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第98話 名探偵シローの事件簿?

「なに、初歩的なことだよ、ワトソン君」「ご主人様、96話を盗み読みしたんじゃありませんよね?」「な、なんのことかな、これは本格推理ものだよ・・・」

「どうして、仲間を殺したんだ?」


 俺の問いかけに、女エルフの目がすっと細くなった。

「・・・一体なにを」

「・・・」

「・・・」

 これは、間違いないな。そして、認める気は当然ないと。


 この世界では殺人ってどう裁かれるんだろう?


(奴隷が主人を殺したら間違いなく処刑されるわね。ただ、裁判制度がある国でもあんたの世界みたいな厳密なものじゃないけど)

 リナの答えに納得する。

 そうだろう、そもそも魔法のある世界だから、物証を残さず犯罪を実行するのも簡単だって、俺たち自身がノルテの救出で実感してる。本人の自白以外で証拠をそろえるなんて容易じゃない。そもそも俺があの男爵たちのために犯人を挙げる義理も無い。


「先に言っとくけど、俺は別に正義の味方ってわけじゃないし、誰かを裁きたいわけでもない。ただ本当のことが知りたい。自分のすぐそばで何人もの人が死んだんだからな、原因がわからなきゃ、自分が同じ目にあわないとも限らないだろう?」


「だから、階層主の浄化で起きた崩落に巻き込まれたとお話ししているではありませんか。そもそも私は誓約によって主を傷つけることはできませんし、なぜそのようなあり得ぬことを?」

 女エルフは丁寧な口調で、再び表情を消して答える。ノルテが心配そうな顔をして、言い合っている俺たちの所に戻ってきた。


「それじゃあ、誰が“静謐”をかけたんだ?」

「・・・」

 ルシエンは、俺の質問がきわどい物だと察したようで、答えない。


「あんたらのパーティーには高レベルの魔法使いもいた。土砂崩れが起きても、あんたが静謐をかけなければ、土魔法で食い止めるなり、“転移”で離脱できたかもしれないだろ?」

「私がやったという証拠は?」

 俺の決めつけに反論することにしたようだ。


「あんたじゃなければ誰が?ワームの殻の中に存在できたのは、あんたらのパーティーと、階層の主だけだろ?」

「・・・階層の主はオーガロードだった」

 魔物が静謐を唱えた、って言うわけか。その可能性はあった。だが、反論すると決めた時点で、この局面は“詰み”だ。


「魔物が静謐を唱えたってのか?それもあったかもな。だが、魔物を倒せばそいつの呪文の効果は解けるだろ?俺たちも経験があるからな」


 リナの呪文が使えず、俺の粘土スキルや錬金術が作動したのは、“静謐”がまだ効力を持っていたからだ。

 だが、そもそも階層の主を倒して“浄化”をかけなければ、崩落は起きないし、俺たちも結界に阻まれここに入れなかったはずだ。つまり、この静謐は、階層主が倒された後でかけられたものだ。

 ルシエンも自分のミスに気づいたようだ。


「もうひとり、あんたのパーティーにはロードがいた。だが、階層の主を倒した後であの男爵が静謐をかけたのだとしても、あいつはもう生命反応が消えてるから、静謐も解けているはずだ・・・」

 ようやく、女エルフの顔に生の表情が戻った。どす黒い負の感情だが。


「つまり、この静謐をかけられたのは、あんたしかいない。それも、階層主を倒した後、そして、浄化もかけた後にだ。だとしたら、目的は魔物との戦いじゃありえないだろ?」


 待てよ、ルシエンは「判別(初級)」のスキルを持っている。だから、俺が「錬金術師(LV10)」ということだけが見えているはずだ。俺たちは全員レベル10以下の、低レベルパーティー、そう思っているだろう。

 となると、いよいよ追い詰められたと感じたら取る行動は・・・まずい!

「待ってくれ!」


 しくじった。ただ知りたいと思っただけで、断罪するつもりじゃなかったのに。これは俺のコミュ力の低さが招いたことだ。

 だから、ルシエンの姿が不意に消えた瞬間、俺は自分の話の進め方を後悔した。


 そして、またわずかなのち、ドサッと人が倒れる音と共に、カーミラに足をつかまれ引き倒されたルシエンが再出現した。

 出口に10歩ほど向かった所で、狼少女が背中に馬乗りになって首筋にダガーを突きつけている。


 レベルはルシエンの方がずっと上だ。

 だが、隠身とそれを見抜く感覚、スピードと格闘能力は人狼の固有能力が上回る。だから、カーミラにリナの遠話で指示して備えさせていたんだ。保険をかけといてよかった。


「殺すな、カーミラ。そのエルフも、俺たちを殺すつもりはなかった。だから、俺に向かってくるんじゃなくて逃げようとしたんだ」

そう、俺を殺害するか人質に取ろうとする可能性もあると思ってた。だが、ルシエンは俺たちがヤバい証言者になるかもしれないと知っても、それを選ばなかった。なら、話し合う余地はあるんじゃないか。


「ご主人様、私が言うのもなんですけど・・・主殺しは最も重い罪です」

 ノルテが気が重そうに口を開いた。

「言いたいこともわかるけど・・・リナ、どうしたらいいんだろう?」


 どうすればいい?的な選択をゆだねる質問はしちゃだめだと以前言われたことがあったけど、この時のリナは答えてくれた。それも肉声で。ルシエンにも聞かせようとしているようだ。

「まず、奴隷が主を殺したなら、詰め所の兵に引き渡せば死罪は確実。そこが曖昧なら、迷宮でパーティーが事故死して運良く奴隷一名が生き残ったということになるわね」


「その場合はどういう扱いになるんだ?」

「主が遺言を登録してればそれが有効、なければ主を無くした奴隷は国の所有物になるから公務に使われるか競売にかけられる。ただ、シローが救出したなら、一種の拾得物と見なされて新たな所有者と認められるかもしれない。どっちにしろ、ここなら詰め所に子細を報告する手続きが必要」

「俺たちが取り逃がしたら?」

 ルシエンが、え?という顔をした。


「逃亡奴隷として回状が回るわね。迷宮に入るとき、銀貨を払って登録したはずだから、遺体が一人分だけ見つからなければ逃亡と認定される。本人が詰め所なり役所に、事故で主を亡くしましたとでも申し出れば、さっきの国有物扱いだけど・・・」

「だから、あそこでなく、ここに壁を作ってくれと言ったんだな」

 ルシエンだけでなくノルテも、ハッとしたようだ。


「ここに壁を作って俺たちが引き上げれば、パーティーの遺体が埋まっている所はそれより奥だから、三階層の魔物に荒らされるだろう。そうすれば遺体が幾つあったか正確にわからなくなる。つまり逃亡しても捜索されないようにってことだよな」

 ようやく女エルフは観念したようだ。


「殺すなり役所に突き出すなり、好きにしなさい。私はしくじったのだから覚悟はしてるわ」

 こっちの口調が素なんだろう。

「・・・ご主人様、主殺しの奴隷は、見せしめにひどい拷問を受けてから処刑されるって聞きました」

 ノルテが言いたいのは、詰め所に犯罪者として引き渡すのは可哀想だってことだよな。


 でも、俺が答えを迷っている間に、駆けてくる男たちの気配がした。


「大丈夫か」

 高レベルの騎士、デモスが率いる男女混成パーティーだった。話を聞くと、左ルート二階層を攻略していたが、横穴に逃げ込んだオークの群れを追っていたらこっちに出たそうだ。俺たちが対峙したオークは、デモスたちに追われた奴だったらしい。


俺はとりあえず、「男爵たちのパーティーが崩落に巻き込まれたようで救出活動をしたら女エルフ1人だけ生きていた」って確認できてることだけを伝えた。

 デモスの聞き取りにルシエンは、俺に話したのと同じ「あくまでも事故」という説明を繰り返したが、状況を知らないデモスたちは特に疑ってはいないようだ。まあ、後のことは迷宮を出るまでに考えよう。


 そうして、デモスのパーティーにも手伝ってもらって、4人の遺体を掘り出して一階層に運び上げた。

「シロー、お前さんたちはどうするんだ?遺体を運ぶのも大変だろう」

「いや、これに積んでくから、俺たちだけでもなんとかなると思う」

 粘土スキルで、王都と行き来するのに使ってる自動運転車を一回り大きくしたような荷車を創り出す。デモスたちがあっけにとられている。

 遺体を積んでスキルで動かし、俺たちはルシエンを連れて歩くことにする。遺体と相席するのは気が進まないからな。


「デモス、もしこの先を攻略する気なら、封印を解くけど?」

「いいのか?」

「ああ、俺たちはきょうは戻るから。ひょっとすると、遺体のあった場所とか証言を頼むかもしれないけど・・・」

 そう、遺体を掘り出すとき、リザードマンの奴隷のそばから階層主の物と思われる魔石が見つかり、浄化呪文を持つ男爵と側近の冒険者はそこからかなり離れた場所に埋まっていた。これも、男爵が浄化をかけて崩落が起きたとすると不自然だった。


「それは構わん、じゃあ悪いが先に行かせてもらうか」

 デモスたちは既に全員がLV12以上になってるし、三階層の先頭に立っても大丈夫だろう。俺は粘土壁を吸収して、引き返すことにする。


「シロー、鍵をあけてやるよ」

 デモスのパーティーのスカウトが、カーミラが見つけた宝箱を指して言う。そうだった。ハニワゴーレムを出して踏ませようかと思ってたけど、スマートに開けた方がいいよな。

 中からはいくらかの砂金と、何か丸薬みたいなのが出てきた。鑑定をかけると<HP回復薬>と出た。要するに“癒やし”か。呪文で出来るからそうありがたみはないが。


「そういえば、この宝箱の中身ってどういう扱いになるの?」

 デモスに尋ねてみた。ここの階層主を倒したのは俺たちじゃなく、ルシエンらの男爵パーティーだ。

「パーティーの生存者が奴隷だけだからな。男爵の遺族のものになるか、国庫に納めるかだろう、それも詰め所で聞いてみな」

 そういうことか。


 俺は宝箱から得た物を普段リナを入れてる皮袋に詰めて、三階層に進むデモスたちと別れた。


 帰り道とは言え、この迷宮は魔物が多いから油断できない。もちろんルシエンも油断できないしな。ただ、遺体の数をデモスらにも確認してもらった今、ルシエンは逃げても逃亡奴隷としてお尋ね者になる。

 だから逃亡のリスクは少ないだろうが、一応、後ろ手に革紐で縛り、リナとノルテに連れて歩かせる。カーミラを先頭で警戒にあたらせ、俺は荷車を徐行させつつ、後ろを歩いた。魔物が出たらいつでもハニワゴーレムを出せるようにしているが、それまではMPの節約だ。


 幸い、きょうは多くのパーティーが入っているためか、帰り道は吸血コウモリとオニウサギ数匹に出くわしただけだった。帰りがけの駄賃に俺とカーミラだけで片付けた。

むしろ、他のパーティーとすれ違うたびにセラミック荷車に驚かれたのが面倒くさかったが、遺体を載せてると告げるとみな同情してくれた。


 そして、迷宮を出て詰め所に着いた。4人もの遺体が届いたことで、詰め所の兵たちや、それを率いる騎士まで飛び出してきた。

 俺は聞き取りに対して、迷ったものの、殺人事件と考えられることは伝えず、デモスたちに話したのと同じ、遺体の発見と回収の事実だけを報告した。


 もし、官吏が疑って調べようとするなら、その時に俺が調べたことを伝え、協力すればいい。

 消極的だとは思うし、俺自身が人を断罪する重さから逃げたんだろうと言われればその通りかもしれない。ただ、ルシエンがなぜ、どんないきさつで行動したのか?それが知りたかった。

 主の男爵はいかにも性格が悪そうだったけど、俺だったらノルテやカーミラに恨まれるようなひどい扱いをして、それで刺されるなら仕方が無いと思う。むしろ、他にもいた奴隷たちを死なせたのは、なぜだったんだろう。なにか事情があったんだろうか。


 革袋に詰めた拾得物、魔石と砂金をそのまま渡して、「俺たちはオザック村に住んでいるから聞きたいことがあればいつでも来てくれ」と伝えると安心したようで、解放された。

 ルシエンは詰め所の中に連れて行かれたが、そんなに手荒な扱いは受けてはいない様子だった。


 まだ午後早い時間だったけど、かなりの魔物と戦ったし、遺体の回収で砂まみれになったから、まずみんなで洗濯をしてから風呂に入った。

 それから夕方までは昼寝だ、色々あって肉体的にも精神的にも疲れた・・・


 夕飯には、買い出しに行ってきた肉と野菜に加えて、一匹だけ魔石に変えずに持ち帰ったオニウサギの肉も使ってみた。カーミラだけじゃなく、なぜかノルテも顔を赤くしながら「疲労回復に効果があるって言いますから」と勧めてきたからね。


 でも、たしかに効果はあるみたいだ。なんでそう思ったかって?みんな疲れてたはずだし、あんなことがあって精神的にも昼はそんな気分じゃなかったのに、夜はしっかり元気になってたから・・・

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