表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
204/503

第193話 軍港の天才技術者

パルテアへの帰国指示を受けたマギーとブッチをガリス公国へ送っていった俺たちは、その進んだ技術に驚いた。そして、乗船予定の機動船が停泊しているという港を訪れたところ、いきなり誰何された。

「おいっ、止まれ!貴様たち、何をしている!」

 突然、数人の兵が駆け寄ってきた。


 手に持ってるのは、銃だ。

 海賊王バルザックの手下たちが持ってたやつより、近代的な感じがする。あの時見たのは火縄銃みたいな代物だったけど、こっちはなんて言うか、三銃士とかに出てくるような感じ、だろうか。


「あ、その・・・ここにパルテア海軍の機動船が停泊中だって聞いて」

「スパイかっ、動くなっ!」


 あっという間に兵が集まってきて十人以上になった。 

 なんかまずそうだ。けど、スパイが“パルテアの機動船を見に来た”とか、自分から言わないと思うんだけど?


「失礼。本日付で着任命令を受けた、パルテア参謀本部付、ブッチーニ准尉です。こちらに駐留している、パルテア海軍部隊の責任者に取り次ぎ願いたい」

 ピシッと、敬礼してるの、誰?このコ。ブッチに似てるけど、別人に違いない。


 兵士たちも、一瞬予想外のことに動きが止まった。

 でも、うさんくさそうに見てる。そりゃ、いかにもギャルっぽい女の子がいきなり他国のそれなりの地位の軍人だって名乗っても、普通信用しないよな。


「当然だけど、パルテアではなくガリスの兵ね」

 制服の紋章を見て、ルシエンがそっと耳元でささやく。

 銃を持った兵士に取り囲まれながら、俺はざっとステータスを見る。


<戦士LV8><スカウトLV6><船乗りLV5>・・・


 計11人の兵のレベルはデーバやパルテポリスのような各国首都ほどじゃなく、スクタリのような田舎町よりは高い。ジョブがまちまちなのは、港の警備には海上勤務をしない兵もいるからかな。


 兵の中から一人、どこかへ走って行ったのは上官の指示を仰ぐためだろうか?遠話が使える魔法使いとかは、ここには見当たらない。

「ここは許可無く立ち入り禁止だと看板に書いてあっただろう!」


 さっきの看板が沢山立ってたところに、立ち入り禁止の表示もあったらしい。

 気づかなかったけど。って言うか、そういうのはもっと目立つようにしておいてほしい。


 一番年かさのように見えるLV8の戦士が、俺の方に向かって言うのは、この中で男が俺だけだからだろうか。それとも、ガリスでは亜人差別が強まってるってことか?ブッチがパルテアの軍人だって名乗ったのに。


「看板に気づかなかったんだ。それに、さっきも言ったけど、彼女たち2人はここに来るようにパルテア政府から指示を受けていて、俺たちはその護衛だ」

「護衛だと、お前たちが?」

 “お前ら若僧と女に護衛なんか務まるのか?”的反応だな。その兵士にLV6スカウトが耳打ちする。そうだよ、ステータス見えてる奴が教えてやってくれ。

「兵長・・・」

「なんだと!レベル19だと・・・そっちの猫女は?・・・13っ!?」


 自分より格上だと聞いて、不本意そうに、でもエラそうな態度は少しひっこんだものの、かえって警戒心は強まったようだ。


 俺たちは馬から下りるように命じられ、トラブルを起こしたくないから素直に従って手綱を兵に渡し、銃を突きつけられたまま包囲された。


 膠着状態を破ったのは、兵たちの上官ではなかった。


「なんだ、なにをやっている?」

 報告に行ったはずの兵が連れてきたのは、まったく軍人には見えないボサボサの髪をした中年男だった。

 着ているのは軍服ではなく、貴族のようなそれなりに高価そうな衣装だが、それがヨレヨレで薄汚れていて作業服みたいにも見えた。


「兵長、すみません。隊長がつかまらなくて、ちょうどジェラルドソン博士がおいでで、パルテアの機動船を訪ねてきた者がいると話したら、自分が相手をするとおっしゃって・・・」

 若い兵が、場を仕切っていたLV8戦士に報告した。戦士が俺たちに対するのとは打って変わって慇懃に訊ねる。

「博士、もしやお知り合いですか?」


 ジェラルドソンって、どこかで聞いた名前だよな・・・


「機動船の発明者じゃありませんか?」

 ノルテがびっくりしたように、俺の耳元で小さな声をあげた。


 そうだ!テビニサ海軍の機動船、海雷号で聞いた名前だった。

 俺はブッチとマギーにそのことを伝えた。


 ジェラルドソンは、目を細めて俺たちを見回している。

 どうやらこいつも判別スキル持ちだ。そして、<名工>って言う、初めて見るジョブだ。かなり偏ったスキルを持ってるが明らかに戦闘系ではない、生産系のジョブだな。


<トーマス・ジェラルドソン 人間 男 47歳 名工(LV17)

  スキル イノベーション(LV10)

      冶金(LV10) 鑑定(上級)

      工芸(LV10) 鍛冶(LV3)

      知力増加(大)  筋力増加(中)

      器用さ増加(大) HP増加(中)

      アイテムボックス 火耐性(小)

      判別(中級)   鎚技(LV3)

      騎乗(LV2)         >


 ブッチが代表して、先ほどの名乗りを繰り返した。

「ジェラルドソン博士、本日付でパルテア本国から着任命令を受けた、パルテア参謀本部付、ブッチーニ准尉です。博士が開発された機動船ミフルダテスⅢへの搭乗を命じられているのですが、パルテア海軍部隊の責任者がどこにいるかご存じありませんか?」


「・・・ん、そうか?あれは、ミフルダテスと名付けられたんだったな。ああ、ちょうど受領確認に呼ばれているから、私についてくるがいい・・・うむ、兵長、問題ない、私が案内しよう」

 後半はLV8戦士に向けた返事だった。


「はっ・・・博士がそうおっしゃるなら。一応、身分証の確認はさせていただきますが。おい、ベンス、2人連れて護衛しろ」

「は!」

 どうやら、ジェラルドソンはかなりのVIPらしい。

 俺たちはそれぞれのギルド証を見せただけで、ジェラルドソンと警護の兵3名と共に2頭立ての大きな馬車に乗せられた。


 岸壁沿いの石畳で舗装された道を進むと、途中からSLの線路らしい鉄のレールが並行して延びている。残念ながら汽車とはすれ違わなかったが、俺がレールを注視しているのに気づいたジェラルドソンが声をかけてきた。


「やはり君も転生者か」

 気づかれていたようだ。


「ユニークなスキルも持ってるようだし、そうではないかと思った」

「ジェラルドソンさん・・・博士もですよね?」

「トーマスでいい、数少ない転生者どうしだからな。どこからだ?」

 博士にいきなりファーストネーム呼びを許されたことにか、それとも転生者って言葉にか、兵たちが驚いて見ている。


「日本からなんだけど、トーマスさんは?」

「私はイギリスでエンジニアをしていた。もう20年以上前になるがな」

「そっか、俺はまだ来て半年ぐらいだけど、向こうでは学生だった・・・蒸気機関車とか機動船のスターリング機関だっけ、全部トーマスさんがこの世界で実現したって聞いたんだけど?すごいね」

「おおっ、スターリング機関まで知ってたか。そうだ、ここまで来るのに本当に苦労したよ・・・」

 技術の話になると、途端にそれまでと打って変わって満面に笑顔を浮かべ、得々と話し始めた。


 やはりひょんなことから人助けをして命を落としたトーマスは、転生するときに“発明王になりたい”みたいなことを望んだら、「イノベーション」って言うボーナススキルを授かったと言う。

 これは、自分が思い描いた技術や製品を実現するのに必要な材料の組み合わせとか加工法とかがわかったり、その加工や製造に必要な能力が全体に大きく底上げされるスキルらしい。


 エンジニアってジョブがこの世界にないためか、最初は『鍛冶師』でスタートしたけど、苦労して上位ジョブである『名工』にチェンジしたそうだ。

 幸いガリスの有力な貴族に才能を認められて、お抱え技術者みたいな立場になり、それからは必要な資材や人員を与えられて、蒸気機関による工場を作ったり、発明品を売却して巨額の富をその貴族にもたらし、現在は騎士身分に取り立てられているそうだ。


 元の世界ではあまり大企業とは言えないメーカー勤めで、納期までに低コストで言われた仕事をこなすだけの技術者だった、と自嘲気味に言う。

「だからな、この世界ではエジソンやフォード、ライト兄弟みたいになって、私の技術で世界を変えて見せる。いや、もう変わりつつあるがな・・・」


 技術と、その成果で周りの人間たちから賞賛されること、はっきり言ってトーマスの関心はそれだけ、に特化してるようだった。

 よく見ると履いてる靴が左右違うものだし、服のボタンも一個穴がずれてるし、話をしてても間違いなく頭がいい人だと思うけど、マッドサイエンティストって言うか、明らかな変人だ。


 ふと、窓からあの気球が見えた。

 広場みたいなところに着地?して、巨大な風船部分を何人かの男たちがたたんでいる。


「あの気球もトーマスさんが?」

「おお、そうだともっ。よく気づいたな。次はやはり空だよ。要素技術の実現が困難なので飛行機はまだまだだが、近いうちに飛行船ぐらいは実現したいと思っているぞ」


 トーマスの話では、高度な機械や装置を実現するのに時間がかかるのは、そのベースとなる基本的な部品や加工技術がこの世界にないからだと言う。


 例えば自動車を作るには、エンジンやタイヤやスピードメーターなど何万点もの部品が必要だけど、そもそもエンジンの高熱に耐える合金もなければ、ピストンが隙間無く動く形状に加工する技術も無い。そしてその温度を測る計器も無い。


 最初はネジ1個、そしてドライバーやペンチといった工具から開発が必要で、20年かけてようやく産業革命に手が届くところまで来たんだそうだ。


 すごい執念だよな。

 そもそも剣と魔法の中世風ファンタジー世界に転生するには、この人は合ってなかったんじゃないか?って気もするけど。


 俺たちの会話はみんなにはほとんど理解不能だったみたいだけど、それでもメカ好き女子のノルテと、任務に関わるかもしれないマギーとブッチは、真剣に聞いていた。


 馬車はやがて、陸側に石造りの建物が、そして海側には機動船だろう、大きな煙突を備えた巨船が、何隻も停泊しているのを望む場所で止まった。


 ここからは重要施設だな。

 城壁と言ってもいい高さの壁が長く伸び、そこに最初のゲートよりずっと警備が厳重なゲートが設けられている。なにか監視カメラみたいな、魔法具らしきものが取り付けられているし、壁の上には見張り台があって、そこに道中でも見たガトリング砲みたいな多銃身の大型銃が据え付けられている。

 御者と護衛の兵が、ゲートの衛兵となにか話してる。


「あれかしら、ミフルダテス、よね?」

 ルシエンが声をあげた。


 ゲートの向こうの岸壁に接岸している一番手前の巨船だ。

 この距離でも見上げるような船だから、角度的に甲板は見えないけど、船腹にいくつもの狭間が切られ、そこから大砲の筒が覗いている。

 こっち側の舷側だけでも十門以上あるだろう。


 その大砲の下、深紅に塗られた船体に、金色の装飾文字でなにか描かれている。

 《ミフルダテスⅢ》・・・まちがいなくパルテア皇帝の名だ。


 テビニサの《海雷》よりさらに一回り大きいだろう。これがマギーとブッチが乗り込む機動船だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ