第19話 等身大
俺は再び1日で3レベルアップの急成長を遂げたが、成長したのは俺だけじゃなかったようだ
寝ている間に藁をはねのけていたのか、肌寒くて目が覚めた。
まだ暗いが、就寝前と違い、目が闇に慣れたのか、うっすらまわりが見える。
やっぱりひどい筋肉痛だ。運動不足の浪人生が、こっちに来てから肉体労働しすぎだよな。寝床も悪いし、寝返りもろくに打てない狭さだし。
夢の中のレベルアップを確かめるため、再び藁をかぶって暖を取りながら、ステータス画面を見た。
LV11の盗賊の頭をソロで倒した経験値が大きいらしく、夢で見たとおり俺のレベルは7になっていた。また一晩で3レベル上昇、これは神様が言ってた「成長ボーナス」が付いてるおかげかもしれないが。
『ジョブ 冒険者(LV7)/奴隷(隷属:セシリー・イストレフィ)
スキル お人形遊び(LV5)
粘土遊び(LV6)
判別(初級)
剣技(LV1)
投擲(LV1)
HP増加(中)
察知
パーティー編成
地図
発見
騎乗(LV1)』
スキルもまた増えている。
最後の『騎乗』ってのは、トリウマに乗ったからだろう。初日にセシリーの後ろに乗せてもらった時はこのスキルは得られていなかったから、一人で乗らなきゃダメなんだろう。
あと、冒険者レベル上昇で得られたっぽいのは、『地図』と『発見』か。
レベル上昇と数がひとつ合わないんじゃ?と思ったが、よく見ると『HP増加』が(中)になっていた。これはまあ、より体力が増える、みたいなことか。HP増加(小)は今イチ実感がなかったが。
そして、『お人形遊びLV5』だ。やっぱり粘土の方が上昇が早いのか。タッチすると、表示内容で増えていたのは、『大きくなる』だった。
どういう意味だ。リナが大きくなるってことか?
藁の中、俺の脇で、眠っちゃいないんだろうがネグリジェ姿でマグロ状態のリナに、ためしに
「大きくなれ」
とささやいてみた。
! あせった。
等身大のネグリジェ女子が密着している。
すらっと脚が長くてモデルみたいなプロポーションだ。
パチッと目を開いて、
<なにする気?>
と聞かれた。
「い、いや」
しどろもどろだ。
狭い独房の中、俺とリナは必然的に抱き合うような格好になっている。こんな経験あるわけない。
リナは人肌と違って、ひんやりしている。そこは人形だ。だが、俺の方の体温が一気に上がった。
「うぅ、小さくなれ、なって下さい」
小心者だ。
もうDTは卒業したはずなのに。
無事、もとのサイズに戻った。リナが。
そういえば、大きくなったとき、衣装も一緒に大きくなるんだな。まあ、そうでないと困るが。
ハ○ー・フラッシュ!とか言われて衣装が一々はじけたら、サービス過剰だ。
すー、はー、すー、はー・・・深呼吸だ。おちつけ、俺。
俺はロリコンじゃない。そして、お人形遊びが趣味とかのイタいお友達でもない。だから平気だ。もちろんだ。
とりあえず、今は他のスキルも確認しないとな。
そうだそうだ。
ジト目で見るのはやめて。
『粘土遊び』の方は、やはり昨日MPを使い尽くすぐらい頑張ったからか、またも2階級特進だ。それでもジョブレベルほどは上がらないのが残念だが。
表示に触れると、増えた能力は・・・
“たっぷり粘土” そして、“焼き固める”だった。 なんだよ、これ?
“たっぷり粘土”は、文字通り大量に出せるようになるんだろう。
昨日みたいなことがあった時も余裕で出せるとか、粘土を生み出すMP消費の効率が上がるのかな。
“焼き固める、はどうもわからないが、土器とか陶芸とかのイメージかな。
そういえば、ニューセラミックとかファインセラミックとか言われるのも、一種の焼き物、陶磁器の仲間だと聞いたことがある。つまり粘土の仲間だと言えなくもない。
高温のエンジン部品とかもセラミックで作れると言うし、セラミック包丁みたいな硬い素材も見たことがあるな。
そうすると、これで硬化セラミックの剣、とかも作れるのかな・・・そう考えて、
風の○のナ○シカに出てきたような、セラミックの剣をイメージしてみた。
出来た。
ディテールの造作が甘いのは、俺のイメージが具体性に欠けているんだろう。かなり前の記憶だからな。
宮崎先生ゴメンナサイ。アニ○ージュ連載の漫画の方が好きでした。
少しずつ変形させて、5分ぐらいで納得のいく形になった。
どの程度、実用に耐える強度があるかは試してみないとわからないが、これ、リナに持たせるといいんじゃないか?
いや、コスプレ的に、じゃなく、少しはそれもあるけど、いやいや、実用的な武器として使えるかもしれない、ってことだ。
リナが大きくなっても、ソフビ製のなんちゃって剣じゃあ戦力にならない。本当にコスプレ大会専用だ。
それに比べたら、硬化セラミックの剣ならずっと丈夫だろうし、これで切りつけられたら絶対血が出るはずだ。
「リナ、この剣を振ってみろ」
他の連中に聞こえないようにささやいて、再び等身大にする。試してみると、「等身大」にも変えられる範囲があるようで、やろうと思えば最大で俺より頭ひとつぐらい長身にもできた。
とりあえず普通のJCサイズにしておく。
平面的にはカプセルホテル並の狭小地だが、天井高はあるので、等身大になってもJCサイズのリナがまっすぐ剣を振るスペースはなんとかある。
そして、夜明け前とは言え、剣を振る音や気配がするぐらいはかまわないんじゃないかと思っていた。というのも、既によそで、剣を振るう気配がしていたからだ。
察知スキルで探った感触では、グレオンだ。いくつか先の独房で、さっきから起きて早朝トレーニングみたいなことをしているようだ。
勤勉で頭が下がる。きっと戦闘奴隷が狭い独房の中でも体を動かしたり鍛錬するのは、そう珍しいことじゃないんだろう。体が資本だからな。
これが長年戦って生き抜く秘訣かもしれないが、俺だったら長続きしなさそうだ。
リナは独房の奥に立ち、剣道の素振りみたいにセラミック剣を両手で振り下ろす。
ヒュンと、鋭い音がする。俺に剣の腕前はわからないけど、フォームだけなら堂に入ってる。うんうん。リナは身体能力も高そうだからな。
少女人形が剣を振る度、シースルーのネグリジェの裾が翻るが、俺にはもちろん動揺など無い。冷静に馬の仕上がりを見つめる調教師の心境のようだ。
暗いから、なおさらリナの白い肌が際立つが、ラッキーとか眼福とか、思っていないぞ。
狭いからな、俺は安全確保のため、しっかり見守らなくては。
次回は領内討伐戦2日目に突入です。




