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第178話 森の小さな神殿で○○式を挙げました

なんだか、エルフの聖地キャナリラ・アマンは、想像していたのとちょっと違う印象だ。でも、ここにたどりついたら、ルシエンを奴隷から解放するって決めていた。

 キャナリラ島到着の翌朝、高級ホテルのスイートルームみたいな部屋で目覚めた俺たちは、ちょうどいいタイミングでやって来た美人エルフ・ビスカシアの案内でカフェテリアに向かい、美食の極致みたいな朝食をゆったり味わった。


 エルフ秘伝のパンと薄焼き菓子とジュースは、どれも何が原料かさえわからないのに美味としか言いようがなかった。


 ルシエンも、

「エルフの料理は森の恵みを魔法的に浄化して濃縮したもので、美味しいだけで無く栄養価も高いのだけど、ここまで見事なものはウェリノールの郷でも食べたことがないわ」

と感心しきりだった。

 

 ただ、ホテルの宿泊客が俺たちだけってことは無いと思うけど、カフェテリアにいた客は俺たちだけだった。


 それから、もう一人の案内役イケメンエルフのラノーラスが、敏腕秘書か執事みたいに、今日の予定を告げた。


「きょうはこれから専属のユニコーン馬車で神殿へおいでいただき、ルシエン様の奴隷身分からの解放手続きを致します。その後は、キャナリラの中央庁舎にあたる市民堂へお連れし、快適な当地ご滞在のための様々なご説明と共に皆様のご要望をお聞きして、以後最上のサービスをご提供致します」


 ユニコーンだって!?

 用意されていたのは、まさにあの、ファンタジー生物の代表格、一本角の白馬みたいなユニコーンが引く豪奢な箱馬車だった。


 御者はいない。ユニコーンはしゃべりはしないけど俺たちの言葉はわかるらしく、ルシエンがひとこと、

「じゃあ、神殿にお願い」

と声をかけると、迷うそぶりも無く駆けだした。

 

 スピードは普通の馬車とは比較にならないほど速く、乗り心地もよく、立体的でくねくね曲がった首都高速道路かディ○ニーランドのアトラクションか、ってなキャナリラの専用道路?を滑るように走った。


 キャナリラの街並みをちゃんと見るのはけさが初めてだ。

 島は緑が豊かで起伏に富み、そしてかなり大きいようだ。視界の届く限り緑の山々が続き、その間にいくつもの塔のような建物、そして海辺に近い所はワイキキみたいに多数の高層建築が集中している。

 

 人というかエルフは沿岸部に集まって住んでるんだろうか?

 専用道では何台かのユニコーン馬車とすれ違ったけど、箱馬車以外にオープントップのものもあって、そこでは妙に派手な格好をしたエルフの男女がいちゃついてたりした。

 操作しなくてもユニコーンが勝手に走ってくれるからか?それにしても、なんか俗っぽくて聖地って感じがしないよな・・・


 でも、そんなことより重要なのは、これから行く神殿での奴隷契約の解除だ。


 もしかしたら、これでルシエンとはお別れなのかもしれないから。


 ノルテと、カーミラまで、ちょっと緊張しているみたいだ。

 数ヶ月の間とは言え、これまでお互いに命を預けて一緒に戦ってきた仲間だから。ノルテやカーミラからすると、先に自由の身に戻るルシエンにかける言葉は「おめでとう」なんだろうか。

 でも、仲間がパーティーから抜けるのは寂しいよな・・・特にルシエンはパーティーのみんなの「お姉さん」みたいな役どころだったし。


 三人掛けシートが向かい合う形の箱馬車の座席に、けさは俺と向かい合う位置のルシエンを、左右からノルテとカーミラがはさんでいる格好だ。

 俺だけでなくノルテもチラチラと隣りのルシエンの顔を見てるけど、当のルシエンは何か物思いに沈むように、無言で窓の外の景色を眺めてる。


***********************


「汝シロー・ツヅキ、この者ルシエンの隷属を解除し、病めるときも健やかなるときも、これと共にあり、これを慈しむことを誓いますか?」


 あれ?なんかどっかで聞いたことがあるような誓文だなぁ、隷属解除ってこういう文言だったっけ。

「・・・は、誓います」

 ん?一瞬ルシエンがニヤリとした気がしたけど、そんなわけないよね。


 エルフの神殿は、森の中の巨木の影に枝葉のついた樹木によって形作られた、曲線的なフォルムの小さな建物だった。


 そして、ルシエンを奴隷身分から解放する立ち会いをしてくれる聖職者も、エルフなので僧侶というジョブではなく、ハイエルフのようだった。


 シルクエナンと名乗ったその男性(だよな?)は、緑色の草木染めみたいなローブを着て曲がりくねった杖を持ち、このキャナリラでの神事を取り仕切る、「ドルイド僧」という職務に就いていているそうだ。


「汝ルシエン、この者シローへの隷属から解放されても、病めるときも健やかなるときも、これと共にありこれを慈しむことを誓いますか?」

「はい、誓います」


「では誓いのキスを」

 え?

 ルシエンが俺の目の前で目を閉じる・・・えーと、エルフの国ではこういうしきたりなのかなぁ、と思いながら不自然にならないように肩に手を添え、口づけた。


 ♪シャララララン、と澄んだ鈴のような音が響き、僧侶の手から発した光が俺たち二人を包むように広がり、一瞬ルシエンの首に浮かび上がった光の鎖のような者が、蒸発するように消えた。


 そして何か新たに二人の間が光で結ばれたように見えた。

 なんだか、俺がセシリーの隷属を解除された時と様子が違うな、これもエルフの秘術みたいなものなんだろうか。


「では、確認を」

 シルクエナンの言葉と共に、ルシエンが自分のステータスを確認しているようだ。俺も判別スキルで、ルシエンから俺への「隷属」が消え、単なる「エルフLV20」になったことをたしかめた。


「シロー、これからもよろしくね」

「えーっと、ルシエンはエルフの聖地に残るわけじゃないのか?これからも俺のパーティーにいてくれるの?」


 ルシエンがしげしげと俺の顔を見つめた。

「なに言ってるの?当たり前でしょ、そんなこと。“これからも私と共にあり、慈しんでくれる”って約束したじゃない?」


「それって、エルフの国の決まり文句ってわけじゃなかったの?」

「まさか、文字通りの意味よ?」

えっ・・・そうなのか。

 なんかよく考えずに結構重大な誓いをしちゃったような気がするな・・・


 これまで祭壇前の席で儀式を見守っていたノルテたちが歩み寄ってきた。

「・・・じゃあ、ルシエンさん、これでお別れなんかじゃないんですね?」

「ルシエン、ずっといっしょ?」

 ノルテとカーミラも気にしてたんだろう。これまで聞きたくても聞けなかったんだな。


「もちろんよ、でも、あなたたちはあなたたちで自分の人生を選べばいいのよ?私は自分の故郷にあまりいい思い出が無いからね」

「あ、はい、ありがとう・・・」

 3人が抱き合ってる。マギーとブッチも、それを温かいまなざしで見守っていた。


 それからまた、みんな人で箱馬車に乗り込むと、ユニコーンは何も指示しなくても走り出し、海辺に近い街中に戻ってひときわ立派な建物の門前で馬車を止めた。

 これが「市民堂」というものらしい。


 行き交うエルフたち・・・本当にエルフしか見ないな・・・は、なんだかすごく派手で露出の大きな服装が目立つ。

 この島は南国リゾート的な気候だから、涼しい服装がいいんだと思うけど、男だと短パンにアロハシャツみたいなのか、中には上半身裸もいて、女もピチTとかタンクトップにミニスカート、みたいな格好が多い。


 なんか異世界らしくない、ってか、普通にハワイじゃん?耳が長いだけ?

 

 うちの女子たちは、

「さすが聖地、ファッションも他とはまるで違うんだー」

とかって勝手に美化してるけど、これただのリゾート地(しかも俺がいた世界の)だよ。


 市民堂の門から建物までの間には、いくつものエルフの男女の石像が建ち並んでいる。

 この石像はさすがに短パンやアロハではなく、古代ギリシャ風っていうか、ファンタジー世界のエルフ風の服装でちょっと安心する。

 でも、だとするとやっぱり、現在のこのキャナリラがヘンなんじゃないのか?


 誰が、なぜ、どうやって、この島にこんなカルチャーを持ち込んだんだ?


「お待ちしていました、ルシエン様、そして皆様。こちらへどうぞ」


 驚いた。建物に入ってすぐ、役所の総合案内みたいな所で出迎えたのは、けさホテルでわかれたはずのラノーラス?

 いや、似てるけど違う。

 市民堂の職員らしい制服を着てるし、そっくりだけど別のイケメンエルフだ。


 その時、気がついた。

 制服を着て働いている男女はラノーラスやビスカシアによく似た顔立ちの男女がたくさんいる。考えてみたら、昨日の入管でもそうだったかもしれない。どうしてこれまで気にならなかったんだろう?


 ルシエンをちらっと見ると、目が合って、首を横に振った。


 そして、俺たちはラノーラスもどきに案内されて、サービスカウンターみたいな所に連れて行かれた。

 そこには、愛想のいい頭のよさそうな女エルフがいて、話しかけてきた。

 彼女は、これまでのイケメンや美女たちと違い、他では見た覚えがない顔だ。


「ようこそキャナリラ市民堂へ、私は本日、来訪者への説明役を務めますウーメラです」


 ウーメラは、この島のルールを説明してくれた。

 通貨の価値とか、島の立ち入り禁止区域とか、そんな一般的な話が続いた後、少し妙なことを言い出した。


 まず、キャナリラでは人が自ら話す場合を除いて、他人にその素性やプライベートなことについてたずねてはならない。

 また職業や収入についてもたずねてはならない。

 そして、この島では何であろうと、自分の望むことをしてよい・・・


「え?なんであろうと、自分の望むことをしてよい、だって?」

 まあ、公序良俗に反しない限りとか、そう言う意味か。


 そして、きょうはまず支給された通貨エルゴを使って楽しめるベーシックなコースを一通り回るといい、とのことで、半ば言われるがままに、【聖獣競争】と【水浴午睡】、そして【宴食演芸】ってプログラムを申し込んだ。


 カウンターに置かれた魔法具らしい装置に銀色の腕輪を突っ込むと、ピロロンと音が鳴って、登録された、と言う。

 みんなはびっくりしてたけど、IT技術が発達した現代世界から来た俺には、むしろ驚きがない。ディ○ニーランドのファストパスみたいだ。


 それから俺たちは、エルフの聖地の神髄を味わうことになった・・・

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