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第184話 玉手箱

聖なる島と言われていたキャナリラの真の姿は、地下から汲み上げる魔力を利用して運営される、享楽の街だった。バブル末期のディスコのような場所に誘導された俺たちは・・・

「夢だったのかな・・・」

「そう思いたいわ」


 俺たちはまた、洋上をセラミック船で漂っていた。


 突如全員で海上に投げ出され、それからまた3日前と同じように・・・いやもう何日前だったか、本当にあったことなのかさえ、はっきりしないが・・・船を出して、何とかみんなを救出して、今度こそ完全に疲労とMP枯渇でぐったりと船底に横たわり、ただ流されていた。


 この前と違い、セラミック船をイチから創ったわけじゃなく“とっておく”で収納しておいてよかった。そうでなかったら、本当におしまいだったかも知れない。



 あれから・・・


 昔の映像で見たバブル末期のジュ○アナのお立ち台みたいなところで、イケイケなお姉さんたちが扇子を振って踊り狂い、そこに群がる男たちと熱い視線を結んでは次々にどこかへ消え、顔ぶれは入れ替わっていった。


 どうやらこの“チャンピオン大会”っていうのは、キャナリラの男と女の乱痴気パーティーの場で、この夜だけは互いの素性もパートナーも関係なく乱れ狂う、言わば閉ざされた島の中で新たな人間関係を生み出すための無礼講、そういう場らしいって気づいたのはしばらくたってからだった。


 会場の空気にも振る舞われる飲み物にも媚薬成分が混ぜられ、さらに範囲魔法がかけられていたらしく、異常にエロい雰囲気が盛り上がり、気づくとフロアの隅の方、わざわざ薄暗くなってる席の方では、ひと目も気にせずコトに及んでいるやつらも多数いた。


 で、目がとろんとしたエルフのお姉さんに抱きつかれて、ヤバっ、でももーいーかなぁ、とか意志の弱さを露呈しかけたところで、ルシエンとノルテが両側から抱きついて隅の方の席にダッシュで連れてってくれた。


 その時、視界の隅ではマギーとブッチもイケメンエルフたちといい感じになって人波の中に消えていった。


 そして、カーミラは・・・

 満月の夜の、欲望マックスの人狼をあんな状況に放り込んだら何が起きるか?


 いつの間にかお立ち台の上で、キレッキレのダンスを披露してたカーミラは、発情した表情で舌なめずりしながら、比喩で無く強烈なフェロモンを振りまいてた。


 足下にかぶりつきで詰めかけたエルフの男たちの間からは、

「うぉーっ!!」

と、怒号のような歓声と共に、「女王様っ」とか「バブリカさまの再来」とかわけのわからんコールが飛び交い、一曲終わった途端に男たちがカーミラに群がって足をなめたりエラいことになった・・・


 止めなきゃ、と思わなくもなかったけどあまりの人垣と熱気にそこまで行くことはとても無理だったし、なによりカーミラの快楽に染まった嬌声が響いてきた。


「これは行くとこまで行かないと止まらないわね」「そうですね」

 ルシエンとノルテと顔を見合わせ、手を出すのをあきらめた。


 それから・・・


 夜が明ける頃、干からびたミイラみたいに精を搾り取られた元イケメンたちが、何人も何人もフラフラになって、這うようにクラブを逃げ出していった。


 ルシエンによると、エルフの男は元々人間に比べても精力は強くないそうだ。

 でないと、やたら長寿なので子だくさんになりすぎてしまうから、自然の摂理なんだとか。

 そして、そんなエルフの男たちでは、満月のカーミラの欲望を満たせるはずもなく、乱痴気パーティーの末に群がった男たちは一人残らず、そして一滴残らず搾り取られた、らしい。


 俺は俺で、明け方までルシエンとノルテと仲良くしちゃって、みんな寝落ちしちゃったから、最後の方は突然転移させられ海の上に投げ出されるまで、恥ずかしながら何が起きたかわからなかった・・・


「あんたたちには本当にあきれたわ。ヤリ過ぎて強制送還された連中なんて、前代未聞よ」


 船縁に海の中から身を乗り出して話しかけてきたのは、あのセイレーンだ。


 カーミラの話だけじゃよくわからなかった状況を教えてくれたのは、実は彼女だった。


「そこの人狼は論外として、あっちの薬物乱用者もよ」

 疲れ切って眠り込んじゃってるマギーを指して、セイレーンが付け加えた。


 マギーは乱痴気騒ぎに便乗して、狙いをつけた一番のイケメン?をモノにするのに、自作の強力な媚薬を使ったらしい。

 ところがあの密集の中で、こぼしてまき散らしちまったもんだから、普段の“チャンピオン大会”じゃありえないぐらい、会場のやつらの乱れっぷりにも拍車がかかったようだ。


「キャナリラの管理システムは、《社会に大きな害を及ぼす存在》と判定した者を強制転移させて結界の外に飛ばしちゃうんだけど、あんたたちパーティー編成してたでしょ?それでその二人だけで無く、全員飛ばされちゃったみたいね・・・」


 カーミラとマギーが危険人物と見なされたことで、みんなキャナリラの結界の外に転移させられたってことらしい。


 まあ、そろそろ帰ろうか、なんて思ってから、結果的にはいいんだけどさ・・・


「ああ、こうなると知ってたらお土産を買っておくんでした。あの美味しいお菓子・・・」

「まあ一緒に作りましょ、材料はなんとなくわかったから」

 突然の帰還で出来なかったことをノルテは悔やみ、ルシエンがなぐさめる。


 カーミラは、船で落ち着いたらようやく昨夜のご乱行を思い出して、めずらしく落ち込んでいる様子だ。

「あるじ、ごめんなさい。カーミラへんになっちゃった、カーミラあるじのものなのに」


 カーミラが他の男たちと色んなことをしちゃってたのは、もちろん最初はすごく腹が立ったり嫉妬したりする気持ちがあった。

 でも、自分だってあの時はいつもと違って抑えきれない衝動にかられてたし、ましてや満月の人狼にとっては仕方ないと思う気持ちもあった。

 よく調べずに、あんなところに行った俺が悪かった部分もあるし・・・


「あれはみんな、あの場所の悪い魔法にかかったせいだから、気にするな」

 俺は船底に横たわったまま、手を伸ばしてカーミラとつないだ。カーミラがその手をいつもよりそっとなめる。



「あら、大丈夫よ。お土産なら用意してあるから、はい」

「え、お土産くれるんですか?」

 ノルテがびっくりしながらセイレーンの手から受け取ったのは、なぜか漆塗りみたいで紐の掛かった立派な箱だった。

 

「はじめてキャナリラを訪れた記念に、素敵なものが入っているから開けてご覧なさい」

 あとアルゴルに戻るのはあっちの方角だから、と言い残すと、セイレーンは海坊主たちをお供につれて海の中に消えていった。


「まあ、なにかしらね」

「エルフの秘宝ってやつ?最後は意外に気さくで面倒見がいいところもあったねー」

 ルシエンとブッチがお土産の中身を楽しみにしてるけど、あの箱って、もろ《玉手箱》じゃん、だとしたらまずい気がする。


「クンクン、いいにおい、食べられる?」

「ちょっと開けるのは待ってくれ・・・」

「え?」

 ぱかっ。


「「「「「・・・」」」」」

 俺が止めるより早く、お菓子とか食べ物かも、と思ったカーミラとノルテが紐をはずして蓋をあけちゃった・・・


 ボワンッ・・・


「「「「「あ・・・」」」」」


 白い煙がモクモク立ち上りあたりを包んだ。

 そこに楽しそうに、最初に出会った時みたいなセイレーンの声が響いた。


《キャナリラの秘密を外部にもらさせるわけにはいかないわ。遅延発動型魔法で、この島での記憶をなくしてもらうわよ・・・では、こんどこそ本当にサヨナラ》


 その声も途中からよくわからなくなり、俺たちはまた意識を失っていた。




「・・・ご主人さま、ご主人さま」

 心地いいぱふぱふ感だ。

 これは、そうだ王都デーバだっけな。俺はもう奴隷じゃないから、これから冒険者になるんだ・・・ん?


「ノルテ!」

「あ、気がつかれましたっ、よかった」

 ノルテとルシエンとカーミラが心配そうにのぞき込んでる。その後ろにはマギーとブッチの姿も見える。


「俺が一番長く寝てたのか?」

「みんなさっき目覚めたばかりよ、特に気分は悪くない?ちゃんと私たちのことはわかるわね?」

 ルシエンが探るように問いかける。


「あたりまえだろ?キャナリラでルシエンを解放したことも、これからも一緒にパーティーを組んでくれるってことも忘れたり・・・忘れたり?あれ?」

 玉手箱を開けたら白い煙が出て、セイレーンは島での記憶を無くすとか言ってなかったか?


「やっぱり、シローも大丈夫だったのね」

「俺も、ってことは、みんなも?」

「カーミラ、忘れてないよ」

「はい、わたしたちは記憶を無くしたりしてません」

「そうか、ただの脅しだったのか、って、ノルテ、『わたしたちは』って?」

 3人が後ろにいるマギーとブッチの方を振り向く。


 二人とも、なにか要領を得ない顔をしてる。

「あ、その、なんの話をしてるのかな?」

「シロッチが溺れそうになったのを助けてくれたのは覚えてるんだけど・・・」


 どうやら、マギーとブッチの二人は、セイレーンが言った通り、キャナリラに関する記憶が完全に消えてる様子だ。

「でも、なんで二人だけ?」

「確信はないけど、おそらくこれだと思うわ」


 ルシエンが俺の目の前に右手を出した。薬指にはめた指輪にヒビが入ってる。

 これは、アンキリウムでメナヘムを助けたとき、もらった魔法の指輪だ、そうかっ!


 俺も自分の手を見る。サイズの関係で左手の人差し指にはめてた指輪がやっぱりひび割れてる。

 鑑定すると『こわれた指輪』って出た。

 たしかこの指輪、もらった時は『魔法防御力上昇(微)』とかって力があったはずだ。


 あの時、魔法防御力を持つ指輪をもらったのは、当時のパーティーの4人だけ。マギーとブッチとはまだ知り合ってなかった。だからか。

 おそらくこの指輪が記憶消去の魔法にレジストして、耐久力を超える魔力を受けて身代わりのように壊れたんだ。


 ひょっとしたら、その上に、パルテポリスでパーティーの証として4人で揃えた魔除けの力のあるネックレスも、いくらかはレジスト効果を加えてくれたのかもしれない。幸いそっちは壊れてない。


 マギーとブッチに、島であった出来事を説明するべきだろうか?と思ったけど、ルシエンが小さく首を振って止めた。

 まあ、アレを体験してない誰かに話したって“頭がおかしくなったの?”としか思われないような経験だし、エルフの“聖地”の実は聖地らしからぬありさまとかを、パルテアのエラい人たちに報告なんてされたくない、ってルシエンの気持ちもわかるかな。


 それに、聞こえてきたマギーとブッチの会話が妙だ。

「ねえ、あたし、ハトーリ師になにか報告することがあった気がするんだけど、なんだったっけ」

「えっ・・・あれ?マギーって、上忍ハトーリと知り合い?そんな話、うち聞いてたっけ・・・」

「もちろんじゃん。あたし忍薬の作り方とか習いに行って、行って・・・痛っ、あれ?あれ・・・」

 マギーが頭を抑えてる。


 たしかマグダレアはハトーリと面識はないはずだ。

 パルテポリスの薬屋で知り合った時、俺がハトーリに会ったと話したらうらやましがられた記憶がある。

 俺はルシエンと顔を見合わせた。


「えー、マギーがハトーリの所に行ってたとか、初めて聞いたよ?」

「そんな・・・薬の作り方だけじゃなくて、術のこととか・・・イタタっ、なんで?思い出しかけてるのに思い出せない」


(ハトーリに何か術をかけられてたんじゃないかな。で、そのことを思い出せないようにしてあったのが、記憶を操作する玉手箱の魔法の影響で解けちゃったのかも)

「おそらく、そんなところね・・・」

 リナとルシエンと、密かに考えをやりとりした。


 よくわからないけど、多分マギーは本当は以前からハトーリと知り合いで、なんらかの形であいつに操られていて、でもそれを本人が気づかないような術がかかってたんだろう。

 まあ、これまでの所、それで俺たちに何か不利益があったわけでもなさそうだし、マギーもこれで術が解けたなら、それでいいのかもしれない。

 ただ、やっぱりあの男は信用できないな。ゲンさんは悪い奴じゃない的なことを言ってたけど、悪意があろうがあるまいが要注意人物なのは変わりない。



 波に揺られながらリナのMPが回復するのを待つ。

 さすがに漁船が何時間もかけて来た海域だし、セラミック船を自力で動かして帰るのはキツすぎるから。


 ようやく、日が傾き始めた頃、転移できるだけの魔力が戻ったようだ。


 リナは試しにキャナリラまで飛べないか探ってみたけど、やはり結界のせいか、転移先がセットできないらしい。


「じゃあ、気を取り直して、行くよっ」

 リナの転移が発動するのにあわせて、セラミック船をタイミング良く回収する。


 次の瞬間、俺たちは再びアルゴル国際港・ジベリアスの城門前に出現した。


 フラつくリナをねぎらって革袋に戻してから、門衛の所に向かう。


 本当はギルドへのクエストの報告とか、俺たちが遭難したと思っているであろう漁協のボンデとかにすぐ連絡した方がよかったんだろうけど、さすがにみんな消耗しきってたから、翌日に回すことにした。


 荷物を預けた丘の上の高級宿は、幸い一部屋だけ空きがあり、俺たちは雑魚寝で泥のように眠った。

 半分以上は徹夜で乱行にふけったツケだから、文句も言えないけど。


***********************


 そして翌朝、冒険者ギルドを訪れた俺たちは、ギルドの中が以前来たときとは違う緊張とざわめきに包まれているのに気づいた。


「シローさん!あんたら、無事だったのか・・・ちょっとこっちに来てくれ」

 ギルドの職員が俺たちを別室の幹部のところに連れて行った。


 その幹部は、うちのパーティーのメンバーを見回すと、声をひそめて告げた。

「急いでこの国を出た方がいい、でないとあんたの連れの女の子たちの命が危ないぞ・・・」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] それがメインの作品じゃないからNTRタグを付けろとは言わんけど、前書きで注意ぐらいはして欲しい。
[気になる点] カーミラが乱交しちゃったこと [一言] ここまで読んで、この回だけはちょっと不快です。 異世界ではめちゃあり得る展開ですけどねー
[一言] NTRタグ入れと言われるぐらい文句でそうな話だと思った
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