4話『恋愛相談会 (ドヤ顔)』
さやちゃん編はしばしお待ちを…!
ゆーたんと2人でたわいも無い話をして盛り上がっていると、先程の黒い感情はすぐに消え去り、気づくともうマッカの近くまで来ていた。
マッカはその独特で奇抜な色合いの内装が特徴である。赤、黒、黄色のほぼ原色で塗られた世界は、訪れた人々を高揚させ、明るくさせる。
僕たちはよくこのマッカにて恋愛相談会を開く。この独特の雰囲気は色んな秘め事をぶっちゃける勇気を与えてくれる。特にこの駅前のお店にはいつもお世話になっているので感謝しかない。……たまにぶっちゃけ過ぎて後悔もするけど。
彼は早速いつもの照り焼きバーガーとドリンクのセットを注文し、それを見た僕もいつものようにベーコンレタスバーガーとドリンクのセットを注文した。
……このセットを頼むときはいつも長時間居座る事となるので、そろそろ出禁を食らうことになるのでは無いかとヒヤヒヤしている。いつもごめんなさい。
少し待つと直ぐに注文が届いた。注文してから届くまでの時間が尋常じゃない。毎度のことだが圧巻の速さだ。僕でなきゃ見逃しちゃうね。……嘘ですごめんなさい。
彼と「いただきます」と一礼すると、毎度の台詞を言った。
「恋愛相談会、開幕だな!」
「いつも思うけどそのドヤ顔どうにかならないの?」
「逆にどうすれば良いんだよ、真顔でこんなこと言えねーよ……」
「なるほど、理解したよ」
と、突然素に戻ってしまう彼を見ると思わず笑いが漏れてしまった。それを見て彼も、なーに笑ってんだよ。恥ずいわ! と笑った。
その日の恋愛相談会は、思わぬ方向に進むこととなった。
「はぁ。告白っつってもなぁ。どうやって伝えりゃいいのかねぇ……。あ、幸人は告白とかした事あんの?」
彼は大げさにため息をこぼして僕に尋ねた。
「え、言ってなかったっけ? 僕小学生のときにさやちゃんと付き合ってたこと」
「付き合……!? は!?」
ガタッと彼が席を立った。周りの目が刺さる。やめい。痛い痛い、やめてくれい。
「まぁ、すぐに別れちゃったんだけどね……はは」
「詳しく」
遠い目をして笑った僕を興味津々の目で見つめて背筋をピンとして座り直した。その初号機パイロットのパパみたいな座り方やめて。軽くツボるから。ねぇ?
「昔のさやちゃんは何でもすぐに出来る子、まぁいわゆる天才だったんだよ」
「今もかわんねぇな」
確かに。
「明確に違う部分があるとしたら、さやちゃんは猛烈に口が悪かった事かな」
「は? あの女神がか?」
女神て。いや、聖母の間違いだね。 ……ん? 違うか。
「そ。しかも全部正論だから何も言い返せないんだよ。余裕で周りの子はギャン泣きしてたなぁ」
「信じらんねぇ……そんな過去あったのか……って、待てよ、んじゃお前ドMだったのか?」
「待て待て。それはおかしい」
真剣な顔つきで冗談言うのやめて。つかそろそろその例のポーズやめない? ねぇ?
「そんでさやちゃんが1人ぼっちになっちゃった時に、よく誘って遊んだんだ。僕はその子が怖かったから、自分の口の悪さに落ち込んでる普通のかわいい女の子でびっくりしたんだよね」
「ギャップ萌えってやつだな。きゅんきゅん」
「きも」
「悪かった。続けて? でもちょっとだけ傷ついたからね。ダイレクトキラーパスやめてね。優しいパス投げてね」
こういうノリが案外好きだったりする。ドMは明らかにゆーたんの方だよね。うん。
「その後、ずっと1人で泣いてるさやちゃんに、ずっと一緒にいるから! って勢いで言っちゃって。それで」
「い、イケメンかよ……」
「僕は、さやちゃんの事がどんどん好きになっていったんだ。優しいところとか、口調は荒いけど意外と甘えん坊なところとか」
「初々しいかよ……」
「でも、さやちゃんはそんな僕が鬱陶しかったみたいで、それを言われて僕から別れちゃったんだよ」
「え?」
事実、幼い僕は自分の立場というものを理解していなかった。きっと僕なんかに馴れ馴れしくされるのは嫌だったんだろう。数多くの暴言は、きっと彼女なりの拒否だったのだ。
最後の言葉は今もしっかりと覚えている。
「……それはよくわかんねぇけど、そんな子があんな女神に進化したのは?」
「……それは分からない。けど、その頃からさやちゃんには友達がどんどん増えていったからなぁ」
「それは分からないのか。んじゃあそんな悲惨な別れ方をした幸人がまださやちゃんのこと好きなのはなんでなんだ?」
「僕がもっと男らしかったら、かっこよかったら、さやちゃんががあんなこと言わずに済んだのかなあって思ったら、情けなくてさ。かっこよくなってもう一度告白しよう! って思ってさ」
「ふーん。正論しか言わないんだもんな。確か。
5年間か……凄えなぁ。告白はしねえの?」
彼はなにやらいつにも増して真剣そうに話を聴いてくれた。何かしら恥ずかしいけど、ゆーたんはやっぱりいい友達だと思う。
「……まだ、しない。もっとカッコよくなったら、する」
「可愛いかよ」
「う、うるさい。でもまだまだだから」
「俺は幸人はめちゃくちゃカッコいいと思うけどな。天野って目ぇ節穴じゃねえの?」
彼はとぼけて笑った。僕も冗談っぽく笑う。
「な訳ないじゃん。でもありがとう、なんか楽になったよ」
そんなこんなを話していたら、あっという間に時間は過ぎていった。外はもう暗くなっており、冷たい風が僕たちを襲った。
そうして恋愛相談会は幕を閉じ、僕達は各々家に帰った。
筋トレは4倍した。 つった。