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第137話 忍者ハトーリくん

帝都パルテポリスの冒険者ギルドで、「忍者屋敷のからくりテスター募集」という謎クエストを見つけた。報酬が安いみたいで、誰もやらないのかな?

 ハトーリという怪しげな人物の依頼を受けることにした。

 ギルドの職員は、物好きな奴だなー、という生暖かい笑顔で形通りの受付をしてしてくれた。


 特に期間の定めはなく、一日銀貨5枚ってことで、得体の知れないクエストの割に報酬も安いから、売れ残ってたらしい。

 とりあえず雇い主の住所?を聞いて、明日の朝行くことにする。


 きょうはのんびり街の観光だ。オフだからね。

 みんなにお小遣いをたっぷり渡し、リナも楽しみたそうだったから、等身大にして一緒に歩くことにした。


 とにかく世界有数の大都市ってことで、ありとあらゆる種類の店が立ち並んでる感じで、辻ごとに大道芸とか音楽を奏でてる奴とか、見世物の類も多い。


 ノルテとカーミラの食いしんぼうズは、とにかく食べものの屋台だ。


 珍しいものがあると立ち寄らずにはいられなくて、次々に色んな串焼きとかジュースとかまんじゅうとかお菓子とかを買い込むんだけど、それに負けないペースで胃袋の中に消えてくみたいで、片手はいつも空いているのがすごい。


 ルシエンは音楽が好きみたいで、異国風のメロディーが流れてくると長い耳がぴくっと動いて、そっと口ずさんでたりもする。俺が見てるのに気づくと、恥ずかしそうに、プイっと横を向いちゃったけど。いいのに。


 こっちの人は、肌の色は濃いめだけど鼻が高くて目がぱっちりした人が意外に?多い。その中に、もっとアジアっぽい人とかアフリカっぽい人も混じっていて、一方で西方から来たらしい人も少なくない。まさに人種のるつぼって感じだ。


 そしてギルドと同様、亜人も多いけど、ステータスを見ると奴隷身分になってる者が多い。

 そういう俺たちも、みんなは俺の奴隷ってことになってるから、ステータスを見られる奴がいれば、逆にここではほとんど目立たないのかもしれないが。


 奴隷と言えば、腰巻き一枚でロープで数珠つなぎにされた男たちが、鞭を持った太った商人に叩かれながら一列になって歩いてるのとすれ違った。

 戦争捕虜なのか、奴隷にされた男たちが奴隷商人に連れて行かれるところのようだった。


 店が並ぶ表通りから一本入ると、高級住宅地らしいゾーンだった。ひとつひとつの区画が大きくて、たいてい高い塀に囲まれていて、門の前には門番が立ってる。

 石造りのきれいな建物で、色とりどりのタペストリーとか観葉植物とかが上の方の階の窓に見える。


 一方で、表通りから逆の方に少し離れると、物乞いがずらっと並んでる通りとか、いかにも娼館だよねって建物が並んでるところ、貧民窟らしい所もあったので、そこはすぐにUターンした。


 とにかく、大金持ちもいっぱい、貧民もいっぱい、貧富の格差がすごく大きそうな街だな。

飲食店とかも、表にメニューの値段が出てる所だけ比べても、軽く二桁ぐらい値段に幅がある感じだったし。


冒険者ギルドとか、俺たちの宿があるのは、そうした中では真ん中あたりのクラスの地区らしい。

 商人たちが泊まってた宿は、ちょっと高級なエリアで、それは荷車とかのセキュリティーを考えてってことだったんだろう。


 そして、そのエリアには薬屋とか魔法道具店もあった。

 じっくり見るのはまた今度にして、旅の間にちまちま薬生成スキルで作った傷薬とかを、半分ほど売りさばいた。ニーズが多いらしく結構いい値段で売れたので、またみんなにお小遣いとして配った。


 夕暮れまで観光と食べ歩きをして宿に戻ると、女子たちが、お湯で体を拭くからシローは出ててね、とルシエンに言われて部屋から追い出され、俺はロビーで一人、ゲンさんからの電報みたいな羊皮紙を取り出した。


《シロー元気か?パルテポリスに行くらしいから

忠告と依頼。転生者の一人ハンツがいるはずだ。

奴は変人で変態だが悪い奴じゃない。もし仲良く

なれれば凄い情報収集能力も持ってて頼れる。

戦争になりそうだから巻き込まれぬよう用心を。

西方ではスパイスと鉱石の値段が高騰してるから

余裕があれば仕入れてくると小遣い稼ぎできる。

各地で謎の遺跡が見つかってヤバイことが起きる

前兆か疑われてる。もし魔族の遺跡の噂でも聞い

たら可能な範囲で情報を、決して無理はするな》


 情報が詰め込まれててくらくらするな。電報みたいなもんだから字数を極力詰め込んだのか。


 たしか、ゲンさんの知る転生者が何人かいるって話だったが、その一人がパルテポリスにいるってことか。ハトーリとかいう依頼人が、このハンツのことだとしたらすごい偶然だが、ゲンさんが変人で変態って言うのって、どんだけだよ?

 

 そして戦争の危険はやっぱり高まってると。


 さらに一番気になるのは「謎の遺跡」ってくだりだよな。ここに来る途中、ストーンゴーレムが出た所、あれはやっぱり遺跡なのか?

「魔族の遺跡」なんていかにもヤバそうだけど、無理するなってぐらいだし近づかない方が無難か。それともこれは、ハンツの情報収集能力を頼れって言ってるのかな?


 ・・・予想外に、って言ったらゲンさんには悪いけど、女子に顰蹙を買いそうなエロい話とかキモい内容はなかったから、部屋に戻ってから内容をみんなにも伝えた。

 危険に巻き込まれないように、知っといた方がいいかもしれないからね。


 でも、話の途中でカーミラはもうすーすー寝息を立ててた。さすがマイペースの野生児。


 そして、ロウソクの灯りを消そうとしたら、

「きょうは私の日だから・・・」

 ってネグリジェ姿でいつになくもじもじしてるルシエンが、俺のところに入ってきた?


 日直制になってる?いつのまに・・・もちろん、それはそれで歓迎だけど。


***********************


 ギルドで聞いた依頼人の住所は、帝都を出て小一時間歩いた森の中にあった。


 セラミック自走車はストーン・ゴーレム戦で大破しちゃったし、パルテポリス近くの街道筋は人目も多いからどっちにしても使えなかったと思う。


 ちょっと前までなにも見えなかったはずの森の中に、突然現れたその屋敷は、いわゆる武家屋敷風の木造平屋、に見えた。


 ご丁寧にまわりにちょっとした堀も掘られてる、かなり立派で敷地も広い。


 でも、なんだか穏やかでない幾つもの気配がする・・・


「ごめんくださ~い」

 って玄関で声をあげると、しばらくしてパタパタと足音がして、いかにもな忍者装束をした若い男が出てきた。

 いや、忍者が普段からそんな格好してたら、「わたし忍者です」ってバラしてるようなもんじゃん?男のコスプレとか見たくないんですけど。


 でも、ステータスは本当に、<男 28歳 忍び LV8>だった・・・ハトーリ本人ではないようだ。

 俺は気を取り直してギルドからの書面を取り出した。


「こちらのハトーリ?さんからギルドに出されてた依頼を受けた者ですけど、ハトーリさんいますか?」


 若い、と言っても俺よりだいぶ年上だけど、その男は困ったように口を開いた。

「それが・・・師匠は昨日から行方不明なんです、必死に探してるんだが・・・」


 依頼人が蒸発!?


 顔を見合わせ、どうしようか考え込む俺たちの後ろから、別の若い男が走ってきた。こっちは<忍び LV7>だ。

「あ、お客さんっすか、こんちわ、ハトーリ忍者学校へようこそ」

 ここって忍者学校・・・なのか。「忍術学園」だったら忍たまがいそうなもんだが、それよりは対象年齢が上のようだ。


「おい、コタロウ、どうだった?」

「いや、射撃練習場の方にもいない。これで周辺はあらかた調べたはずだ・・・」


 どうも手分けしてハトーリを探しているらしい。

 どうでもいいが、ここは西方の言葉が使われてるのか。そして、風魔小太郎みたいな名前だが、顔立ちは決して日本風じゃない。


「帝都から来てくれたんだよな、よかったら客間でしばらくくつろいで下さいよ。お茶でも出しますんで」


 忍び装束の人たちにもてなされるって微妙だけど、これなにカフェ?


 なんていうか、なんちゃって和風建築な作りの回り廊下みたいなところを歩き、畳風マット敷きの部屋に案内された。

「畳風」だ、本当の畳なんてこっちの世界にはないのかもしれないし。


 なんか、この建物に入ってからずっと、色んな所から見られてるような気配がするし、床下とか天井裏とか色んな所に人がいる気がするんだけど、どうも認識を阻害するような仕掛けがあるらしく、地図スキルとか察知スキルがちゃんと働いていない。


 それはルシエンやカーミラも同じようで、

「ここ、かなりの結界が張られてるわね、精霊も自由に出入り出来ないみたい」

とルシエンが警戒感をあらわにしている。


 壁に一枚の水墨画みたいなものが掛け軸にして飾られていた。


 城を囲む戦みたいな様子を描いてるようなんだけど、なんて言うかだまし絵みたいな、見てると遠近感がおかしくなるような絵だ。

 そして、花押って言うんだっけ、崩したサインみたいなのが書かれ、赤い印鑑が押されてる。


お茶を持ってきた中年の女性が、それは師匠の描いた絵です、と言ってた。ちなみに彼女も、<忍び LV11>だった。「くのいち」じゃあないのか。


 それを聞いて、カーミラがその絵に近づいて珍しく真剣な顔で見つめてる、ってか臭いを嗅いでる。

 そして、部屋の中と、外と、集中してなにか探っているようだ。


 俺たちにはなにもわかなかったけど、1分ほどすると、カーミラが絵を指して言った。

「この人、ハトーリ?あるじ、すぐ近くにいるよ」

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