第95話 怪しいやつら
オザック迷宮の二階層は面的な広がりを持ち、大量の魔物が湧いている、まさに迷宮らしい迷宮だった。
オザック迷宮の二階層は、これまでとは異質な構造の魔物の巣窟だった。
中一日休みがあったからまだよかったが、かなり消耗した。それでも、みんな若いからね、食欲が無くなったりはしない。夕暮れ前に村の食堂に入ると、肉野菜の煮込みと雑穀のお粥をおかわりして食べた。
風呂を入れるのも面倒くさかったが、そこも手抜きはしない。リナと二人でMPを絞り出して湯を満たし、みんなで楽しくきれいになる。カーミラもノルテもすっかり風呂文化になじんできたようだ。いつかゲンさんの所みたいに本格的な温泉を作りたいもんだな。
そして、もちろん日が暮れてからもお楽しみだ。これが生きてるってことだ。
初めて戦ったオーガや多数の吸血コウモリを倒したことで、大量の経験値を稼いだようだ。その晩、全員のレベルが上がった。
目が覚めて、まず自分のステータスを確認する。
『シロー 人間 男19歳 錬金術師(LV10)
スキル お人形遊び(LV10)
粘土遊び(LV10)
剣技(LV3) 投擲(LV1)
弓技(LV1) 騎乗(LV1)
薬生成(LV1) 判別(中級)
HP増加(中) 速さ増加(小)
アイテムボックス パーティー編成
経験値増加 察知
地図 発見
鑑定(初級) 熱量制御
物質変化(LV1) 思索
「火素」「水素」「地素」「風素」
「生素」「雷素」 』
レベル10まで一気に上がってた。ようやく錬金術師としても一人前って感じがする。エレメント系のスキルは「雷素」ってのが増えてるが、これは魔法使いの「雷」だよな。ベスがレベル11で覚えたやつだから、威力は低いのかもしれないが、水中の魔物とかに使えそうだ。他に、「思索」と「物質変化(LV1)」ってスキルが増えてるがこれはなんだろう?
リナに目を向けると、念話で俺の疑問に答えてくれた。
(“思索”は僧侶の瞑想と、魔法使いの“魔力強化”を足して二で割ったような感じかな。魔法系スキルを使うのに必要なMPを少し回復してくれると同時に、そのあと使う魔法の威力も少しだけ増すよ)
あえて言うけど、二で割らなくていい。錬金術師って、やっぱり微妙なジョブだよな。でも、少しでもMP回復出来るなら歓迎だ。それが一番のネックになることが多いからな。
(“物質変化”は錬金術師LV10で初めて得られるスキルで、化学変化とか物質の状態や組成を変える錬金術そのもののスキルね。スキルレベル1だから簡単なことしか出来ないけど、簡単には上がらないスキルだよ)
うーん、化学反応ってことか?中世の錬金術は、卑金属を金に変えようとしたわけだから核変換というか、本来宇宙で起きるような物理変化だから実現しなかったんじゃなかったっけ・・・まあ、おいおい試してみよう。
そして、判別スキルで見るとリナも大いにレベルアップしてた。
<リナ - 魔法使い(LV10)
呪文 「火」「水」「地」「風」「魔法の盾」
「遠話」「麻痺」「帰還」「結界」
「魔力強化」
スキル 剣技(LV1) 弓技(LV1)>
魔法使いがレベル10、これは作戦の幅が広がるな。そして、浄化の際にはわざわざ編成を解いて、リナ僧侶だけに経験値が入るようにしていた効果もあった。
<リナ - 僧侶(LV8)
呪文 「浄化」「癒やし」「誓約」「治療」
「破魔」「守護」
スキル 瞑想 HP増加(小)
剣技(LV1) 弓技(LV1)>
上げるのに苦労した僧侶もレベル8だ。なにげに“瞑想”を覚えたのも大きい。MP回復できるからな。出来れば「大いなる癒やし」を覚えるレベル10までは早めに育てたい。
ノルテもレベルが一気に2つあがり、鍛冶師レベル9になってた。“火耐性”ってスキルが目につくが、これは鍛冶師だと高熱の中で作業するから、かな。魔物とか魔法の炎に対しても、ダメージが減るんだろうか。
<ノルテ - 女 16歳 鍛冶師(LV9)
/奴隷(隷属:シロー・ツヅキ)
スキル 鍛冶(LV1) 工芸(LV2)
料理(LV2) 御者(LV1)
鎚技(LV3) 弓技(LV1)
筋力増加(中) HP増加(中)
器用さ増加(小) 鑑定(初級)
火耐性(小) >
かなり前衛として頼れそうな感じになってきてるが、小柄なノルテを前で戦わせるのは、過保護かもしれないがやっぱり心配もある。
そして、カーミラもレベルアップしてた。
<カーミラ 人狼 女 17歳 LV10
/奴隷(隷属:シロー・ツヅキ)
スキル 嗅覚 状態異常抵抗
追跡 隠身
HP小回復 察知
地獄耳 結界察知
威圧 格闘(LV2)
短刀技(LV3 ) >
威圧ってのは、たしか高レベルの戦士も持ってたスキルだが、どんな効果なんだ?
(具体的には、目の前の敵からの攻撃の命中率や威力が下がりやすいって言われてるよ)
リナ知恵袋が役に立つな。
やっぱり人狼は前衛向きだな。ただ、防御力とかHPが高いわけじゃないから、壁役はさせられないってのは忘れないようにしないと。
そんなことを思いながら見ていると、眠ったままカーミラが両手両足で抱きついてきた。もちろん俺はそのまま抱き枕になる。カーミラは暑がりだから薄い肌着も大抵はだけちゃってるのに抱きつき癖があるのだ。ぱふぱふ感のノルテとプリプリ感のカーミラと、どっちも素晴らしい・・・
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なんとか寝坊せず、朝食もしっかり食べて夜明け前に迷宮前に到着したんだが・・・詰め所前には大勢の冒険者がひしめいていた。
十組とか二十組じゃないぞ、これは。どうやらパーティー数制限が今日から撤廃されるってことか。
なんだか先頭の方でもめているっぽい。
様子を見に行くと、おなじみのイリアーヌやLV24騎士のレジャたちが、見知らぬパーティーと口論になっていた。
いや、「見知らぬ」じゃない。ギルドで見かけた、あの奴隷エルフたちだ。
「だから、攻略中の順番を尊重するのが冒険者の不文律だろう、って言ってるんだ」
「そのような因習は気にする者もおれば気にせぬ者もおる、それだけだろう?」
レジャに木で鼻をくくったような返事をしてるのは、奴隷の主であるグレゴル・ケウツとか言う男ではなく、壮年の冒険者だった。サミールというらしい。
<サミール・パホル 冒険者(LV18)>
と表示された。グレゴルは一歩後ろで冷笑を浮かべているだけだ。相変わらず感じ悪いな。
まわりを取り囲んでる冒険者たちのほとんどは、レジャたちの主張をもっともだと思っている様子だったが、不文律ってのは強制力のあるルールではないってことでもあるんだろう。
でも、俺も右ルートの一番だったわけで、一応当事者だよな。
「なあ、結局あんたらはどうしたいんだ?」
「あ、シロー。彼が右ルートの1番資格のパーティーリーダーよ」
イリアーヌがケウツらに伝える。
「なに、シロー?シロー・ツヅキ卿か。というと、この迷宮の発見者だな」
サミールという男は一応、知ってるようだ。グレゴルがちらっとこっちを見た。
「我らは外務大臣閣下の腹心たるグレゴル・ケウツ男爵率いるパーティーだ。我らはけさ誰より早くこの詰め所に参った。だから一番に入る資格がある、当然の主張をしておるだけだ」
あ、わざわざ一番に並んだのか?
「なにを言ってる。奴隷を一人、詰め所に泊めただけじゃねぇか。それで他のパーティーが来た途端に衛兵に引き留めさせておいて、その間に門前に並ぶとか、せこすぎるだろうが」
・・・なんだそれ。しかし、グレゴルもサミールもどこ吹く風って態度だ。
「知らぬな、風体の怪しい者が来れば衛兵が誰何するのは当然であろう。もとより詰め所に男爵の使いが泊まったのは公務であり、なんら問題はない」
なんかよくわからんが、こいつらはじゃあ、ギルドの慣習とかを知らずにたまたま無作法をした、とかじゃなく、最初から確信犯だってことだな。
「あのさ、なんでそこまでして最初に入りたいんだ?あんたら、昨日まではいなかったじゃないか」
「無論、双子の迷宮は経験を積みやすいからだ。もとより、一番に並んだ者から迷宮に入れるというのは公式な布告通りだ」
結局、経験値稼ぎを効率よくしたいだけか。
先頭グループがメインの洞窟を攻略しやすいのは確かだけど、ここみたいに横穴が多い所じゃ、メイン洞窟を1グループだけで突出したら危険だと思うけどな、そんなに自信があるんだろうか?
あらためて、こいつらのパーティーを判別してみる。
<グレゴル・ケウツ 人間 男 35歳 ロード(LV15)>
<サミール・パホル 人間 男 43歳 冒険者(LV18)>
<デイナ 人間 女 26歳 魔法使い(LV15)
/奴隷(隷属:グレゴル・ケウツ)>
<ヌンダウ リザードマン 男 34歳 LV18
/奴隷(隷属:グレゴル・ケウツ)>
<ルシエン エルフ 女 33歳 LV19
/奴隷(隷属:グレゴル・ケウツ)>
グレゴルとサミール以外は奴隷ばかりだ。リザードマンってのも初めて見るな。普段は全く人と変わらない人狼のカーミラとは違い、腕も頭も鱗で覆われていて、明らかに亜人だってわかる。
それはそれとして、レベルはかなり高い。けど、これだけのメンバーをそろえられるのに5人だけなんだな。迷宮攻略には6人そろえた方が有利だと思うが。
その後も、レジャたちと押し問答になったが、男爵パーティーは公式ルールでは自分たちが先頭で入れるはずだ、と譲らずラチがあかない。
そこで俺はイリアーヌに尋ねた。
「この人たちって、ギルドのマナー的には何番目になるの?」
「え?きのうリタイヤしたパーティーが2組出たから、けさ最初に来たってことは、昨日の8組の次、9番目になるわね」
イリアーヌもレジャも、俺が何を言い出すんだろう?って顔をしている。
「じゃあさ、俺たちは二番手だけど右ルートなら先頭の権利があるから、代わってやるよ。どっちのルートだろうと先頭なら構わないだろ?」
「なに・・・無論それなら異存はないが」
サミールが、男爵の顔色を確認してから答えた。
「その代わり条件がある。俺たちも右ルートに行くつもりだから、もし追いついたら、あんたらの戦い方を見学させてもらう。それでどうだ?」
「シロー、何考えてるの?」
イリアーヌに突っ込まれた。
「いや、レベルが高いパーティーの戦い方は参考になるからね。俺たちはまだ駆け出しだからさ・・・」
「ふむ、感心なことだな、では我らに追いつけるようなら学ぶがよい」
プライドをくすぐられたようで、男爵たちは上機嫌でうなずいた。レジャもイリアーヌも、俺たちがただの新米パーティーじゃないことを知ってるから、いぶかしげだったが、それで丸く収まるならいいかと思い直したようだ。
高レベルパーティーの戦いを見たいのは事実だ。特にエルフとかリザードマンとか、これまで見たことがない種族の力がどういうものなのかも知りたい。人狼のカーミラが、レベルとかではわからない身体能力とかを持ってるのを見てるだけになおさらね。
それだけでなく、こいつらは何か気になる。正直言って怪しい。だから、こういう奴らに後ろに付かれるより、こっちが後ろにいた方がいい、って気がした。
騒ぎが収まって、先頭のイリアーヌのパーティー、続いてケウツ男爵のパーティーが迷宮に入っていった。
まもなく自分たちが入る番のレジャが、わざわざ俺の所に来て耳打ちしていった。
「あの男爵たちには気をつけろよ。外務大臣の腰巾着として表に出ない汚れ仕事をしてるってうわさがある。王都近くで手っ取り早くレベル上げが出来ると思って乗り出してきたんだろう」
俺はふと気になったことを聞いてみた。パーティーが5人しかいないことだ。
「ああ、ここにはいない奴のレベル上げさ。大臣自身ってことはないかもしれないが、例えばその息子とか縁者を自分のパーティーに編成しておいてやれば、なにもしてないのにレベルが上げられるからな。そうして媚びを売ってるんだろうよ」
そんな方法があるのか。
冒険者の間ではもちろんマナー違反の行為とされるが、貴族の子弟の間ではよくあるらしい。家臣や部下に15歳になったばかりの子供を入れたパーティーを編成させ、5人だけで迷宮に入らせれば、あっという間に経験値が溜まる。
貴族の子弟が若くしてロードとかのジョブになっているのは、こうしたズルをした結果、というのが珍しくないそうだ。
ひょっとして巡検使のメイガーとかもそうだったんだろうか。自分で冒険しなくて、なにが楽しいんだろう。
レジャたちが出発の番が来たので、俺たちは互いの武運を祈って別れた。
こうして、4度目のオザック迷宮攻略が始まった。それは思いも寄らぬ波乱の幕開けだった。




