表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/503

第2話 クズスキル

目が覚めた俺の前には不思議な祠があり、そこには、リ○ちゃん人形のようなお人形が。神様から授かったボーナススキルを確かめてみた。

 目が覚めると木漏れ日が差していた。背中が痛い、地べたに転がっているようだ。

 体が半ば横向きなのはリュックを背負ったままだからだ。○ニクロの安物のダウンにジーンズ。朝、うちを出た時のままの格好だな。やっぱり夢オチか。


 それにしてもここはどこだ?浪人してからは正直言ってたまに飲んではいたが、居場所がわからなくなるぐらい泥酔したことはなかったし、そもそもさすがにセンター試験前夜に飲むほど人生捨ててはいなかったつもりだ。

「!」

 そうだよ。センターの会場に向かってたはずだ、今何時だ!?腕時計は、している。

 時刻は、12時!?


 オワタ。。。俺の人生は終わった。

 私立に行く金なんてあの親権者は絶対出さないし、そもそも浪人したあげくに、2度目の受験で遅刻してゲームオーバーとか、どんだけダメダメなんだ俺は。


 真っ黒な感情に押しつぶされてしばらく呆然と横たわっていたが、徐々に記憶が戻ってくる。

「うちの駅からシブヤまで出て、乗り換えようとして地下鉄のホームに出た。

 それは間違いない。それで、あの母子を助けようとして、はねられた・・・」


 夢と言うにはあまりにも記憶が鮮明だ。どこまでが現実なんだ?

思考がぐるぐるループする。


 ともかく身を起こしてまわりを見ると、俺は未舗装の小径の脇にいる。

 小径の片側、俺がいる方には広葉樹の森。もう片側は緩やかな斜面が下っていて数十メートルのところに小川がちらっと見える。川沿いに小径が走っているわけか。


 獣道に毛がはえた程度のでこぼこ道で、乗用車だってすれ違えないほどの幅しかない。

どこの田舎なんだ。それとも登山道とか林道みたいなものかな。そこまで考えて、あの夢の中の「剣と魔法の世界」とかいうエセ女神の言葉を思い出した。


「本当に転生したとか、んなわけないよな。この服装だし・・・」

 ポケットには財布の感触もある。正直何を信じていいかわからない。


 ふと、小径の脇、俺が座り込んだすぐ近くに小さな祠らしきものがあるのに気づいた。これは何だ?


 古い板葺き屋根の下に、道祖神のような小さな石像があった。

 よく見るとあの女神に面影が似ている気もするが、そんなに精巧に作られたものでもないのでなんとも言えない。

 石像の前には賽銭箱的なものなのか、やはり古くて下の方にはこけが生えた壺が置かれ、その横に場違いなものが二つ、真新しい20cm程の人形と、そしてこれは粘土の塊だ。

 “お人形遊び” “粘土遊び”・・・


 まさかという気持ちとやっぱりという気持ちでドキドキしながら、慎重にその二つに両手を触れた途端、また妙な効果音がどこからともなく流れ、祠の石像が光った。


 そして、光がおさまると今度は俺の左手がうっすら光を発しているようだ。

 手のひらを見ると、ロールプレイングゲームのキャラクターのステータス画面みたいなものが、浮かび上がっている。


 書かれているのは、

  『ジョブ 冒険者(LV1)

   スキル お人形遊び(LV1)

       粘土遊び(LV1)

       判別(初級)』だと。


 ・・・夢じゃなかったのかもしれない。


 左手に浮かぶステータス画面に右手で触れてみる。

「冒険者(LV1)」をひとさし指でタッチすると、

『初級職 獲得条件 生誕地の外へ旅立つ 固有スキル 判別(初級)』と文字が浮かぶ。

 文字・・・日本語に見えるがどうなんだろう?


 それと、「お人形遊び」と「粘土」の他に、「判別(初級)」というのがあるのは、この冒険者が持つ固有のスキルやら能力ってことか。(初級)がどの程度使えるのかは微妙だが。


 「獲得条件 生誕地の外へ旅立つ」というのは定義としては曖昧だが、まあここが異世界なら、当然生まれた場所から離れているわけだからな。

 あるいはこの世界の住民でも、生まれた村や街から外に出れば資格ができるのか?

だとしたら楽な条件だが、そもそも冒険者なんて名乗ること自体は、誰でもできそうだしな。


 続いて、ステータス画面の「お人形遊び(LV1)」に触れると説明が浮かんだ。


 なになに、

   『お人形遊び(LV1) “お人形とおしゃべりできる”』

 だと。心の中でorzの姿勢になった。


 うそだよね。

 なに、なんなの?この、もうすぐ19歳の男がやったら変質者としか思えないスキルは。ってか、スキルでもなんでもないだろ!


<あなた、変質者なの?>

 と独語したら突然少女の声がした。まさかのまさかだが、この人形がしゃべったのか?


 人形はいわゆる“リ○ちゃん人形”みたいなやつだ。

 ピンクのちょっと時代がかったワンピースを着て、金髪と茶髪の中間ぐらいの肩まであるストレートヘア。

 年齢設定的にはローティーンの少女体型で、リ○ちゃんよりは少し上か。

 子供の頃、近所の姉妹が持ってて遊ぶのに無理矢理付き合わされたからなんとなく覚えがあるだけで、俺がそういう趣味なわけではない、断じて。


「お、お前がしゃべったの?」

<そうよ。スキルレベル1は人形とおしゃべりできる機能よ。

 表示されたはずだけど、わからなかった?>


 ボカロで合成したような声だが質問にちゃんと答えてきた。会話AIみたいなものか。

 本当に神様が用意したアイテムなのかどうかは別にして、偶然捨てられていたただの人形ってことはなさそうだ。


「わかったもわからなかったも、そりゃあ・・・」

<わからなかったの?あなた、頭が悪い人?>

 ディスられてるぞ。

 人形とおしゃべりできるって、文字通りなのか。

 いや、とりあえず会話ができる相手がいるなら聞きたいことがある。


「ここはどこなんだ?」

<知らない>

 即答だ。


「え~っと、じゃあまず簡単な質問にするか。お前の名前は?」

<あなた、まだ私に名前をつけていないよ。記憶力がとても低い人なのかな?

 それと、人に名前を聞くときはまず自分が名乗るものじゃないかしら。

 非常識よね>

 いちいち毒舌だ。それとも年齢的に反抗期とかいう設定なのか。


 確かにペットなら飼い始める時はポチとかタマとか名前をつけるけど、人形も同じか?

どうする。見るからにリ○ちゃん人形っぽいが、そのままっていうのも何だな。


「じゃあ、お前の名前はリナだ。リナ。それと、俺の名前は史朗。まあ、シローおにいちゃんとでも・・・いや、なんでもない」

 言いかけてあせった。女の子の人形に名前をつけるとか、人形にお兄ちゃんと呼ばせるとか、本当にアブないやつだ。こんな所を誰かに見られたら、また引きこもりたくなりそうだ。


<個体名称はリナ、登録しました。名付けにより個性化学習システムが起動します>


 なんだかそこだけ、機械的な口調になると共に人形がかすかに光る。

 それがおさまると、気のせいか顔に表情が生まれたように感じた。そして口調もずっと自然になった。


<わたしはリナ。よろしくね、シロー>

 お兄ちゃん呼ばわりも恥ずかしいが、ローティーンっぽい少女がため口なのも微妙だな。

だが、それより確かめたいことがある。


「リナ、ここは異世界なのか?俺は死んだのか?」

<知らない。あなたが知らないことを知るわけないでしょ>


「お前はあの神様が用意した人形なのか?」

<知らない。それと初対面の女の子に何度もお前お前って、感じ悪いよ>

 とりつく島もない。

 そして機嫌を損ねたようだ。仕方ないだろ、コミュ障なんだから。自慢じゃないが、クラスの女子と口をきいたことだってほとんどないぞ。どうしろってんだ。


 そしてどうやら、こいつは俺が知っていることしかしゃべれないようだ。

 そりゃそうだな。人形遊びって一人二役で人形の台詞をしゃべるものだから、普通は自分の知ってることしか会話できないよな。

 でも、そうするとこいつは知恵袋にもならないし、本当に何の役にも立ちそうにないな。

 くそスキル確定だ。


 気を取り直してもう一つのスキルを試すことにする。


 ステータス画面の「粘土遊び(LV1)」に触れるとこちらの説明は、

 『粘土遊び(LV1) “粘土を生み出せる(MP消費)”』。


 さらに斜め下を行ってるぞ。なんの役に立つんだ?これ。


「粘土」

 とか唱えてみる。・・・驚いた。目の前に一握り分ぐらいの粘土の塊が出た。


 さわって見るが本当にただの粘土だ。うん、保育園の時に遊んだ油粘土だな。

わりとずっしり重くて、乾いて硬くなることがないから何度でも遊べるが、手がちょっとくさくなるやつだ。バナナの形にしてみる。このへんにしておくか。


 色々試してみたところ、声に出さなくても念じただけで粘土が瞬間的に出現する。

 手のひらの上でも目の前の地面でも、2,3メートルの範囲までは強くイメージすれば出せるようだ。

 でも形は球形とか四角とか単純な形のものしか出せず、自分の手で形成しなくてはいけないようだ。

まあ、それが粘土遊びだからな。

 種類は油粘土だけでなく、具体的にイメージすれば色んな色の小麦粘土とか、乾くと固まる紙粘土とかも出せた。

 出す量も自在だが、大量に出したり何度も出すとなんだか頭が疲れてきて集中できなくなってきた。

 これが“MP消費”ということか。


 ぐったりした俺の目の前には、いつの間にか雪だったら“かまくら”が作れるぐらいの粘土の山ができていた。ともかく、創り出せるのは本当に粘土だけだ。鋼鉄の剣とか宝石とかを生み出せるならともかく、粘土をいくら大量に出せてもな。


 これはもうスキルでもなんでもないだろ。思わず天に向かって叫んだ。

「リセットボタンはどこだぁ~! 神様~!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 改行が下記のようになってました。仕様かな? 〉<あなた、まだ私に名前をつけていないよ。記憶力がとても低い人なのかな?  それと、人に名前を聞くときはまず自分が名乗るものじゃないかしら。  非…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ