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第175話 のど自慢!!

海の魔境でセイレーンは言った、ここを生きて通り抜けたければ、大いなる試し『のど自慢』を勝ち抜けと。

「はあぁっ?」

 船の上で腰が抜けた・・・でも、誰も反応してくれねぇっ。


「のど自慢・・・聞いたことがあるわ」

 あるのかよっ!


「さすがウェリノールの森の一族、伝承は正しく受け継がれているようね」

 なんでエルフの間に受け継がれてるんだよ!?受信料祓ってる、いや払ってるのか?


「なら、話は早いわ。順番に持ち歌を歌いなさい。鐘が3つ以上鳴れば合格よっ」

 アイテムボックスから鐘って言うか、何枚も金属板が並んだ楽器みたいなやつとハンマーが出てきた、なんで持ってんのあんた?塩水で錆びたりしないの?


「鐘3つ、き、厳しいわね・・・仕方ない、やるしかないか」

 ルシエン、なんか熱血スポ根風になってきたけど、コレそういう話なのっ?


 俺があっけにとられてる間に、ルシエンはパーティーのみんなに説明している。

 魔性の歌声を持つセイレーンを満足させるだけの歌をアカペラで聞かせること、チャンスは一人一回だが、パーティーの中で誰か一人でも合格すれば全員クリアになると言う。


《準備はいいかしら?じゃあ、始めるわよっ、

 ♪歌は世に連れ、世は歌に連れ

  さあさ来ました、西の海へ、

  天気晴朗ナレドモ波高シ

  いざ、のど自慢、始まり始まり~》


 もう、なにが元ネタだったかわかんないぞ・・・これゼッタイへんな転生者のしわざだよな?けど、なんでエルフの間に伝わってるんだよ?


 一人盛り上がり始めたセイレーンの仕切りで、俺たちはなし崩し的に歌わされることになった。


《では、トップバッターはこの方、どうぞ~》

 バッターって、そもそも野球はあるのかとか、もう突っ込む気力も無いな。


「え、あたし無理、ゼッタイ」

「わたしも音痴で・・・」

 押しつけあいになった船の上で、みんなに押し出されたのは、きょとん、として事情がわかってない様子のカーミラだった。

 まあ、一番緊張とか無縁そうだけど。


「一番、カーミラ、うたうたう?・・・ウーウー、キューキュー、ルルルルラアー」

 そしてカーミラは、歌うってよりも、なんて言うか、月に向かって遠吠えしてるみたいな、良く響く声を楽器のように奏ではじめた・・・

 それは意外にもって言ったらカーミラに失礼だけど、風の音とか小鳥のさえずりとか、そんなものをイメージさせる不思議に心に響くメロディーだった・・・


《♪キン・コーン》

 セイレーンが鐘を二つならした。


《ありがとうございましたー! 惜しかったわねー、ナチュラルボイスがとってもよかったけど、もうちょっとだったわねぇ》

ナニ、このお約束の展開。


「カーミラちゃん、素敵でした、惜しかったですっ」

「そ、そうね、もう一つだもん、意外に行けそうだよね」

 女子たちがちょっと盛り上がってきた。


「おし、じゃー、次はうちが行くわ」

名乗りを上げたのはブッチだった。

 

 ブッチは、なんで知ってるのか、今どきのグループアイドルみたいな、振り付けバッチリの歌と踊りで、エロかわいいポージングを決めてノリノリだった。


《♪カーン》

 鐘が一つ鳴った。


《ありがとうございましたー! いやあ、狙いはいいんだけど、その路線には衣装とかもこだわりたかったわねー、またどうぞーっ》

 いや、衣装とかって、海上護衛クエストの実用一点張りの格好だから・・・


「ありえなーいっ、この採点機、設定おかしいしぃー」

 ブッチがプリプリ怒ってるけど、どこのカラオケボックスだよ。


 その後、ノルテが緊張しまくりながら、素朴なカントリーミュージック風の歌を歌ったり、マギーがどこの声優さん?みたいなアキバ系アニメ声で深夜枠のアニソンみたいなのを歌ったりしたけど、鐘は1つしかもらえなかった・・・


 そして、リナまでかりだされ・・・え?うまいじゃん、なんなの?

 JC人形は、音程もプログラムされてるのか、『○音ミク』みたいな声で切ないラブソングを歌い上げ、女子たちはウルウルしながら聞き入ってた。


《♪キン・コン・カ・・・》

 キターっ!

《・・・》

 あれ?


《惜しかったわね、鐘、2つ半ですっ!ありがとうございましたーっ》

「「「おいっ!」」」

 一斉にみんな突っ込んだ。2つ半とか、のど自慢に無いだろ?これは某局の「チューボーですよ」かっ?あ、厨房でしたよリナは・・・


「これズルだよね?ぜったいうまかったよね」

「判定が公平性を欠いてると抗議するわっ」


《ヒューヒュー、なんのことかなー、審査員は中立公正よ?》

 くちぶえ吹いてごまかすんじゃねぇっ。


「仕方ないわね、シロー、お願い」

「そうだよね、リナがこれだけうまいんだもん、持ち主のシロッチもきっと・・・」

 やめて、期待値上げるのヤメテ!


「う、しょーがないな、歌えばいいんだろ、歌えば・・・う゛、う゛う゛ああ~」

 もうどうにでもなれだ。ずっと引きこもってから、学校の合唱大会にだって欠席だったし、ソロなんてましてや未体験ゾーンだ。


 どうせ鐘が一つなるまで耐えればいいんだし、すぐ不合格が出るはずだ・・・あれ?なかなか鳴らないな・・・つらい時間は長く感じるっていうけど・・・


《・・・これは無理、一つだって鳴らせない、鐘が汚れるわ》

 みんな、その哀れみの目はナニ?


「・・・誰にだって向き不向きがあるわよね」

「・・・ご主人さま、歌の才能はゼロだって、ご主人さまにはいいところもありますから」

 

船のすみっコで膝を抱えてうずくまった俺に、口々に心のこもってない慰めの声がかかる。

 カーミラ、ペロペロなめてくれるのはいいんだけど、これがほんとの傷をなめるってやつだね・・・


《もう終わりかしら?森の姉妹よ、あなたはなぜ歌わないの?それとも、ウェリノール界隈では、この程度でも歌と認められると思われてるのかしら?》


その挑発に、これまで黙り込んで、仲間に先を譲り続けていたルシエンが、すっくと立ち上がった。


「仕方ないわね。リナ、頼みがあるの」

 リナだけでなく、みんなが首をかしげた。リナになにをさせるつもりだろう。


「私は二度と人前で歌わないって、誓約に縛られてるの。だから、僧侶になって、私の誓約を解除して」

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