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第176話 誓いの歌声

セイレーンに生きてここを通り抜けたければ『のど自慢』を勝ち抜け、と強要された俺たちだったが、合格の条件の鐘3つは遠かった。そして、最後の頼みの綱、ルシエンは「人前で歌を歌わない」という誓約に縛られているという・・・

 “人前で歌わない”ってことを、普通わざわざ誓いを立てたりするもんだろうか?

 それも「二度と」ってどういうことだろう?


 でも、セイレーンの試しに合格しなければ命を取られる、っていう状況で、そんなことを聞けるわけもなかった。

 

 一方でリナは事情がわかってでもいるかのように、聞き返すこともせず、ルシエンの頼み通り僧侶衣装に変身した。


「告解をするの?」

「ええ、感謝するわ、リナ」

 肉声でたずねたリナにそう答えると、船底に膝をつき手指を組む。


「森と風の神々よ、精霊たちよ・・・私はひとたび二度と人前で歌は歌わぬと誓いを立てました。されど今、偉大なるエルフの聖地に至るための試しにおいて、わが拙い歌を奉ることを余儀なくされております・・・」

 いつも音楽的で耳に心地いいルシエンの声。それが今は、この祈りの言葉それ自体が一篇の詩のように響き渡った。


「これは、わが心の妹たち、そして、かけがえ無きわが心の、・・・えっと、心の(ゴニョゴニョ)を守るため、やむを得ぬ仕儀!どうか、ひとたび立てた誓約を破棄することをお許し下さい」

 いま一瞬、よく聞こえなかったな?


 そんなことを気にしてるうちに、頭を垂れたルシエンの上にリナが手をかざした。

「神々の御名のもとに、誓約の解除をっ」


 キラキラと光の粉が降り注ぐように二人を包み、どこかでカギが開いたような幻の音が聞こえた。

「汝の誓約は解除されました・・・」

「・・・感謝します」


 その時、なぜだか俺の目の前に、普段はあまり意識しなくなってるルシエンのステータスが開示された。


<ルシエン エルフ 女 33歳 LV20

     /奴隷(隷属:シロー・ツヅキ)

  呪文 「風」「植物」「水」「地」「結界」

     「浄化」「癒やし」「治療」「静謐」

     「大いなる癒やし」「心の守り」

     「破魔」「封印」

  スキル 精霊の目     精霊の耳

      弓命中率上昇(中)隠身

      判別(初級)   鑑定(初級)

      弓技(LV7)  剣技(LV4)

      操船(LV1)  歌(LV7) >


 えっ!?


 『歌(LV7)』ってなんだ!?

 歌のスキルなんてルシエンは持ってなかったはずだ、これまでは。しかも、新たにスキルを得たんならLV1だろう、いきなりLV7ってどういうことだ?


 剣技とか言語知識とかなんでもいいけど、俺のボーナススキル以外でこんなに高いスキルレベルって滅多に見ないぞ。

 第一、ルシエンの神業みたいな弓の腕が『弓技(LV7)』なのに、それと同レベルだ。それを、自ら封印してたってことなのか?

 

《ほう、これは楽しませてくれそうね・・・》

 これまでふざけてんのか、って態度だったセイレーンがなにか感心したように言う。

《では、本日最後の挑戦者です、どうぞーっ!》

 でも、最後までふざけた態度は変わらないんだな・・・


 ルシエンが舳先に立ち、ぴんと背筋を伸ばした。

 それだけで、空気が変わり、スポットライトでも当てたかのように、彼女の細いからだが一回り大きくなったかのように存在感が増した。


 そこはもう、ステージだった。


 最初の一声は低くそっと、山間を吹き抜ける風が小さな種を運んで来たように。


 それはやがて、雪深い山に遅い春の訪れと共に芽吹く若葉のように、伸びやかに響き渡る。そこに隠れていた精霊たち、虫たち、鳥たちが集い命の歌を歌い上げていく・・・高く低く、遠く遙かに。


 出会いと別れ、愛と命のきらめき、そして死の闇・・・巡る輪廻の輪が、ちっぽけな命を翻弄し、それでも闇の中にきらめくかすかな光を追い求める。


 いつの間にか、みな声も無く涙を流していた。

 ここがどこなのか、いまがどんな時なのか、そんなことはみな忘れていた。


 ただ、それは突然、場違いに鳴り響く鐘の連打にかき消された。


《キンコンカンコン・キンコンカンコン・カン・キン・コーン!!!合格うぅーっ!ぶらぼー、すんばらしーわぁっ、合格よっ、文句なしっ、うん》


「「「ちょっとちょっとー!!!(怒)なんで止めんのっ」」」


 せっかく感動して聞いてたのに。

 船上からセイレーンに大ブーイングだ。石があったらぶつけてるけど、海の上だからな。


《ちょ、しょーがないでしょ!のど自慢ってそういうもんだから。鐘で止めないと、放送時間に収まんないじゃないの》

 いや、そんなテレビのおじさんの都合とか、こっちの世界には無いから。


 だが、さすがのセイレーンも満足したようだった。

《いやー、長いこと色んなエルフの歌声を聞いてきたけど、ここまでのはざっと百年以上覚えがないわー。しかも、その歌、あの伝説の歌姫リンダベルのオリジナル曲じゃん、節回しがちょームズいのよね、あんた若いのによく歌いこなすわねー、お姉さん感心したわ。うん、ホンマ、ええもん聞かせてもらいましたわ》


 なんかキャラぶれまくってるけどな。


「あれっ、霧が晴れてきたんじゃね?」

「うん、結界なくなってるよ。あっちの方に、島のにおい」


 ブッチとカーミラが気づいたように、どうやら結界を抜けたようだ。

 さっきまで高く波立ってた海はいつの間にか凪になり、雲ひとつない青空が広がっている。

 だが、いつの間にかもう夕暮れが近いようだ。

 漁に出たのは夜明け前だったのに、この結界では時間の流れ方が常と違ったのか、そもそも日付は、七の月の上弦12日のままであってるんだろうか?


 そして、いつの間にかセイレーンの姿も消え、ただ、海の中からかすかな声が響いた。

《合格者の皆さんは、チャンピオン大会への出場権獲得でーす!あ、みんな歌声ボーナスつけといたからね。じゃあ、まだちょっと遠いけど、いよいよ、エルフの聖地にゴー、ゴー!》


 これはコントだったのか、それとも悪い夢か。


 けど、それが夢じゃなかった証拠に、ステータスを見るとルシエンの歌スキルがLV8に、そして他の全員に「歌(LV1)」って新たなスキルがついてた。鐘ゼロの俺もね、参加賞だよね。これ。


 そして気づくと、不思議な潮の流れに導かれるように、セラミック船の前方はるか彼方に、淡い光に包まれたエルフの聖なる島が姿を見せていた。

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