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第134話 ワイバーン

パルテア帝国領内にかなり奥深く入ってから、俺たちは上空を飛ぶワイバーンに乗った国籍不明の者たちを目撃した。そして昼近くになり、商隊は次の町に着いた。

 ダフラーニという次の街に着いたのは、それから半刻ほど過ぎてからだった。

 なんだかざわついてる。


 このあたりの街は、全部が石壁で囲まれてるわけじゃなく、要所要所に石門や防柵が設けられている他は、街はオープンな作りだ。


 その一つの門の詰め所のそば、高い見張り台の上に、何人かの兵と、もうちょっと身分の高そうな鎧姿の男たちが上って、緊迫した様子で話している。


 そして、俺たちの隊列を誰何した兵に聞かれた。

「お前たち、ここに来るまでの間、空を飛んでる者を見なかったか?」

「・・・見たぞ、ワイバーンのことか?」

 顔を見合わせて、オスマルフが答えた。


 その途端、兵が見張り台の上に大声で呼びかけた。

「おーい、商隊が目撃したらしいぞぉ」


 見張り台のはしごから次々武装した男たちが下りて来て、俺たちを囲んだ。

「おい、なにを見た、なるべく詳しく聞かせろ」

 紋章入りの高級そうな鎧兜に身を包んだ男が、オスマルフを問い詰めたんだと思う。セムハ語だから想像でしか無い。


 その後、一往復やりとりがあり、オスマルフがこっちを見た。


「おれが“ワイバーンだと思うが、三体、俺たちが街道を進んでいたら半クナートぐらい離れた所を飛んで、追い越してった。半刻ぐらい前だ”って説明したら、この隊長みたいな男に、“乗ってる者は見たか?”って重ねて聞かれてるんだが、お前たちにはわかったか?」


 俺はルシエンに視線でスルーパスだ。

「一体に一人ずつ乗ってたわね。どこの国の者かまではわからない、ただ、あなたたちの鎧とは違う、金属鎧を着ていたのが一人、もっと簡単な、革鎧かただの服なのか、軽装の者が二人だったと思う」

 すごい視力だよな。


 そして、ルシエンは西方のレムリア語、俺にもわかる言葉で答えたんだが、連中にもわかったようだ。

「なに、本当かっ」

って、レムリア語で答えてきた。話せるんじゃないか。

 

「そこまで見えるものか?半クナートもあったのに、報奨金目当てではないのか?」

 言い草は失礼だけどな。

 その後、男はまわりの者たちにセムハ語で説明したようで、浅黒い肌で一様にひげを伸ばした男たちが、詰め寄って来る。


 白いローブ姿、頭にも白い布を巻いたルシエンは、こっちの女の普通の服装だから、それがレムリア語ってのもうさんくさく見られたのかもしれない。


 そこでルシエンが、静かに髪と耳を隠していた布をほどいた。

「・・・おぬし、エルフなのか。それで見えたと」

 エルフが目がいいってのは知られているらしい。


 結局、俺たちも大したことはわからないので、その通り説明したら、もしまた見かけたら、なるべく早くどの街の兵にでもいいから知らせろ、と念押しされた。

 褒美とかはなにもくれず、言って良いぞ、と解放された。いや別にいいけど。


 俺たちはきょうは、もう一つ先のザンシャヌという街まで行って泊まる予定だったから、そのまま先を急いだんだけど、事態が動いたのは、まさにその街に着こうとする、そろそろ夕暮れ時だった。


ルシエンに持たせたリナから、念話で

(なにか上空を通過する気配があるって)

と伝えてきた。


 それで、察知スキルを全開にして、空全体を見張っていたら、さっきとは方向が違い、東の空から北西方向に向けて何かがキラッと光りながら動いた気がした。


 夕日が金属鎧に反射したのかもしれない、一瞬のことだったが。それで目をこらすと、ザンシャヌの町から数百メートルの所を通過しようとしている3つの点が見えた。


 そして、ザンシャヌの警備隊はたまたまなのかわからないが、上空も狙える大弩を持っていたらしい。


 俺たちの所まで聞こえる、ガンガンなにか金物を叩いて警戒を知らせる信号音が響き、それに続いて見張り台の上から、槍ぐらいある大弩の矢が放たれるのが見えた。


 上空を高速移動するワイバーンにそうそうあたるはずがない。


 けど、一本がかすめたのか、単に危険を感じただけだったかはわからない。

 

 そして、ワイバーンに乗ったどこかの国の兵らは、単に逃走するのでは無く、ちょっと威嚇してやろうとか、お返ししてやろうとか思ったんだろう。

 3羽編隊がきれいにUターンし、見張り台の上を通過、それとともに、

「ウワァーッ」

って叫び声が上がり、見張り台から人影が一つ落ちたようだ。


 よく見えなかったが、なにかを空中から投下されたんだろうか?


 そして俺たちの荷馬車隊が、ちょうど見張り台の下までたどり着いた時には、さらにワイバーンの群れがUターンして通過しようとしている所だった。


「打て打てぇ、打ち落とせー!」

 隊長格の者の、悲鳴に近い大声と共に、見張り台の上から大弩の、地上からも多数の弓の、矢がバラバラと放たれた。


 ただ、地上からの普通の弓なんて、ぱっと見百メートルぐらい上を飛んでる奴にあたりっこない。


 俺たちは馬車を止め、一カ所に集まっていた。攻撃を受けるようなら防がなきゃいけない。


 そして、ワイバーンの上から何かが放たれるのが、今度はわかった。

 単に手で何か投げ落としてるようだ。それで十分だもんな。


 見張り台に、ぱっと火の手が上がった。

 あれはひょっとして、火素の薬、みたいな球を投げたのか?


 火がついた人型が、また一つ見張り台から落ち、地面にぶつかってぐしゃっといやな音がした。


 そして、ワイバーンの群れは勝ち誇ったように悠々と飛び去ろうとした。

 その時、詠唱の声と共に、ひゅんっと矢が放たれる音がした。


 俺の背後から、ルシエンだ。

 そして、射終わった後も詠唱を続けている。

「・・・風よ、導けっ」


 突風が矢を追いかけるように吹き抜け、上空で二段ロケットみたいに、ぐんっと矢が勢いを増した。

 そして、

「ギエェェェーッ」

 耳をつんざく叫び声が響き、一羽のワイバーンが上空で首を振り回し、落ちてきた。


 そして、兵たちが詰めている番小屋の上に、巨体がドカッとぶつかり、屋根ごとガラガラと崩れ落ちる。


 もうもうと土埃が舞い上がり、あたり一面を覆った。


***********************


 ワイバーンと共に回収された兵の遺体が身につけていた鎧兜などには、どこの国の紋章などもつけられていなかった。


 だが、鎧の下の隠し袋の中に収められていた地図や資料、銀貨などから、隣接するトスタンという国が、素性を隠して送り込んだ偵察部隊に間違いない、というのが、この街の駐屯部隊の指揮官らの見立てだった。


 魔法使いがすぐに遠話で帝都やら近隣の部隊と連絡を取ったりしているようで、駐屯地は上を下への大騒ぎになっていた。


 そのおかげで、事態の急変をもたらした功労者?と言えるルシエンと俺たちに話しかけてくる者がなぜかいない。

 面倒に巻き込まれるのも嫌だし、この隙にさっさと通過しちまおうかと、商人たちとひそひそ話を始めたところだったが、さすがにそう甘くは無かった。


 士官クラスの一人が兵らに合図を送り、十人ほどが俺たちの行く手を塞ぐように立ちはだかった。荷馬車の後ろにも数人がまわり、気付くと包囲されてる。なかなかの手際だ。

 そして、その士官らしき男がルシエンの方に歩み寄ってきた。


 ルシエンは、頭と耳を覆う白い布を被ったこっちの女性の格好のままだが、長弓を肩にかけた姿は、ただの商人には見えないだろう。

 すっと、俺の耳元に口を寄せ、早口で振る舞い方を耳打ちしてきた。え、それ、俺が言うの?


「そなた、何者だ?あの高度のワイバーンを弓で射落としたように見えたが、信じられぬ」

 怪しい者を見る様子で士官が問いかけてきた。その前に俺は内心ちょっとびびりながら、精一杯堂々とした態度で立ちふさがる。


「おぬしは商隊の護衛か?その者に聞いているのだ」

「わたしはエルザーク王国の騎士、シロー・ツヅキ卿だ。この女はわたしの従者だ・・・」


「なにっ、騎士、どの、だと?・・・エルザーク王国、西方のエルザークか、いや、ですか」

 あやしんでるね、こんなただの冒険者みたいな金のかかってない格好の若僧が、騎士とか自称しても、フツー信用しないよね?


「まことにございます、隊長様。こちらのツヅキ卿が、我ら商隊の護衛を引き受けて下さったは、東方の風物を学ぶため旅をするゆえ同行しよう、と申し出ていただいたのでございます」

 おー、ヘイバル老がうまく話をあわせてきた。さすが年の功だ。


 ヘイバルと、パルテア人のオスマルフが商業ギルド証を見せたので、俺もあわてて冒険者ギルド証を出す。たしかここに、オルバニア子爵から叙爵された騎士とかって情報も書かれてたはずだ。


 士官はレムリア語の文字が読める兵を呼んで確認させ、どうやら納得したようだった。

「そ、そうか、さすがは西方の騎士殿の従者、見事な腕前でござった。我が国の空を侵した不埒者を成敗するに力添えいただき、感謝致す・・・さればひとつ是非ともお願いしたき儀がござる」


 要するに他言無用ってことだった。


 トスタンの偵察部隊らしい、って話は両国間の外交問題、どころかヘタをすると戦争に発展しかねない重大な問題だから、安易に噂が広がったりしたらまずい、ってことらしい。


 口止め料とは言わず、治安維持への協力の謝礼という名目で、俺たちと商隊にそれなりの額の金が渡され、オスマルフがパルテポリスでの連絡先などを聞かれていた。


「危ないところだったが、あんたが騎士身分で助かったんだぜ」

 解放された後でオスマルフが言い、ヘイバルとナターシアも同感の様子だった。

「へたをすると口封じのために、軟禁されたり、もっとまずいことになってたかもしれん」

「他国の貴族を理由も無く拉致とか殺害とかしたら、それこそ戦争だからね」


 一歩間違えたら危険な状況だったらしい。

 カレーナに感謝だな、形だけでも騎士にしといてくれたおかげだ。

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