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第17話 領内掃討戦②

盗賊退治はなんとか終わったが、俺たちは休む間もなく魔物の群れの討伐に向かうことになった。

 ようやく盗賊の残党狩りも終わり、泉のそばのちょっとした空き地いっぱいに

兵が集まってきた。

 人数的に、むしろ俺たちの方が支隊だったようだ。


 未明から、先発隊がまず領内を荒らす盗賊団を殲滅し、後顧の憂いをなくしてから、カレーナたち後発隊と合流し、一昨日俺たちが戦ったオークの群れを包囲してたたく。

そんな計画だったが、先発隊が手こずったため予定が遅れている、とまわりの兵たちが、配給されたパンをかじりながら話していた。


 カレーナと、もう一人僧侶LV3と表示された男が、負傷兵に順番に回復呪文をかけている。

 美人社長に直接手当てしてもらえるなんて、考えてみたらすごくいい職場だ。

 それなのに大した人材が集まってなさそうなのは、よほど給料が悪いとか、ブラックな労働条件なのかな。


 集まってきた隊長格や斥候に出ていたらしい者たちが、地面に地図を広げて情報交換している。

 なにげなく近寄って、聞き耳を立てる。

 一応、セシリーの奴隷なんだから、側に控えているのは当然だよね。


「ギルドの冒険者たちは、説得できなかったか」

「むぅ、盗賊退治で約定は果たした、と言い張るばかりでな」

「犠牲が大きかったのも士気を下げたようですな」


 冒険者ギルドから来た連中は、大きな被害が出たことで、後の作戦には参加せず引き上げてしまったという。


「だが、これで街の近くの脅威は一掃されたな」

「はっ、オークの群れも昨日見つけた巣穴から離れたものは今のところいないと、報告がありました」


 どうやらけさ、俺たちの馬車と途中で別れた3騎は、魔物の拠点を見張りに行っていたようだ。

「ならば急がねばな、一網打尽にできる機会はのがせん」

「領主さま、そちらは・・・」


「大丈夫ですよ、ザグー。・・・ちょうど応急処置は終わりました」

最後の一人に“癒やし”をかけ、カレーナが立ち上がる。

その額の汗を、セシリーが取り出した布で拭う。


ザグーと呼ばれたLV8の騎士が先発隊を率いていたようで、全員にあらためて指示を飛ばす。

 俺たちも地図の前に集められ、オークの群れがいるという洞窟の位置と、それをどちらからどう近づいて包囲を縮めるか、細かく指図された。

 小川とは反対側、森のかなり奥だ。


 迷宮があるとされる街から遠い方角には、トリウマに乗って小径を進み、回り込んでから下馬して森に入るらしい。


 大きく3グループに別れ、それぞれにスカウトのジョブの者がひとりずつ付く。

冒険者の『察知』スキルより、もっと詳しく敵の位置や種類がわかる『索敵』というスキルがあるんだそうだ。


 考えてみたら、盗賊だってそういうスキルを持つ者がいたかもしれない。

 だから俺たちは、裏をかかれたのかもな。魔物はどうなんだろう。


 カレーナとセシリーは一番レベルの高い中央のグループで、冒険者LV6がパーティー編成をしているようだ。

 俺はここから近く最初から徒歩で森に入るグループ。率いるのはムハレムという、小太りの壮年のLV5戦士だ。

 あの魔法使いの女の子もいるな。相変わらずキョドってるが、大丈夫か。


 出発する前に、セシリーが俺に向かって

「主として命じる。誓約に従い、魔物を討伐せよ」

 とあらためて唱える。一瞬、目に見えないリングに首を絞めつけられる。


 思わず首を押さえると、セシリーは頷いてカレーナの元に向かった。

 別にこんな所でひとりで逃げたしたりしないけどな、かえって危ないし。


ムハレム班の俺たち8人は森に入り、足音をひそめて獣道を上り始めた。

一番標高が高くなるコースを進んで、めざす洞窟を斜め上から見下ろす形で包囲の輪(実際はU字型だが)を閉じるのが俺たちの役割だ。


 歩きながら気づいたが、魔法使いの他にもうひとり、ムハレムの隣で道を案内しているスカウトも女のようだ。服装が男の兵と同じ革鎧で胸もほとんどないので、ぱっと見、やせた小男だと思っていた。

 スカウトLV5だ。意外に高い?のか。


 ついでに他のメンバーも、確認してみる。

LV4戦士、LV3戦士、LV2戦士、LV8戦士・・・レベル8だと?

 列の真ん中あたりを歩いている、がっしりした大柄な男だ。


 なぜ、こいつがリーダーじゃないんだろう?

 そう思って、判別スキルにもう一度集中して見ると、表示は

<ジョブ 戦士(LV8)/奴隷(隷属:カレーナ・フォロ・オルバニア)>

 だった。


 奴隷なのか、俺と同じく。

 そして念のため他のメンバーも詳しく見ると、LV2の痩せた戦士もカレーナの奴隷と表示された。

 どうやら、奴隷制が普通にある社会らしい。


 それにしてもなぜ、こいつらは奴隷にされたんだろう?俺がセシリーにだまされたように、カレーナといいことをしたってのはないよな、あるはずがない。


 足音をひそめて歩いている中で、誰かに聞くことなんてもちろん出来ないし、だいいち結構急な山道で、息が切れそうだ。

 女子2人が黙々と歩いてるのに、俺はかなりへばってきた。


 冒険者スキルで、HPが上昇しているはずなのに。

 引きこもり浪人生の悲しさだ。


 ようやく、前方でムハレムが手で、「止まれ」の合図を出してくれた。


 俺は革鎧の中に入れた、本当の水袋から一口飲むと、偽革袋を口に当てる振りをして、リナに小声で聞いてみた。

「奴隷が多いよな。どういうことだと思う?」


 少し間を置いて、人形の返事が返ってきた。


「戦争で捕虜になったり、税金が払えなくて奴隷身分に

 落とされたりすることもあるよ」


 革袋の口が少し開いて、そろそろと顔を出す。見られるなよ。


「あの人たち?外国人っぽくはないから、戦争捕虜じゃなさそう。

 経済奴隷の方かな。

 まあ、女にだまされて奴隷になっちゃうダメ男もいるから

 わからないけどね」


 あ? 言ってはならないことを・・・

 ついでに、カレーナとセシリーを怒らせたことの文句も言わせろ。


「お前、さっきの声色はなんのつもりだよ。シャレになんねーよ」


「声が大きいんじゃない?

 コミュ障が言えない青い欲望をはっきり伝えてあげただけでしょ、感謝して」


 まわりに聞こえてないか思わず見回した俺に、リナは容赦なく宣告した。



 不意に小突かれた。

 振り向くと、目の前にニヤニヤしたスカウトの女がいる。

「集合しろよ、ぼうや」

 ハスキーな声でささやくと、さっさと言ってしまった。


 びっくりした、まったく察知できなかった。

 なにかそういう気配を消すスキルでもあるのかもしれない。


 考えてみたら、LV11の盗賊の頭目も気づかないうちにカレーナの近くに潜んでいたし、魔物にもそんなスキルがあったらやばそうだ。


 ムハレムの所に集まった俺たちは、身を伏せて眼下に目当ての洞窟の入り口が見える所まで、そっと出た。距離は3~400メートルといったところか。

 俺の察知スキルでは集中しても、中に何かいそうだ、ぐらいの感じだ。


 小声で情報共有が行われる。


「ラルークの索敵によると、さっきまで巣穴の外に2匹いたが、中央班が遭遇して消したようで、予定通りの作戦で行く」

 ラルークというのが女スカウトのことか。


「50歩間隔で展開して身を伏せて待て。包囲完了がわかりしだい、俺が手を大きく振り回すから、一斉にときの声をあげろ。それが他の班への合図だ。それから、包囲の輪を絞るように歩調を合わせて駆け下りる。攻撃開始だ、遅れるなよ。その時もわざと大声を上げろ」


 オークの群れは10匹程度らしい。作戦と言うには雑なやり方だが、俺たちはやつらの注意を引き、一方向から目立つように攻撃をしかける。


 向かってくれば適当に相手をして、戦線を破らせずにいる間に、背後から他班が挟撃する。

 逃げれば追撃して、他班が待ち構えている方に追い込む。

 ・・・ということらしい。


 包囲完了がどうやってわかるんだ?と思ったが、それもスカウトのスキルかなにかを使うんだろうか。


 とりあえず、ケガをしないように気をつけよう。

うちの班の武器は、ムハレムとスカウトの女が弓を持ってるのと、魔法使いの女の子は多分、なにか魔法を使えるんだろうが(魔法使いだからな)、その他は剣しか持ってない。いやでも接近戦だ。


 いざとなったら、粘土の壁でも出して身を守ろう。

剣技レベル1、なんてスキルもいつの間にか持ってるとは言え、体育で剣道をさせられた時ぐらいしか、長い物の振り方を教わったことさえないんだから。


8人の配置は、真ん中にムハレムとラルーク、両端がLV8の奴隷戦士とLV4戦士。

 俺は左に奴隷戦士、右に魔法使いの女の子、という位置に据えられた。


びくびくしてる女の子の肩を奴隷戦士がぽんぽんたたいて落ち着かせる。いいね。

 俺も控えめにぽん、とたたいて通り過ぎると、女の子が「ありがとう」と振り向いて小声で言う。眉間にしわを寄せてなければ、わりとかわいいかもしれない。

 もう少し成長したら楽しみだ。


 俺の持ち場まで身をかがめて進むと、前にいた奴隷戦士が振り向いて声をひそめた。

「あんたも奴隷らしいな、お互い生き残ろうぜ」

お、知ってたのか。


 俺は無言でサムズアップした。って、こっちにそんな習慣あるか?

でも、わかったみたいだな、にやっとしてる。 意外に気が合いそうなやつだ。



 茂みに身を伏せて、ムハレムの方と眼下の洞窟の方を交互に見ながら待つこと5分足らず、洞窟から2,3匹のオークが様子をうかがうように出てきた。

 なにか気配に気づいたのか? 気にしているのはこっちじゃなさそうだが。


ちょうどその時、ムハレムが大きく腕を振り回した。


「ウォーーーッ!」

 一斉に8人が大声で叫んだ。息が合ってるな。


そして、斜面の、目星をつけておいた比較的足場の良さそうなラインを、駆け下りる。全速力ってわけじゃない。転んだら意味が無いし、オークたちの目を引くのが大事だしな。


 洞窟の中から、わらわらとオークたちが飛び出してくる。

統制が取れてるとは言えない。何事かと武器を持たずに様子を見に出た、みたいな感じの奴もいて、そういうのは穴の中に戻ろうとする。それと出てくる奴とで混乱してる。

 

 その間に俺たちは斜面を駆け下り、洞窟までの距離を詰める。

 残り50mぐらいまで迫ったところで、得物を持ったオークたちがそろい、組織的なくさび形の戦列を作って向かってきた。やはり、結構知性がある、ってか俺よりずっと戦い慣れてるっぽいぞ。


 その時、俺の右手の3人が足をとめ、矢と魔法を放った。

 火の玉だ。

 あの女の子が放ったのは炎の魔法か。魔法使いLV1ではまず、火の玉を飛ばせると。


 だが、残念ながら自動追尾とかではないみたいで、火の玉はオーク2匹の間を抜けて行って消えた。

 だが、矢の一本が1匹のオークに当たった。


「ギャッ」

 と悲鳴があがってよろめいたが、致命傷ではなさそうだ。


 俺の左側の奴隷戦士LV8が、一足早く、オーク側の一番端にいた奴に斬りかかる。その結果を見届けるまもなく、俺の目の前にも一匹迫ってくる。

 <オークLV4>

 判別表示が浮かぶとともに、あっという間に眼前いっぱいになり、石斧を振りかぶってきた。うわっ!


 俺はへっぴり腰で、かろうじて剣で防ぐ。

 ガツッと鈍い音がして剣がはじかれる。必死にまた剣をたたきつけて食い止める。オークがまた斧を振りかぶる。勢い負けしないように、チャンバラみたいにこっちも剣を振ってぶつける。


 剣道みたいにはいかない。

 当たれば間違いなく大けがかそれ以上のダメージをくらう。怖い。


 一応は同じレベルのオークに防戦一方になる。

 剣技のスキルが効いてるような気はまるでしないが、かろうじてケガはしてないし防げているだけでもマシなのか。このままじゃジリ貧だ。

 と、オークが急にきびすを返して下がっていく。


 見ると、他の二班がようやく包囲網をつくり、オークたちの背後に迫ってきたのだ。洞窟の入り口近くまで迫っている。

 すみかへの退路を断たれるわけにはいかないよな。

形勢逆転だ。


 数に勝る俺たちは、オークの群れを洞窟の入り口前に押し囲む形になった。ただ、そこから膠着した。


 包囲した形になったことで、飛び道具は反対側の味方に当たるおそれがあるので使えなくなった。

 剣と斧、槍といった接近戦での斬り合いは、数が多いとは言え、こちらも低レベルな戦士も多く、優勢とは言っても圧倒するほどではない。

 向こうもLV8のオークリーダーを中心に、かなり統率が取れて、洞窟の入り口を中心にした半円陣を敷いて抵抗している。


 何匹かレベルの低いオークを味方が倒したようだが、こっちも負傷して下がる者が出ている。


 カレーナは包囲網から少し引いた位置で、下がって来た負傷者を治療しているようだ。直接敵を倒さなくても、たぶん主力メンバーでパーティー編成をしていて、経験値が入るのだろう。

 でないと俺と同じぐらいの年の僧侶でレベル6とか、育ちすぎだ。


 こちらはカレーナが回復してくれるおかげで軽傷者は戦列に復帰できるが、オーク側には癒やし手はおらず、戦力が欠ければそのまま人数差が広がる。


 人数差?こんなに人数差があったか?

 倒れているのを含めてもオークは7~8匹。もうちょっといそうだったんじゃ?


 それまでは確かになかったはずの気配が生じた。

 俺たちの反対側の味方の、その背後だ!

 

 4、5匹だけだ。

 だが不意に背後から襲われた味方の兵士たちがなぎ倒される。強い。


 <オークリーダーLV8>!?


 なんてこった、2匹いたんだ。

 偵察が把握した群れで最高レベルは、オークリーダーV8だった。多分、LV8の個体は複数回見つかっていたものの、それを同じ1個体だと誤認していたんだろう。


 実際はLV8のオークリーダーが2匹いたんだ。

 そして一方がどこにどう伏せていたのか、あるいは別の出入り口があって回り込んだのかわからないが、俺たちが包囲を築き油断した時を狙って奇襲した。

 

 そんなことを、冷静に考えられたわけではもちろんない。

 勢いづいたオークたちに必死に剣をあわせていた。だが、対面の味方が崩れたことで、こちらのオークたちも包囲網を破り、ひとかたまりになって向こう側に走り出した。


 だが、それによって、先ほどのように味方への誤射を恐れなくていい位置関係になった。


 俺は、全力でオークたちの眼前にできる限りデカい粘土の壁を出現させた。

 高さ2メートル、幅7,8メートル近く。先頭の3匹は、ぶち当たって粘土にめり込む。


 その後ろの者たちは左右によけようと速度が鈍る。その左右に新たな壁。コの字型になった壁に次々ぶつかり、振り向いて戻ろうとする。

 

 その時、各班の弓持ちたちの矢と、魔法少女の火の玉が、オークたちに降り注ぐ。何本かの矢は当たり、魔法はまた外れた。


 このままだと逃げられる。

 コの字の粘土壁の最後の一辺を塞ぐように、先ほどより少し低い1.5メートルほどの壁を生み出す。MPの使いすぎで頭がクラクラする。


 残る力を振り絞って、粘土の壁を「変形」させる。

ロの字型の囲いを、乗り越えようとするオークたちの動きを封じるように圧縮。粘土の壁で押しつぶすように10匹以上のオークを固めていく。


 頭痛がひどい。両膝をつく。意識が遠のく。


 その時、真っ先に壁を乗り越えようとしたオークリーダーに、魔法少女の火の玉がついに命中した。

 火だるまになって絶叫をあげ、密集したオークたちの上に落ちる。炎が広がる。


 そこに再び矢の斉射が降り注ぐ。

 動きが鈍くなったオークたちのまわりに、ようやく槍や剣を持った者たちも殺到する。


 ついに決着がついた。

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