第101話 参考人シロー
オザック迷宮の右ルートを最後まで目にして外に出てきた俺は、詰め所の兵たちに呼び止められた。王都まで同行しろってどういうことだ?
「シロー卿、お疲れの所申し訳ないが、これから王都までお付き合い願えませんか」
詰め所の責任者らしい騎士が、口調だけは丁寧にそう言い出した。
「王都へ?これから?」
「はい、昨日のケウツ男爵のパーティーの件で、昼前に法務省から連絡がありましてな・・・」
ドキッとする。
これは、昨日の件がやっぱり殺人事件とか、そういう扱いになって・・・まさかと思うが俺も取り調べとかか!?
「いや!心配はご無用。発見時の状況を確認したいとのことですので」
俺が焦ったのが伝わったようだ。でも、心配ないって安心させておびき寄せてってことだってあるよな、ただ、逃げるわけにもいかないし・・・
「呼ばれてるのは俺だけ?」
「ああ、要請が出ているのはシロー卿だけですな、パーティーメンバーは卿の奴隷でありましょう?」
なるほど、奴隷は主人の付属物扱いだからあるじだけでいいってことか・・・
「歩いて行けばいいのかな?」
「村庁舎前に馬車が待っておるそうです。兵に案内させましょう」
別に村庁舎まで案内してもらう必要なんてないが、むしろこれはちゃんと連れてくため、だよな。やましいことはないから、おとなしく従っておくか。
今日は午後たっぷり時間があると思ってたのに。いやむしろ、王都にお出かけだと思えば馬車で送ってくれるんだからラッキーなのか、とかポジティブに考えてみる・・・
まだ若い兵士が、と言っても俺と同年配だが、生真面目に先導する。こういう所は、やっぱり形だけとは言え俺が騎士身分だからだよな、隊長も一応敬語だったし。
庁舎の前にはハメット村長の公用車?と似た二人がけの小ぶりの馬車があり、御者も馬の世話をしながら待っていた。
「シロー卿ですな、法務省までお連れしろとうけたまわっとりますんで」
役人では無いが、たぶんお役所御用達の馬車屋さんなんだろう。割と慣れた態度だ。
兵士と二人がけシートで密着して行くのはいやだな、と思ったら、若い兵は本当にここまでの案内だけだったようで、挨拶して帰って行った。あとは御者任せでいいんだ。だとしたら、容疑者ってわけでは本当にないんだな。逃げようと思えば逃げられるだろうし・・・
「ノルテとカーミラはうちでのんびりしててくれていいぞ。希望者はもう一人なら乗れそうだけど、王都に行ってみたいか?」
と一応聞いてみたが、
「わたしは洗濯物を取り込んで、ちょっとお掃除もしたいので・・・」
「カーミラも王都いかない、ここでいい」
俺、ひょっとして人気無い?なにげに落ち込むんだけど、顔に出したら負けだ・・・
リナを置いていくか迷ったが、法務省で面倒なことに巻き込まれたらリナ知恵袋に相談したいので、持って行くことにした。
いざとなれば、魔法使いモードにして遠話で連絡が取れるよう、ノルテに時々リナの事を考えてもらうように伝えておく。距離が離れると誰でも無条件に遠話がつなげるわけではなく、精神的な波長を知っている相手と、互いの意識が向き合っていた方がよりコンタクトしやすいらしい。
馬車がかなりスピードを出したこともあって、王宮の端の方にある法務省まで30分もかからなかった。
案内されたのは、比較的役所っぽいエリアにある小部屋だった。壁に絵が掛けられていたり、一応、普通にお客を迎える部屋ですよ、という体裁は取っているけど、これは取調室っぽい。のぞき穴とかがあって、壁の裏で話を聞いている人がいる気配を「察知」する。やっぱり取り調べだよ、緊張してきた。
相手は2人、かなりガタイのいい刑事ドラマに出てきそうな目つきの鋭いおっさんと、いかにも頭が良さそうな文官っぽい男・・・だが、ジョブもスキルもわからなかった!どういうことだ?
「シロー卿、司法部のアラニ・ラースローです。こちらは同じくシャンドル。ご足労いただきかたじけない」
文官っぽい方が挨拶してきたのに形式的に返事をしたけど、俺は動揺してた。
ジョブやスキルが見えないなんて、こんなのは初めてだ。
しかも、つい先ほどまで察知できていた壁の向こうの気配も感じられなくなった。気配がなくなったんじゃなく、察知スキルが効いてない、上手く言えないがそんな感じだった。
「ここでは、様々な事情からスキルや魔法の多くが使えませんが、ご承知おきいただきたい」
! こっちの感じてたことは筒抜けだったようだ。そりゃそうか、向こうはこういうのが日常なんだもんな。
「・・・ある種の結界みたいなもんですか?」
「まあ、そうお考えいただきたい。ただ、そう警戒なさらずと結構です。これは本当に“聞き取り”に過ぎません。あなたは容疑の対象ではなくあくまで参考人ですので、ご安心を」
率直って言うのかなんて言うのか、それでも信用はできないけど、いちいちこっちの考えてることを先読みされてる感じでやりにくいな。
ただ、それからラースローという男に聞かれたことは、確かに取り調べと言うよりは普通に聞き取り、のようだった。俺たちが迷宮に入る前の男爵パーティーとのやりとりに始まって、二階層の奥で崩落に出くわして救出活動を行い、ルシエンを連れて詰め所に戻り着くまで、の出来事をつぶさに質問された。アリバイみたいなことは直接的には聞かれなかった。
俺は、既に心に決めていたことだったので、ルシエンによる殺害を疑って問い詰め彼女と一戦交えたことだけをまるきり無かったことにして、それ以外は記憶の限り正確にラースローに伝えた。
つまり、不幸な事故にあったパーティーを捜索し、ひとりだけ生存者を保護し、他の4名は遺体を掘り出してスキルで作った荷車に乗せて帰ってきた、ということだ。
「・・・あなたは明晰な方だ」
ラースローがなにやら満足気に言う。よかったんだろうか?俺からするとあんたの方がよっぽど明晰な感じがする、殺人の可能性をまったく疑ってないとは思えないんだが。
「よくわかりました。大変恐縮だが、半刻後にもう一度おこしいただきたいのですが」
「半刻後?構わないけど、まだなにかあるんですか?」
「ああ、聞き取りはこれで終わりですのでご安心を。この後は事務的な手続きなのですが、卿は奴隷を新たに使う意志はおありですか?」
奴隷を新たに?それはもしかして。
「亡くなった方々の所有物は基本的にケウツ男爵とパホル卿の遺族に引き渡されます。宝箱からシロー卿が回収して下さったものも、それに準ずる扱いになります。ただ、奴隷については所有者が公式な遺言で相続人を指定なり解放するなりの登録をしていない場合、所有者死亡時は原則として国有財産になると定められています」
これは、リナが話してたことか。
「そして、男爵は遺言登録をしておりませんでした。ですので、生存者である奴隷のエルフは原則通りなら国有財産に移管されます。ただし、今回は迷宮であなたがあの奴隷を救出し、保護された、その時点であなたが遺失物の拾得者という扱いになる。つまり、あなたが希望するならあのエルフの所有者になることが可能です」
俺は、大通を歩きながらラースローの申し出について考えていた。
半刻後に再度来てくれというのは、その間にケウツの遺族への説明があるからだそうだ。
その間に、俺は一旦法務省を出てゲンさんの店に立ち寄り、先日注文したノルテのメイド服を引き取ってきたんだ。本人を連れてきて合わせて見た方がよかったかもしれないが、ちゃんと採寸して作ったから大丈夫だろう。
着せてみていい感じだったら、カーミラ用も作ろう。ルシエンはどうだろう?エルフのメイドとかも萌えそうだな・・・いやいや、だからまず、ルシエンを引き取るかどうか決めないと。
まず冒険者パーティーとしての戦力増強って意味では、あれだけ高レベルのメンバーを加えられるのは大きなメリットがある。しかもタダで? おまけに美人だ、それは間違いない。
ただ・・・信頼できるかというと、そうは言えない。正直、リスクの方が大きいよな。
それに、美人だからって手を出したいかというと、実のところそうでもない。いや、俺はそーゆー意味では人なみに?健康な男子だけど、美人ならなんでもいいわけじゃない。格好つけてるわけじゃないよ、世の中全てを憎んでいるようなあの表情とか、そうかと思うと全ての感情を押し殺したような様子とかを目の当たりにすると、あまりそういう気分にはならない。
大体いつ寝首をかかれるかわからないし、それにもう俺にはノルテとカーミラがいるから、ハーレムはいずれもっと拡張するにしても、急ぐことはない・・・そうだ、二人の意見も聞かないとな、一緒に暮らしたりパーティーを組んでも大丈夫か。
リナを人形サイズのまま魔法使いモードにして、ノルテに遠話で事情を説明してもらう。・・・いやがるかな・・・いやがる、よね?・・・ふつう。だんだん、そんな気がしてきた。
返事が来るまでにしばらく時間がかかった。
「えーっと、“ご主人様がそう望むなら、わたしは大丈夫です”が1名、“群れの数、まだ少ないから当然”が1名だよ?」
どっちがどっちかは聞くまでも無いな。でもこれって・・・
「やっぱりノルテは気が進まないってことかな?」
「うーん、もちろんそれはあるんだけど、思ったほどいやではないみたいだった・・・違うか、なんとなくそうなりそうな予感があって気持ちは整理できてる、みたいな様子だった」
リナが言葉を選びながらノルテと話した印象を教えてくれた。
「ノルテはね、自分の相性より、あんたに危険がないかを心配してるようだった。ほら、夜は無防備だし、あんた見境なしだからねー」
うるさい、見境なしじゃないぞ、断じて、いやたぶん・・・
でも、ノルテが心配してくれてるのは嬉しかったし、不安がその点なら、考えてることもあるしな、たぶん大丈夫だと思う。
ともかく、これで方針は決まった。




