第135話 帝都パルテポリス
パルテア帝国のザンシャヌの街でルシエンが射落としたワイバーンは、よその国の偵察部隊のものだったらしい。俺たちの商隊は街を後にし、帝都パルテポリスを目指した。
ザンシャヌの街を出た後は、特筆するような出来事はなかった、と言っていいだろう。
相変わらず街道筋の街は、庶民は貧しそうだが大金持ちもいるようで全体としては活気があり、街に泊まらず野営すると大抵魔物に襲われた。
とは言え、ゴブリン系が主で、オークも少し、ってぐらいで、ワイバーンやストーン・ゴーレムみたいな大物には出くわさなかったし、盗賊にも襲われなかった。
それはきっとどの街でも結構な数の兵隊が見られ、治安維持にも力を注いでいることと無関係ではないだろう。
逆に言えば、そこまでしても、低レベルの魔物が途切れることが無いぐらい、魔物が多いとも言える。
そういうわけで、護衛としては十分働いたと思う。
パーティーの状態は今やこんな感じになってる。
『シロー・ツヅキ 人間 男 19歳 錬金術師 LV17
スキル お人形遊び(LV10)
粘土遊び(LV10) 成長速度2倍
「火素」「水素」「地素」「風素」
「生素」「雷素」「金素」「聖素」
成長速度2倍
判別(中級) 察知
HP増加(中) パーティー編成
地図 発見
アイテムボックス 速さ増加(小)
経験値増加 鑑定(中級)
熱量制御 思索
物質変化(LV2) 力場
薬生成(LV3)
剣技(LV4) 投擲(LV1)
弓技(LV2) 騎乗(LV1)
スキルポイント 残り 2 』
<ノルテ - 女 16歳 鍛冶師 LV14
/奴隷(隷属:シロー・ツヅキ)
スキル 力増加(中) HP増加(中)
器用さ増加(小) 鑑定(初級)
アイテムボックス 火耐性(小)
鍛冶(LV2) 工芸(LV2)
料理(LV3) 御者(LV2)
鎚技(LV3) 弓技(LV1)
投射(LV2) 大工(LV1)>
<カーミラ 人狼 女 17歳 LV14
/奴隷(隷属:シロー・ツヅキ)
スキル 嗅覚 状態異常抵抗
追跡 隠身
HP小回復 察知
地獄耳 結界察知
威圧 格闘(LV3)
短刀技(LV4) 弓技(LV1)>
<ルシエン エルフ 女 33歳 LV19
/奴隷(隷属:シロー・ツヅキ)
呪文 「風」「植物」「水」「地」「結界」
「浄化」「癒やし」「治療」「静謐」
「大いなる癒やし」「心の守り」
「破魔」
スキル 精霊の目 精霊の耳
隠身 弓命中率上昇(中)
判別(初級) 鑑定(初級)
弓技(LV7) 剣技(LV3)
操船(LV1) >
<リナ - 魔法使い LV17
呪文 「火」「水」「地」「風」「魔法の盾」
「遠話」「麻痺」「帰還」「結界」
「魔力強化」「雷」「透視」「魔槍」
「重力制御」「転移」
スキル 剣技(LV3) 弓技(LV2)
成長速度2倍 >
そして、リナは僧侶でLV12、スカウトでLV4に着せ替えできることに加え、思うところあってゴブリン相手に経験を積ませた戦士もLV7に上がっている。
少人数とは言え、かなり強力なパーティーになったと思う。
欲を言えば前衛型が少ないから、粘土ゴーレムのタロを使ったり、リナに戦士として経験を積ませたりしてるわけだが。
これまでステータスでは見えていなかった「成長速度2倍」が、いつの間にか表示されるようになってるのは謎だが、リナによると、女神様から付与された隠しスキルみたいなものだったのを、本人(俺)がはっきり自覚するようになったから、じゃないかと言う。「認識することで現象が固定される」って量子論みたいな話で、今イチよくわからないが。
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そして、長い護衛クエストの旅もついに終わりを迎えた。
四の月・上弦の七日、エルザークの王都デーバを出発してから実に31日後になる午後、俺たちは石畳の街道を踏破して、ついに東の大国、パルテア帝国の首都パルテポリスの城壁を目にしていた。
「来たわねー」
珍しく革袋から顔を出して、観光気分のリナが感慨深げに言う。
「そうだな、世界を見て回りたいって言って、本当にここまで来たんだよなー」
三台の荷馬車は、帝都の城壁をくぐるための検問の列に並んだが、かなりの数の人や馬、馬車が並んでるから、時間がかかる。
「あるじ、古い石に苔が生えた臭い、それから、大勢の人間、油と炭と・・・それから肉、焼き肉のにおいー、食べたいよ」
「ご主人様、すごく大きな街ですねー、それに西の国とは全体に装飾とか意匠も違ってて面白いです」
カーミラもノルテも、興味津々って感じだ。
「・・・さすがに帝国の首都ね、これだけの大都市はあまり見たことがないわ」
いつも冷静なルシエンまで、わざわざ後ろの馬車からこっちに来て見てる。
まあ、ルシエンとカーミラは後ろの方の気配もわかるから、ちょっとぐらいなら警備上もまずいことは無いだろう。
ようやく俺たちの検問の番が来て、先頭の馬車の御者台に座るオスマルフから順番にチェックされる。
衛兵も慣れてて手際はいい。チェックしてるのはLV14のスカウトで、カードを見ながら同時に俺たちのステータスも判別して照合しているようだ。
このレベルのスカウトだとスキルとかまで見えてるはずだから、相当細かくチェックされてるんだろう。
「よし、次」
ようやく一行は解放されたところで、商人たちは二手に分かれることになった。
ヘイバルとナターシアの馬車は、ヘイバルおすすめの宿に向かう。
四代続く老舗で、馬車置き場も広く積み荷の番も頼める仕組みになっているらしく、そこにチェックインして荷馬車をいったん置いてくるのだという。
ルシエンとノルテ、リナをそっちに付ける。
オスマルフはパルテポリス在住だから、宿に泊まる必要はなく、仕入れた荷を引き受けてくれる大店や取引先を馬車で回って、今からもう荷を引き渡すってことで、俺とカーミラが護衛することにした。
その後、商人たちは再び、パルテポリスの商業ギルドで合流だ。
他国の首都で商いをするための、手続きやら不文律の仁義やらが色々あるらしい。オスマルフの方は帰国の報告とか情報交換のためだ。
それを済ませて、みんなを宿に再び送り届けると、俺たちは任務完了ということだ。
東方風の町並みも風俗も何もかも目新しく刺激的だった。
これまでの道中でもパルテアの人たちは大勢見たけど、やっぱり首都だけあってその多様さも活気も桁外れだ。
オスマルフによると、パルテポリスの人口は80万人にも上るそうで、世界屈指の大都市、だそうだ。
彼の取引先は、まず大きな武器店で、積み荷の2,3割はそこで降ろしたんだが、驚いたことにその後に行ったのは、軍の基地みたいなところだった。
実は、パルテア軍の補給廠に直接、まとまった数の武具を納入しているらしい。
「御用商人なんて大層なもんじゃないがな。これは秘密だぞ」
どうやら取引先の情報は、ヘイバルたちにも明かしていないらしい。
もちろんお客の情報は、守秘義務ってやつだよね。
「了解だよ」
そうして、身軽になったオスマルフは、ただの空の馬車になった荷馬車でギルドに向かった。
商業ギルドは、古い石造りで五階建てぐらいある、尖塔付きの立派な建物だった。
既にヘイバルたちは玄関前で待っていて、俺たち護衛は彼らの手続きとかの間、外で待たされたけど、それも30分ぐらいで済んだ。
商人たちは明るい表情だったから、特に問題になるようなこともなかったんだろう。
そして、ヘイバルたちの泊まる宿にオスマルフも一緒に送っていき、部屋で三人の商人が書類に任務完了のサインをし、俺も報酬を受け取ってルシエンとリナの立ち会いでサインをして、正式に完了となった。
途中の盗賊退治で得た武器の売却益とか、ワイバーン退治の報償とかもろもろの分配も含めると、今回のクエストで得られたのは魔石を除いても、小金貨56枚程にもなった。
もちろん、道中の食費とか自分たちで負担した経費もあるけど、それを差し引いても、持ち金が小金貨で約110枚になり、これって1千万円ぐらいってことだよな、一財産だ。
そして、誰も大きな怪我もせず、異世界の旅を経験できたのは何よりだった。
俺たちはその後、近くの冒険者が多いという宿に部屋を取り、それからまた商人たちと合流し、おすすめの辛い炒め物中心の店で夕食をおごってもらった。
強い東方の蒸留酒で乾杯し、アンデッドとか海賊王とか、これまでの大変な旅を肴に色々な話で盛り上がった。
ヘイバルとオスマルフと握手を交わし、最初の顔合わせの時は微妙な態度だったナターシアまで、
「あんたたち、これまで頼んだ護衛の中で一番の腕だったわ。あたしたちは20日間ぐらい、パルテアで商売をしてから帰るつもり。その時はここの冒険者ギルドに護衛依頼を出すから、もしその頃いるんだったらぜひ帰りも頼むわ」
と、嬉しいことを言ってくれた。
ハウトやミクラとも、また会おうなって約束して、俺たちの宿に向かうときには、パルテポリスの街はとっぷりと暮れ、無数の店に色とりどりの灯りが輝いていた。




