第154話 廃坑①
ムニカの廃坑前で3体のストーンゴーレムとオークの群れに襲われたものの、ストーンゴーレムの弱点属性である風魔法をうまく使うことで、なんとか倒すことが出来た。
膝関節を破壊し倒れていた残る二体のストーンゴーレムにも、俺たちがとどめを刺した頃には、ギルドの連中も外に出ていたオークの掃討を終えていた。
ゴーレムの投石攻撃で3人犠牲者が出たようだ。
致命傷にならなかったけが人には、神殿から派遣された僧侶たちが治癒魔法をかけている。
「シロー卿だったな、見事な戦いぶりだった」
ギルド長のゼベトが歩み寄ってきた。
この男もゴーレムが出現した最初こそ慌ててたけど、後は安定した指揮ぶりだった。
「あんたもな。で、どうする?地魔法でとりあえずふさいだけど、開けて中を討伐するかい?」
粘土スキルは大勢の前で説明するのは面倒なので、とりあえず地魔法ってことにしておく。
「うむ、大半の者はまだ戦えるし、神殿からも応援を出してもらっているからな。原因を探りたいし、きょう出来るだけのことはしておきたい」
それはそうだよな。
ゼベトは、副ギルド長のモーガン、神殿から来たナバルというLV11僧侶と相談し、方針を決めたようだ。
亡くなった者たちにナバルらが聖句を唱え、みなで祈った後、俺たちは3つのグループに分けられた。
まず、この後、廃坑内に入り魔物の掃討にあたる者を、レベルの高い精鋭を中心に5パーティー計28人。そのうち1パーティーは、もちろん俺たちだ。
2つめは、索敵能力の高い者を中心にこの周辺の巡回調査をしてくるグループ。
巡回を終えたら、ここの入口を守り、退路の確保にあたってもらう。
そして最後に、初級冒険者と神殿の僧侶のうちレベルが低く戦闘に不向きな者たち。彼らは遺体を神殿に運び、遺族がいる者には知らせて埋葬する手伝いをしてもらう。 副ギルド長のモーガンが、しぶしぶそちらを仕切ることになった。
「俺も廃坑内に入るべきだと思うんだが?」
「そう言うな、モーガン。ギルドの仕切るクエストで亡くなった者たちだ。ギルドのしかるべき者がおらんでは遺族に説明がつかんだろう?それにギルド長と副ギルド長が揃って不在というのもまずい」
ゼベトの言ってることは筋が通っていたから、モーガンもやむなく引き受けたようだ。
廃坑内に入るのは、俺たちの他に4つのパーティー。
まず、最精鋭とみられるのが、ギルド長ゼベト自ら率いるパーティーだ。
ゼベト自身は、騎士LV18。他に、戦士LV18、冒険者LV17、スカウトLV18、僧侶LV17、魔法使いLV17とバランスもいい。
迷宮に入った経験もそれなりにあるそうだから頼もしい。
他に、平均LV10以上のパーティーが2つ。一方には魔法使い、もう一方には錬金術師がいる。
そして神殿から、僧侶LV11のナバルが率いるパーティー。
ナバル以外のメンバーは、騎士LV11、僧侶LV10、僧侶LV8、巫女LV9、狩人LV10という、ちょっと微妙なレベルとバランスだが、アンデッドが多数出たという情報があるから、その際はこのパーティーが主力になるかもしれない。
全員の準備が整ったという合図を受け、俺は地魔法を使ったフリをして、粘土壁を吸収した。
壁の向こうには察知していた通り、オークの群れが待ち構えていた。
突然、間を遮るものがなくなり、一瞬うろたえているところに魔法と矢が集中する。
それを避けようと廃坑内部に逃げ戻る者もいるが、それ以上に襲いかかってくる方が多い。
射撃組は2斉射するとさっと後ろに引き、かわって戦士や冒険者など前衛型のジョブの者が槍や剣を構える。
激突した。
十匹以上のオークが一度に斬り倒され、勢いが止まる。
LV6以上のオークリーダーは数える程で、後はLV3~4のオークだから、レベル差もあるし、それ以上に、あらかじめこの展開を想定していたことが大きい。
崩れたったオークたちに、後衛に下がった射撃組がさらに斉射すると、入口付近の敵は我先に逃げ出した。
「よし、打ち合わせ通り、パーティー順で用心しながら前進、最初の分岐まで行くぞ」
パーティーには番号が振られていて、俺たちは3組だ。
1組がゼベト率いる精鋭組、2組は魔法使いを含む平均LV11のパーティー、そして俺たちの後ろには神殿組が続く。
廃坑内部は、真っ暗で天井も迷宮よりずっと低い。
俺たちは先頭にカーミラ、二列目に「雷素」で照明を浮かべた俺と、魔法使いモードのリナ、三列目は玻璃瓶を首からさげたノルテとルシエン、その後ろにマグ&ブチで、最後尾に粘土犬ワンがついている。後ろに他のパーティーがいるから、背後にそう危険はないだろうってシフトだ。
見える範囲が狭いので、地図スキルには百メートルぐらい先までしか映っていないが、その範囲には魔物の反応はない。
けど、カーミラの嗅覚には、逃げていったオークたちの他に、既にアンデッドの存在も捉えられているようだ。
「途中の穴の先?ゾンビがいっぱい」
横穴なり分岐から先が要注意らしい。
しばらく行くと、十字路に出た。まっすぐな十字路でなく、どれも曲がっているので見通しは悪く、地図に映る範囲があまり広がらない。
「どうする?アンデッドがいるようだけど」
「こっちの穴に、すごくたくさんいるよ」
十字路で止まったゼベトに、俺たちは話しかけた。
「彼女は人狼か?いる方向がわかるのは助かる。なら、そっちを神殿組と一緒に担当してもらえるか?」
オークの気配が濃い正面に伸びる通路をゼベトらが、右手の気配の薄い方を2番のパーティー、そして5番パーティーは十字路に待機し、増援が必要なパーティーは魔法使いの遠話で5番を呼ぶ、ということにした。
廃坑の図面は既にどこにも残っておらず、しかも本来の入口ではないところに土砂崩れで穴が開いた可能性が高く、ここからどう坑道が伸びているかは全くわからない。
元鉱夫だというゼベトのパーティーの戦士が、構造上はまだかなり上層だろうとあたりをつけて、それに従って進む方針だ。
「順調に進めても、次に分岐があるところまで行ったら、戻ってきてくれ。敵に会わなくても一小刻をめどに一旦集合して、持ち帰った情報で進路を決めよう」
一小刻というのは12分ぐらいだから、こまめに合流しようってことだ。
神殿組のリーダーのナバルと簡単に打ち合わせて、俺たちが先に立って、左手のアンデッドが大量にいそうな方に進むことになった。
「!」
俺の察知スキルでも捉えられたと同時に、地図スキルに大量の赤い点が映った。
「来たよっ」
カーミラの合図と同時に、俺は火素を飛ばした。照明弾の役目だから、あえてあまり絞り込まず、鬼火を浮かべるように長時間、天井付近に留めるイメージだ。
ウジャウジャいやがった。
<ゾンビLV3><ゾンビLV3><グールLV6><スケルトンLV4>・・・
「スケルトンもいるっ、矢に注意しろっ」
判別した情報を声に出して叫んだのは、パーティー編成してる仲間たちより、後ろの神殿組への注意喚起だ。
声をあげたのと同時にルシエンの弓が鳴り、銀の鏃が最前列にいたグールに命中したらしい、声にならない瘴気の声のようなものがあがり、一体の魔物が消滅していくのがわかった。
それによって、奴らは俺たちを本格的な敵と認識したようで、わらわらと大群が向かって来る。幅3メートル、高さ2メートルもないような坑道をひしめき合って・・・矢が飛んで来た。
俺は、目の前に粘土壁を出現させる。これだけ狭い通路ならのぞき穴だけいくつか開けて、後はふさいでしまうのも容易だ。
突然の壁の出現に、神殿組がびっくりしてる。
「地魔法で壁を作った。いくつか穴をあけてあるから、そこから入ってこようとするヤツを順番に浄化していこう」
こういう状況で、浄化を使える者が多数いると、後は一方的な展開になるな。
あまり知性を持たないゾンビたちは、押し合いへし合いしながら、とにかく俺たちを捕まえようと、狭い穴に身をねじ込んでくる。
そこを、僧侶や巫女が交替で休憩しながら、ひたすら浄化する。
時々リナの「透視」で壁の向こうの様子を確認しながら、スケルトンが近づいて矢を打ち込んでこようとする時だけ注意して、練り込んだ火魔法をぶつけて倒す。
十分足らずで、向かって来るアンデッドはいなくなった。
穴から向こうを覗き、百メートルほど先に分岐があるのを確かめて、俺たちは十字路まで戻ろうとした。その時だった。
(至急増援を頼むっ、支え切れんっ)
遠話で助けを求める絶叫が響いた。
 




