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第194話 いつかどこかで マギー&ブッチ

ガリス公国の軍港都市テルザンテにたどり着いた俺たちは、転生者である天才技術者トーマス・ジェラルドソンと知り合い、パルテア帝国軍に引き渡される機動船“ミフルダテスⅢ世号”まで案内してもらった。

 マギーとブッチが、ノルテ、カーミラ、ルシエンと順番にハグする。


 岸壁沿いの石造りの建物に設けられたパルテア駐留部隊の仮官舎で、ブッチは指揮官にあたるハッサン提督に着任の挨拶をし、副官から配属辞令を受け取ったところだ。

 ハッサン提督は、機動船の開発者トーマス・ジェラルドソンの部下たちと、いくつか技術的な最終確認をしていたようで、トーマスが俺たちと一緒に到着すると、待ちかねていたって様子だった。


 パルテア軍の参謀本部付き准士官であるブッチは、航海中はこの船の参謀として勤務することになる。


 マギーも単なる避難民じゃなく、パルテア大学校から派遣された従軍研究員とかって扱いになるらしい。


 二人は今夜は官舎で仮眠を取って、明日未明に「ミフルダテスⅢ」に乗り込む。夜明けと共に出航だとのことだ。


 だから、俺たちの護衛任務はこれで完了だ。


 予定より早い、突然のクエスト終了だったけれど、パルテア本国が戦渦に巻き込まれ、戦争がこの西方にまで飛び火しつつある今、西方の国々と関係があまりよくないパルテアの二人が調査を続けるのは難しい。

 それに、これまでに得た魔族の情報を確実に本国に持ち帰る必要もあるし。


 冒険者ギルドに提出するクエスト完了の書面に、マギーから依頼主としてのサインをもらった。パルテポリスでベハナーム教授と契約を交わしたのが、もうずっと昔のことみたいだ。


 それから、二人一緒にハグする。

「シロー、サヨナラとは言わないからね」

「うちもね。元気でね、いつかどこかで、ゼッタイまた会おうね」

「ああ、またな・・・二人とも気をつけて。戦争なんだし、何があるかわかんないしさ」

「うん、ありがと・・・シロッチもね」


 別れを惜しむ時間をくれた副官は、俺たちが明日の出航を見送れる場所がないか聞いたら、基地の敷地に入らず見下ろせる丘があるって教えてくれた。

 明日はブッチと一緒じゃないから、俺たちは岸壁までは入れないようだ。


 副官は30代の長身の男で、人間と犬人のハーフらしく特徴的な耳の形をしている。とりあえず、パルテア帝国軍では亜人差別はそれほど強くはなさそうだと安心した。これならブッチも、そう居づらい思いをせずにすみそうだから。


 見えなくなるまで手を振って官舎を後にした俺たちは、衛兵と共にまた馬車で入口まで戻り、そこで預けておいた馬に乗る。

 マギーとブッチを乗せてきた2頭は、ルシエンとノルテの馬の後ろにつないで連れて行くことにした。


 クエストを終えて、これから特に急いでしなくちゃならないことは無い。


 ただ、トーマス・ジェラルドソンから、「久しぶりに会った転生者にもう少し話を聞きたい」と言われて、明日、テルザンテの街でトーマスが滞在している宿を訪ねることになっている。

 そしてもう夕方だから、俺たちにも今夜の宿が必要だ。


 軍港地区を出た俺たちは、隣接する商港の方に広がっているテルザンテの街に向かった。


 薄暗くなった街道沿いには、急に人影が少なくなってきた。

 それだけ治安が悪いってことだろうか。

地図スキルを駆使して、とりあえず明確な害意を持った存在はそばにいないようだと確かめながら馬を急がせた。


 スクタリぐらいの簡単な城壁が見えてきて、ノルテが少しほっとした様子だ。

 軍港と商港は海側では隣接してるけど、陸から商港側にあるテルザンテに入るには街の城門を通らなくてはならない作りになっている。


 冒険者ギルド証で簡単に通れたが、ルシエンを見て衛兵の一人が顔をしかめていたのが不愉快だった。

 ここまで来る間も、ガリスの兵士では亜人を見ていない。


 パルテア軍には亜人もいたけれど、ガリスはアルゴルみたいに亜人差別が強くなってるのかもしれない、と感じた。

 

「宿で嫌がられないようにフードをかぶっておくわ。この時間で宿を何軒も探し回るのは避けたいから」

 ルシエンがため息をついた。


 せっかく来た異国の街は観光を楽しみたいけど、この国には長居はしない方がいいかもしれないな。



 街の中心部でいくつか外から見比べた宿のうち、よさそうだと思ったところには幸い空き室があった。

 4人部屋で、馬の世話もしてくれて合計銀貨4枚ってことだったので即決した。


 もう一つ、この宿にした理由は、細長い塔みたいな作りの建物で、たまたまその最上階の部屋が空いていたことだ。


「はろはろ、チェックわんつー・・・えー、こちらリナちゃん、感度ありますか?」


《あ、聞こえた。えっと、はい、マギーです》

《やっほー、ホントに話せるんだ、まじびっくりなんですけど・・・》


 うんうん、せいぜい数kmだからね。

 魔法使いの遠話で、精神の波動を知ってる親しい相手なら、こうして結べるってわけだ。ケータイだね。どっちかって言うと、“アマチュア無線”に近いかもしれないけど。


 しかし、一応二人は軍の施設にいるはずなのに、こうして簡単に外部と通信できるなんて、スパイし放題じゃないだろうか。


 二人はきょう、最終調整中のミフルダテスⅢ世号の中を見学し、おもだった乗組員と顔合わせをしてきたそうだ。主にブッチが、だけど、マギーも薬師として乗員に負傷者や病人が出たら治療できるってことを話したら、重宝がられたらしい。


 ミフルダテスには、提督以下約200人の乗組員と、マギーのように緊急避難で帰国する者が50人ほど乗船予定だ。

 もちろん西方にいるパルテア人はその百倍以上いるはずだけど、軍事機密の機動船に乗せて急遽帰国させるのは、貴族や有力者、そしてマギーのように特別な任務についていた者に限られるようだ。


 定員以上の人数が乗ることになったけど、幸いブッチがかろうじて士官扱いなので、一番小さい士官用個室にマギーと二人で寝泊まりする形になるそうだ。


《大部屋でないだけ恵まれてるよね。でもベッドひとつしか無いから、毎晩二人でシロッチのことを思い出して愛し合っちゃうからねー》

 ぶほっ、と噴いたら、ルシエンたちに白い目で見られた。


「パルテア軍には亜人も多いんですか?」

《うん、多いってほどじゃないけど、十人ぐらいはいるみたいで、特に差別はないって言うから安心したよ。とにかく実力主義なんだって。うちもさっそく“訓練”と称して模擬戦させられたし、あれはお手並み拝見ってことだよね》


 ノルテの質問にブッチが楽しそうに答える。

《戦士LV11のベテラン兵長と木剣で立ち会いさせられてさ、まあ、うちが本気出せば朝飯前ってゆーか、ちょろいもんだったけどね?そしたら、それまでナメた雰囲気だった水兵たちの態度がコロッと変わってさ、強くて美人でサイコー!とかって・・・》

 初日ですっかりとけ込んだようだな。


《もー、結構ヒヤヒヤだったじゃん。でもさ、あのイケメンの士官、なんか熱い視線で見てたよねぇ・・・そうそう、ブッチは明日は艦橋の指揮室でお仕事だけど、あたしは“お客さん”だから甲板に出て、船縁で手を振るつもり。まー、そこまで見えないと思うけど・・・》


 二人のキャラのおかげで、最後まで湿っぽくならずに済むのはありがたい。


 その後も女子たちの話は盛り上がり、明日は未明に乗船だし官舎の消灯時間だから話し声もまずい、ってことになるまで、お喋りは続いた。


***********************


 翌朝、夜明けと共に港を出る機動船を見送りに、俺たちは副官が教えてくれた丘の上に来ていた。


 天気はいいけど距離がかなりあるから、俺の目には甲板に立つマギーの姿なんてとてもわからない。でも、ルシエンによると、たしかに手を振っている人の姿があるそうだ。


 それを昨日同様リナの遠話で伝えると喜んでいた。


《・・・うん。あたしには、あの丘かなぁってぐらいしか見えないけど、みんなの存在はちゃんと感じられるよ、シローのパーティー編成のおかげだよね、どれぐらいの距離まで保つのかな・・・》


 昨日と違い、遠話はつながるものの、かなりノイズ混じりで聞こえにくい。

 どうやらミフルダテスⅢ世号には、強力な魔法結界が張られているらしい。さすがに最高の軍事機密、最新兵器だからな。


 それでも甲板上、つまり構造物の外側に立つマギーとは、パーティー編成効果もあって話が出来るけど、ブッチにはどうやら聞こえないみたいだ。


《ブッチの分まで言っとくけど、ルシエンもカーミラもノルテも大好きだよ。最初は迷惑かけてごめんね、でも知り合えて良かった。シローもありがとうね》

 

 ノルテたちと最後に一声ずつ交わして、別れを惜しんだ。

「じゃあ、本当にお元気で」

「マギーとブッチ、なかま」

「航海の無事を祈るわ」


《みんな元気でね、またね・・・》

「ああ、二人も元気でな」


 ノイズ混じりの声が、最後に割り込んだ来た。

《今、艦橋の隅・・・こっそり・・・でも雑音が・・・船の結界強くて・・・あ、やべっ、気づかれる・・・・・・がと、また会おうね、ゼッタイね》


 なんか最後まで二人のキャラが出てたなぁ。


 水平線に小さくなっていく「ミフルダテスⅢ」を見送って、もう見えるはずはないけど、俺たちは最後にまた大きく手を振った。

マグダレアとブッチーニ、パルテア帝国で知り合った二人とは、ひとまずこれでお別れになります。

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