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第16話 領内掃討戦①

奴隷にされた俺は、否応なく戦に連れて行かれた。そこにまた思わぬ危機が襲う。

 俺たちはトリウマを駆って、というと聞こえがいいが、正確に言うと俺を乗せたトリウマは他の騎兵らにくっついて、俺の指図などないままに、小径を進んでいた。


 一昨日スクタリの街にやってくる時に通った、脇街道と呼ばれているらしい小径だ。そこを一昨日とは逆にたどり、オークたちと戦った方へと向かう。

 一行は全部で13騎。

 LV6の者がカレーナとセシリーの他にも2人いて、それが最高レベルだ。戦士が大半だが、スカウトなど別のジョブを持つ者もいるようだ。

 一列になって、俺は後ろの方だから重なってよく見えない。


 途中、兵たちの士気と武装を確かめるように、カレーナとセシリーが列の後ろの方まで見に来た。目が合った俺がにらむと、カレーナはうつむいて目をそらした。

 悪いことをした自覚はあるようだ。


 逆にセシリーの方は、フンっとばかりに虚勢を張ったような態度だ。

ほんとにむかつくな。 


 二人とも、いずれ必ずお仕置きしてやるからな。

 あんなことやこんなことを、絶対にだ。


 俺が妄想パワーを充填している間に、前方の3騎が先に行ったようで、見えなくなった。スカウトジョブを持つ者たちがいなくなったので、偵察に向かったのかもしれない。


 あの祠があったはずの所には、やはり何も見当たらなかった。

 そして、まもなくオークの群れと遭遇したあたりだな、と思った時、前方から止まれと指示が出た。休憩か。

俺はトリウマの止め方なんてわからないが、まわりにあわせ、勝手に止まる。

 そして、さっさと降りろ、とばかりに脚をたたんで俺を振り向く。わかったよ。


 小径沿いにちょっとだけ樹木が切り倒されている場所があり、少し奥の方に大きな岩が見えた。そのあたりから水が流れ出している。泉があるようだ。


 実質的に兵を率いていると見えるLV6の騎士が声をかけ、皆、トリウマを休ませて、泉の水で喉を潤しに行く。

 俺も一番後ろをついて行ったが、その目の前を歩いている小柄な兵士は、戦の経験がまだないのか、見るからにおどおどしている。


 その時ようやく気づいたが、女だった。胸もほとんどないし、革の帽子に髪を押し込んでいて気づかなかったが。年も俺より年下、15,6に見える。


 何でこんな子を兵士に?と思い判別をかけてみると、

 <魔法使いLV1>

と出た。そういうことか。


 おそらく希少価値の魔法の才能があったから、本人の意思か、徴兵みたいな制度があるのかは知らないが、こんな少女が領兵に加えられているんだろう。


とは言え、俺だってこの間初めて一戦交えた時は脚が震えたし、ましてや小柄な女子が魔物と戦うなんて、怖いし気持ち悪いし、緊張するのも無理ないよな。


「どうぞ」

 そんなことを思ったタイミングで彼女が泉の水を飲んで、俺に場所をあけた。

「あ、どうも」

 俺もかがみ込んで、石積みの間から出てくる水を手ですくって口をつける。


「・・・ええっと、傭兵さんですか?」

 なんていうか、俺と同族っぽいコミュ力の低さを感じるぞ。見ない顔だと言いたかったんだろう。


「え?あー、傭兵じゃないけど、その、奴隷?みたいな・・・」

 いや、やっぱり俺の方が、もっとコミュ力低いな。うん。


「えっ、奴隷さん? すみません、すみません」

 うん、でも同族だな。なぜ謝るのか、気弱系オタク女子の匂いだ。

 異世界にもいるのか。


「そっか、セシリー様が引き連れてた戦闘奴隷って噂に、あ、ごめんなさい」

 ちょっと猫背になって眉間にしわを寄せて俺に顔を寄せてきたが、ハッとすると、そのまま顔を赤くして、名乗りもせず行ってしまった。


 そのセシリーは、カレーナとLV6騎士と3人で、何やら真剣に話をしている。

「予定ではもう着いているはずだが」

 声が漏れ聞こえてくる。


 俺は『察知』のスキルで近づく気配を、これは敵じゃないな、感じた。


「領主様、ご報告です!」

 トリウマが1頭、駆けてきた。


「ザーンどのか!」

 セシリーが声を挙げる。俺も知ってる顔だ。


 あれは初日にカレーナたちとパーティーを組んでいた、LV6冒険者じゃないか。ずいぶん慌てている。

「先発隊のザグー騎士長どのの指示で参りました」


 息を切らせてトリウマを飛び降りる様子に、カレーナもなにか察したようだ。

「計画通りには行かなかったのですね?」


「はっ、盗賊のアジトを包囲し、夜明けと共に奇襲に成功。

 大半は討ち取ったのですが・・・」

 そこでいったん言葉を切る。


「肝心の頭目のジノスが、包囲を破り逃走しました」

「なんだと!」

 セシリーが声を荒げる。

「戦闘でこちらも死者2、負傷者5名。手分けして行方を追っておりますが、

 ジノスと手下2名が、現在も見つかっておりません」


「そんなに被害も出したのか。これではこの後の作戦にも・・・」

「それ以前に、隻眼のジノスを取り逃がしては、街の衛兵だって今日は手練れは

 残していないのだぞ。万一他にも部下がいて街を襲われたら」


 兵士たちも話を聞きつけたのか、集まってくる。


「まずは、盗賊を平らげるのに全力を挙げるしかないでしょう。

 こちらも兵を分けて、捜索にあたりましょう」


 カレーナの言葉に、ザーンと呼ばれたLV6冒険者は地図を出し、

先発隊の動きと、盗賊の残党が逃げられる可能性のある方角を説明し始めた。


 それからは慌ただしく捜索のグループ分けが行われ、逃走ルートになる可能性が高いと見られた川筋にトリウマに乗ったLV6騎士とザーンが向かい、林の中に幾筋か通っている間道には残る兵が2人一組で送り出された。

 相手のレベルが高いらしく、姿を見たらとにかく大声を上げるか指笛を鳴らして皆を呼べ、という指示だ。


小径の泉の脇に残ったのは、カレーナとセシリー、そして2人の兵と俺だった。

 俺は冒険者の察知スキルに全力集中する。


 やがて、俺が少し離れた方に、何かこれまでと違う気配を感じた気がすると同時に、川の方からザーンの大声が上がった。

「いたぞ!こっちだ、2人見つけた!」


 セシリーがトリウマを駆り立てて飛び出し、2人の兵も続く。

カレーナは俺の方を見て、気にしたようだが、少し遅れてそれを追う。

 俺は、なんとかトリウマに乗ったものの、ずいぶん出遅れてしまう。


一瞬、カレーナの周りに誰もいなくなった。


 その時、川筋に向かう藪の中から人影が飛び出し、カレーナのトリウマの脚を

なにかでなぎ払った。

 トリウマはバランスを崩して、カレーナを振り落としてしまう。

 頭から落ちてはいないが、すぐには起きられない。

 そこに、男が飛びついた。


「動くな!」


 ひげ面で片眼がつぶれた大男が、カレーナに馬乗りになり、首に短刀を突きつけている。

 引き返してきたセシリーのトリウマが止まる。


「おとりか、カレーナ様を人質に取る気だったとは、迂闊っ!」

「気づくのが遅かったな。一番の当たりを引くとはオレのツキも落ちてないぜ」

 隻眼のジノスが凄みをきかせてにやつく。

<盗賊LV11>か、強敵だ。


「トリウマを降りろ、こっちに寄越すんだ!」

 セシリーはしぶしぶ手綱を放し、自分のトリウマをカレーナの方に向かわせる。


「言うまでも無いが、追っ手をよこしたり、回状を回すようなことがあれば、

 お姫サマの命はないぞ。もっと離れろ!」

 カレーナの素性も知っているようだ。この領内で盗賊をしているわけだからな。


 二人の兵が戻ってきたが、近づくことができず遠巻きに見ているだけだ。


「逃げ切れたら数日中に解放してやる。まあ、その前に楽しませてはもらうがな」

 カレーナが青ざめる。


 なんか腹が立つな。お仕置きしていいのは俺だけだ。そのためにもカレーナを奪還するのだ。当然だ。というわけで、いい手はないかな・・・


 ジノスがカレーナの首に腕を回したまま体を引き起こし、セシリーが放したトリウマに自分と共に乗せる。

「誰も声は出すなよ、他の者たちに気付かれないうちにずらからせてもらう」


「無駄だぞ、すぐに他の者も戻ってくる。街道も先発隊が封鎖しているはずだ」

「そんなヘタは打たねぇよ」


 ジノスは他に伏せている兵がいないか見回す。トリウマを止めたままだ。


 セシリーにジノスの注意が向いたその時、

俺はやつの頭上の空中に、思いっきり大量の粘土を出現させた。


俺の方をすがるように見ていたカレーナは、目配せに気づいて、その瞬間、

必死に身をよじって、ジノスから離れようとする。

 俺の気持ちが乗っていたのか、超巨大なげんこつの形になった粘土の塊が、

隻眼のジノスをトリウマの上から殴り倒すように、地面にたたき落とした。


 あっけにとられるセシリーより早く、俺は腰の剣を引き抜いて駆け寄る。


 だが、硬い粘土の塊に押しつぶされたジノスは、上半身がひしゃげて見えなくなっていた。

 とどめを刺すまでもないようだ。少しほっとした。盗賊とは言え、人に自分の剣でとどめを刺すなんて、俺には抵抗がある。結局俺が手を下したことに違いはないのかもしれないが。


 ちょうどジノスが落ちる時にはね飛ばされるような形になって、トリウマはギリギリで下敷きを免れていた。


 カレーナは、うまくお尻から落ちたらしく

「いたたたっ、二度も・・・」

 と、うめいているが、大けがはしていないようだ。


 駆けつけたセシリーが抱きつく。

「カレーナ!大丈夫!? ごめんなさい、ごめんなさい、危ない目にあわせて」

「大丈夫だから、お尻が痛いだけよ、本当に大丈夫」


 俺は、大量に使ったMPを少しでも回収するため、粘土を“片付け”た。

 何もなくなった地面に、上半身が潰れた盗賊の遺体が転がっている。


「・・・そんなことも出来るのね」

 カレーナが目を見張る。

「ん、スキルレベルが上がったおかげで、出来ることが増えて・・・」


 カレーナがお尻を押さえながら立ち上がり、貴婦人の礼をする。

「シロー、あらためて礼を言います。

 私たちを憎んでいて当然なのに、再び助けてくれたことは忘れません」


 普段のどことなくふわふわした印象とは全く違う、

こういうのが生まれながらの貴族っていうのか、堂々とした態度だった。


「私は、領民たちを守るためには手段を選ばないと決めたの。

 そのために、今は嫌でもあなたに力を貸してもらいます。

 でも、領内の脅威を掃討して、私が正式に伯爵家を継承できた暁には、

 必ずや、あなたの功に厚く報いると約束します」


 いや、一見立派そうだけど、それ勝手すぎない? いずれじゃなくて、今奴隷から解放しろよ。

でも、俺はカレーナの常にない迫力に飲まれてしまい、言い出せなかった。


 ところがその時、腰に下げた革袋の中から、俺そっくりの声色が漏れた。


「それって、ご褒美は、お姫さま自身ってこと?」

 カレーナが真っ赤になった。


「えぇっ・・・ばかばかばかっ! 雰囲気こわさないで!」

「無礼者っ!」


「え、いや?いやいやいや、俺はなにも・・・」

 うろたえる俺の小声に、さらにそっくり作った声が重ねられる。


「それなら喜んで。なんなら二人ともたっぷり可愛がってあげるよ」


「なに言ってるの!そんな約束するわけっ」

「最低のクズだな」

 セシリーが、いつもよりさらに3割増しの冷たい視線を向けた。


革袋の中から、リナのくすくす笑いが聞こえた気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言] お仕置きしてやるとかなんでこんな楽観的なんだ
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