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第189話 街道をゆく

二百年前に魔王と戦った勇者の史料を展示している記念館は、正直期待外れだった。俺たちは先へ進むことにする。

 約二百年前に魔王と戦った勇者サーカキス。

 その勇者が転生した地であり、史料が残されていると評判で、国内外から大勢の観光客を集めているサーキアの街だったが、行列に並んで入った勇者記念館は正直、期待外れだった。


 そして・・・

「思ったほど情報は無かったね」

「観光地だったねー」

 ブッチとマギーが落胆を隠さず結論づけた。


 記念館を出た後は、これまでと同様二手に分かれ、近隣の神殿と冒険者ギルドを訪ねた。


 だが、サーキアの神殿は比較的新しく作られたものだそうで、古い史料などは二百年前の大戦で焼失して、手がかりになるようなものは見つからなかった。


 冒険者ギルドの方はさらにがっかりだった。

 一番多いクエストが、「観光地めぐりの護衛」と「勇者戦隊アクションショーの出演」という、なんとも言いがたいものだった。

 この街周辺は比較的治安がいいこともあって、本当に冒険者らしい冒険者はそもそもあまり多くないそうだ。

 勇者サーカキスも冒険者だったらしいけど、今の様子を見たらなんて言うだろう。


「二人はこれからどうしたい?」

 俺たちは研究者であるマギーとブッチの調査活動の護衛、という立場だから、二人の意向を聞く。


「うーん、次の定時連絡が新月の日でしょ、そこで帰還指示が出たらガリスに向かうことになるわけだから、明日からはなるべくガリスに向かう方向で移動しながら、途中の街ではこれまで通り調査はする、って感じ?」

「うちも賛成。とりあえずその途中で首都にも寄れるよね」


 西方街道はここから北東へ向かい、メウローヌの首都ベレールを経てガリスに至るから、道なりに進もうってことだ。

 ちなみに、帰国指示がなければさらにその先へ、街道は最終的にレムルス帝国へと続いている。


 と言うわけで、今夜一泊だけサーキアで泊まって、明日の夜明けと共に街道を進むことにした。

 宿屋はたくさんあったが、中程度の所にした。2人部屋が基本のようだったので3室押さえたんだが、朝食だけしか付かないのに一人あたり銀貨2枚もした。普通の倍以上だよ、観光地価格だな。


 夕暮れまではまだちょっと時間があったので、ブッチとカーミラ、ノルテは城壁や街の警備体制を見て回る、という名目の食べ歩きに行くみたいだ。

「夕食も食べるんだから、ほどほどにな」


 俺とルシエンは、マギーが市壁の外で薬草の採取に行きたいっていうので護衛に付き合った。薬草や薬の歴史を調べるのもマギーの調査テーマだから。

 メウローヌは人口も多いのに自然も豊かで、気候に恵まれてるからか薬草の種類が豊富だそうだ。


 植物に詳しいルシエンと一緒だから、すぐに何種類もの珍しい薬草が見つかった。

「これはヨイアカザ、こっちはイチイモドキ・・・これ、ミツオウレンの亜種かな」


 街からほど近いなんの変哲も無さそうな空き地で、すぐにしゃがみ込んで熱心に葉を調べたり、根を掘ったりしてる。


 俺もマギーから特徴を聞かされ、目当ての薬草を探す。

 中腰になって植物採集をするのは、けっこう重労働だ。


 何種類か集めると、今度は小川がある方に向かい、水辺でまた何か摘んでいる。

「シロー、それがイワヒカリツツジよ。葉っぱの形がちょっとだけ違うでしょ」

 マギーに教わって段々見分け方がわかってきた。


「そろそろ夕暮れよ、城門が閉まっちゃうとまずいわよ」

 ルシエンに言われて、ようやく手を止めた。


「あら、もうそんな時間?ごめんごめん」

 マギーは夢中になって時間が経つのも忘れてたようだ。

 そういえばベスと薬草採りに行った時もこんな感じだったなぁって思い出した。


「おかげで東方じゃ見られないものもずいぶん見つかったわ」

 メウローヌは昔から薬草の産地として知られていて、自生している原種も多いそうだ。


 ノルテたちと合流して、宿のそばの小さな居酒屋で食事にする。

 あっちの世界で言うとフランスの家庭料理みたいな感じで、一見素朴なんだけど豚肉みたいな肉の料理も色とりどりの野菜をゆでたものも、そしてソースも美味しかった。


「さすが美食の国だよねー、アルゴルも悪くはなかったけど、メウローヌは何を食べても外れが無いし、うん、パルテアにこの味出せる店があったら大繁盛まちがいなし?」

 ブッチは祖父母が西方の森林地帯出身らしく、今も味覚はわりと西方寄りみたいだ。

 ノルテは店員に作り方とかを聞いてるけど、やっぱりソースは店独自のこだわりがあって簡単に真似できないようだ。



 宿に戻って、きょうの同室はルシエンなんだけど、マギーがこっちの部屋に来て、きょう取ってきた薬草を使って、3人で色々薬作りを試してみた。


 俺はこれまでの迷宮とかで手に入れた魔石を結構ストックしてるので、それをわけてあげるかわりに、マギーから薬作りを習ってる。最近はルシエンも参加することが多い。

 魔法があるとあまり使う機会はないけど、簡単な傷薬や体力回復、そして基本的な状態異常の治療薬とかは、原料になる薬草を正しく知っていれば誰でも作れるようになる。


「・・・MP回復の薬は、今回の薬草からじゃ出来ないんだよな?」

「あたりまえでしょ、MP回復は“秘薬”の類だからね、かなりレアな薬草が何種類も必要だし、魔石の種類も問われるって言うよ。うちの父さんは作ったことがあるって自慢してるけど」

 たしかに、メナヘムは、“HPとMPを一定確率で完全回復する、かもしれない”なんて薬を店に置いてたな・・・


 あれ?でも、MPだけの回復薬ならベスは普通に作ってたぞ。

 そのことを伝えると、マギーが驚いた顔をした。


「うそっ!?MP回復薬って、レシピは何通りかあるって噂だけど、どれも秘伝扱いだよ。そのベスってコ、本当にそんな街の近くで採れる薬草だけで作ったの!?」

 残念ながら、最後のかけらをこの間、海に落ちたみんなを救うときに使っちゃったから、マギーに現物を見せることはできなかった。

 それに、俺はあの時、ベスに言われるとおりに作業しただけで、薬草の名前とか形とかをちゃんと覚えてなかった・・・


「えーっ、そんな大事なことをなんでちゃんと覚えてこないかなぁ?」

 そんなレアスキルだと思ってなかったからな。

 ベスってすごかったんだ、って言うか、レシピは多分ベスのお祖母ちゃんが教えたんだろうな。


 いつか機会があったら、スクタリにマギーを連れていってベスを紹介するよ、って話をした。薬生成のスキルや知識は全体としてはマギーの方が上だから、ベスも得るものがあるんじゃないかと思うし。


***********************


 翌朝から、俺たちはまた馬車での移動を開始した。

 亜人排斥をはじめたアルゴルから急いで逃れた時と違い、メウローヌ国内ではそこまで急ぐ必要はない。


 通過する町や村で、名物やおいしそうな果物があれば買って食べ、珍しい薬草を見つけたら摘んで記録し、冒険者ギルドや歴史がありそうな神殿があれば立ち寄る、といった感じで進み、夜は無理に野営せず、夕暮れが近づけば途中の街で泊まった。


 それでもメウローヌは平地が多く、何より西方街道がよく整備されていることもあって、積み荷も無く軽い俺たちの馬車はかなり速いペースで進む。


 4日後の新月の日の午後には、首都ベレールまで20クナート、40km足らず近郊の街、ポレルにたどり着いた。


 無理をすればベレールに入れたかもしれないが、ここで泊まろうとしたのは理由がある。ベレールは盆地で、それを取り巻くように丘陵地帯があり、ポレルはその丘の上の街で見晴らしがいいのだ。


 今夜はまたベハナーム教授と連絡を取る予定の日だから、超遠距離の魔法通話を結ぶのに条件の良いところに泊まりたかったんだ。


 日があるうちにポレルの冒険者ギルドに顔を出し、見晴らしがいい所にある、おすすめの宿屋を紹介してもらった。


ポレルのギルドは小さいものの、近くに迷宮もひとつあるとのことで、いかにも冒険者ギルドらしく討伐や護衛のクエストが色々掲示されてた。うん、サーキアが例外なんだよな、安心した。


 そして、戦争の続報も入っていた。

 なんでも、イスネフ教を国教化し亜人排斥を打ち出したアルゴルに対し、メウローヌとレムルス帝国が相次いで非難声明を出し、緊張が高まっているらしい。


 アルゴルとメウローヌの国境はまもなく閉鎖されるんじゃないかとか、ひょっとすると戦争になるおそれもあるんじゃないか、と聞かされた。

 これは早めにメウローヌに入っておいてよかったみたいだ。



 <風見鶏亭>という宿は、希望通り丘の上の東側が開けた所に建っていた。赤く塗られた風見鶏が屋根の上に立っているのが目印だ。


 比較的大きな3階建てだったので、東側の上の方の部屋に泊まりたい、と言うと3階は満室だったが2階の一番東の部屋から並びで取ることができた。


 連絡を試みるのは日没の半刻後ということになってたから、先に夕飯を一階の食堂で摂ってから隅の部屋に集まった。


「ベハナーム先生、聞こえますか?こちらマグダレアです、現在メウローヌのポレルという街にいます・・・」


 先日と同じように、MP供給役の俺と通信機であるリナ、そして通話者のマギーが横並びで手をつないで座っている。

 きょうの宿はそんなに上等な部屋じゃ無いから、ソファーはなく、座ってるのはベッドの上だ。


 呼びかけを始めてから2,3分で、パーティー編成してる俺たちの脳内に、ノイズ混じりの波動が流れはじめ、やがて不意にチャンネルがあったような感覚があった。


《・・・レア、聞こえるかね。こちらベハナーム、感度は良好だ》


 半月ぶりの遠話で聞こえてきたベハナームの声には、これまでにない緊張感があった。

 いやな予感に、俺たちは顔を見合わせた。

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