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第132話 ストーン・ゴーレム

ゴブリンの群れと戦っていた俺たちの背後に、突然、前触れもなく巨大なゴーレムが出現した。わけがわからないが、とにかく大ピンチだ。

 突然俺たちの背後に出現した巨大なゴーレムが、その拳をナターシアたちの幌馬車に振り下ろそうとしている。


 俺は反射的に、その顔面に火素を集め、火球を破裂させようとした。


 魔力を練る時間はなかったし、錬金術師の攻撃魔法はそもそも魔法使いほど強力じゃない。

 それでも魔力強化の杖の効果があったか、暑い地域で空間の「火素」が濃かったのか、ゴーレムのデカい顔面を覆うぐらいの炎がはじけた。


 まったくノーダメージのようだが、奴は俺を「敵」と認識したようだ。

 馬車を放置して、こっちに向かって来る。


<ストーン・ゴーレム LV25>だって!

 ここは迷宮の最深部かよっ!


 続けざまに、今度は練り込んだ魔力で、火、水、雷・・・と色々ぶつけてみるが、まるで効いてない。

 まさにつかみかかられそうになったところで、足下に地魔法でへこみを作って躓かせ、粘土で足を絡め取る。


 ズドオォンッ、と地響きと共に巨体が倒れ、地面が陥没する。


 助けがほしいけど、タイミングを合わせて矢を射ていたコボルド・リーダーたちも突っ込んで来てるから、反対側も激戦だ。

 とにかく、コイツをなんとか引き離さないと・・・まわりを見回す。


「ルシエンっ、ゴブリンたちを頼むっ、リナとタロだけ連れてく!」


 返事を待たずに、リナを人形遊びの“お家に帰る”で、タロを粘土遊びの“とっておく”で回収した。

 地に伏したストーン・ゴーレムの目の前を注意をひくように駆け抜けて、馬車から離れる方向に逃げる。


 ストーン・ゴーレムはすぐに立ち上がり、追いかけてくる。

 鈍重に見えるくせに、歩幅が大きいから思ったより速い、ずるいだろっ。


 さらにまずいことが起きた。

「もう一体っ!?」


 目の前の岩山、と見えていた所に、突如もう一体のストーン・ゴーレムが出現したんだ。こんなのいなかったはずだ。そのそばに一瞬、ゴブリンみたいな奴も見えた気がする。

 

 認識したことで、地図スキルに赤い光点が増え、そして一瞬だが、ステータスが見えた。

<ストーン・ゴーレム LV25><ゴブリン・ロード LV11>


 挟み撃ちにされ、前を塞がれた瞬間に、パーティー編成を俺とリナだけに変えて、リナを等身大魔法使いにする。

(転移!)


 つかみかかってきた前後の巨体が激突する。

 その音が聞こえたのは、2体目のゴーレムの背後に再出現した後だった。


 それでも、すぐに追いついてくる2体のゴーレムと、再び気配を消したゴブリン・ロードの位置を振り向くことなく地図スキルで把握して、目の前にセラミック自走車を出して飛び乗る。


 岩の多い未舗装の道だから、スピードを出すとひどい乗り心地だ。だが、奴らはヤバいことに巨大な岩を投げてぶつけようとしてくるから、少しでも距離を離さないと・・・

 投石を当てられず、でも追いかけられるぐらいの距離を保ちながら振り向いて、今度こそステータスを詳しく確認する。


<ストーン・ゴーレム LV25

  スキル HP増加(大) 筋力増加(大)

      物理防御力増加(大)  怪力

      魔法抵抗    火耐性

      投擲(LV2) 岩石同化  >


 これか?最後の「岩石同化」ってのが、たぶん岩場じゃ見つからないように身を隠せるスキルなんだろう。


 そして、2体目のゴーレムの肩の上に乗ってるやつ。


<ゴブリン・ロード LV11

  スキル HP増加(小) 筋力増加(小)

      速さ増加(中) 察知

      隠身      指揮

      槍技(LV3) 弓技(LV2)>


 魔法は使えないが、隠身スキル持ちだ、それでさっきまで見つけられなかったんだろう。

 しかも、「指揮」とかいう珍しいスキルもある。ひょっとして、これでゴブリンたちの統制が取れてるのか?ストーン・ゴーレムを操っているように見えるのもこのスキルの効果なのかな?


 そんなことを考えている間にも、ゴブリン・ロードが射た矢や、ストーン・ゴーレムが投げた岩が飛んでくる。矢はセラミック盾でも防げるが、あの岩が直撃コースになったら防げない。そろそろ限界だ・・・


 リナを一瞬上空に飛ばして地形を確認させ、大きな岩の陰を道がカーブするタイミングで、一か八かの賭けに出る。


 曲がった先では、崩れた岩が積み上がり街道が途切れていた。

俺たちはその直前で自走車を急停止させ、飛び降りる。


 そして、ストーン・ゴーレムの肩の上で勝ち誇った様子のゴブリン・ロードに向けて、火球を放つ。お前には効くだろ?

 でも、ストーン・ゴーレムがでかい手のひらでその火球を遮った。


 だめ元で自走車をゴーレムに突っ込ませる。ドンっと激しい音がするが、一体がちょっとよろめいただけだ。

 簡単に乗り越えて、二体そろって突進してくる。さらに怒らせちまったらしい。


 背後は岩壁、二体並んで突っ込んでくるゴーレムから逃げられる場所はない。さらに火球を放ち、めくらましにするだけだ。


 そして、拳が振り下ろされる直前、リナの転移で再び背後に回る。


 ゴーレムたちは、岩壁に体をぶつけて反転しようとし、だが、そのままバランスを崩す。

 岩壁だったはずのものが、パキリ、と割れたから。


 俺が粘土スキルで偽装した、張りボテみたいなセラミックの板壁は、巨体の荷重に耐えきれず、バラバラに割れて落ちていく、峡谷の谷底へ・・・

 それと一緒にストーン・ゴーレムの巨体が、バランスを崩してゆっくり傾いていく。


 一体はそのまま、虚空に投げ出された。

もう一体はなんとか踏みとどまろうとするが、その瞬間、足下の崖を地魔法で削り取り、さらに半壊した自走車を突っ込ませる。その勢いに押されて、二体目も崖から落ちていった。


 そして、かろうじてゴーレムの肩から崖に飛び移ったゴブリン・ロードを、自走車から飛び降りたタロが薙ぎ払い、逃げようとした所を俺が刀で倒した。


 その直後に、激しい地響きが上まで聞こえてきた。崖から覗いてみると、足がすくむほどの高さの崖の下に、バラバラになった岩が転がっている。

 地図スキルで、大きな赤い二つの点が消えた。


「はあ、はあっ・・・」

 ようやく荒い息をついて座り込んだ。

なんとかうまくいった。もし地形の偽装に気づかれてたら、本当に詰んでた。


「リナ・・・ストーン・ゴーレムの魔石、回収してきてくれるか」

「えーっ、かよわい女の子一人で行かせるの?」

「いや、二人で転移するより負担が少ないかな、とか?」

「ぶぅー」


 不満を言いながらも谷底に転移したリナは、いったん僧侶に変わってストーン・ゴーレム2体を浄化し、魔石を取ってきてくれた。

 それから、ゴブリン・ロードも浄化する。


 ゴブリン・ロードの魔石は、オーク・リーダーとかオーガとかの魔石に近い大きさだけど、ストーン・ゴーレムの方は、かつて見た中で最大級、迷宮ワームの魔石なみの大物だった。色はくすんだ灰色がかった赤だった。


 パーティーのみんなの方が気になるが、俺もリナもかなりMPが枯渇していて、すぐに次の行動にうつるのはしんどい。

 一応、地図スキルでは赤い点は消え、白い光点の数は変わらないから、全員無事で戦いは終わったんだろう。


 やがて、リナがルシエンと遠話を結び、あっちも無事片付いたと確認できたので、馬車で合流してもらう。


 その間に、砕け散った偽装岩壁の残骸を吸収し、街道をきれいにしておく。

 ここからは崖沿いに細い道が切られ、峡谷を緩やかに降りて、反対側に渡れるところまで続いているようだ。

 活躍したタロをいったん収納し、壊れた自走車は粘土として吸収してMPを補充した。


「ご主人さまぁ、大丈夫ですかーっ」

 ノルテの声が近づいてきた。


「ゴブリン・リーダーが、前の冒険者たちから奪った弓とか剣を使ってて、思ったより手こずったわ。想像だけど、人間を倒したゴブリンが、レベルアップしてゴブリン・リーダーになったんじゃないかしら」

 ルシエンが、回収した多数の魔石をまとめてよこしてくれた。


 三台の馬車には何本か矢が刺さったままで、激戦を物語っていたが、人の被害はノルテとオスマルフがかすり傷を負っただけだという。


「ただ、ワンがかなり重傷で、大いなる癒やしで治したんだけど、部位欠損なの」

 馬車の御者台の足下に元気なく伏せているワンは、左の後ろ足と尻尾が無くなってしまっていた。

 最初にストーン・ゴーレムに噛みついたときに、蹴飛ばされもげてしまったらしい。


 けど、治療呪文では無理でも、元々粘土スキルで創ったんだから、粘土スキルで足りない部分をまた補ってやればいい。


 俺はふと思いつきで、アイテムボックスに残っていた「HP回復薬」を欠けたワンの体内に埋め込んで、その上から粘土スキルで足と尻尾を作り直してやった。なんとなく、この方がもっと元気になるかなって思っただけで、深い考えはなかった。


 でも、そうして治した途端に、ワンの体がうっすら光って、どこからともなくシステムの音声みたいなメッセージが聞こえた。

《粘土犬ワンが癒やし効果を身につけました・・・》

 そんな風に聞こえたのは、どうも俺と、リナだけだったみたいだ。


 ワンは嬉しそうに、俺にじゃれついて来て、頭をなでてやったノルテをペロペロなめた。すると不思議なことが起きた。

「あれっ・・・怪我が治った?ワンちゃん?」

 

 ノルテの手の傷が、ワンになめられたら無くなったらしい。


 やはりかすり傷を負っていたオスマルフの傷もなめさせると、やっぱり傷が小さくなっていった。

「おぉー、こりゃすごいな、助かるぜ」

 オスマルフは目を丸くしている。


 治療薬を埋め込んだことで、ワンが治療のスキルみたいなのを持ったってことだろうか?元々かすり傷だったから、どの程度の力があるかはわからないが、これは思わぬ効果だ。


 結局、なぜこの場所に突然、レベル違いとも言えるストーン・ゴーレムが出没したのかはわからなかった。


 ただ、周囲にもう魔物がいないか、リナを連れて調べてきたカーミラが、岩山の中になにか古い紋章みたいなものを刻んだ板状の岩を見つけた、という。

 今回は先を急ぐので調べることはできないけど、遺跡とかがあるのかもしれない。街道が最近ルートを変えたって話だったから、それで知られていない遺跡の近くを通るようになったのかもな。


 とは言え、それがゴーレムとどう関係するのかはまた謎だけど。念のため、リナにこの場所で、「転移」のための登録をさせておいた。


 元気になった俺たちは、日が傾きかけた中、峡谷の道を再び進み始めた。


 幸いその後は何事もなく峡谷を渡ることができた。

 そして、日没前、ついにパルテア帝国との国境を越えた。

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