表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
135/503

第129話 東方の港ダマスコ

長い多島海の船旅が終わり、俺たちは東方の地に降り立った。

 食料と物資の補給にサイクロプスの島に寄ったこともあり、航海の最終目的地である多島海東岸のダマスコに入港したのは、当初の予定より半日遅れの下弦の十日早朝のことだった。


 東風丸は海賊との戦いで傷ついた所を補修するためドックに回航するから、荷下ろしは昼過ぎまでに頼む、と船長から乗客の商人たちに告げられた。

 もとより早く商売を始めたい商人たちにも異存は無い。


 そこで、荷車を牽かせるための馬をさっそく探しに行く。俺たちも当然その護衛としてついていく。


 ダマスコの港近くには、こうした商隊向けの馬屋がたくさんあるし、ヘイバルたちベテラン商人はなじみの店もある。だからそう時間はかからないはずだった。


「ずいぶん高いな」

「ここの所、治安が悪くて商隊が襲われる時に馬もやられて数が足りなくなってるらしいな」

「それだけじゃない、各国が軍馬として徴発したりもしているらしいわね」

 岸壁からほど近い通りで、思ったように馬の数が揃えられず、ヘイバルたちは東風丸に乗り込んでいた他の商人たちと、そんな会話を交わしていた。


「それとな、ここだけの話、亜人を連れてると足下を見られるって噂があるぞ・・・」

 ドゥルボルから乗ってきた商人の一人が小声で口にする。

「あの蛙商人たちは、5割増しでも売ってもらえなかったらしい」


「なんだと、商いをするのに種族も身分も関係なかろう」

「それが昨今じゃそうもいかないのさ。亜人がさわった馬など買いたくない、などと言い出すやつもいるせいで、店に入ること自体嫌がる馬屋まであるらしい」

「俺も見たぞ、ずいぶんなもんだよな」


 なんだか雲行きが怪しいな。

「ふーん・・・シロー、悪いんだけど」

 ナターシアが、そう悪いと思ってる様子でもなく切り出した。

「護衛についてくるのは、あなたと、それからカーミラだっけ、その娘だけでいいわ」

「・・・すまんな、東方は最近までこんなことはなかったんだが」

 オスマルフは自分の国でもないのに不本意そうだ。


「・・・じゃあ、ルシエンとノルテは少し涼しい所でも見つけて待っててくれ。リナを預けとくから、なにかあったら連絡してくれ」

「はい、ご主人様」

 カーミラは普段は人間にしか見えないが、ルシエンの長い耳は一目でエルフとわかるし、ノルテも見る人が見ればドワーフの血が入っていることに気づかれるだろう、ということらしい。


 ルシエンは薄々予想していたのか、さほど不快感をにじませもせず、俺の耳に口を寄せて、

「ちょっと買い物してくるわ」

とささやいた。なにか考えがあるようだ。


 それから俺たちは、ヘイバルとハウトに俺が、ナターシアたちとオスマルフにカーミラがついて、もう一度、手分けして馬屋を回った。


 亜人連れだったことが本当に影響していたのかはわからない。

 ただ、幸い昼までには、これまでの相場より1割高いぐらいの額で6頭の荷馬を手に入れることができた。


デーバからドゥルボルまでは、オスマルフは馬1頭で馬車をひかせていたが、ここからは2頭立てにするのだという。それで計6頭だ。

「エルザークと違ってこっちは道が悪いし、やや上りになるからな」

ということらしい。


 ヘイバルやナターシアたちは、ダマスコで重量のある品物を中心にいくらか売って、身軽にしていくそうだ。

 そのため、馬をつないだ荷馬車を東風丸から降ろすと、ダマスコ市街に入り、商業ギルド証があれば取引自由、とされている広場に向かった。


 幌馬車の中から木箱を幾つか出して並べ、そこに布を敷いて品物を置けば、簡単な露店のできあがりだ。派手な色の幟旗を何本か立てると、さらにそれらしくなった。


 俺も品物を並べるのを手伝っていると、ルシエンとノルテが戻ってきた。

 だが、商人たちは一瞬だれだかわからなかったようだ。二人ともそれぐらい、東方の普通の人になりきっていた。


 ルシエンは白いゆったりとした布のローブのようなものをまとい、頭にも白い布をスカーフのようにかぶって、髪も長い耳も見えないようにしている。これだとただの色白の美人だとしかわからない。


 ノルテもわざと少しだぶだぶの褐色のローブを着て、ナイスバディな体の線が出ないようにしている。頭には日よけの布を垂らした帽子をかぶり、あまり顔が見えないようにすると、小柄なノルテはこの辺の庶民の「十歳そこそこの少年」に見える。


「あら、うまく変装したのね、たしかにそれなら問題なさそうだわ」

 ナターシアも驚いている。

「この先も亜人だとわからない方がいい場面がありそうだから」

 ルシエンは淡々と応じる。


 にわか作りの露店では、ナターシアとミクラは装飾が施された木工製品や皮革製品を、ヘイバルとハウトは岩塩や酒類を中心に売っている。

 そこにさっそく、通りがかりの客が何人もやってきた。


 アンキリウムも国際色のある大都市だったが、ダマスコの活気はそれ以上の感じで、似たような露店が広場をほとんど埋め尽くしているが、それぞれ繁盛している様子だった。


 オスマルフはその間にダマスコの商業ギルドに情報収集に行き、それから今夜の宿を確保してくるというので、カーミラにリナを持たせて護衛につけた。

 俺たちは露店と3台の荷馬車の警備だ。これだけ混雑してるとスリとか置き引きとかも警戒しないといけないからな。

 

 夕暮れ近くになってオスマルフが帰ってきたが、表情が険しい。

 詳しい話は宿の部屋に入ってから、ということで、荷馬車も置ける宿にみんなで向かった。


 宿の馬小屋に荷馬を預け、荷車を倉庫に入れて鍵をしてもらった後、借りた部屋のひとつにみんなが集まった。


「まずい話のようね?」

 ナターシアの問いにオスマルフが首を縦に振った。

「イシュタールがメサイに軍を向けるらしい」

「まあ、いよいよなの。最近のイシュタールの拡大路線はよく知られてたけど」


 ダマスコをはじめこのあたりの都市は、パルテア帝国とか南方のジプティア王国のような大国に、その時々で従属したり貢納しながら独立を保っているらしい。

 その中で、ダマスコの南にあるイシュタールに最近救世主が現れたとかで、急速に宗教国家化していて、まわりの都市を飲み込み始めているそうだ。

 それで、ダマスコの東にある遊牧民たちの集まりであるメサイと戦さになると。


「まだ本格的に侵攻するわけじゃないらしいが、商業ギルドによると、4日後には東への街道は通れなくなるそうだ」

「それじゃあ、ここで少し商売していくつもりだったけど、明日すぐ出た方がいいってこと?」

「そうだな、できれば早朝発って、十三日中にはパルテア領内に入るようにした方がいいだろう」


 ヘイバルとナターシアが顔を見合わせた。

「予定より早いが、きょうは思った以上に売れて、荷が軽くなってはおる」

「うちもよ。じゃあ、一日繰り上げて明日夜明けに出ましょうか。ミクラ、宿に伝えてきて」

「ハウト、馬の様子を見てきてくれ」


「問題は、オスマルフはパルテアに帰って終わりじゃからよいとして、わしらは半月か一月ばかり商いをしたら帰ることになる。それをどうするかじゃのう」

「たしかにそうね、それまでにおさまってればいいけど」

 帰り道も心配だよな。


「今回はそう長引かないとギルド長は見ているようだが、おさまらなかったらユハラ川沿いに西に出て、ゴライ高原を越えて北からダマスコに戻るのがいいと思うが」

「そんな街道があったかしら?」

 地元のオスマルフが別のルートを挙げたが、ナターシアは知らない道のようだ。


「あれは街道というのも名ばかりの小径じゃな。ただ、行きは坂がきつかったはずじゃが、帰りなら下りじゃからな、たしかにそれがよいかの」

 ヘイバルはさすがに迂回ルートも知ってたようだ。


 俺たちは、パルテポリスまでで護衛のクエストは完了だが、やはり帰りのことも考えとかないとな・・・あれ?リナの転移魔法で飛べるのかな。


(距離にもよるから一度に飛べるかはわからないけど、ここから途中何カ所か、転移用の「登録」をしていくよ。)


 リナが念話で返事をくれた。


 この日の宿では、俺たちグループで大きめの二部屋をとっていて、男部屋・女部屋という扱いだ。男部屋は、護衛は俺一人だけど、船の中のように他人と雑魚寝というわけではなくカギもかかるから、久しぶりに安心して寝られた。


 海賊に襲われる危険もないし、いびきのうるさい奴とかもいなかったしね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ