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第103話 ルシエン

オザック村に着くまでの間に、ルシエンは迷宮の中で何があったかを話してくれた。

 ルシエンたち奴隷には、やはり、所有者である男爵を直接害することは出来ない「誓約」がかかっていたらしく、3人は、いや迷宮に入っていたメンバー以外にも奴隷がいたそうで彼ら彼女らを含めて、自分で直接手を下さなくても男爵を死に追いやる方法をみなそれぞれ探していたらしい・・・。


 奴隷が男爵たちにどんな扱いを受けてきたかって話は、途中から「もういい」って思わず遮らずにはいられないぐらいのものだった。もちろん、ルシエンが作り話をしている可能性だってあるけど、今更そんなことを盛るぐらいなら殺害の手口を明かす必要だってなかったわけだから・・・


 あの“静謐”は、可能性の一つとして考えていた通り、魔法使いが“転移”で逃れようとしたのを封じたのだと、それを話す時が一番つらそうだった。それから、ポツポツと口にしたのは、かつて、人間の男の奴隷戦士と一緒に逃亡を謀ったことがあって、それを女魔法使いに密告されて露見し、男は男爵に拷問の末に殺され、ルシエンも気を失うまでなぶり者にされたことがあったらしい。


「あの女のせいで、私は誰の種かもわからない子を孕まされ、おまけにそれも薬で堕胎させられて・・・戦闘奴隷として使うのに邪魔だからって」

「ルシエン、もう話さなくていい・・・」

「それでも、あの女を殺そうと思ってたわけじゃないの、ほんとに・・・なのに気づいたら静謐が発動してて、あの女が顔を引きつらせてて・・・う、あぁ・・・」


 俺はもう何も声をかけられず、ちょうど薄暗くなってきた中にオザック村の灯りが見えてくるまで、身を震わせてるルシエンの肩を抱いていることしかできなかった。


***********************


「お帰りなさいませ、ご主人様」

「あるじ、お帰りー」

2人がいつもと変わらない態度で、俺たちを迎えてくれたのが嬉しかった。


 ルシエンはその時には、もうぱっと見は平静な様子になってて、むしろ冷静すぎるぐらいクールな表情で、ノルテはそれにどう接したらいいか迷う様子も見られたけれど、俺ににっこり笑って聞いてきた。

「ご飯にしますか?それともお風呂にしますか?」


 うむ、これだよ、男の夢だよ。でも、お風呂は俺とリナが外出してたから、準備は出来てないと思う、これはお約束だから。


 と言うわけで、

「じゃあまずご飯を食べよう、支度してくれてる間に、俺とリナで風呂の準備をするから・・・」

 これが正解のはずだ。


 アイテムボックスから王都で買ってきたスパイスと、サクランボみたいな果物、それからゲンさんの店で引き取ってきたメイド服を出してノルテに渡した。

「あ、これってあの時の・・・」

「うん、後でいいから着てみてよ」

「すみません、わたしだけ・・・」

 ちょっと恐縮してる?のかな、いやがってるわけじゃないよね。


 リナに浴槽に水を溜めてもらいながら、俺が“火素”で温める。魔法使いのリナの方が魔力が強いから、結局、温めるのも手伝ってもらったけど。

 食事中にさめるのを見越して少し熱めにして、蓋をしておく。


「それはもしかして、浴槽?」

 ルシエンが途中で気づいて見に来た。

「ああ、風呂って知ってる?」


「ええ、帝国の首都には公衆浴場があったし、この国でも一部の貴族の館にはこういう浴槽があるでしょ?でも、わざわざ魔法をこんなことに使うのはあまり聞かないけど」

「帝国って?」

「レムルス帝国、この大陸で最強の国よ」

 ルシエンはやっぱり物知りだな。


 食事は、いつもながら素晴らしかった。ノルテはエルフはあまり肉を食べず菜食中心だと聞いたことがあったらしく、野菜のソテーとスープ、穀物のリゾットみたいなのを作ってくれてた。そして、肉も取り分けられるように別皿で用意されてる、これがないとカーミラが可哀想だし、俺もちょっとは欲しいところだ。

「美味しいわね・・・」

 ルシエンが素直に褒めてくれて、なぜか俺がほっとした。男爵のところでは奴隷にちゃんとしたものを食べさせてたとは思えないし、ルシエンは痩せすぎだ。しっかり食べさせたい。


「ありがとう、ノルテって呼んで下さいね」

「私のことはルシエンでいいわ。ノルテ、あなたドワーフなのかしら?」

「父がドワーフ、母は人間です」

「珍しいわね」

 ルシエンによると異種間で子どもが出来ることは珍しいのだと言う。ただ、俺はさっき深刻な話を聞いたばかりだったので、ちょっとこの話題は踏み込めなかった。


 でも食事をしながら、思ったより自然にカーミラも、そして食べないけど単に話に参加したリナも、ルシエンと打ち解けていた。

 よかった。女子同士で仲良くなってくれないと、胃の痛い思いをすることになりそうだしな。


 けれど、和気あいあいとした雰囲気は食事が済んでみんなでお風呂に入るまでだった。

 服を脱いで恒例の「洗いっこ」を始めたら、ルシエンの目つきが険しくなった、主にノルテの胸を見て。

「くっ、子どもだと思って油断したわ・・・」

 とかぶつぶつ言ってる。救いを求めるようにカーミラを見て、裏切り者って表情をする。カーミラもアスリート体型だけど、出るところは出てるからな。でも、わかりやす過ぎるぞ、あの無表情キャラはどこ行った?


「エルフはスレンダーなのが美しいのよ、駄肉なんて、駄肉なんて・・・人間のオスはやっぱり美意識がおかしいのよ・・・」

「ルシエン、ルシエンさん?」

 巨乳になにかトラウマでもあるんだろうか?4人になって手狭だってことでお風呂にはリナは参加しなかったから、余計に孤独を感じたようだ。


(失礼ね、あたしの方があるからね!まだこれからだし)

 わざわざ念話を飛ばしてまで醜い争いはしなくていい。ナンバーワンで無くてもオンリーワンだ、それぞれの魅力があるのだ。


 俺は強引に話を変えて、明日からの方針を話す。

「明日は午前中だけ迷宮に入って、ルシエンを加えたパーティーの連携を確かめたい。で、この迷宮もそろそろ一番奥まで行ってて今後は新しいこともはなさそうだから、次のクエストを探しにギルドに行こうと思うんだ」


 みんなが俺の方を注目した。

「次はどんなことをするお考えですか?」

「この世界を見て回りたいって話してただろ?それをそろそろ始めようかと思って。護衛か探索のクエストを取って、よその地域に行ってみようと思うんだ。もちろんクエスト次第なんだけど、どっちの方に行ってみたい、とか希望はあるか?」

 ノルテの質問に答えると、三者三様に考えてるようだ。


「わたしは、いつかはドワーフの国に行ってみたいですけど、どこにあるかもよく知らないし、ご主人様の行くところならどこでもついて行きます」

「カーミラ、人狼の群れ見つけたいけど、知らない。旅出るいいよ」

 ノルテとカーミラは当面はどこでもいい、と言ってくれた。


「ルシエンはどうだ?エルフの国とかあるんだっけ?」

「私は故郷に帰る気は今のところないわ。まだ帰れるような立場でも・・・」

 そこでふと思案顔になったルシエンは言葉を選ぶように言った。

「もし遠くに行ってみたいなら、東に向かうのがいいかもしれないわ、海路で」

 海路?


「それって、船に乗って海に出るってこと?」

「ええ、これからの季節は西風が強いから、東方に向かう交易船や客船が多いの。夏になると逆に東から西に向かう風が強くなって、それで戻ってくるわけね」

 えーっと、元の世界で言うと、偏西風と貿易風みたいなものか?

「それって、じゃあ、数ヶ月かかる旅ってこと?」

「そうなるわね。あくまで、そういう遠くに行ってみたいと思うなら、だけど」


 いきなり大旅行だ。でも、それも面白いかもしれないな。考えに入れておこう。


 風呂を出て、みんな寝間着代わりの部屋着に着替え、リナはネグリジェモード、ただし人形サイズになり、あー、そろそろみんなにもネグリジェみたいなのを揃えたいな、せっかくこれだけハーレムが充実してきたんだし、とか思ってると、リナだけでなく、ルシエンもジト目で見てた。

 なんだか心の声を聞かれてるみたいだ、もしや「精霊の耳」とかいうのはそういうスキルなのか!?


「違うから、見ればわかるから」

 ルシエンには完全に読まれてるようだ。

(・・・)

 リナはあきれてるようだ。


 とは言え、コミュニケーションは大事なのだ。新メンバー加入だからな、親睦を深めないと。

 だから、もう一つだけ別室に残ってたベッドも運んで来て、広い方の寝室に4台のベッドをくっつけて並べると、部屋が一杯になった。って言うかよく入ったな。


 ルシエンが冷ややかな目で聞いてくる。

「あなたたちは、こうやって毎晩同衾してるの?」

 えーっと、そうストレートに聞かれると、なんて言うか、その。


「ご主人様は無理強いは決してしませんから、大丈夫ですよ?心配しなくても」

 そう言いながらノルテは俺のすぐ隣りをキープしてくっついてきた。ぱふぱふだ。


「カーミラ、あるじと寝る」

カーミラは反対側の隣りに潜り込んで来て、俺の方にくんくん顔をこすりつけてくる。すべすべでプリプリだ。


「べ、別に私はいやだと言ってるわけじゃなくて、私だって求められればちゃんとできるし、オトコはみんな素晴らしいって言ってくれるのよ?でも、やっぱりけじめって言うか、ルールって言うか・・・例えばあなたたち避妊はどうしてるの?私は今はちゃんとした聖職者に魔法をかけてもらってるけど、計画性なく欲望に流されて長期の冒険中にできちゃったりしたらどうするの、とか、色々あるでしょ・・・」

 なんか、ようやくルシエンの本当の性格がわかってきた気がする。


 プライドが高くて、生真面目で、本来は正義感が強くて面倒見のいい女なんだ、きっと。それが、あまりに理不尽な目にあって、ポッキリ折れちゃったって言うか、正しいことが通じない世界に絶望してたんだ・・・なんだか、胸が痛む。

「ルシエン・・・ありがとう」

 俺は手を伸ばして、ノルテの頭越しにルシエンの金髪をそっとなでた。


「はあっ、なに言ってるの、あなた?」

「俺たちのことを仲間って認めてくれたから、そうしてノルテやカーミラのことも考えてくれてるんだな・・・」

 ノルテがハッとしたようだ。


「べ、別にそんなこと・・・」

「明日みんなで神殿にも行こう。俺はコミュ力ないし、女の子との事も正直全然わかってないから、色々アドバイスしてくれよ」

「な、なによ、いったい」


「ルシエンさん、ごめんね・・・ルシエンがいいならこれまで通り私たちだけのご主人様にできるから、とか意地悪なことを思っちゃってました。大丈夫ですよ、したいならしたいって言っても、ご主人様やさしいから、順番にね?」

「だ・か・ら!違うってば!」


 もうよくわからないようなぐだぐだになっちゃったけど、それから俺たちは色々お互いのことを話して、ぐっと打ち解けながら、気づいたら健全に寝落ちしちまってた。

 一生の不覚だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 聞く覚悟がないお子様なら過去を聞かなきゃいいのに。
2021/02/04 18:17 退会済み
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