表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/503

第13話 レダ

異世界の街の観光を続けよう

 レダと別れてからも、街中を歩き回って色んな店や施設とかを見つけた。

 というか、あまりたいした店はなさそうだった。


 目を引いたのは、かばんやトリウマの鞍など皮革製品全般を扱う店、家具や木工品を並べた店、絨毯やタペストリーを飾ってある布製品の店とかも、ウインドーショッピングを楽しめた。


 石壁に囲まれた街の範囲は、せいぜい直径1kmあまりだろうか。

 壁の外に農地が広がっていて、農民や木こり、狩人の多くは外に住んでいるそうだが、それを合わせても人口は5千人ぐらいだそうだ。

 皮革製品の店で、水や酒を入れるための革袋を買ったら、色々教えてくれた。


 皮革製品は、そうした壁外の狩人が自ら手作りしたものは安く、街の職人が作ったものは質がいいが少し値が張る、と言っていた。一番高級なのは、ドウラスから取り寄せたものだそうな。


 壁外の農民たちは、ここのところ魔物や盗賊が出ることが増えて、兵の見回りが不十分だというので、土地を捨てて逃げてしまう者も少なくないと言う。


 そりゃあ、少し離れていたとは言え、日中に武装したオークの群れとかが出るんじゃ、おちおち住んでいられないよな。


 あとは、鍛冶工房と駅馬車の拠点、そして一番歴史がありそうな建物は神殿のようだった。建物自体はそれほど大きくはないが、広い前庭に十柱ぐらいの男女の神様なのだろう、石像が並んでいる。ギリシャとかローマとかみたいな多神教なのかな。


聖職者が何人か、礼拝者に話しかけたり、喜捨を求めたりしていたが、判別をかけるとレベル1~3ぐらいの僧侶だった。

 カレーナが俺と変わらないぐらいの年でレベル5っていうのは、結構すごいのかもしれない。


 石像はそんなに写実的ではなくて、あの女神に似てる神様がいるのかとかは、やっぱりわからなかったが、人の流れについていくような感じで建物の前まで行き、周囲の人たちのまねをして礼拝らしきことをし、銭貨をひとつ投げ入れてみた。

 

 いいことが、ありますように。


 ぜいたくは言いません。うまいものを食べて、美人に囲まれて、ごろごろのんびり、まったり過ごしたいです・・・え、十分高望みだと。


 宿に戻ると、扉の前にきれいに畳まれた洗濯済みの服が置かれていた。

上着はこっち風のチュニックみたいな貫頭衣でもいいけど、下はジーンズの方がしっくりくる。下着は言うまでもないな。

 俺はブリーフよりトランクス派だ。


 そして、買ってきた絵本を見ながら、じいさんに聞いた発音を「アル・バル・セラ・・・」と、思い出しながら唱えてみる。やっぱりヨーロッパ系言語に似ているよな。


 不思議なのは、話し言葉は自動翻訳されるから、こういう発音は意識しなくても相手に通じてるのに、文字を読もうとすると努力が必要になるってことだ。

 階下の、まだ客のいない酒場に降りて、掃除をしていた看板娘に、メニューを借りる。

 すると、見開きの一方に、不思議なことに<酒>という文字が浮かんで見えた。


「えっ!?」

 思わず口に出ていた。

なぜこれだけ読めるんだ? そうか、さっき街歩きの時に何度も酒場の看板を見て、これが酒場を意味する言葉だろうか、とかあたりをつけていたからか。

 もう一つだけ、別の場所に<パン>という文字も浮かんでいる。

 これは絵本の中に、パンの絵のところに書かれていた文字だ。学習したんだ。


「どうしました?」

 看板娘が聞いてくる。俺はちょっと興奮しながら聞いた。

「あのさ、こっちがお酒?」

「そうですよ?」


「・・・ってことは、もしかしてこっち側の一番上は“料理”って書いてあるの?」

「あ、はい、“お食事”ですね。すみませんが食事は夕方にならないと・・・」

 その途端、メニューのもう片側の見出しのところに<食事>と文字が浮かんだ。


 そういうことか。

 文字の方は、俺が意味を理解できるようになると初めて翻訳表示される仕組みのようだ。つまりは、やはり努力して学習しないといけない、ってことだ。たいへんだな。だが、とりあえず一歩前進だ。


 俺は、戸惑っている看板娘に礼を言って、部屋に戻ろうとした。


その時、宿の外で気配がした。おばちゃんの話し声がする。

「あら、久しぶりだねぇ・・・若い黒髪の男の客?ああ、泊まってるよ」


 扉を開けて、レダが入ってきた。



 ここはテーブルの支度もあるからお客さんの部屋で話して下さいね、となぜかおばちゃんに2階に追い立てられ、レダを案内して俺の部屋に入った。


 レダは扉は開けたまま、布製の鞄の中から、きれいにコーディネートされた花束をとりだした。

 ピンクをベースに、黄色と紫と白い小さな花が彩りを添えていて、花の種類なんてまるでわからない俺にも、いいセンスなのがわかる。


「うん、きれいだ」

 そう言うと、彼女は少し顔を赤らめながら嬉しそうな表情を見せる。

「ええっ、そんないきなり!・・・あ、すみません」


 なぜか慌てて言い直す。昼に会ったときと、ちょっと雰囲気が違うな。


「そうですよね。ご希望には添えたでしょうか?」

「うんうん、とってもいいと思う。俺、花とかよくわからないけど、これはなんかいいね」

表現力のなさが悔しい。


「ありがとう。お金はあれで足りた?」

「もちろんです。花を育てている知り合いがいるので、あんなにいただいてよかったんでしょうか」

「いいから、だって貴族の屋敷に持って行くんだし」


「カレーナ様が気に入って下さるといいんですが・・・」

なんだかカレーナのことを知っているような口ぶりだが、こんな狭い町の領民なんだから、そりゃみんな面識ぐらいあるよな。


 それからしばらく、とりとめのない話をしてから、俺はレダを送り出した。

 なぜか、去り際に彼女がちょっと不満そうな表情を見せたようだったけど、多分、気のせいだろう。

 もっとレダのことが聞きたかったけれど、コミュ障の俺としては、自己最長を更新するぐらい、記録的に話が続いた。


 彼女のいい匂いが酒場の扉から出ていくのを見送った後で、そういえば、昼に会ったときと服装が違っていたような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 公の場には女性をエスコートするもんだったっけ? 期待してたのかな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ