第212話 歓迎会
戦乱が拡大する中、新たにエヴァを仲間に加えた俺たちは、戦火を避けて西の大国・レムルス帝国に入り、ようやく一息ついた。だから、歓迎会なのだ。
ガリスからレムルスへ入る国境の検問所は、それほど厳重な管理をしているという雰囲気では無かった。
帝国側からすれば、ガリスもレムルスを宗主国とする属領のようなもので、半ば国内という意識があるのかもしれない。
ただ、衛兵のレベルは高かった。割と古風な鎧兜に身を包んだ兵は、隊長格が騎士LV14で、他は目に付いた範囲で、戦士LV12、スカウトLV12、魔法使いLV10と、全員が二桁だった。
単なる検問所でこれって、なかなかだと思う。
建物の作りとかは、質実剛健って言うんだろうか?石造りで意匠よりも堅牢さと実用性、って雰囲気だ。
ガリスのように産業革命期の様子はなく、いかにも中世ヨーロッパ、それもちょっと北の方の国って感じがする。
西方街道の石畳は古いけれど、メンテもちゃんとされているらしく、そんなに荒れてるところは無い。インフラを見ればその国の基礎体力がわかる、とかって聞いた覚えがあるけど、そう言う意味でも大国らしい。
レムルス帝国は総人口1千万を超える、文字通り大陸を代表する国だ。
初代皇帝レムルスは200年前に勇者のパーティーの一員として魔王と戦い、そして生き残った。
魔王封印後、荒れ果てた大陸西部をそのカリスマ性と行動力で復興させ、空前の大帝国の礎を築いたのだと言う。伝説の英雄のひとりってわけだな。
「どういう人なんだろうね?」
ルシエンに訊ねたのは、ちょうど馬が隣りを歩いてて、しかも一行の中でレムルスに来たことがあるのはルシエンだけだから、ってだけの、まあ世間話の類だ。
でも、ルシエンの答えは予想の斜め上を行く詳しさだった。
「典型的な肉弾戦型の戦士で、戦場では頼りになるけど、戦いを離れたらガサツでいいかげんで、女にだらしのない人物だった・・・かもしれないわね」
「・・・なんでそんなに詳しいんだ?」
「えっ?いえ、その・・・まあ、そんな噂もあるかな、ってことよ」
なんか妙な、実際に知ってるみたいな口ぶりだったけど、ルシエンもまだ33歳のはずだし、まさかな。
「それより、そろそろどこで泊まるか考えなきゃね」
朝イチでガリスの野営地を出て、国境を越えたのが昼過ぎだったから、今夜の計画を立てないとな。
とりあえず現状では安全で、亜人差別もそんなにないと言われるレムルス帝国に入ったことで、当面急ぐ必要はなくなった。
ただ、レムルス帝国の領土は広大だから、帝都レムリアまでは300クナート、500km以上あって、よく整備された西方街道を馬で進んでも5,6日はかかる。
エヴァの実力も昨夜一応確かめられたし、今のところお金に困ってもいないから、無理に野営して魔物や盗賊と戦う必要もないだろう。
俺たちは夕暮れ前にコロンという大きめの街に入り、冒険者ギルドに寄ってから宿を取ることにした。
コロンは人口7万人。ドウラスやムニカより大きいが、レムルス帝国ではこのぐらいの規模の街は数十カ所あるそうだ。一応、ガリスと接する西方では代表的な都市の一つらしい。
冒険者ギルドでは、メウローヌとアルゴルの戦争に関する新たな情報が入っていた。アルゴル軍が国境を越えて、メウローヌ側の街を襲い、かろうじて撃退したものの被害が出てるそうだ。
ノルテが心配そうにしている。
「大丈夫だノルテ、きっとゴメリ一家は無事だよ」
「・・・そうですよね、うん」
アルゴルから逃れるときに出会ったドワーフ一家の無事を信じたい。
クエスト掲示板の依頼には、特に目立つものはなかった。
ガリスから魔人が国境を越えて来てるとかをうかがわせるような情報も無い。
ギルドでおすすめの宿を紹介してもらい、さっそく向かった。
5人になって部屋割りが複雑になったけど、幸いここは6人まで泊まれる大きめの個室があったのでそれを押さえた。
食事も宿の一階の居酒屋兼、というオーソドックスなスタイルだ。
料理はメウローヌほど洗練はされてないけど、質・量共に水準以上だった。
山羊の肉のステーキ、香料が利いた大きな挽肉の腸詰め、そしてジャガイモみたいなのをゆでて潰した、これはマッシュポテトだな。それから甘くて黄色いカボチャみたいな野菜に、ホワイトアスパラみたいな白くて柔らかい野菜のゆでたもの・・・ノルテやカーミラも満足していた。
吟遊詩人がいつもいるのかたまたまなのかはわからないけど、竪琴を奏でながら歌をうたっていた。恋の歌から、この地方の収獲の歌、そして、建国の父レムルスの英雄物語、なんてのもあった。
その英雄譚によれば、レムルスは「獣人に育てられた戦士」と呼ばれ、どことも知れぬ山奥から荒廃する世界を憂いて神に使わされたそうだ。
そして、まだ無名だった頃の勇者と決闘の末に引き分けて、互いに力を認め合う無二の親友になった。魔王との戦いに挑む決意を最初に抱き、パーティーを引っ張っていったのもレムルスだったと謳う。
まあ、レムルス人の吟遊詩人だからね、いくらかは盛ってるんだろうけど・・・
満足しておひねりを投げ、部屋に戻って湯で体を拭く。いつものように女子の時間はロビーに追い出されて待たされた。
でも、リナの念話でいいよと呼ばれて部屋に戻ると、色とりどりの花が咲いていた。
ルシエンはワインレッド。
ノルテはレモンイエロー。
カーミラは空のようなセルリアンブルー。
リナはピンク。
お揃いのシースルーのネグリジェだ。
そして・・・いつの間に、どこで、手に入れたんだろう?
エヴァの銀の髪、真っ白な肌に一段に映えるパープルの薄物は、みんなとお揃いのシリーズみたいだ。そしてエヴァさんは初号機だと。
「きょうはせっかくみんな同じ部屋なんだし、シローはこういう歓迎会をしたかったんでしょ?」
ルシエンねえさんは、お見通しですよ。
「あらためて、よろしくお願いしますね。みなさん、そしてシローさん・・・」
あんまりなめるようにみんなを見てたから?誰かが灯りを消しちまった。
ちっ、余計なことを。でも、いいさ、これからもたっぷり楽しむのだ。




