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第20話 領内掃討戦③

領内掃討戦の2日目、夜明け前に俺たちは出動した。新たに得たスキルは役に立つんだろうか。

 夜明け前に点呼がかかり、俺たちは再び出動させられた。


 昨日と同じ脇街道、わずかな松明の明かりでトリウマを進ませる。一応、騎乗スキルも獲得したものの、暗闇の中をトリウマを操る腕前などもちろんなく、結局、トリウマ任せだ。


 一列で進むトリウマは、正規兵と俺たち奴隷を合わせて全部で20人。カレーナやセシリーの姿はなく、昨日先発隊の指揮をしていた、ザグー騎士長だったか、がっしりした体格だが髪とひげに白いものが混じった、初老の騎士が率いている。

昨日は犠牲になったり回復呪文で治せない大けがをした者もいたようだし、領兵はメンバーが少し入れ替わっているみたいだ。


 トリウマが勝手に前について行ってくれるので、配給された黒パンを騎上でかじる。中に具が入ってるのがちょっとだけ嬉しい。これは何かの豆のペーストかな。甘みがある。元の世界で言うと、“うぐいすあん”に近い味覚だ。


 道中で『地図』スキルの内容がわかった。

 意識すると、脳裏に黒い画面が浮かんで、そこに自分が進んでいる、そして見えている範囲が地図として描かれていく。一種のオートマッピング機能だな。自分の位置が光点のようにプロットされている。

 そして、集中して『察知』を働かせると、存在を感じ取れた者はその地図上に別の小さな光点として示されるのだ。これは、なかなか便利かもしれない。


昨日と同じ泉の所に着くと、弓や斧を持った男たちが20名ほど集まっていた。

 ギルドの冒険者たちが手を引いてしまった代わりに、領内の狩人や木こりたちに声をかけて集めたらしい。

 彼らにとっても、山林を魔物がうろつくようでは安心して生業を営めないから、領主が兵を出すのにあわせて、一斉に魔物狩りをしようというわけだな。


 ザグー騎士長らが、狩人と木こりのリーダー格の者たちと、話し合っている。担当する区域や段取りを打ち合わせているのだろう。

 その間に俺たち下っ端は泉の水で喉を潤す。


 まもなく呼び集められて、また班分けされた。

 俺はベスと共に、またムハレムの率いる班だ。しかし、他は領兵はおらず、狩人と木こりの半数、10人ほどが一緒だった。


「私たち、魔猪を狩るみたいです。領兵の主力がコボルドのねぐらに向かうって」

 ベスが教えてくれた。

 

 魔猪はLV1~3と低めなので、防具もつけていない民間の連中にまかせよう、ということらしい。それを指揮するのに、二班に分けてそれぞれ2,3名の兵がついているということだ。

コボルドはLV2~5と、もう少し強くて、オークよりは少し下、という感じらしい。


 しかし、強い魔物の方に、唯一の魔法使いを連れて行かなくていいんだろうか?


 もっとも昨日までベスはレベル1だったから、主力組とは見なされてないんだろう。本人もオドオドしていて、兵たちの間で軽んじられてる雰囲気だったからな。

 領主が女でも、軍隊は男尊女卑的なのかな。近代民主主義なんて、まだ知られてない世界だろうし。


 ちなみに、ベスは一晩でレベル3まで上がっていた。

 オークリーダーLV8を単独で倒したことになるから、相当な経験値が入ったんだよな。それを騎士長らはまだ把握していないのかもしれない。


 俺たちと、猪狩りのもう一班は、昨日オークの巣に向かったのとはまた別方向に、それぞれ森の中を進んでいく。


 スカウトは同行していないが、道案内は狩人たちがしている。自分たちの狩り場の山に、魔物が出るようになったと言うことで、かなり詳しく把握しているらしい。

 それはいいんだが、彼らは山になれているし、鎧も無い軽装なので足が速い。

 ようやく薄明かりが差してきたが、まだまだ暗いし、松明を消してしまったので足下が怪しい。しかも、昨日以上に急な上り坂で、本格的な山登りだ。


 きつい。

 小柄なベスが弱音を吐かずに歩いてるのに。地図スキルは自分が踏破した周辺少しの範囲までしか描かれないから、どこが終点なのかはわからない。


 気づくと列の最後尾になってしまったが、それでもなんとかついて行けたのは、『HP増加(中)』になったおかげかもしれない。

 あくまで「増加」であって、元々の体力が低い俺のようなのは、ほどほどにしかならないんだろう。がっかりだ。


 夜が明けた頃、ようやくムハレムから休止の指示が出た。


察知スキルで、なにか獣の気配がするが、木立の向こうにはなにも見えない。

 いや、見えた、というか、感じた。

 

 藪が特に深い、あのあたり。藪が盛り上がって、そこに穴が開いているのが、脳裏で光が明滅するように目立っている。

 これはスキルか。


 どうやら、こちらは『発見』スキルかな。察知のように人や魔物の気配を感じるのではなく、無生物の特別な「物」を見つけ出すスキルか。

脳裏に浮かべた地図に、その藪の盛り上がった場所が、赤くマークされた。


 夜行性の魔猪は、明け方にはこの巣に戻り休んでいるらしい。


狩人たちが、足音を忍ばせて展開する。風下から半包囲するようだ。俺とムハレムもそれに加わる。

 革袋からリナが顔をのぞかせている。見つかるなよ。


 そして、木こりたちはそろそろと、木々の間を縫って風上側に向かう。ベスはそちらを率いている立場だ、一応。でも体格のいい木こりたちについて行くベスは、子どもみたいに見える。


すると、においを感じたのか、藪の穴の中から魔猪が姿を見せた。


 でかい。

 猪というより、小熊ぐらいのサイズがある。


 黒っぽい毛並みで、目が赤い。これは確かに普通の猪じゃない。魔物だ。長い牙は俺たちの持つ剣ぐらいありそうだ。

 これで<魔猪LV3>か。

オークと同じぐらいってことになるが、単体ならオークより強そうに見える。


 そいつが、フゴフゴとまわりのにおいを嗅ぐ仕草をして、警戒感をあらわにする。続いて2,3頭、一回り小さな魔猪が出てきた。こっちは灰色っぽい。LV1と2がいるが、LV1でも、一対一ではあまり戦いたくない体格だ。


ムハレムと狩人の頭が皆を集めて小声でした話では、最初に出てきたのがリーダーの雄で、後から出てきたのが雌たち、ということだ。群れは一夫多妻のハーレムで、今が繁殖期らしい。


 風上への配置が完了した木こりたちが、一斉にリーダー雄に向かって威嚇の声を挙げる。

 逃げるか?と思ったが、魔猪は木こりたちの方に、吠えながら向かっていく。


 木こりたちは正面に立たないようにして突進を避けつつ、複数で囲んで斧で切りつける。だが、牙を避けるため距離を取りながら、なので、せいぜいかすめる程度だ。

そこにベスが、少し離れた所から魔法で攻撃する。

 火の玉が昨日より大きく、スピードも増しているようだ。同じ魔法でも、レベルが上がると威力とかは増すんだろうか?だが、相変わらずコントロールは今イチで、相手の動きが素早いのもあるが、体をかすめてやけどをおわせてはいるものの、直撃とはいかないようだ。


 一方で、でかいのが風上に向かったと同時に、一回り小さい灰色の魔猪たちは、さらに小さい、普通の子豚ぐらいの奴ら多数を引き連れて、反対方向、風下に走り始めた。

 小さいのは、しましま模様がある。やっぱりウリ坊だ。


 どうやら、敵に襲われると、群れのリーダーが戦っている間に雌や幼体を逃がす、という性質らしい。

しかし、こっちには狩人たちが既に包囲網を布いて待ち構えている。

 ムハレムと俺もこちら側だ。


 ムハレムが合図を出すまでも無く、木の陰に身を隠していた狩人たちが、一斉に矢を放つ。

 魔猪たちの悲鳴があがる。

 何本かは当たり、倒れた幼体はいたが、成獣の方は矢が刺さったまま突進してくる。


 俺も弓を渡されたんだが、全く当たらない。あきらめて、「焼き固め」て硬くしたセラミックのボールを、次々投げつける。

 うん、これで倒せるなんて思っちゃいないよ。ただ、逃げる方向を変えさせたいだけの威嚇だ。


 そして、包囲網を逃れようとする魔猪がいると、その前方を塞ぐように粘土の壁を出現させる。足が止まった所に、再び矢が飛ぶ。

 その繰り返しで、徐々に群れを削った。


 だが、猪の足は人間より速いし、藪が深い所に入られると、姿がよく見えなかったり、矢が届かなかったりもする。

 ムハレムと俺の間を一頭が走り抜けようとした。ムハレムも弓を持っていたため、接近されると剣を抜くのが遅れ、すり抜けられた。


 俺は思わず叫んでいた。

「リナ、大きくなれ!女戦士だ!」


革袋から飛び降りたリナが、そのまま鎖帷子姿の女戦士になる。

 ムハレムが驚いた声をあげる。

「セシリーどの?」


 うん、俺の脳内イメージです。女戦士の格好をさせようと思った途端、セシリーの姿そっくりになってた。他に具体例を知らないからね。

 鎖帷子は、実のところプニュプニュのソフビ製でなんの防御力も無い、見かけ倒しだ。だが・・・

 

「粘土!焼き固めた剣になれ!」

 リナの手の中に、硬化セラミックの剣が出現する。こっちは本当に切れ味がある。


 振り方だけはけさ練習した剣を、リナが正面に突進してきた魔猪に振り下ろす。


 突然目の前に現れた人の姿に驚いたか、魔猪が方向転換しようとする。

 そこに俺がようやく斬りかかる。


背中からたたき斬るつもりで振り下ろした剣は、硬い手応えでザクッと食い込んで止まった。

「フギー!」

 と鳴き声があがる。俺は反撃が来るかとあせる。

 

 そこにリナが反対側から胴を切りつける。

 もちろん素人の女子だから、たいしたダメージはないはずだが、俺に向かっていた魔猪が向きを変える。

 そこに、俺も再度切りつける。今度はこっちを向こうとする。


 的を絞らせないように二人?がかりで攻撃し続けることで、なんとか倒すことができた。

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