表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
173/503

第162話 (幕間)諜報戦

ムニカの廃坑深くに眠る魔王の眷属が発見された、その当日のうちに、遠く離れた東の国でそれを察知する者がいた。

「そなたの耳目に、映ったものがあると?」

「左様にゴザル」

 忍びは多くは語らぬ。ただ問われたことに答え、与えられた任を果たすのみ。


「聞こう」

「ハッ。セッシャの傀儡が、カテラの西に達したようにゴザル。その地下深く、そう、迷宮なれば十階層よりは深い、二十階層はありますまい・・・その地下にて、大いなる魔を直接目にしたようにゴザル」


 側仕えの者さえ入らぬ奥の間に、誰の目にも留まらず入り来たった忍びの報告を受け、主はただ一人黙考した。


「大いなる魔・・・先日の遺跡と同じか」

「種類は違えど、魔王の下僕のうち力ある者であるカと」

「目が生きておるなら、それも封印されているということか?」

「・・・」


 珍しく問われたことにすぐに答えぬ様子に、主がいぶかしむ。

「・・・“封印”というよりむしろ、眠っているような波動にゴザッタ」

「ほおぅ、それは奇態な。そんなことまでわかるか、さすがだな」


「傀儡の術がかかっている者が感じたことは、セッシャにそのまま伝わるでゴザルよ。傀儡はあくまで自分の意思で、行動しているだけ、そう思ってゴザル。あの者はセッシャに会ったことさえ覚えておらぬでゴザル」


「恐るべき、いや、見事な術よな」

「されど気になることがもう一つ・・・」

「なんだ?」

「術の効果が、思ったより早く弱まってゴザル。これではいつまで傀儡が使えるか・・・」


 ひとたび彼の術にかかったものが、抜け出すことなど容易には出来ぬはずであった。

「距離が遠くなりすぎたからではないのか・・・まあよい。にしても、わずか二月で、二体目の魔王の下僕を見いだすとは、よほどその者たちは強い星を持っておるようだな」

「御意・・・」


 主はその気になれば自らを一瞬で殺めることさえ出来るその男が、本当の所、何を考えているのか今もってわからなかった。

 自分にこのように重用され、他のどのような腹心とも分かち合えぬ秘密を共有していてさえ、この男が真に自分に忠誠心を持っているとは信じかねた。


 そう、この男はなんというか、主に忠節を尽くすという「役柄」を面白がって演じている、そんな風に感じることもあるのだった。


 だが、それならそれでよいのではないか?

 この男が、他に類を見ない忍びの技を持つことは確かなのだから、その忠節がかりそめのものであっても、使えるうちは使うまでではないか。


 主の意識は、それきりまた別の方に向いた。

「開戦の兆しは?」

「もはや時間の問題かと、今なら先んじて止めることも可能でゴザルが?」

「よい、捨て置け」

「・・・」


 主が常ならせぬ説明をしたのは、むろん親切心などでは無く、自らの謀を自慢したかったのかもしれぬ。

「あえて奇襲させ、帝国は被害を受ける。それで反戦派の連中も黙るだろうよ。なればあとは、反撃に出て国土を奪おうと何をしようと思うままよ・・・」


 察知している敵の奇襲を、味方にも知らせずあえて受けると。


「なれば、それに乗じてかの国を叩くべく、黒幕はかの国と噂を・・・」

「うむ、抜かるでないぞ」

「しかと・・・」


 その声が主の耳に届いた時には、既に漆黒の闇の中に忍びの姿はかき消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] んんん、盛り上がってまいりました! おもしろい!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ