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第168話 機動船

幽霊船マーレッタが消滅した後、俺たちはリナの転移魔法で謎の動力船に飛び、乗組員たちを襲っていたアンデッドの群れを退治することが出来た。

「テビニサ海軍提督、サグレフォス・シードだ、助力に心から礼を言う」


 謎の軍艦を指揮していたのは、鍛え上げられた海の男といった雰囲気の壮年の提督だった。ステータスは<ロードLV18>と表示された。


 彼の他に僧侶2人、魔法使い2人を含む約100名の兵力と戦闘奴隷が乗っていたそうだが、かなり被害が出ているらしい。


 やはり、神出鬼没のレイスや結界を張れるリッチらに手こずったようで、ゾンビ化させられて処分せざるを得なかった者を含めると10人以上が犠牲になったとのことだ。


「それでも、先ほどから急にアンデッドたちの動きが低下して、弱くなった、というか戦いやすくなった印象があったんだが、なにか心当たりはあるか?」

 どうやら、マーレッタが消えたことで、魔力の供給源を立たれたアンデッドたちの力が落ちた、というか、普通のレベル相応のアンデッドとしての力しか出せなくなったようだった。


 俺が幽霊船の話をかいつまんですると、心から驚いた様子だった。

「伝説の幽霊船にそんな背景があったとはな・・・シロー卿、おぬしは大変な武勲をあげたことになるぞ」

「いや、武勲って言うか、ただ話をしただけで・・・勝手に成仏してくれたって言うんですかね・・・」

「そう謙遜することは無いと思うぞ。いずれにしても本当に助かった、貴重な新造船の試験航海があやうく台無しになるところだった」


 この船は思った通り特殊な新技術を用いたものらしく、本来は最高度の軍事機密だが、乗員の命を救ってくれた恩人だから、というので特別に見学させてもらえることになった。


 船内のアンデッドの爪痕を清め、犠牲者への祈りを捧げて水葬にした後、俺たちパーティーはこの機動船『海雷』号の動力室に案内された。


 船尾の甲板から4層ぐらい下までぶち抜いて天井の高い機関室があり、大きなボイラーらしいものが据え付けられていた。

 機械技術に関心が高いノルテと船に詳しいルシエンは興味をあらわにしている。


 積まれている黒い石のようなのは、石炭、だよな?その他にも棚に整理された薪の山もある。

けど、俺が記憶している蒸気機関車とかのボイラーとは、かなり様子が違う。


「これは・・・蒸気機関、じゃなさそうだな」

「蒸気機関をご存じなのですか!?」

 サグレフォス提督と俺たちを迎えた、機関室のリーダーらしい、がっちりした体格の男が驚いた声をあげた。


「失礼、自分は機関長兼技師長のマルガスであります」

「マルガスはこう見えて、都市国家アカデミーの会員でもあり、我が国きっての科学者でもある」

 へー、肉体派だと思ったら人は見かけによらないな。そして俺みたいな若僧にすごく腰が低い。


「じゃあ、マルガスさんがこの動力機関を?」

「いやいや、滅相もない。自分には保守と整備、簡単な修理がやっとです。それでも構造がシンプルなので一度教われば扱えますがね。そうそう、これは“スターリング機関”と呼ばれておる最新の動力機関です・・・」


“スターリング機関”?

 どっかで聞いたことがある気がするけど、詳しく思い出せない。でも、間違いなく元の俺たちの世界から来たテクノロジーだ。


 マルガスによると、最近、ガリス公国の天才科学者ジェラルドソンという男が、蒸気機関やこのスターリング機関など、この世界の常識を覆す技術の産物を考案して、各国の科学者・技術者、そして一部の軍関係者や政治家の間で注目されているという。


 そしてサグレフォス提督が胸を張った。

「我が国はガリスと以前から友好関係にあるからな。世界に先駆けて、この試作船の供与を受けることが出来たのだ。この船が実戦配備されれば、旧態依然たるアダンやイスパタの横暴に振り回されることも防げるはずだし、私もこの船の初代艦長に任命された期待に応えねばならんのだよ・・・」


 都市国家では長年、アダンとイスパタという二大都市の抗争が続いていて、その他の都市は、両国から味方に付けだの軍資金を出せだの圧力を受けて大変らしく、特に新興のテビニサは「出る杭は打つ」とばかりに無理難題をふっかけられ、独自軍備の整備が急務だったそうだ。


 まあ、その辺の政治状況とかは俺はあまり興味が持てないけど、このスターリング機関ってのは気になった。


 マルガスの説明を現代風に解釈すると、機関内部には空気を圧縮するシリンダーとピストンがおさまっている。

 シリンダーのある部分に熱を与えると空気の膨張でピストンが動き、スクリューを回す動力になる。膨張した空気は、配管でつながった別の部分で冷却されることでまた元に戻る、この繰り返しで動くという割とシンプルな装置だ。


 熱源も冷却源もなんでもいい、というのがミソで、熱源は普段は薪を燃やし、戦闘時などスピードが欲しいときは、ガリスから供給された黒い「燃える石」(石炭についてはこの世界ではまだよく知られていないらしい)を使う。

 冷却源は海水だそうだ。


「ジェラルドソン博士はもう一つ、蒸気機関という天才的な発明もされたのですが、こっちは燃えたガスを高い圧力で封じ込める必要があって、製造や保守が難しいためにまだ実用化しておらんそうですが、よくご存じでしたな」

 メカオタが同類を見つけた時の嬉しそうな顔だ・・・いや、そんなに詳しくないからね?気まずいわ。


 で、ともかく、この機動船『海雷』号は、先月テビニサ海軍がガリスのドックで仮受領し、テビニサまで一往復最初の試験航海をして、ガリスに点検整備に向かうところなのだと言う。


 だからか、説明役はマルガスがしているが、機関の整備をしているっぽい連中は何人かテビニサ海軍の制服では無い白衣っぽいローブを着てたりする。あれは、ガリスから派遣されてる技術者なんだろう。


 いつの間にか、腰の革袋の中で、リナが魔法使いモードに着替えてて、念話を飛ばしてきた。

(少し回復してきたから、「透視」で中が見えるようにしてあげるよ)


 スターリング機関ってやつの内部は、マルガスが言った通り、金属製のパイプラインにピストンとシリンダーがおさまった割と単純な構造だった。


 元の世界ではこういう動力を使った機械とか乗り物は見た覚えが無いけど、どっかで使われてるんだろうか。それとも、蒸気機関とかガソリンエンジンが実用化するまでのつなぎだったのかな?

 機械関係はそれほど詳しくないのが悔やまれる。


 でも、パーティー編成でリナの透視を共有したノルテは食い入るように見つめていた。ノルテはやっぱりメカ女子らしい。


 リナは、再び転移するにはMPが回復してなかったので、というか、そういうことにして、夜が明けて『海雷』と『灘潮』が接舷してから帰らせてもらうことにした。

 遠話でマギーと連絡を取りそう伝えると、灘潮丸側は負傷者も少なく落ち着いた様子だった。


 サグレフォスやマルガスは後始末で忙しいため、俺たちは下級士官一人の付き添いで、士官用の食堂みたいなところに案内された。


 さすが新造の大型軍艦らしく、船首楼の上に設けられた士官用食堂は、真新しく快適で見晴らしもいい。


 負傷者の治療を手伝っていたラファとミナも合流し、海を見ながらエラン水とは違う、もっと甘くて美味しい「アマール茶」とかいう飲み物を振る舞われ、夜明けまで休憩させてもらった。

 都市国家群は人間の国の中では文化レベルが高い、ってルシエンが言ってたけど実感するね。


***********************


 海雷号と別れた後は、特に魔物や海賊に襲われることもなく、3日後にアルゴル王国の国境の街、バーノンという港に寄港した。

 ここはムニカと同規模の小さめの街で、冒険者ギルドと神殿を訪ねたものの特に発見はなく、そのまま翌日出港した。


 そして、七の月・上弦の十日、もうすっかり盛夏となった頃、灘潮丸は西への船旅の一応の終着点であるアルゴル国際港、地名で言うとジベリアスという都市に到着した。


「わー、すごい立派な街ですねぇ!」

 ノルテが感嘆の声をあげた。

 やっと船酔いから解放される喜びもあるかもしれない。けど、アルゴル王国の主要都市であり、王都への玄関口でもあるジベリアスの港町は、たしかに美しく活気に満ちあふれた大都市だった。


 港が見えるようになるずっと前から水平線から突き出していた、高い尖塔の数々。近づくにつれて目に入ってくる色鮮やかな建物群。

 

 航路をあふれんばかりの各国の船・・・軍船、商船、漁船。

 大陸の南西端に突き出した大国アルゴルの繁栄の象徴のようだ。


 港も巨大で、数え切れないほどの埠頭がある。

 灘潮丸はその一つの沖合に碇を降ろし、乗客ははしけに乗って下船する。貨物を積んでる商人たちは最後なので、身軽な俺たちと巡礼のラファたちのグループが最初のはしけに乗った。


 身軽とは言っても、旅の荷物はそれなりにあるから、はしけはすし詰めだ。


 ラファたちは、アルゴルの王都カスティリアのある地区の住民を代表して、カテラ万神領の聖地巡りをしてきたそうで、まわりの人たちに頼まれた魔除けのお札とか聖水とかを山ほど買い込んできたために、背嚢以外にも大きな布袋をいくつも抱えていた。


「今回は世話になったな、あなたたちにも神々の加護があらんことを」

 そう言うラファたちと、互いのこの先の道中の無事を祈り合って別れた。


 港でジベリアスの入市手続きを済ませ、高い街壁の門をくぐると、斜面に沿って段々になった街の様子を見上げる格好になった。

 本当に大きな街だ。

 周辺をあわせると、人口30万人にのぼると言う。


 アルゴルではこの街と王都カスティリアの二カ所に学術ギルドにあたるアカデミアがあると言うので、まずはそこに顔を出したい。それから宿の確保だ。

 長い船旅を終えたばかりだし、ここだけでも冒険者ギルドや複数の神殿もあるから、何日か滞在することになるかもしれないな。


 入市の際に案内所で聞いたアカデミアまでは2kmぐらい、それなりの距離がある。


 まだ午前中だが真夏の南国の日差しは強く、久しぶりの長い徒歩だし、しかも緩やかとは言え上り坂だ。みんな足取りが重い。


 けど、初めての国の活気ある町並みは見るもの全てが新鮮で、苦痛ではない。

 魔法で出した冷たい水でのどを潤し、時々女子たちが気になった屋台のお菓子とかを買い食いしながら、ゆっくり歩く。


「これがアカデミアね?首都じゃないのに、立派だよねぇ」

 マギーとブッチが感心した声をあげた。たどり着いたのは五階、いや六階建てかな、明るい色の煉瓦造りの大きな建物だった。


 二人が大学校の身分証を示し、俺たちは護衛と言うことで冒険者ギルドのカードを見せる。

 荷物は預かってくれる所があって、やっと身軽になれた。


 さていつものように調査を始めようかと、アカデミアの事務室を訪ねると、マギーの名前を聞いた職員が、なにか奥の方に入っていった。

「通信文が届いていますよ」


 中年の女性職員が二つ折りにした羊皮紙を持って来た。

 冒険者ギルドみたいにアカデミアでも、急を要する連絡のための魔法通信網があるようだ。


「マグダレアさん宛てにパルテア大学校のベハナームさんからです」

 あれ?研究室の直接の上司はデロス教授だったよな、ベハナームの方から急を要する通信文?


 首をかしげて羊皮紙を開いたマギーの顔色が変わった。

「大変です!戦争が始まったって・・・」

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