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7話『委員会決めと女神の異変』

文字数多めです、ごめんなさい!

「……押し付ける為じゃないよね?」


 誰かが犠牲にならなければいけないのは分かっていたが、自分がその犠牲となると話が違う。帰宅部の僕にだって時間は大切である。主に修行のためだが。


「……何の話だ?」


 なんなんだその間。目を逸らして口笛吹いてるんじゃないぞ。いや、吹けてないし。全然音鳴ってないし。あと顔芸やめい。


「さぁ、そ、そろそろ時間だな。いいか? 合わせろよ!?」


この野郎。


「……ゆーたん、後でゆっくり話そうね……?」


 そう恨めしい顔で言い残して僕は席に着いた。


 ざわざわしていた教室が少しずつ静かになり、同時にそれに気付いた生徒たちはぞろぞろと自分の席に着いた。そのまま2時間目のチャイムの音が鳴ると、ゆるく先生が号令をかけた。


「んじゃ、早速、委員会決めていこっか!」


 担任の伊藤先生は軽いノリと笑顔でクラスの皆の顔を見渡した。


「まず、委員長と、副委員長だね、はい! やりたい人挙手ー!」


…………まぁ、居ないよね。この静寂は少しドキドキさせるものがあるので嫌だ。


 誰か挙げろよ……と言った好奇と野次馬精神の目線が飛び交う。しかし、案の定挙げる者は現れない。何分くらい経っただろうか。いや、案外30秒くらいだったかも知れない。


 この状況を見かねた先生は、少し悪い顔で笑った。


「あ、ちなみにー、立候補者が居なかったら私が独断と偏見で勝手に決めるからね。もちろん強制だよ?」


 皆、ふざけるな! と叫びたい心情だったに違いない。


 目の色を変えて、どこかからお前やれよ……お前向いてるだろ……やっちゃえよ! という声が聞こえてくる。どこまでも他人(ひと)任せである。


 僕は別になっても良かったが、とりあえずゆーたんの指示では保健委員に入ることになっているので黙っていた。


 すると、しばらく経った後、サッカー部の藤沢くんが仕方ない。と言った風に手を挙げた。それを見て先生は満足そうな顔をした。


「よっし、委員長は藤沢くんだね! はい皆拍手〜!」


 パチパチ……という音が響く。やはり誰もやりたくなかったのであろう。助かった……という安堵の声が漏れていた。


「んじゃあ、藤沢くん、後の委員決めは任せたっ!」


 笑顔で伊藤先生はサムズアップをした。藤沢くんも思わず口をポカーンと開けていた。


……お前も人任せかよ!! という総員のツッコミが脳内に響いた。気がする。


「え、えーっと。じゃあ副学級長を決めます! 挙手お願いします!」


 予想外の出来事であるためか、彼の声は照れておりたどたどしかったし、顔は軽く赤面していた。可哀想に……と思った矢先、その手は先程よりずっと簡単に挙がった。


……というか、3人も挙がった。全員女子である。

藤沢くん目当てだろうなぁ。すぐに分かってしまった。


 藤沢くんモテるんだなぁ。女子じゃんけんの気合いが違う。軽く引いてるから。藤沢くん引いてるから。


 こうして副学級長が決まると、ついに専門委員会決めの番になった。


 保健委員だけは嫌だ……保健委員だけは……! と周りの目がギラつく。また、天野さんと同じ委員に入るぞ! と男子の目は燃えていた。


 さて、ここからだ。僕の勝負が始まる。


 さやちゃんと同じ委員に入るのだ。そして、好きな人のタイプを聞き出す! 周りの男子とは覚悟と気合いが違うのだ! ……不純な動機ってのは一緒だけど。


「えー、専門委員決めて行きます! えーまずは、ほ、保健委員かな?」


 少し前に立つのに慣れてきた藤沢くんであったが、保健委員という超決めづらいブラック委員を前にし、動揺を見せた。僕もドキッとした。


 ここだ! さぁ、ゆーたん! 何するんだ!?

僕は彼の方を見た。きっとここで何かをしでかすに違いない。……ん?



 真顔……だと!? というか、ちょっと眠そう!え、ちょ、大丈夫ですか!? ゆーたんさん!?


 僕はゆーたんの眠そうな顔を三度見したが、顔に変化は無かった。え? え? え?


「え、えーと。保健委員は後回しにします!」


 と、頬をかいて藤沢くんが言ったとき、遂にゆーたんが動いた。


「はいはーい! 藤沢いいんちょー! 僕部活あるので、保健委員なんて入れないです〜!」


 ゆーたんは面倒くさそうにふらふらと手を挙げて振った。


んぁ? そんなの通用しないに決まっている。ほら見ろ、藤沢くんも何言ってんだこいつ。と、キョトンとしている。


 少しの静寂の後、藤沢くんが何かを言おうとした時にそれは起きた。


「おいっ! 片桐! お前だけずるいだろ、俺も部活あるし!」


「私もあるもん! 保健委員なんて無理だよ!」


「俺もだぞ! ふざけんな裕太!」


「しばくぞ裕太!」


 クラスは今やカオスであった。藤沢くんがあたふたしている。可哀想だ。あとゆーたんはかなり皆に叩かれている。……全然可哀想じゃない。


「待て待て落ち着けお前ら。部活に入ってない奴が、一人だけいただろ?」


 と、諸悪の根源であるゆーたんが皆をなだめた。すると、おもむろに僕の方を向いた。え、何? 何これ?


「なァ? 幸人?」


ニチャア……と(気持ち)悪い笑みを作った。え、きもちわる……! じゃなくて! なんだこれ!?

彼へのヘイトで熱の入っていたクラスメイトは、その魅惑の提案にいとも簡単に乗じた。


「そうじゃん! 小鳥遊やれよ!」


「どーせ暇なんでしょ!」


「しばくぞ小鳥遊!」


 まて、しばくのはおかしい。しかし、この雰囲気なら僕は保健委員に入らない訳にはいかない。考えたものである。え? 何? 僕何か悪いことした!?



「わ、わかったよ。やる! やるってば!」


 と、渋々声を上げた。


 藤沢くんは少し申し訳なさそうにいいのか? と聞いてくれたが、仕方ないよ。と笑って返してやると安心したように大きな声を上げた。藤沢くんは優しいなぁ。ゆーたんと違って。


「よっし! じゃあ保健委員は小鳥遊くんにお願いします! 拍手!」


 大きな音で拍手が上がる。一番やりたくない場所が埋まったのである。皆、相当に安心したのだろう。

 しかし、保健委員は2人である。もうひと枠空いているのだ。僕はせめてゆーたんを道連れにしようと思った。



────が。その時だった。



「あ、あのー。私も帰宅部なんだけど……みんな無理そうなら、保健委員入るね?」


と、さやちゃんが申し訳無さそうに手を挙げた。皆の熱気で出るタイミングが無かったのだろう。が、その発言はクラスの雰囲気を大きく変える事となる。



────拍手は、ピタリと止まった。



ザワザワと騒めき出すクラスメイト。ど、どーすんの? と皆はゆーたんの方を向いた。ゆーたんは忘れてたっテヘペロッとかわいく舌を出した。ごめん。しね。


 特にクラスの男子はその女神の言葉に対して相当焦っていた。


「いやいやいや! 天野さんはいいよ! 大丈夫だよ!」


 名も知らぬ男子が優しそうに声を上げた。すると、


「え? じゃあ誰がやるんだよ。お前やるんだよな?」


 と悪魔(ゆーたん)は返したので、その男子はご、ごめん……と焦った様子で席に座った。結局自分が大事なのである。


 僕に対してはそれはもう無理やり押し付けたので、今更代われとも言えない。そのまま決定となった。


「じゃあ天野さんも保健委員で決定! は、拍手ー!」


 さっきより数段微妙な拍手だった。さやちゃん超可哀想。だが、ゆーたん。もしかして、こうなる事を完全に予想したのだろうか……?


 クラス全員の部活を把握していた事になる。この条件はこのクラスに帰宅部がもう1人居るだけで破綻する。もしかして、自己紹介のときにクラスメイト全員の部活を暗記したのだろうか?


 いや。そんな、まさか。


……そうして結果的に僕とさやちゃんは同じ委員に入る事が出来たのだった。


 そこからは問題もなく順調に委員は決まって行った。一部の男子はかなりショックを受けていたが、知ったことはない。代わりたきゃ代われば良いのだ。勿論さやちゃんとだが。


 休み時間になると、さやちゃんは僕の元へ来て、照れくさそうに、たどたどしく笑った。


「え、えと! これから宜しくねっ?」


 それは、計り知れない衝撃だった。中学生、いや、小学生ぶりに喋ったのだ。それはそれは緊張したことだろう。あんな別れ方をしたのにも関わらずである。


 それでもこうして挨拶に来てくれるというのは、やはりさやちゃんは女神であった。挨拶だけなのに滅茶苦茶可愛かった。今すぐ成仏できる。それでもお釣りが出るだろう。


 これには流石にゆーたんにも感謝せざるを得ない。ありがとう。ゆーたんよ。


……どこか少し彼女の笑顔が変だった気がするのはきっと気のせいだろう。



 ハッ!? 僕も、返さなければ! 流石にさやちゃんって呼ぶのはキモいよね……。5年ぶりだし、普通に、嫌われないように呼ぶならば天野さんだろう。よし。い、言うぞ。ニヤけるなよ、僕!



「こちらこそ宜しくね、天野さん」



少し笑顔が変だったかも知れないが、ちゃんと言えた……! よしっ!



突然の事だった。僕は思わず言葉を漏らした。



「……え?」





彼女の目から音もなく雫が溢れて────消えた。






彼女自身もキョトンとしていた。



それでも止まらずにぽろぽろと落ちるその雫に対して



「へ? な、なんで……?」



と、切ない声が小さく聞こえた。


 気づけば身体は動いていた。すぐに鞄の中の大きめのタオルを彼女の頭に被せた。これで、きっと誰にも涙は見えないだろう。



「姉崎さん! ほ、保健室! 連れてって!!」



 叫んだ。彼女はすぐにさやちゃんを連れて行ってくれた。……どうして?さやちゃん。



 僕は、この突然の事態にただ立ち尽くす事しかできなかった。





ゆーたんがイケメン過ぎる。


次回からさやちゃん視点で振り返ります。





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― 新着の感想 ―
[良い点] ゆーたんがイケメン過ぎる。実際にありそうな煽動というところもぐぅです。 [気になる点] 「男子はその女神の言葉に対して焦っていた。…彼は優しそうに声を上げた。すると、…悪魔は返したので、そ…
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