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第169話 亜人戦争 開戦

都市国家のひとつテビニサの新造機動船「海雷」号と別れ、西方のアルゴル王国に到着した俺たちは、突然パルテ本国からの「戦争が始まった」という通信文を受け取った。

 ベハナーム教授からの通信文がパルテポリスから発信された日付は、七の月・上弦の6日になってる。そして、戦争が始まったのはその前日5日、つまり今から五日前のことのようだ。


 外洋船に乗っていたから知るよしもないが、俺たちがいつアルゴルに着くか、そもそもアルゴルに来るかどうかだって不確定な部分があったのに、わずか5日のタイムラグで大陸の端まで情報が届いたってのは、むしろ驚くべき速さとタイミングのよさかも知れない。


「で、どことどこが戦争になってるの?」

 肝心のことが後回しになってた。ルシエンの突っ込みは当然だ。


「トスタンとゲオルギアが、パルテアの北の国境を越えて奇襲をかけてきたって。宣戦布告も無い不意打ちだったみたいです」

 トスタンはこの間ワイバーンの偵察部隊を送り込んできた国だったよな。

 たしか、トスタンとゲオルギアは、どっちもパルテアの北側にある比較的小さな国だ。


「トスタン・ゲオルギア連合対パルテア帝国ってこと?正直、目的がよくわからない戦争ね」

「そうだよね、二か国がかりでも国力を考えると帝国の敵じゃないと思うし、ここのところトスタンが妙な動きをしてたとは言え、そんなに深刻な利害対立とかは無かったはずなんだけど、妙だね」

 ルシエンの疑問に、軍事に詳しいブッチも同感のようだ。


「で、ベハナーム先生はなんて?」

「この通信を読んだら、直接連絡を取りたいって。毎晩半刻ぐらい、こちらに意識を向けているって時間指定してあるんだけど・・・」


俺だけでなくみんな驚いてる。

 魔法使いの遠話って、そんな長距離でも結べるんだっけ?


「送受信双方に遠話の使える魔法使いがいる場合、やり方を知っていれば短時間なら相当長距離でもつなげるんだって。だから、リナちゃんとシローさんに協力してもらえれば通信可能らしくって、詳しい手順が書かれてるわ」


すごいな、この世界の地図は正確じゃないけど、パルテアとアルゴルって、多島海の両端だから、多分3千キロとか4千キロとか、地球だったらその丸さが無線通信に影響するぐらい離れてるはずだ。

 

 とりあえず、時間帯は夜を指定してるし、静かで魔法的ノイズも少なく、出来れば見晴らしの良い高い所がよいとか色々条件があるようなので、これは後回しにする。


 って言うか、そういう高台にある宿とかが取れればいいのか。

「丘の上の宿屋さんとかがあると、夜出歩かなくていいですね」

 ノルテも同じことを考えたようだ。


 そこで俺たちはまず、アカデミアの書庫でマギーとブッチが文献調査をしている間に、事務室で市内の宿の情報を聞き、領主の館のそばにあるという見晴らしのいい高級宿を紹介してもらった。


 標高だけでなく値段も高いよって典型的なアレだけど、この調査クエストの宿泊費は依頼主持ちだし、通信のために必要な経費でもあるのだから、まったくケチる必要はないのだ。なんてすばらしい!

 

「せまい」「きたない」「ゆれる」の三拍子そろった灘潮丸の船室を我慢してきたご褒美なのだ。


 マギーたちの連絡と護衛のためリナをアカデミアに残し、俺とルシエン、カーミラ、ノルテは宿が満室にならないうちに確保しておこうってことで、その丘の上の高級宿、「望郷の館」に先に向かった。


 結構坂がキツかったが、肝心の宿の方は見るからに快適そうだった。


 たぶん貴族の屋敷だったと思われる、古いけど立派な庭園付きの館だ。

 値段も高いのに富裕層の客が多いのか大半が埋まってて、空いてるのは前室付きで寝室が二つ、2ベッドルームと4ベッドルームって言う、スイートみたいな続き部屋だけだった。


 俺たちには人数的にちょうどいいから、値段は高いけど即申し込んだ。

「スポンサー不在で決めちゃうのがちょっと気がひけますね」

ノルテはそう言うけど、マギーたちにも事前に了解をもらってるし、問題ない。


 その後、冒険者ギルドに寄って、危険情報とか魔族に関わりがありそうなクエストとかが無いか調べてみたが、ただちに気になるものはなかった。


 ただ、東方の戦争については、さすが冒険者ギルドと言うべきか続報が入ってた。


 当初、奇襲攻撃でパルテア北部に侵入したトスタンとゲオルギア両国軍だったが、パルテア帝国軍が素早く兵力を集め、侵攻を食い止めたらしい。

 少なくとも電撃戦で一気に領内深く攻め入ろうって両国の目論見はうまくいかなかったようだ。


 パルテアにはオスマルフとか知り合いもいるから、とりあえずよかった。


 そして、マギーたちと合流し夕食後、俺たちはパルテアとの魔法通話を試みることになった。

 マギーが羊皮紙の通信文を読み上げる。


「えーっと、なになに、まず、“遠話スキルを持つ魔法使い”リナちゃんね、は、MPを供給できるシローと手をつなぐか、膝に乗せて抱きしめる、えっっ!?」


「手をつなぐ、の一択だな」

「シロッチ、照れてる照れてる・・・」

「照れてねーしっ」


 これなんの罰ゲームだよ?


 宿の続き部屋の前室のソファーで、女子全員、好奇心丸出しで注目してる中で、厨房を抱きしめるとか、そこまで変態じゃないって。


「つまんないわねー、で続いて“おもに会話する者”、これはあたしでいいかな、は、魔法使いまたはMP供給者と手をつなぎ、思念を同調させる」

「はい、マギーこっちね、リナの左手で」

「え、あたしシローでいいのに?」

「「「却下」」」


 なんか準備だけで、胃が痛くなるようなやりとりが続いた。


「じゃあ、これでリナちゃんは、東の空、あっちね、を見つめてパルテア大学校の研究棟を思い出して、あそこに塔が立ってたでしょ?ベハナーム先生、あの塔の上にいるから、意識を集中してね・・・」


 リナが遠くを見るようなまなざしになって、意識を没入していく。

 それと同時に、リナとつないだ手から、エネルギーが吸い込まれていくのを感じる・・・


《・・・ムだ、マグダレア君、聞こえるか、こちらはベハナームだ》

 不意に声にならない声が脳内に響いた。


 短波ラジオで、ノイズの中から海外の日本語放送のチャンネルにたどり着いたみたいな感じだ。


 マグダレアがビクッとする。


 そして、リナを通信機、俺を外部バッテリーにした超長距離の遠話が始まった。


***********************


《君たちなら可能だろうとは思っていたが、さすがだな。この方法は魔法使いが二人いれば誰でも出来るというわけでは無い。私の方でも実は特殊な魔法具を使っていてね、あまり長時間は話せないのでさっそく本題に入るとしよう》


 3か月ぶりに聞く、ベハナーム教授の声だった。


《そちらでも情報を得ているかもしれないが、トスタンとゲオルギアが、宣戦布告無く我が国に侵攻してきた。だが、これについては心配は無用だ。既に防衛線が構築され、不法な領土内への侵略は食い止められた。近く帝国の反攻が始まる見込みだ。なので、当面君たちは予定通りの調査活動を続けてくれたまえ》


 マギーたちが一番聞きたかった、どうすべきか?については最初にさっそく指示があった。


《ムニカでの発見も素晴らしい成果だ。大学校はもちろん、政府・軍部でも驚きを持って迎えられた、これだけでも君たちを西方に派遣した甲斐があったというものだ。詳細を聞かせてもらえるかね?》


 話はすぐに戦争のことから魔族調査の方に移り、マギーが説明する。その後、ブッチが交替してリナと手をつなぎ、気づいたことを補足した。

 

《・・・非常に興味深い。これは今後の我が国、そしてこの世界の行く末を大きく左右することになるだろう。ところで・・・》


 ベハナームは、そこでいったん話を切り口調をあらためた。


《他に何か特別な魔物と戦ったり、珍しい発見などはなかったかね?》


 俺たちは顔を見合わせた。

 再びリナと手をつないだマギーが、幽霊船との遭遇や、そこに割って入った動力を備えた軍船の話をした。

 マギーとブッチは機動船・海雷号には乗り込んでいないからあまり詳しい話はできず、俺の方をちらっと見たけど黙っていた。


《ふむ、機動船をテビニサが、か。それも貴重な情報だ。・・・実は先ほど、当面は予定通りの調査活動を、と話したが、状況の推移によっては帰国してもらうことになるかもしれないのだ》


 どういうことだろう?マギーとブッチも首をかしげている。


《戦争が現在の規模ならば問題ない。だが、そもそもトスタンとゲオルギアが現状で我が国に侵攻するのは無謀としか言えない。しかるべき筋では、これには裏があるのではないか、との見方もある》


《なので、もし仮に戦争が拡大することになった場合、国民の安全確保のためにも、君たちの知識を確実に持ち帰ってもらうためにも、帰国してもらうことになるかもしれぬ。その際は、こちらがおって指示する日付までに、ガリス公国にある帝国の領事館に行ってもらいたい》


「ガリス公国、ですか?」

 予想外の地名に、マギーがなぜ?って顔をしてる。

 それに対するベハナームの返事は、大学教授のものでは決してなく、長年魔法部隊を率いてきた軍人のものに他ならなかった。


《我が国は知っての通り西方諸国との関係は良好とは言えないが、ガリスのみは交易を通じて領事館を置ける程度の外交チャンネルを持っている。そして、最も速く帰国できる手段が、そこにある》


 いったんそこで言葉を切ったベハナームは、一呼吸置いて続けた。


《実は我が国もガリスに発注し機動船を建造中なのだ。場合によっては、それに同乗してもらうことになるかもしれない。使わずにすめばよいのだが、いざというときのために、そういう手段があることを知っておいてくれたまえ・・・》


 なんと、目にしたばかりの機動船をパルテア帝国も配備しようとしてるらしい。この最新技術は、急激に各国に広がっているってことだろうか?

 そのことに驚いた俺たちの関心は、戦争そのものよりそっちに向いた。


 俺たちはまだこの時点では、これが後に「亜人戦争」と呼ばれる大陸全土を巻き込んだ大戦争の発端だと、想像もしていなかったんだ。

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