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第177話 エルフの聖地

セイレーンが突きつけてきた“のど自慢”の試練を乗り越えた俺たちの前に、エルフの「聖なる島」が現れた。その地にたどり着いたら、ルシエンを奴隷から解放することにしていた、あの島だ。

 遭難しかけてとっさに作ったセラミック船は、なんの動力もつけておらず、ただ海に浮かんで潮に流されるだけの代物だった。

 ようやく余裕ができたので、船の形を整え、粘土スキルでスクリューと舵を作った。


 正直、今回は粘土スキルがなかったら本当に助からなかった。

 あんまりクズスキル呼ばわりするもんじゃないな。


 “自動で動く”で島をめざして自動航行させる。MP不足で大した速度は出ないけど。


 そろそろ夕暮れで空は薄暗くなってきたものの、水平線の彼方に小さく見えた島影は、不思議な虹色の輝きを放っていて見失うことはなかった。


「すごい、どんな魔法なんでしょう?」

「エルフの聖地、キャナリラ・アマンは地上の楽園と言われているわ。そこには、他のどこにも見られないような高度な文明と文化が栄えているそうよ」

 ルシエンがなんだか誇らしげだ。


 しかし、あの虹色の輝きって、どっかで見たことあるような気がするんだよなー・・・


 島の向こう、西の海に完全に日が沈んだ後も、むしろ島はキラキラと、いや、どっちかって言うとギラギラと輝きを増している。


「さすがはエルフの聖地だよねー、昼より明るいんじゃないの、島から夜空になんかビームみたいなのが出てるし、こーゆーの超文明って言うのかな」

「まあね、大陸では人口の多い人間族が支配的だけれど、本当に進んだ文明を築き上げているのはエルフなのよ」

 光り輝く島に度肝を抜かれてるブッチに向かって、ルシエンが隠しきれないドヤ顔だ。


 けど、そうだよ、あれってネオンサインとレーザー光だよね?

 なぜ、こんなところに・・・


 やがて、ワイキキビーチみたいに白い砂浜沿いに高層ホテルみたいな建物が立ち並んだ入り江に、セラミック船は入っていく。

 すると桟橋の方から、カクテルライトみたいな赤青緑の光が俺たちの方に向けられた。俺がいた現代世界の都市にそっくり、てゆーか、めちゃくちゃ俗っぽいんですけど・・・


「わあっ、めっちゃキレイ、すごくない?」

「見たこともないです、こんな魔法!」

ブッチとノルテは素直に感嘆の声をあげている。


 そこに波の上を滑るように一艘の小型船が近づいてきた。

 帆がついてないし機動船みたいな大きな音もしないから、これは魔法で動かしてるんだろうか?見た目、沿岸警備隊みたいな感じの船だ。


 ルシエンがみんなに注意する。

「いいこと?エルフの聖地には本来、徳を積んだ心清らかなエルフだけしか立ち入ることを許されないのよ、たぶん私の同伴者として許可されると思うけど、礼儀正しく節度を持ってふるまってね・・・」


 セラミック船に横付けした警備艇から、長耳のイケメンが顔を出した。


 真っ白い歯を見せ満面の笑みを浮かべる。♪キラキラ・・・と効果音と共に、七色の光が後光のように輝く。20代ぐらいの若さに見えるけど、エルフだから当然、それなりのオトナなんだろう。


 なぜかステータスは見えないけど、それはきっとエルフの秘術か聖地ならではの特別な仕組みがあるのかもな。


 少女漫画のプリンス的なイケメンエルフの登場に、女子たちの半数以上はもううっとりしている・・・


「へーい、子猫ちゃんたち。ようこそ、天国に一番近い島キャナリラへ、イエイ!」


 カクっと膝が折れた。


 へ? “エルフの聖地”だよね?ココ。


 ブンっと勢いよくルシエンの方に振り向いたけど、目を合わせてくれない、てかルシエン凍り付いてる?


 天国に一番近い島ってハワイじゃなくてニューカレドニアだったんじゃ?とか、ブッチはリアル子猫ちゃんかもしれんけど死語でナンパ?とか・・・もうどこから突っ込んでいいのやら。

 

 ポリスアカデミーみたいなわざとらしい制服を着て、装飾過剰な制帽をかぶり、腰には警棒ならぬ魔法の杖みたいなのをさげている。


「わーイケメンだよ、エルフ男子だよー」

「きゃあ、わざわざ迎えに来てくれるとかサイコーっ」

 あれ?マギーにブッチ、いいんだコレ。うけてるし・・・なんか二重にショックだ。


「いらっしゃいませー、ようこそキャナリラへー」

とか思ってたら、その隣から現れて俺に話しかけてきたのは、キラキラな目をした国際線スッチー、もといキャビンアテンダントみたいな制服姿で、でもなんか「そういうお店のプレイ」みたいな、女エルフだった。


 ルシエンに匹敵する美貌だが、にこやかで適度にユルい感じが、親しみやすさを感じさせる。


(なーに、鼻の下伸ばしてんのっ)

 リナが革袋から顔を出してジト目してるが、だんじてそんなことはない。


 どうやら、やっぱりこの船はこれでも沿岸警備、兼入国案内とかの公務に就いているものらしい。


 これまでの緊張感とはあまりに落差のあるシチュエーションに、俺たちはどうしていいのかわからないまま、親しみやすすぎる男女にエスコートされ、空港のパスポートコントロール、入国手続きのカンターみたいな所に連れて行かれた。


 そこにはさらに愛想のいい美男美女が大勢いて、ひっきりなしに明るい調子で話しかけられているうちに、ギルドカードとかステータス開示とか、他にもよくわからない魔法具みたいな装置の中を一人ずつ通らされてた。


 その間も、名前も知らない美味しいスイーツとかジュースとかを会員制ラウンジみたいにふるまわれた。

 ひと口味わったら気分がふわふわしてきた。


 それと同時にルシエンの歌声にも匹敵するような素敵な音楽がどこからか響きだし、深い森の中のような香りが漂い、心が穏やかになっていく・・・


 メンバー一人一人に魅力的な異性がエスコートに付き、至れり尽くせりで案内してくれる。

 武器はここで全て預けることとか、滞在中の衣食住は全て支給されるとか、そんな説明をそれぞれが受ける。


 その間も、後から思うと、検疫とか税関とか身上調査とかだったのか?とにかく徹底的に色々調べ上げられてたようだけど、それを訝しむヒマさえなかった。

 聖地なんだし、入国審査はしっかりしてるんだろうね。


 途中、ルシエンのギルドカードをチェックした時だけ、

「なんということでしょう。エルフが人間の奴隷など・・・これはさっそく神殿で隷属解除の手続きを致しましょう」

と、ルシエンと俺に係官が有無を言わさぬ口調で伝えてきた。


 元々、エルフの聖地にたどり着いたら奴隷から解放する、ってのはルシエンと約束してたことだから、もちろん異論はない。

 ルシエンと神殿の場所を聞いたら、明日迎えをよこすと言われた。


《なんばー○○××▼□!★、神殿デID書キ換エヲ手配・・・》

とかなんとか、AIみたいな音声が聞こえた気がするけど、ルシエンは無言でなにかじっと考えているようだった。


「続いて、エルフ市民権保持者へのベーシックインカム制度のご説明を致します・・・」

 次に驚かされたのは、ルシエンについていたイケメン係員が、そんなことを言い出した時だ。


 なんでも、キャナリラでは、入国を認められた者全てに最低限の衣食住と最小限の通貨“エルゴ”が支給される他、エルフにはさらに毎月、一定額のエルゴが支給されるのだという。


 それを使ってエルフたちは、特別なサービスを受けたり娯楽や社交を楽しむことが出来る。


 支給された額では不足する場合やもっと稼ぎたい場合は、自主的に奉仕活動をおこなって通貨を得ることもできるそうだ。


説明の後全員に銀色の腕輪が配られ、それに彫られた番号に紐付いて口座管理のようなことがされているらしい。


「ご利用は計画的に」

 にっこり微笑まれたけど、それってカードローン?それともサラ金か?


「誰もが衣食住保証とか、帝国じゃ考えられない。ううん、帝国だけじゃない、そんな話聞いたことがないよ。やっぱりここって聖地って呼ばれるだけあるよね、まるで天国じゃないの?」

「まじ、信じらんないねー、もう帰りたくなくなくなっちゃうよね?」


 マグ&ブチが目を丸くしてる。

 いくら異世界だからって、働かなくてもお金が支給されるとか、どういう仕組みなんだ?


 そして1時間ぐらい経っただろうか。

「入国手続き、完了です!あらためてようこそ、エルフの約束の地、キャナリラへ!エルフの同胞とその友人たち、心より歓迎します。いつまでもとこしえに、楽園での暮らしを楽しんで下さい・・・」


 一番ハンサムで一番いい服装のエルフの男が宣言すると、どこからか魔法の花吹雪が舞い、クラッカーがはじけるような効果音まで鳴り響いた。


「皆様には専属のアテンダントとして、こちらの2名、ラノーラスとビスカシアが担当させていただきます」

 イケメンと美女、二人の若々しいエルフがにこやかに挨拶した。


「本日はもう遅い時間ですから、アテンダントが皆様を仮滞在施設にご案内致します。明朝には神殿、そしてキャナリラ市民堂へお連れして、あらためて、快適に滞在いただくためのちょっとしたルールや、皆さんに付与される権限などをご案内致し、以後は存分にお楽しみいただけます」


 本当に至れり尽くせりだな。

 まあ、今日はもう夜だし、本当にハードな一日だったし、ホテルに案内してくれるならそれでいいか。

 あとは明日だよな明日・・・


 ラノーラスとビスカシア、美男美女のアテンダントに連れられ、入国審査の建物からすぐそばの高層ホテルらしい建物に移動した。

 当然のように部屋も立派だ。豪華な2ベッドルームの部屋が3つと、応接間や海に面したバルコニー、そして、これはシャワールームだろうか?


 ビスカシアに促され、キラキラ七色の光が輝くシャワールームに一人ずつ順番に入らされた。

 なんの魔法か、いい香りのお湯が出てくるのを浴びる。それを浴びていると、すごく気分がいいんだけどボーっとして思考力が鈍くなってきた。やっぱり疲れてるんだな。


《・・・結界外カラノ病原体持込予防措置実施・・・完了/疲労回復・精力増強成分ノ投与・・・完了/精神沈静化・対魔法抵抗排除措置実施・・・完了》

 またどこからともなく無機質なアナウンスが流れるが、頭に入ってはこない。


 風魔法みたいな温風で体が自動的に乾かされ、ビスカシアが恥ずかしげも無く、清潔な着替えを着せてくれてるのに抵抗することもなく、なすがままだった。


 俺だけじゃなく、続く女子たちもだ。

 見ると仲間たちも、目がとろんとして幸せそうだけど疲れた様子だ。


 なにかおかしい。


 こんな非日常的な、ありえないことが起きてるのに、そのまま受け入れてること自体がおかしい。

 そんな考えが、たしかに頭の片隅には浮かんだんだけど、みんな、ふかふかのベッドに連れられて行き、チカチカと照明がまたたくと、催眠術にかかったかのように安らかな眠りに落ちていった。

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