第15話 奴隷転落
目が覚めてようやく、俺は罠にはめられたことを知った
パシパシと、頬をたたかれる?いや、これは蹴られてるのか?妙な感触だ。
「起きなさいよ、このクズ、最低男!」
呼ばれてるな。
目を開けると、白ぱんつ、じゃない、女の子が俺の顔の上に仁王立ちして、
にらみつけていた。縮尺がおかしいな。
リナだ。
「あんた、私のこと、完全に忘れてたでしょ」
うん。
生まれて初めてリア充体験をしたような気がする。お人形遊びは卒業だ。
いや、最初から俺の趣味じゃない、と強調しとこう。
その時になって、硬い石の床に転がされていることに気づいた。
二日酔いなのか頭ががんがん痛む。
「ただの二日酔いじゃない。呪文にかかりやすいように薬を飲まされたんだよ」
リナが珍しく心配そうに言う。
「きのう出がけに、ペットボトルに井戸水をくんで入れてたでしょ。
とりあえず飲みなさい。脱水気味だろうから」
妙だな。なんだか本物の人間みたいな口の利き方だ。
リナは俺の知識にあることしかしゃべれなかったはずだし、これはまだ夢なのか?
「あのね、都合の悪いことがあるとすぐ夢オチにしたがるの、悪い癖だよ。
現実にちゃんと向き合いなさい」
正論だ。なんかローティーンの人形に説教されてるぞ、俺。
「スキルレベル上昇で、あたしの能力が上がったの。
だから、たぶん今のあんたよりは、まともな頭があるからね」
俺はようやくハッとして、周りを見回した。
鉄格子のはまった、灯りのない狭い石造りの空間。これは、牢屋だ。
リュックが片隅に投げ出されている。リナはそこから自力で出てきたんだろう。
その中から、言われたとおり、「は~い、お茶」の空PETにきのう詰めた井戸水を飲む。腹にしみ通る。少しずつ頭がすっきりしてきた。
記憶をさかのぼってみよう。
晩餐のあと、女二人だけと別室で密着して、いい気持ちで散々飲まされて、
セシリーが裸で俺と絡み合って、凄く気持ちよくて、18年11か月にしてついにDTと・・・いや、そこじゃない!それは超大イベントだが、今はそこじゃない。
最後に、なにかわからない言葉を言わされたその瞬間、なにかが起きた!
急に首が絞められる感触があった。
触ってみても、何もない。けど、確かにある。
俺は左手のステータス画面を出してみる。
『ジョブ 冒険者(LV4)/奴隷(隷属:セシリー・イストレフィ)
スキル お人形遊び(LV4) 粘土遊び(LV4)・・・』
その先はもう見ていなかった。
なんだこれは!!
『奴隷(隷属:セシリー・イストレフィ)』だって!?
あのとき言うように促された言葉、訳のわからない言葉だったが、その前に一度・・・確かセシリーに“下僕になる”とか言った気がする、あれか、そういう意味か・・・
「僧侶の呪文に、“誓約”っていうのがあるの。公証人みたいに、人と人の約束を強化して破れないようにするっていう。それかな」
すると、あれはカレーナの呪文か。それで、俺がセシリーの奴隷になる、という契約を破棄できないように結ばされた・・・
二人にはめられたのか。
ショックと恥ずかしさと、悔しさと怒りとで、俺は呆然とした。
しばらくそのまま固まっていたが、ようやく意識を切り替えるために別のことを考える気になれた。
リナがこれまでとは違う。本当に人と会話しているみたいだ。
ステータス画面をもう一度見る。
『スキル お人形遊び(LV4)』 これか。スキルレベルが上がってる。
やっぱり、きのう宿屋で試してる時に想像したように、ジョブレベルとは別に、スキルを使い続けるとそのスキルごとの経験値がたまるんだ。
それで、「休息をとった」から、人形遊びのスキルレベルが上がったんだ。
『お人形遊び(LV4)』をタッチすると、内容が出てきた。
“お人形と話ができる” “着せ替えできる” “動ける”、そして“賢くなる”。
“賢くなる” これか、人形が賢くなったんだ。
「それで、俺が思いつかないようなこともしゃべれるようになったのか」
「そう。まだまだこのリナちゃんのあふれる才能からすれば、ほんの一部だけど、今後もレベルアップするごとに賢くなるからね。リナ先生って呼びなさい、エヘン」
ない胸をはる。しかし、このスキルは成長もするのか。
これは初めて役立ちそうなスキルだ。ようやくひとつ、前向きになれる話だ。声自体は相変わらずボカロみたいだが、話し方が自然になったのも賢くなったからだろう。知らずに聞けば、単にアニメ声の普通の女の子だと思うかもしれない。
その時、近づいてくる気配を察知した。いやな気分になった。
「起きていたか」
セシリーが2人の兵士を連れて近づいてきた。
一人は人相の悪い、獄卒だろうか?戦士LV3だ。
もう一人は、冒険者LV5だな。領兵の中にも、戦士でなく冒険者ジョブというのもいるんだな。
だが、それはどうでもいい。
「おいっ、どういうことだよ!」
「どういうこととはご挨拶だな。喜んで力になってくれると約束したじゃないか」
白々しく驚いたような顔をしてみせるセシリーを、俺はにらみつけた。
「ふざけんな!なら、どうして牢屋に入れられてるんだ。ってか、なぜ奴隷にした!」
「泥酔していたからトラ箱に入れて休ませただけだぞ。すぐに出してやるさ。それに、自分から私の下僕になって働きたいと、誓ってくれたんじゃないか。嬉しかったよ」
「冗談じゃない、誰が命がけで迷宮の討伐なんて、っ!」
突然、首が絞められ息ができなくなる。心臓が苦しい。
セシリーの言葉にさからって、戦いなどしないと言おうとした途端、いやそういう考えが頭に浮かんだ途端か? 激痛が走ったのだ。
これが<誓約>という呪文の効果なのか?
孫悟空の頭にはめられた輪っかみたいだ。
痛みがおさまると、セシリーが一瞬見せかけていた複雑な表情を消して、言い放った。
「わかったか、お前は私の言葉に逆らえない。神に誓ったのだ」
そして、冒険者LV5に指示する。
「ホッジャ、この者のスキルを見てくれ」
「はいよ。“パーティー編成”」
男が宣言すると、なにか脳裏に諾否を問うような選択肢が浮かんだ。
が、セシリーが
「奴隷の主として認める」
と言うと、選択肢が消え、ホッジャと呼ばれた男と、セシリーと俺とがなにかで結びつけられたように感じた。
なるほど、これがパーティー編成のスキルか。
他人を自分のパーティーメンバーにする、ってことなのか。そうするとどうなるんだ?経験値を均等に分配するとかを考えたが、それ以外にもあるのか?
「冒険者LV4、セバスチャン殿の言った通りです。スキルは・・・」
他人のスキルまでわかるのか? そうか、これがパーティー編成の効果なんだ。
「ん~、なんだこれは」
「どうした?」
ホッジャが戸惑った顔を見せる。
「いや、見たこともない妙なスキル名なんすよ」
「それが知りたいんだ。この者はかつての勇者のように、ユニークで強力なスキルを与えられている可能性が高い。なにしろ、LV1でオークリーダーを倒した男だからな、ただのLV4ではなく特別な力を持っているはずだ」
セシリーは転生者という言葉は出さずに、男にそう説明する。
けど、買いかぶりだって、それ。
「いやぁ、それがね、なんだろう? お人形遊び? それと粘土遊び? ですぜ」
「はぁっ?」
セシリーの声が裏返った。
「どういうことだ? 隠さずに持っているスキルを話せ」
俺をうさんくさげに見る。
「いや、その人が言った通りだから、俺のスキルって『お人形遊び』と『粘土遊び』っていうクズスキルでさ、正直なにに使えるんだか、こっちが聞きたいぐらいで・・・」
「それじゃあ一体どうやって、LV6のオークリーダーを倒したのだ!」
そう突っ込まれても困るよ。
俺にもなぜ生き延びられたか、わからないんだし。
「それは、えっと、運がよかったっていうか、なんか相手が目の前で転んで、剣が落ちてたからそれでグサッと?」
「ふざけるな!!私がどんな思いでカラ・・・いやいや!私の期待を裏切りやがって!こいつ、なめてるのか!」
キレないでくれ。被害者は俺だよね? あんたが勝手にヤったんだよね?
責任とってとか言われても・・・
それまで黙っていた、人相の悪いLV3戦士がおそるおそる切り出した。
「セシリーどの、もう時間が・・・」
「くそっ!くそっ!」
いや、せっかく昨夜は色っぽい美女を演じてたんだし、そこまでキャラを崩さない方が・・・
「仕方がない。おい、お前は従者として私の供をしろっ、カレーナ様の直衛隊に加える」
セシリーが宣言すると、兵が鉄格子の扉のカギを開けて俺に槍を突きつけてくる。
槍でつつかれ急かされるままに、俺は身支度をして牢を後にした。
いつの間にかリナが隠れていた革袋を水筒のように腰にぶら下げたが、怪しまれることはなかった。
宿に大半の荷物を置いてきた俺は、兵舎で最下級の兵士の武装を支給された。
オークから奪ったものより一回り細身の片手持ちの剣と小さな木の盾、革の胴鎧と帽子という、RPGなら初期装備に毛が生えたような代物だ。
それでも、戦いをさせられるなら少しでも防具はある方がいい。
履き物は革のサンダルを渡されたが、履き慣れたスニーカーの方が足を覆っているし走りやすそうだったので、いらないと断った。
他にも数人、俺とそう年が変わらない若い兵士がいて俺をジロジロ見ていた。だが、事情を知っているらしい隊長格の男に、「さきに支度をしてろ!」と指示され、隊長格ともうひとり大柄な兵の2人だけを残して兵舎を出て行った。
2人が俺を連れて行ったのは、トリウマの厩舎だった。
大柄な兵が、2頭を引いてきて俺の前で座らせ、簡単にまたがってみせる。
「お前も同じようにやってみろ」
えっ、いきなりかよ。
「トリウマは賢い。オレの真似をすれば、勝手に何をしたいか理解してくれる」
と言われてもな・・・
俺がへっぴり腰なのを見てトリウマにもなめられてるのか、普通にまたがろうとすると、体を揺すったり、先に立ち上がろうとしたり、なかなか乗らせてくれない。
10回以上振り落とされて打ち身だらけになって、ようやく立ち上がるところまで出来た。
「どうします?」
「まあ、前について移動するだけならな。騎乗で戦うことまでは求められんだろう」
まじか、これで戦場に行くのかよ!
やられ役になる未来しか見えないぞ。
二人は時間を気にしていたようで、もういい、ついてこい!と吐き捨てるとさっさと騎乗し、俺のトリウマを前後から挟んで進み始めた。
すると俺がなにも指示していない、ってかできないけど、勝手に仲間に合わせて歩き出したじゃないか。
これは便利だな。けど、なんか情けない・・・
俺たちが厩舎から向かった練兵場には、既に7、8人の騎乗した兵が整列していた。そこにちょうど館からの坂を、カレーナとセシリーがトリウマに乗って降りてくるところだった。
兵たちが一斉に胸に手を当て、カレーナに礼を示すと、すぐに出発の合図が出された。
こうして俺は、はめられて奴隷の身分に落とされたあげく、否応なく戦闘させられることになったんだ。




