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第128話 サイクロプス島

三の月下弦の七日、多島海に出て五日目だが、東風丸では色々困りごとが起きていた。

 海賊を退けてからは特に危険な目にも遭わず、俺たちが乗る東風丸は順調に東へと向かっているはずだった。


 だが、激しい戦闘で傷ついた船は色んな所にガタがきていた。


 まだ新造船なのに、大砲の至近弾を撃ち込まれた影響で船体の板がゆがんで船倉に浸水しているのが見つかったり、誰かが甲板に何トンもある粘土の塊を落っことしたせいで、甲板が割れて雨水も入るようになっちまったんだ。

 

 少しばかり責任を感じて、俺はノルテと一緒に補修作業を手伝っていた。

 ノルテはやっぱりこうした職人仕事に適性が高いようで、アイテムボックスから取り出した鍛冶用ハンマーを金槌みたいに使い、俺が硬化セラミックで作ったのみやノコギリも器用に使って、予備に積まれていた木材を加工し、途中からは船員たちより上手に壊れたところを直していく。船大工みたいだ。俺は言われるままに動くだけだった。


「応急処置としてはいいですけど、何カ所かは出来ればちゃんとした金具が欲しいですね・・・」

 いつの間にか場を仕切っているノルテに、船員たちも頷くばかりだ。


 一方で、元々15人しか乗組員がいなかったのに働き手が3人も減ったことで、操船のシフトにも穴が開きかけていた。

「恥ずかしい話だが、船乗りの経験者がいたら、日当は出すから手伝ってもらえんだろうか?」


 水夫長の呼びかけに名乗りを上げたのはルシエンだった。

 傭兵時代に軍船で働いた経験があるらしい。いい思い出ではないようで、あまり話してくれなかったが、道理で船のこととかも詳しかったわけだ。


 暗闇でも目が見えるし、精霊を使役して危険を察知することも出来るから、夜間の当直シフトにも入って重宝されているという。


 だが、そんな形で何とか航海を続けていた東風丸だが、もうひとつ問題が起きた。

 食糧不足だ。


 もともと数日分は乾パンとか干し肉とかを余分に積んでいたはずだが、海賊との戦いでバリケードに使った樽が多数壊されたせいで、中に入っていた水や食糧がダメになってしまったらしい。

 水は俺たちが魔法で出すことが出来たものの、食べ物は出せない。


 商人たちの中には売り物として食糧を運んでいる者もいたが、話し合いの末、航路からさほど離れていない島に、急遽寄港することになった。


 夕食の際に船長から説明があった。

「明朝から、サイクロプス島に半日ほど寄港予定です。危険はありませんが、基本的には船に留まっていていただいた方が良いでしょう」


 サイクロプス島?

 初めて聞く名前だけど、サイクロプスって、一つ目の巨人とかのことか?


「サイクロプスは、見た目は恐ろしいが、今のところ人間族との関係は良好だし、知性的な種族じゃ」

 俺たちの商隊で実際に見たことがあるのは、ヘイバル老人だけだった。


「たしか、漁業と島ブドウの栽培で暮らす島じゃったかな。島ブドウで醸造するワインは独特の風味があってなかなかいけるぞ」

 じいさん、孫に酒を勧めるのはどうかと、いや、こっちじゃもう成人なのか。



 次の明け方、南東の水平線に見えてきたのは、大海原に険しい山がひとつだけ突き出したような、急峻な島だった。

 下の方は赤茶けたむき出しの土だが、山の中腹からは木が生い茂り上の方には雲がかかっている。あそこにサイクロプスがいるのか?鬼ヶ島みたいだけど・・・


 意外に整備された波止場に、東風丸は直接横付けすることができた。

 地形が急峻な分、水深が深いってことらしい。


 赤茶けた山肌に溶け込むように、同色の土で固めた住居らしいものがたくさん集まっているのが遠目に見えた。あれが集落だろうか。


 停泊する前から、波止場には毛皮をまとった一つ目巨人たちが何人も集まってきた。

 顔つきはいかつい、っていうかギョロっとした一つ目だからどうしたって怖そうなんだが、こっちに手を振ってるし、特に武器とかも持ってないから友好的なんだろう。


 ただ、体格は全員タロよりでかそうだから、2メートル半はある。オーガなみの体格だが、なんて言うかもっと知性的っていうか、きびきびした印象だ。


「おーい、商船かぁ」

 普通に言葉もわかるぞ。


「東風丸の船長、マガートだ。突然寄港させてもらってすまんな。食糧が足りないのと、もし鍛冶仕事をしている者がいれば、手に入れたい金具なんかもあるんだが・・・」


 まだ上陸はせず、マガート船長が船縁から大声で交渉する。

それに対し、ひときわ大柄なサイクロプスが近寄って来て応じた。

「族長の代理をしておるドゴンだ。食糧なら、けさの漁でとれた新鮮な魚、干した魚、島ブドウもあるぞ。ここの波止場なら取引に使っていい」

「感謝する」


 よそ者を村には入れないが波止場で取引なら応じる、ってことらしい。

 許しを得て東風丸から波止場に、渡し板がかけられる。


 相場に詳しくサイクロプスの風習も知っているヘイバルが、商人代表として水夫長と船のコックに付き添い、波止場に降りた。


 サイクロプス側からも何人かの者たちが出て、あれこれ交渉しているようだ。


 やがて話がまとまったようで、サイクロプスたちは見張りを数人残し、集落の方に戻っていく。


 ヘイバルたちも戻ってきて、商人らに呼びかける。

「サイクロプスたちが欲しがってるものを持っていれば高値で買うそうだ。ここは交易船が滅多に寄らんからのう」

「なにが売れそうなんだ?」

 商売できると聞いて、商人らが色めき立つ。


「まず、鉄や鉱石各種、皮革素材、それから傷薬、あとは宝飾品だな」

 毛皮とかはヘイバル自身と別の商人たちも、宝飾品もナターシアともう一人、商っている者がいた。

「まあ、値段次第だね、パルテアで売るより良い値がつきそうなら、ここで捌いてもいいわ」


 鉱石はむしろ東方に仕入れに行くのがメインなので、持っている者はいないようだった。

 そして、傷薬は俺が少しなら持ってる。船旅中にちまちま作っただけだが、売れるか聞いてみよう。


 一旦、船員立ち会いで荷車を収めた船倉のカギが開けられ、取引を考えている商人たちがアイテムボックスを使って荷を持ち出した。


 俺も一緒にサイクロプス島に降り立った。

 なんて言うか、空気が違う、ちょっと新鮮な感じだ。


 波止場には、サイクロプスたちが使ってるものらしい帆がひとつの簡素な漁船が何艘もつながれている。奥の方に見える屋根と柱だけの建屋のまわりには、魚の骨とか貝殻とかが散らばってるようだ。漁港なんだろう。


 間もなく十人以上のサイクロプスたちが、荷車みたいなのを引いてきた。木の車輪が2つで板を渡しただけの、ごく簡単な作りだが、彼らの体格相応にサイズが大きいから、積まれてる木箱には大量の魚が入っている。


 俺は魚の種類も詳しくないけど、普通に食べられそうな魚でほっとした。

 他に干物とか小さな緑色のブドウみたいな房も積まれてる。水夫たちとヘイバルがそこで話をしている。


 こっち側では、ヘイバルとハウトが皮革素材を出して地面に敷いた布の上に並べ、ナターシアとミクラは、アイテムボックスから木箱ごと出した琥珀細工をその箱の上に並べだした。

 さっそくサイクロプスたちが寄ってきて、値段交渉を始めた。


 俺はそれを真似して、セラミックの小机を出し、薬生成スキルで作った薬をその上に並べた。HP回復薬と状態異常の治療薬とかだ。

「これは薬か?ケガの薬はあるかね」

 のそっとした、たぶんちょっと太り気味のサイクロプスが野太い声で話しかけてきた。

普通に流ちょうな言葉だ、って言っても自動翻訳機能のおかげかもしれないが。


<ボルゴン サイクロプス 男 51歳 LV9

  呪文  地

  スキル HP増加(中)    精霊の目

      格闘(LV2)    怪力

      物理防御力増加(小) 鍛冶(LV2)

      近接攻撃力増加(小)     >


 年齢不詳だったが、51歳なんだ。鍛治師なんだろうか。


 ボルゴンというこのおっさんをはじめとして、何人もが薬に関心を示した。離島だと急病とかケガをした時に困るんだろうな、特に治療系の魔法とかは持ってないようだし、これがサイクロプスの種族特性なら薬は必要なこともあるだろう。


 相場がわからないから、彼らが前に買ったときの値段を聞くと、金貨1から2枚ということだったので、一個1枚であるだけ売った。別に大もうけしたいわけでもないし、また作ればいいし。


「よし、これで安心して海トカゲ狩りに行けるな」

と、治療薬を手に入れた筋肉質のサイクロプスが喜んでた。

 聞くと、浜に時々出る海トカゲはいい革製品の材料になるが、毒を持っているから狩るときに神経を使う、ということらしい・・・


 ゴロンゴというこの男は革職人だったらしく、土産だと言って小さな海トカゲ革の小袋もくれた。

「ドラゴンの炎にも少しの時間なら耐えられるんだぞ」

と、得意げに教えてくれた。


 なんだか思ったより気のいい連中だ。見かけで人を判断しちゃいけないってことだな。

 飲み水を入れるには容量不足だけど、リナを入れるにはちょうどいいサイズかもしれない。

 ゴロンゴとは、もし今度時間のあるときに島に来られたら、海トカゲ革の防具とかを作ってもらいたいなって話をした。それに海トカゲの狩りとかも見てみたい。


 船が島を出て少しすると、奥の集落から、子どもだろうか?小さめの、それでも俺たちぐらいの体格のサイクロプスたちが何人か出てきて、岸壁を走りながら手を振ってる。


 人間に悪さされないか心配で、これまでは隠れてたんだな・・・色んな種族が互いの距離感を探りながら生きてるんだ。


 短い滞在だったけど、異世界感たっぷりだった。

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