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第126話 海賊王バルザック

海賊船の大砲を封じダメージを与えることに成功した俺たちだったが、多勢に無勢でとうとうこちらの船に乗り込まれてしまった。

 ついに海賊船から渡し板がかかり、俺たちが乗る貨客船・東風丸には次々海賊たちがなだれ込んできた。


 サイドンのパーティーの魔法使いオッズと、シーファーのグループのテローザ、そして、俺とリナ、火魔法を使えるものは集中的に渡し板を焼き、それを他の護衛たちが支援する。

 だが、最後一本だけになったところで、テローザが鉄砲で撃たれ、サイドンのパーティーも乗り込んできた海賊たちに押され、船縁での水際作戦を維持できなくなった。


 ゴーレムのタロを出現させて正面の海賊たちを食い止めている間に、俺たちはタイミングをあわせて、船首楼と船尾楼を結ぶラインまで後退する。

 ここにはあらかじめ船員たちが、水樽などの遮蔽物を並べて簡易バリケードを作ってある。

 船室に降りる階段もあるから、ここで踏みとどまらなくちゃならない。


 シーファーとスカウトの男がテローザを引きずってきて、口にHP回復薬を押し込んで飲ませている。重傷だが命に別状はなさそうだ。

 だが、これで戦える人数は一時的にさらに減っている。


 渡し板から東風丸に乗り込んでくる海賊たちは、多分40人近くいる。


 こっちは商人も合わせれば同数か少し多いぐらいいるが、戦い慣れした護衛は負傷者含め15名だ。あとは船員たちがどれぐらい戦えるかだが・・・


 船首楼側に水夫長や船員たちが集まってバリケード越しに矢を放っている。乗り越えようとする者は今のところ、剣を振るって食い止めているようだが劣勢っぽい。


 メインマストを中心にした中央甲板には俺たち護衛組の主力、そして船尾楼側は、商人のうち武器を持てる者と、護衛組から猫人3人とLV14戦士のベランという男がついている。

 唯一の渡し板がかかっている所は、俺たちと船員たちの間ぐらいの位置だから、敵もこの辺に多い。


 今のところ、商人たちの守る船尾側には敵は少ないし、善戦している。

 あの蛙人の商人、口から毒霧みたいなのを噴いてる。あれが「毒」ってスキルか。意外に強そうだ。


 それを見て、俺はリナとカーミラに最後の策を伝える。危ないけど、カーミラの隠身スキルと身体能力があれば可能なはずだ。

「もし危なかったら、無理せず海に飛び込むか、リナの魔法で飛んで逃げろ」

「カーミラだいじょうぶ、うまくやるよ」


 二人が姿を消した後、タロを後退させバリケードで戦線維持に切り替えた。

 その間もルシエンはMPの回復待ちをしながら、弓で着実に一人ずつ減らしてくれている。


 俺は乗り越えようとしてくる奴らをタロと粘土犬のワン、そしてノルテに食い止めてもらいながら、「思索」スキルでMP回復を急ぐ。


 だが、俺とルシエンが再び魔法攻撃に転じて、残った渡し板を落とそうと考えたその時、そいつらが躍り込んできた。

 地図スキルでも一団になった強く赤い光を放つ奴ら。おそらくこれが、海賊王バルザックとその側近たちだ。


 走り込んで来た先頭の男は、タロが大剣を振り抜いて斬り飛ばした。

 次の奴は、サイドンたちの矢が突き刺さり声もなく倒れる。


 だが、その次の奴をタロが再び迎撃しようとした途端、巨体が炎に包まれた。

 セラミック装甲の体は燃えはしない。しかし、動きが止まったタロの体を、激しい斬撃が襲い、よろめかせる。その隙に次々に新たな海賊たちが乗り込んできた。


 さらにそいつはメインマストに向けて火球を放ち、炎上させた。


 魔法使い!?俺は物陰から火球を飛ばしながら、急いでそいつのステータスを判別する。


<バルザック 人間 男 42歳 海賊(LV27)

  呪文  火 水 地 風 盾 遠話

      麻痺 帰還 結界 魔力強化

  スキル HP増加(大) 筋力増加(大)

      方角 水泳 察知 発見 天候予測

      操船(LV7)  鑑定(初級)

      海図 罠解除 危機察知 指揮

      剣技(LV6)  弓技(LV4)

      短刀技(LV5) 騎乗(LV2)>


 こいつだ。間違いなく“海賊王”バルザックだ。

 でも、なんだこの多数の呪文は?

 ・・・ひょっとしてコイツ、魔法使いから海賊にジョブチェンジしたのか?


 そりゃたしかに、海賊がみんな生まれながらに海賊なわけじゃない、途中から海賊になったやつだっているだろう。

 でも、盗賊やら海賊で魔法なんて使える奴はいないって、思い込んでた。


 普通は魔法使いなんてレアジョブの奴は、それでちゃんと食っていけるし、しかるべき地位にも就ける。

 だから、食い詰めて盗賊になんかならないからだろう、とこっちの世界の常識を知るに連れて、俺も思ってたんだ。


 でももしも・・・その魔法をいかして、普通に生業に就くより稼げて、大きな力を持てるとしたら・・・望んで海賊になり、そこでてっぺんに行こうとする奴だって、いるのかもしれない。


 そんなことを考えてたのは、本当に一秒にも満たない間だったと思う。


 サイドンと、同じパーティーのワイダというLV10冒険者の二人が、同時に斬りかかり、それを一瞬でバルザックはかわすと同時に曲刀でなぎ払った。

 ワイダの体が吹っ飛び、サイドンが膝をついていた。

 とどめを刺させまいと、オッズが雷を放ったが、それを見えない盾が受け止めた。


 ルシエンの弓が鳴り、バルザックは曲刀で切り払い、身をかわす。

 俺も矢を放ち牽制する。

 バルザックたちは、バリケードの向こう側に一旦身を引き、サイドンとワイダはなんとか自力で戻ってきた。


 そこに、オッズが炎の渦を放ち、シーファーのパーティーの魔法使いテローザも負傷から回復したらしく魔法攻撃を重ねる。


 なんとか盛り返しつつあった時、今度はバルザックの側から、思わぬ呪文が放たれた。これは、「静謐」だ。側近には僧侶呪文の使い手もいるのか?


 そして戦い慣れした人数で上回る海賊たちに、俺たちは徐々に押し込まれていった。

 サイドンやシーファーのパーティーも負傷者を出して防戦一方だ。


 俺たちのパーティーは、タロが煤けた体で盾になり、ワンが海賊たちの足下を襲ってかき回してくれているおかげで、なんとかかすり傷ぐらいしか負ってないが、ノルテもルシエンも、もちろん俺も体力的にキツくなってきてる。それをルシエンと俺が互いに回復魔法をかけながら、じりじり下がる。

 

 そして、こっちの疲弊を見てとった海賊たちは、再び鬨の声を上げ攻勢に出た。


バリケードを一斉に乗り越えてくる奴らをタロが斬り払い、すり抜けてくる奴は俺の剣、ノルテのハンマー、ルシエンの弓で何人か倒すが、突破した海賊の数人が、俺たちを無視して地下の船室に向かう階段を駆け下りていく。


「ノルテ、ルシエン、あいつらを追え!」

 無力な商人たちを見殺しにはできない。ヘイバルやナターシアたちは下にいるはずだ。


 そして、正面にはバルザックと側近たち、LV19の海賊やLV17の僧侶やらが一団になっている。


 残された俺を見て、巨体のゴーレムを従えてはいるものの一人で戦えるつもりか?という顔で、バルザックのひげ面がニヤリとゆがんだ。



 その頭上に、ありったけの粘土の塊が降り注いだ。

 久しぶりの物量攻撃だ、回復しておいたMPをここぞとばかり注ぎ込む。


 側近の海賊たちが下敷きになってつぶれる中、バルザックはとんでもない反射神経で横っ飛びにかわした。「危機察知」スキルか!?

 でも、そう考える間もなく、回復したMPを使いきる勢いで飛ばした火球が、今度こそ倒れた姿勢でかわせない海賊王に命中する。


「貴様、錬金術師だったか・・・」

 静謐の影響を受けずに放たれた魔法に、火だるまになりながら、しわがれた声が漏れる。奴が判別系のスキルは持ってなかったのが幸いした。

 だから、静謐がかかった後は魔法を使わずに、油断させるように仕向けたんだ。


 それでも、なお迫ってくるバルザックの曲刀を必死に刀で受け止める。なんて怪力だ。焼けただれながら斬撃を繰り出すバルザックを二合、三合とかろうじて受け止めながら、俺はじりじり押される。魔法を繰り出すひまも無い。

 奴はその合間にタロの攻撃をかわし、ワンが飛びつくのを蹴り飛ばす余力さえある。


 背中が船縁にどんっと突き当たって、いよいよ後がない、と焦ったその時、すさまじい爆発の衝撃がとどろいた。


 バルザックが背後を振り返り呆然とする。

 間に合った・・・


 大炎上した「赤いドクロ号」が、ゆっくり傾いている。


「火薬の誘爆か、なぜ・・・」

 一瞬の隙に、タロと俺が前後から斬りかかる。タロの重い斬撃を避けきれずに曲刀で受け流して体勢を崩した所に、俺の刀が胴を薙ぎ払った。はじめてあたった。


「ぐはっ」

 血しぶきが飛んで俺にもかかり、目をつぶっちまう。


 だが、バルザックはこっちに向かって来るのではなく、自分の海賊船の方にフラフラと甲板を歩いて行く。 

「オレのふ、ふね・・・オレの」


 そして、壊れた船縁から、沈んでいく赤いドクロ号に飛び移ろうとするかのように、身を投げた。



 俺はがっくりと甲板に膝をついて、肩で息をする。それから、ハッとする。

「ワン、船室へ行け!ノルテたちを助けろっ」


 駆け出す粘土犬をよろよろしながら追いかけ、階段を駆け下りる。

「うわーっ」「グオッ!」

 若い男の声?そして野太い絶叫。


 階段の途中から海賊たちがそこここに倒れ伏している・・・そしてその先、扉の前で弓を構えるルシエンと海賊の背中、そして

「ハウトっ!?」


 海賊の背中から刃が突き出している。血がドクドク流れ出している、うぇっ、ダメだ。いや、それより・・・

「ノルテっ!」


「・・・ご主人様、ここです」

 積み上がった海賊の死体、だと思ってた山が崩れ、ノルテの小柄な体が出てきた。返り血を浴びてるが、大丈夫そうだ。のしかかられてたのか。


 そしてハウトは、海賊を突き刺した短刀を握りしめたまま、まだぶるぶる震えていた。初めて人を殺したのか、気持ちはわかる・・・


「ようやった、ハウト」

 声をかけたのはヘイバル老人だった。やはり腰を抜かしてへたり込み、それでも女商人たちが立てこもる扉を背中でふさいでいる。じいさん、やるじゃないか。



 そして、待っていた声がした。

「あるじ、ここー?」

「シロー、みんな、無事ね?」


 そうだ、大逆転を決められたのは二人のおかげだった。

 

あの時、全力で隠身を使ったカーミラに、隙を見て船尾楼の上から、海賊船に飛び移らせたんだ。人狼の身体能力がなければ不可能なワザだ。


 そして、カーミラの腰には人形サイズのリナを入れた革袋。リナもスカウトモードになって隠身をかけていたから、二人を発見することは、あの混乱の中では誰にも出来なかっただろう。


 あれだけの大砲を持つ以上、船内には必ず大量の火薬を詰めた樽か何かがあるはずだ。それを見つけたらリナが魔法使いに変身し、導火線か布きれを使って逃げ出す時間を稼げる形で火をつける。

 ・・・それが船尾楼側の状況を見てとっさにひねり出した作戦だった。


 戦闘中に時々リナの念話が届いてたから、うまくいく自信はあった。

 でも、あれだけの大爆発だったから、二人が無事に脱出できたかが最後まで心配でたまらなかった。


「ああ、仲間はみんな大丈夫だ。カーミラ、リナ、よくやってくれた。それに、無事でよかった・・・本当に助かったよ」


 ヘイバルとハウトがへたり込んでる前で、俺たちは互いに血だらけの体を気にすることもなく抱き合った。

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