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第173話 海難救助

漁船が相次いで失踪している海域で、海坊主と鉄砲魚に遭遇した俺たちは、敵だと誤解され攻撃されてしまった。

 普通の波じゃない。


 海坊主が放った水魔法による大波は、やつらが『海の天気』なんて謎スキルを持ってる相乗効果もあったんだろうか、とてつもない勢いで幸丸の甲板を襲い、甲板上にいた者たちのほとんどを、一気にさらった。


 強い衝撃と、一瞬遅れて水に沈む感覚、そして息が出来ない時間が何秒か続き、自分の体が海面に浮かび上がったのがわかった。


 そんなに冷たくはない。

 一応、俺はカナヅチではないから、パニックにはなってない自分を自覚して、少しだけほっとする。


 そういえば、中学の体育で「着衣水泳」なんてさせられたことがあったな。体育教師がヘンな奴だったから。体罰教師で最低だったが、今だけは少しよかったと思った。そんなことが脳裏をよぎったのは多分、再び波で体が沈んで浮き上がるまでのほんの一瞬の間のことだったはずだ。


 冷静になれ、今できることはなんだ?

 俺はスクタリの迷宮五階層を思い出して、海上に「セラミック船」を創り出した。


 でも、喫水が高いし、波が激しくて、とても船上に這い上がれそうに無い。やっぱり冷静じゃなかったらしい・・・ダメじゃん。


(飛ぶよ!)

 腰の革袋からリナの念話が届いた。


 そうだ、それがあった。


 一瞬でずぶ濡れの体が、小さな船上に転移した。


 待てよ、パーティー編成してるメンバーが一緒に飛べてないのはなぜだ?

(距離が離れちゃっててパーティー転移の効力が働かないみたいっ)


 みんなのことが頭に浮かんだ途端、わずかばかりの冷静さが消し飛んだ!

 あわてて地図スキルでみんなの位置を探る。

 まだちゃんとメンバーの光点が5つあるっ!


「どうすればいいっ!?」

(地図スキルを意識してっ、それぞれの場所に転移して順番に助けよう!)

 一度に一人ずつ回収か!やるしかないっ。

 

「まず、あそこだっ」

 地図スキルに映る光点は、第三者の白い点と、パーティーメンバー特有の黄色というか金色みたいな輝きで見分けられるが、誰なのかまで名前は表示されない。


 でも、なんとなく気配みたいなので、そこが一番余裕が無いって感じた。

「ノルテっ!」

 水面のわずか上に再出現した俺とリナ。

 焦げ茶色の髪の毛だけが水面に見えて、溺れそうになってるノルテを水面に落ちた俺は浮き上がりながら抱きしめる。

 たしかノルテは泳げないんだ。なのに不満も言わずにこんなクエストについてきてくれた。


 すぐそばに落ちたリナに手を伸ばしてつながると、リナが間髪おかず転移する。


 セラミック船の床にたたきつけられるように着地したが、痛みを感じてる余裕も無い。

 水を飲んでるか?とか人工呼吸を、とか思わないでもないが、その時間もない。

 とにかく横向きにして、水が気管に入らないようにだけする。


 ノルテをパーティー編成からはずして、再びリナに転移させる。


 マギーとブッチは抱き合うような格好で、二人一緒に水面に浮き沈みしながら手足をバタバタさせてた。

「シロ、っっぷ!?」

「あぁっ」

「つかまれ!」

 二人まとめてつかんだ俺に、後ろからリナがくっついて転移する。


 ノルテが倒れてる隣りに、もつれ合うように落下した。

「ノルテが水を飲んでたら、吐かせてくれっ」

 痛みをこらえながら二人にそれだけ言うと、パーティー編成からはずして再転移。


 華奢なエルフは水上に自力で浮かんでいた。水魔法で自分を支えてるようだ。

「シロー・・・リナっ!大丈夫?」

 リナが水面に落ちた途端、ぐたっとしてる。MP枯渇だ!


 必死に慣れない立ち泳ぎでリナをつかむと、意識の中でアイテムボックスを探る・・・あった。

 ベスが作ってくれた魔力回復丸、かじりかけで残しておいた最後の半カケだ。


 大きく息を吸ったあと、口移しで丸薬のかけらをリナの口の中に押し込む。

 飲み込んでくれ!


(・・・ばかね、あんたにくっついてれば、MPは吸収できるのに)

(しゃべらなくていいっ)


 水面下に沈みながら念話を交わし、浮かびあがった勢いでルシエンと手をつなぐ。


 転移。


 ルシエンは抜群のバランス感覚で、セラミック船の底に転ばず着地した。よろけたリナを支える。・・・あれ、俺は?いてっっ!


(行くわよっ)


 MPを補充したリナの合図で飛ぶ。俺は背中を強打して声も出ないよ。


 水面に落ちる俺たちを、カーミラはびっくりしたように普通に泳ぎながら見てた。

 犬かきならぬ狼かき?一番泳ぎがうまいのは、やっぱりアスリート系少女だった。


「あるじ、大丈夫?カーミラ平気だよ」

 俺が無言でカーミラを抱き寄せると、リナが最後の転移を唱えた。


***********************


「みんな、助かったん、です、ね・・・ご主人さま」

「ああ、よかった、ノルテも大丈夫か・・・」


 木の葉のように揺れる小さなセラミック船の上で、ボロボロになった体に互いに治療呪文を掛け合って、たぶん何か所かは骨折もしてたのを治した。

 それから粘土スキルで船に薄い覆いをつけて浸水を防ぎ、風魔法と熱量制御でみんなの服を乾かした。


 消耗しきって、ようやく幸丸を探せる余裕ができた時には、既に地図スキルには映っていなかった・・・


「沈んでないよ、カーミラ、船が遠くに行くの見えた」

「そうね、精霊たちも死者の気配はなかったって言ってるから、なんとか漁師たちも助かって逃げられたんじゃないかしら」


 カーミラとルシエンの言葉を信じたい。


 海坊主たちの目的は、あくまで結界の中に入るのを防ぐことで、殺そうとしてるわけじゃなかったんだと思いたい。


「けど、ここはどこだろう?」

「かなり流されたみたいね」

地図スキルでも、はっきりわからない。まわりは全部海だから・・・


 けれど、突然カーミラの耳がぴくっと動いた。鼻じゃ無く耳だ。

 そして、ルシエンも長い耳をすませ始めた。


「・・・歌声?」

「だれか、歌ってる・・・でもこれって」

 急にルシエンが真剣な表情になり、呪文を唱えた。

「心の守りを!」


 精神防御魔法か、どういうことだ?

「この歌、よくない歌だよっ」

 カーミラが警戒心をあらわにすると共に、俺たちの耳にも遠くかすかな歌声が聞こえてきた。


 なんの、誰の歌だろう・・・すごく上手な、きれいな、素晴らしく感動的な、心を揺さぶられる・・・

「ダメ、ぜったい!」

 ルシエンが薬物防止活動みたいなことを口走る。


「リナ、重ねがけしてっ、早く」

 まだ回復しきってないリナが僧侶姿に変身し、ルシエンと同じ「心の守り」を重ねがけした。


「みんな聞いちゃだめっ、これは、セイレーンの魔性の声よっ」

 ルシエンの悲鳴のような声が響いた。

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