第139話 からくり館の悲劇
上忍ハトーリこと、アメリカ人転生者の忍者オタク、ハンツを自損事故みたいな罠の中から救い出してやった。ところが、感謝されると思いきや、俺たちはやつのからくり仕掛けの実験台にされてしまった。
バシャっと水をぶっかけられて、俺は意識を取り戻した。
黒装束の忍者が2人、哀れみの目で見下ろしてた。何回目だろう。
「・・・大丈夫か? よく頑張ったな、これで終わりだそうだ」
体に力が入らず、起きることもできない。終わり?あー、やっと終わったのか。
「っ! 俺の仲間は!?」
「・・・ああ、広間で寝てる、かな」
必死に這いつくばって身を起こし、自分が庭に倒れてたってわかった。最後は、外のからくりだったな・・・
あの後、俺たちは問答無用でよくわからん罠とか仕掛けの中に放り込まれて、手裏剣が飛んできたり、ヘんなガスを嗅がされたり、無数のヘビが蠢く穴の上を飛び越えさせられたり・・・とにかく死にそうな目にあった。
途中から一人ずつ別にされて、この屋敷のどこにそんなに沢山の仕掛けがあるのかわからないけど、「それぞれの適性に応じた」からくり仕掛けの生け贄にされた。
最後にどっかでルシエンの妙に色っぽい悲鳴が聞こえた・・・
屋敷のなんちゃって畳敷きの広間になんとかたどり着くと、ハトーリが上座に「笑点」みたいに座布団五枚重ねで座ってニタニタしてる。
ノルテは部屋の隅っこで膝を抱えてぶるぶる震えてるし、カーミラは四つん這いで髪の毛と背中の毛?まで逆立てて「フウゥーッ!!」って威嚇の声を上げて、半分狼に戻っちゃってる。
そして、部屋の中央にはばったり倒れたルシエンがびしょ濡れになった服を体に張り付かせて、ひくひくしながら「あは、もうだめっ」とかうつろな目になってる。
「おいっコラっ!」
俺は体も動かないけど大声だけは上げる。許せんっ、俺のルシエンと俺のカーミラと俺のノルテになにしやがったコイツっ
「いやいや、すまんでゴザル、みんなあまりに優秀だったんで、これまで試せなかった超級からくりも全部試しちゃったでゴザルよ、わっはっはー」
「わっはっはじゃねェよっ、どうしてくれるんだうちの娘たちをっ。だいたい、俺たち、お前を助け出してやったんだよな?それなのに、なんだよこの扱いはっ!」
俺がぶち切れてるのを見て、さすがにやり過ぎたと気づいたのか、ようやく気まずそうな顔になる。
「こんなのギルドの依頼にも書いてないだろ、絶対契約違反だろ!上忍だか何だかしらんが訴えるぞっ」
「すまんすまん、待つゴザルよ、ギルドに言うのは困るでゴザル、また懲罰対象になるのはマズイでゴザルから」
“また”って言ったよコイツ、やっぱり問題児か、そりゃそうだろうけど。
「からくりにはめた以外、指一本触れてはおらんでゴザルよ。それにすぐ治すから、待つでゴザル・・・ふむふむ、満金丸と静海丸、それから美鳳湯でゴザろうな」
突然、なにも持ってなかったはずのハトーリの手に、二つの大きな丸薬と、一皿の粉薬が出現した。
「湯をもつでゴザル」
そう言うと、廊下に控えていた黒装束がひゅんっと消えた。
「セッシャの編み出したこれらの忍薬を飲ませれば、たちどころに元気になるでゴザル、ただ、自分では飲めんようでゴザったら、口移しで・・・」
「こらこらこらあー、さわんなっ、調子のんなっ、俺がやるからよこせーっ」
まったくこの変態忍者、油断も隙もねぇ。
丸薬をノルテとカーミラに、それぞれマウストゥーマウスでなんとか飲ませる。
それから、黒装束が持ってきた湯に美鳳湯とか言う、鼻が曲がりそうな臭いの粉を溶く。
息を止めて、口に含み、ルシエンに口づける。激しく吸われた、舌まで・・・
そしてようやく、ちょっと穏やかな寝息になった。
「後遺症とか残ったらぜってー許さんからな、この変態おやじ」
「大丈夫でゴザルよ、セッシャの薬に間違いはないでゴザル・・・」
廊下から、あのカエーデっていう女忍者が、三方って言うのか、お供えとかを乗せる木製の台を持ってすすっと入ってきた。
白い布を取ると、小判?へんな形の金貨が重ねられてる。
「これは違約金と、お詫びのしるしです。どうかギルドへの報告はご容赦下さいませんか。先生、さんざん問題を起こしてるんで、さすがに今回処罰対象になると、ギルド除名どころか国外追放処分にされちゃいますので・・・」
なんて言うか、めちゃくちゃだなー。
「先生も、ちゃんと誠意を持ってお詫びして下さいっ、こういうことだから、術は優れてるのに女の弟子は私しか残らなかったんじゃないですかっ、きょうは晩ごはんぬきですからねっ」
「うー、それはダメでゴザルよ、すまんでゴザル・・・うむ、此度のこと、まっこと申しわけなかった、つい嬉しくて調子に乗りすぎたでゴザル、勘弁でゴザル」
そういって、変態忍者は座布団から降りて土下座を始めた。そういう作法だけは知ってるのかよ。
「お詫びに、セッシャの力が必要な時は貸すでゴザルよ。あの遺跡のことも知りたければ調べるでゴザル」
えっ?いま、なんつった?
「なぜ知ってるんだよ!?」
俺がぎょっとしてるのを見て、ゴザルはニヤニヤした。
「見つけた遺跡が気になるのでゴザろう? パルテア周辺で起きた面白いことで、セッシャの耳に入らぬ事など無いでゴザル」
あっという間に調子に乗り直してるぞ、おっさん。
そしてピクニックにでも行くみたいに軽くハトーリは続けた。
「中に入りたければ、一緒に連れて行ってあげるでゴザルよ?」
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とにかく、ろくでもない一日だった。
俺はまだ、怪我をさせられては治療され、それからまた痛めつけられ・・・の繰り返しで物理的ダメージだけだったけど、ルシエンは意識は戻ったものの目を潤ませたまま腰が立たないし、ノルテは半分幼児退行しちゃって親指しゃぶってるし、カーミラは野生児に戻ってるし・・・精神的にもフルダメージだ。
もう暗くなってきたから、唯一無傷のリナにパーティー転移させて宿まで帰ると、みんなぐったりしてベッドに横になった。
それでも腹は空くから、俺が外の屋台で肉まんじゅうと飲み物を買ってきて、「あと二回飲ませて下さい」ってカエーデに渡された薬を女子たちに飲ませた。
これで明日良くならなかったら、ギルドに抗議だな。
しっかし、あのイカレっぷりもハンパなかったが、実力的にもとんでもないっていうか、本気であんなのと戦ったらとても勝てそうに無い。
そもそも、判別(中級)スキルを使っても、最後までハトーリのスキルとかが見えなかったし、渡された薬を鑑定しても、奴が言ってた薬の名前しか表示されず、成分とかはまるでわからない。
こんなのも初めてだ。たぶん、そうした情報を隠蔽するような特殊な力ってのもあるんだろう。
最近は海賊王とかとも戦って、うちのパーティー結構強いんじゃね?って自信もついてきてただけに、上には上がいるっていうか、転生者はやはりチートなのか、そうすると俺はやっぱり転生者としては最底辺なのかとか、もう色々考えさせられた。
そして、まだ精神状態が不安定な3人とくっついて、泥のような眠りに落ちていった。
 




