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11話『告白と誤解』

最初はゆーたん目線、☆の後はさやちゃん目線です

 放課後。


 陽は傾き、夕陽に照らされてオレンジ色に染まった教室で、俺は姉崎と二人、向き合って座っていた。


 これがもし告白するのなら、絶好のシチュエーションなんだろうな、なんて頭の中で考えては掻き消した。


 ふざけてヘラヘラとした軽々しい顔を仮面を付け替えるように真剣なものへと切り替えて彼女に尋ねた。


「じゃあ、教えてくれよ。『あの日』のこと」


 俺が聞きたかったことは、天野目線のあの日の出来事であった。


 あいつから『あの日』の話を聞いた時から、ずっと心のどこかで引っかかっていたのだ。そして今となってはもっと分からなくなった。


 こんなに幸人を想っている彼女が幸人に酷いことを言う理由が無いのだ。


 そう、彼女が幸人が側にいて鬱陶しいなどと思っている訳がないのだ。それなのに、幸人はそう信じ込んでしまっている。その理由を、そうなってしまった『原因』を調べたいのだ。


───だが、その返事は意外なものだった。



「……断る」  「……は?」



 姉崎は不満気に机に肘をついて目を逸らした。……いや待ておかしい。だって、これは昼休みに伝えた筈だ。『代わりに、あの日の話を教えてくれ』と。



「待てよ、話が違うだろ」


「じゃあ私が怒ってる理由、分かる?」


 出たよ、彼女からの返答に困る質問ランキング1位。女の子の怒るスイッチは無数にあり、また『この質問に答えられない、または間違える』も、同じくこのスイッチとなるのだ。


はぁ、全くもって面倒くさい。


「……何だよ、今日って記念日だったっけ?」


「何のよ。つかあんたと付き合うとか罰ゲームでも断るから」


「いや酷えな。……はぁ、さっきの例え話の事だろ?」


「分かってるならさっさと言いなよ。午後からの沙耶、明らかに様子おかしかったじゃん。殺人犯に例えたりなんかして、そんなに傷つける必要あった?」


 確かに、昼休みの話を終えた後の彼女は緊迫した表情をしていた。罪悪感、悲壮感、それらマイナスの感情をぐちゃぐちゃに混ぜ込んで、必死に顔に出さないように無理をしていることがわかった。彼女をそうしてしまった原因は、間違いなく俺の話だ。話を聞いて、彼女は相当傷ついただろう。自分を傷つけただろう。


────だが、その必要があった。


「必要があった。あったんだよ。だから、『あの日』の話を聞きに来たんだ」


「ふぅん、じゃあその理由に納得したら、話す。……でもまだ許した訳じゃない。絶対に沙耶には謝ってもらうから」


「……あぁ、分かったよ」


 腕を組んでまたじぃっと疑うように俺の目を見た。見た、と言うより思いっきり品定めをするように睨みつけた。


「記憶が戻ったら、幸人が元に戻るって言っただろ? あれ、半分嘘なんだ」


「……は、はぁ? 何でよ!?」


「俺が自己紹介したとき、あいつはそんな怖がった表情、一切見せなかったんだ。だから、『記憶を戻す』だけじゃ、多分……幸人の記憶は戻らない」


「じゃあ小鳥遊が怖がったのって、何で? 沙耶が自己紹介するだけで怖がるって……」


「あ」



 彼女はその時、気づいた。

 散りばめられたピースを嵌めて、嵌めて、繋がったのだ。その様子を見て、俺はまた話し始めた。


「幸人が戻るのは、『5年前のあの日の記憶』を思い出させることだと思うんだ」



彼女は、少し悲しそうに頷いた。



「……そうだね。そうだと思った」


「いつか、いつかは絶対に幸人にあの日を思い出させないといけないんだ。天野は」


「思い出したら、今の小鳥遊は、消える。……要するに、死ぬんだよね」


「そう。だから、幸人の記憶を戻すことができるのは天野だけなんだ。だから、天野だけには思い出させる『重み』を感じて欲しかったんだ」


 彼女は一拍置いて、不安そうに眉を下げてはまた口を開いた。



「ねぇ、絶対、この話は沙耶にはしないでね」


「あぁ。だから、嘘をついたんだ。天野一人じゃなくて、三人で背負おう」


「……うん」


 陽は地平線の向こうへとじわじわ沈んで行き、ゆっくりと教室は暗くなって行く。運動場からはまだ元気そうな野球部の叫び声が響いていた。


 二人の間には重い沈黙がのしかかり、脇目に彼女の方を向いてみる。

 彼女は黙って下を向いていた。眉間に皺を寄せて、少しだけ辛そうに、悲しそうにしながら目を伏せていた。


……なんだよ、調子狂う。



 目を逸らして窓の方を向き、夕空のオレンジと紺の鮮やかなグラデーションを見た。


 幸人は、この空を見て何を考えていたのだろうか。なんで、学校に行きたいだなんて思ったのだろうか。腕を組んで考える。

だが、ちっとも分からなかった。


 親友だ、って、自信満々に言った癖に。情けねぇ。

なんて自己嫌悪をしていると。


その時、ガラガラガラ……! とドアの開く音がその静寂を破った。

 ドアを開いて現れたクラスメイトの彼女は、姉崎、俺、を交互に見た後、目を見開いた。



「わ、わわっ! ごめん、お邪魔しましたっ!?」


「あー、待って、カナ! 違うの、これ告白とかでも何でもなくて、あれだから、あれ!」


「あれって何よ!? わ、私、教科書取りに来ただけだからー!」


「まって! カナぁ!?」


 彼女は教科書を持っては、そそくさと立ち去っていった。廊下を走り抜く音が聞こえる。あー、そう言えば陸上部だったなぁ、なんて考えてはうん? と、俺は立ち上がった。


これ、絶対勘違いされた流れだよな……。



「……なぁ、これって実にまずい状況じゃないか?」


「そうだよ! 絶対勘違いされた……。くっそ、よりにもよってこいつなんかと……!」


「こいつなんかってなんだ!? さっさと移動するぞ!」


「うるさい! 指図すんな! ばか!」


 そうして俺たちは小事を言い合ってはそれぞれ足早にクラスから立ち去っていった。




☆☆☆☆☆



 放課後、私は藤沢くんに呼び出された。『大事な話がある』と。


……正直、それどころでは無かった。


 昨日は記憶を失った幸人に拒絶されて。今日は片桐くんに『幸人を戻すには今の幸人を殺すしかない』なんて教えられた。


 もう正直、心は限界を迎えていた。午後からは授業も友達の話も全く頭に入らなかったし、今日は家に帰りたかった。

 私はちゃんと笑えていただろうか。心はもうボロボロで、何も考えたく無かった。


 だけど彼はそんな私に、追い討ちをかけたのだった。


 彼は申し訳なさそうな、切羽詰まったような表情をして、私に頭を下げた。



「幸人が……ああなってしまったのは、多分、俺のせいなんだ」


「……え?」




驚いて、目を見開いた。





お久しぶりです。活動報告にて色々と記入しました。良ければこれからも応援宜しくお願いします!

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