた。

「ごめんなさい、失礼なことを。お二人なら素晴らしいものをつくって下さるって信じてますし、できれば私にもなにかお手伝いさせていただけませんか?なんでもしますから。私のお父さんがドワーフの国でやっぱり鍛冶師だったって聞いてて、私も人間の鍛冶工房で下働きをしていましたから・・・」


「ん、そうかそうか、さすがは同胞の娘だ。ちなみに親父さんはどこのなんという男なのかね?」

 俺に対するのと露骨に態度が違うな。ドルッグの質問にノルテはちょっと顔を曇らせた。

「それが・・・3歳の時に人間との戦で離ればなれになっちゃって、どこに住んでいたかわからないんです・・・お父さんの名前はたしか、オーリンって言うんですけど」


「「なっ!?」」

 ドワーフ兄弟が顔を見合わせた。

「まさか、オーリン・バズシードどのではなかろうな?」

「オーリン・バズ・・・、はい、たしか、そんな名前だったと思いますけど・・・!」

 ノルテがくりくりした目をさらに見開いた。

「ご存じなんですか!?」


「・・・もし、わしらの知っておるオーリンどのなら、失われたドワーフ王国の王孫、我ら同胞の大長たるお方だ・・・お前さん、ひょっとして兄者が2人おらんか?」

「はいっ!もうはっきり覚えてませんけど、年の離れた兄さんが2人いた記憶が」

「間違いない!」

「おうよ、あの頃、オーリン殿の人間の妻が抱えていた幼子だわい!」


 ドワーフ兄弟は居住まいを正すと、その場で2人とも胸に手を当て深く頭を垂れた。

「ノルテどの。我ら北のドワーフを束ねる長の姫にあたるお方とは知らず、無礼つかまつった」

 ひ、ひめだって!?ノルテが!


 それから話はとんとん拍子で進んだ。

 幼い頃のノルテが父親たちと暮らしていたのは、北方山脈の中、プラト公国の辺境にあたるところにあるドワーフの大集落だったらしい。

 ただ、14年前、内戦状態にあったプラトの土豪だか夜盗の大集団だかがその地を襲い、ドワーフたちは散り散りになった。

 ドルッグとドレッグの兄弟も、その時、故国を離れて各地を転々とした後、こっちにやって来たらしい。


 ドラゴンを攻撃する武器として、俺は木製の大弩と鋼鉄の矢を作り、スーミの鉱山近くで迎撃することを考えてたんだが、2人は二つ返事でそれを引き受けてくれた。

「だがな、それならもう一つ、もっと使えるものがあるぞ・・・」


 2人に案内された鍛冶工房で、俺たちだけで無くこの集落の連中も驚いていた。

「いつのまにこんなものを・・・」

「まだ試作品だがな」


 見せられたのは、なんと大砲だった。


「里を追われてから、一度ガリスまで行ったことがあってな。その時に目にしたものを再現したものよ」

「人間が作るものには性能では負けんつもりだが、火薬の調達に手間取って、まだ試し撃ちもできておらんが・・・」


 試し撃ちもしてないって大丈夫なのか?暴発とかしたら大惨事だよな。

 聞いたらまた怒り出しそうだから、黙ってるけど。・・・大弩を主力にして、大砲は使えればもうけもの、ぐらいに思っておけばいいか。


 ドルッグたちはガリスで最新技術を学んだものの、年々亜人差別がひどくなるのに嫌気が差して去り、結局この開拓村に落ち着いたそうだ。


 ハードルが高いと思われていたドワーフ兄弟が、あっさり協力的態度を示してくれたおかげで、カリヨン集落は共闘に参加してくれることになった。あとはクラウコフ村だな。


 その晩は、ネルソンの家と前村長のオルコフの家に別れて分宿させてもらった。


 なにせ昨夜は人狼の洞窟で過ごし、ファイアドラゴンを追ってろくに寝ずに巣穴まで行って、それからスーミとカリヨンを訪れて、だから超ハードスケジュールだ。

 土間に敷いた藁の上っていう粗末な寝床だったけど、泥のように眠った。


 翌日、カリヨンから約30km離れたクラウコフの開拓村に着いたのは昼前だった。


 一行は俺たちパーティーとカムルたち、ボイトニの9人に、ネルソンと自警団長のビッテン、そしてドワーフのドルッグも加わり総勢12人になっていた。


 だが・・・たどり着いたクラウコフは、つい4日ほど前、調査クエストの出発点として立ち寄った時よりも、さらにひどい状況だった。

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